銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 V
2021.03.22
第十六章 新艦長誕生
V
カラカス基地に戻った第十一攻撃空母部隊。
その旗艦「セイレーン」の艦長、リンダ・スカイラークは、各艦への弾薬・燃料等の補給と、艦体の整備の指揮のために艦橋に残っていた。
「よお、リンダ。居残りか? 確か休息中だろう」
ハリソン・クライスラーが尋ねてきていた。
「ええ。艦長としての責務がありますから。休んではいられません」
「殊勝な心がけだね。その調子だよ」
「ところで何か御用ですか?」
「用は他でもない。例の賭け事のことだよ」
「ああ、あれですね。ちゃんと集計は取れてますよ。各人の配当の計算も終了しています」
「おお、さすが!」
「各人にメールを送って確認してもらって、それぞれの軍預金口座から入出金する予定です」
「そこまでやってくれるのか? ありがたいね」
「戦闘中に賭け事などとリーナに叱責されました。どうせなら最後まで面倒みてあげなさいと言われたものですから」
「ほう……リーナがねえ」
「ところでパトリシアさんがどうなったかご存知ですか?」
「ああ、それだったら、無事に試験に合格して少佐に昇進を果たしたそうだ」
「よかったですね。艦長としてご一緒した甲斐がありました」
「何を言っているか。君だって、大尉への昇進が内定したそうじゃないか」
「ああ、そうですねえ」
「気が抜けた声出すなよ」
「だって、そんな実感が湧かないんですよね。何もしなくても、いつの間にか昇進していたという感じでさあ」
「それはみんなも同じ思いだよ。ランドール提督の昇進に引きずられるように昇進していく。しかし提督はよく言っているじゃないか」
『何もしないのに、昇進したと思っている者もいるようだが、それは間違った考えだと言っておこう。指令に忠実に従って任務を遂行していることこそ肝心なのだ。指令を無視し自分勝手な行動をしたり、指令に対し疑問を抱き部下の士気を低下させるような発言をしたりする。そんな足を引っ張るような行為をしない。私を信じ、私に従うことが功績として認められる結果として現れるのだ』
「……とね」
「確かにそうおっしゃってましたね」
「何にせよだ。昇進おめでとう」
「ありがとう、ハリソン」
リンダは、タシミール星への出撃一時間前の事を思い起こしていた。
上官であるジェシカ・フランドル少佐に呼び止められた。
「セイレーンの艦長として、スザンナを臨時に任命してはどうかという意見もあったわ」
「オニール大佐ですか?」
「その通り」
「ウィンザー大尉とは提督共々、士官学校時代からの親友ですからね。心配するのは当然でしょう。艦隊運用にも実績があって、信頼のおける者を艦長に推したかったのでしょう」
「当然の配慮でしょうね」
「でも提督自らが拒否されたわ」
「拒否した?」
「司令はこう言ったわ」
『セイレーンの艦長はリンダだ。第十一攻撃空母部隊の旗艦の艦長として、最もふさわしい人物としてジェシカが推薦して、私が任命したものだ。どうして代える必要があるか』
「とね。これがどういう意味か判る?」
「信頼されているということですか?」
「そうね。わたしの口から言うののも何だけど、司令はわたしを信頼してくれているし、わたしの部下であるあなたの事をも信頼しているわ。『部下を信ぜずして司令は務まらない』というのが口癖。しかも自分の大切な人物をも任せるほどにね。これはパトリシアの任官試験であるけど、あなたの艦長としての技量をも試される機会でもあるのよ。今回の任務を無事に終了したら、あなたの大尉への昇進も内定しているのよ」
「そうでしたか……」
意外という表情を見せているリンダ。
「取りあえずは、わたしの昇進試験は合格したというわけね……」
一人呟くリンダだった。
「何だよ。独り言なんか、らしくないぞ」
「そうだね」
「さてと……俺も、自分の機体の整備に取り掛からなくちゃならん。賭けのことはサンキューな」
「どういたしまして」
「まあ、頑張りなよ」
「うん」
軽く手を振るようにしてハリソンが引き返していった。
入れ替わるようにしてジェシカがやってきた。
「あ、いたいた。探したわよ」
「探すも何も、艦長なんですから、ずっとここに居ましたよ。で、ジェシカ……。何でしょうか?」
「提督がお呼びよ。至急、基地司令室に来て頂戴」
「提督が……?」
提督が何の用だろう?
と疑問に思いつつも、後のことを副長のロザンナに任せて、セイレーンから降りて基地司令室に急ぐ。
「もしかしたら、タシミールの時、パトリシアを艦内案内した際に、出発前にジミー達とおしゃべりして任務を怠慢していたことかしら? リーナが報告してて注意されるのかな……任務には厳しい提督だからなあ」
ううん。リーナがそんなこと報告するはずない。
「一体、わたしに何の用なんですか?」
ジェシカに尋ねてみるが、微笑んでいるだけで答えてくれない。
「行ってみれば判るわよ」
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅳ
2021.03.21
第十六章 サラマンダー新艦長誕生
Ⅳ
「さあ、時間よ。行きましょう」
パトリシアは少佐に昇進したとはいえ、新たなる任務を与えられていない以上、これまで通りアレックスの副官としての職務を引き続き果たさねばならない。作戦室の受け付けに座り次々と入室する幕僚達の名簿をとり案内役を務めた。
幕僚全員が集まった頃合を計ったようにアレックスがやってくる。
「全員揃っています」
「ごくろうさま」
いつものようにアレックスの後ろの副官席に腰を降ろすパトリシア。
「早速だが、新しい幕僚を紹介しよう。ウィンザー少佐」
「はい」
名前を呼ばれて立ち上がるパトリシア。
「知っての通り新任の幕僚となった。パトリシア・ウィンザー少佐だ。みんなよろしく頼む」
「よろしくお願いします」
といって深くお辞儀をするパトリシア。
「よろしく」
「頑張れよ」
という声がかかった。
「ウィンザー少佐には、私の席の隣に座ってもらうことにする」
それに対して一同が耳を疑った。
艦隊司令官の隣の席といえば、副司令官と艦隊参謀長というのが一般的常識であったからだ。
すでに右隣には副司令官のオーギュスト・チェスター大佐が着席していたが、現在艦隊参謀長の席は空位であり、これまで着席する者はいなかった。資格のあるゴードン大佐にしても首席中佐のカインズにしても、アレックスは参謀長として旗艦に残すよりもそれぞれ一万五千隻を有する部隊を直接指揮統制する分艦隊司令官に任命していたからだ。もう一人の大佐であるルーミス・コールは艦政本部長職にすでについていた。
では艦隊参謀長役をどうしていたかというと、定時的に開かれる作戦会議がそれを代行していたのである。与えられた任務に対してアレックスが作戦会議を招集する場合、例え一兵卒でも意見書・作戦立案書を提出して、会議に参加できるようオープンな環境を与えていた。
これまではそれがうまく機能して艦隊参謀長の必要性がなかった。正規の一個艦隊として編成され、より多くの艦艇及び将兵で膨れあがった現在、もはやそれをまとめる艦隊参謀長が必要になってきたのである。
いきなり隣の席を指示されて戸惑うパトリシア。
「どうしたウィンザー少佐。座り給え」
「は、はい」
おどおどしながらもアレックスの左隣に着席するパトリシア。
「さて、私がウィンザー少佐に隣の席を指示して、皆驚いているようだが……。察しのとおり、私は彼女を艦隊参謀長につけることにした」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅵ
2021.03.20
第十一章 帝国反乱
Ⅵ
事件の発端は、皇室議会だった。
今後の方針について、議論を始めようとした時だった。
突然、武装した兵士がなだれ込んできた。
「君たちはなんだ!」
議員の一人が乱入者に向かって叫んだ。
「黙れ! これが見えないのか?」
と、サブマシンガンを構える兵士。
「な、何をするつもりだ!」
だがその答えは、マシンガン掃射であった。
シャンデリアなどの調度品が片っ端から破壊されてゆく。
議場内の人々には危害はなかったものの、問答無用という意思表示は伝わった。
「皇室議会は、本日をもって解散する。諸君らは拘禁させてもらう」
次々と連行されてゆく議員たち。
アルタミラ宮殿でも、ひと悶着が起きていた。
「これは、どうしたことですか?」
玉座に座っていた摂政エリザベス第一皇女が、居並ぶ大臣たちに叱咤していた。
ロベスピエール公爵が前に出て答える。
「どうやら、ジョージ王子を皇帝に擁立する一派が立ち上がったようですな」
あくまで自分は知らぬ存ぜぬ、一切関わっていないという表情を見せる公爵だった。
エリザベスも承知の上ではあるが、言葉には出せなかった。
息子と弟とを両天秤に掛けても、どちらに傾くかは自分では図ることができない。
もはや情勢にまかせるしかなかったのだった。
突然、宮殿入り口が騒がしくなった。
おびただしい軍靴の音が鳴り響いている。
謁見の間へと姿を現した軍人たちがなだれ込んで来る。
銃を構えて、大臣達を威嚇する。
軍人たちをかき分けて、リーダーらしき人物が入ってくる。
「我々は、ジョージ親王殿下を皇太子として擁立するものだ!」
大臣の一人が異議を訴える。
「何を言うか! 皇太子はすでにアレクサンダー王子が……」
そこまで言ったところで、兵士に銃床で腹部を殴られて倒れる。
さすがにエリザベス皇女の前では、発砲流血騒ぎは起こせないようだ。
例えジョージ親王が帝位に就いたとしても、まだ幼くて政治を執ることは不可能であるから、摂政が立つことになる。
後日に分かったことであるが、議員の中でも摂政派に属する者は解放されたという。
これによって、摂政派による反乱ということが明らかとなった。
反乱軍は、放送局、宇宙港などの公共機関、財務省などの政府機関を次々と掌握していった。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅲ
2021.03.19
第十六章 サラマンダー新艦長誕生
Ⅲ
場内がざわめく。
但しタシミール星捕虜救出作戦における出撃の際に、事前に知らされていたカインズだけは落ち着いていた。
「提督。艦隊参謀長は、大佐をもって任にあてるのが慣例ですが……」
副司令官のチェスター大佐が皆にかわって質問した。
「慣例では、そうかもしれない。しかしそれをいうなら、私が少佐として最初に与えられた部隊とて、独立遊撃部隊という慣例からはずれた状態から出発している」
「それはそうですが……」
「ゴードン、君はこの席に着きたいと思うかね」
と尋ねられて、言葉に出さず否定するように肩をすくめるゴードン。
「適材適所という言葉にあてはめるならば、ゴードンも首席中佐のカインズもそれぞれウィンディーネ・ドリアードを駆って暴れまわるのが信条で、作戦を練り上げ企画する艦隊参謀長にはふさわしくない。その点、パトリシアは士官学校時代から私の参謀として参画していた。私が少佐となる原動力となったミッドウェイ宙域会戦での作戦、今ではランドール戦法と別名もついているが、あれはパトリシアとの共同で戦術理論レポートをシミュレーションしている時に、同盟と連邦の想定戦で考え出したものだったのだ。実戦では私が実行して名を挙げはしたが、その功績の半分はパトリシアにあるといってもいいわけだ」
「そこまでおっしゃるなら、私は反対はしません。慣例にとらわれて適切でない参謀をおいたところで艦隊のためにはならないでしょう。実際、資格があるもので参謀長にふさわしいと断言できる人物がいないのも確かですし」
統帥本部から与えられる階級と、アレックスが将兵に与える地位が同列でないことは、誰でも知っている。例えば旗艦艦隊指揮官は、副司令官に次ぐ者が選ばれるものだが、ゴードンやカインズではなく、ディープス・ロイドである。防御に徹すれば負けることはないと評される沈着堅実な彼だからこそ旗艦艦隊にふさわしいと考えた末であり、激烈なる戦闘の最中にあっても、旗艦艦隊を彼に委ね自身は安心して、全艦隊の指揮運用に専念できるということである。アレックスが重視するのは階級ではなく、個人の能力なのである。個人の隠された能力を見出しては、作戦において適所に投入するから、当然の如く見事な戦果を上げて相当の地位に駆け登って来る。
パトリシアの艦隊参謀長就任は誰一人反対意見を述べないまま円満に決定した。というよりも、アレックスがすでに決めていることに対しては、誰にも逆らえないといったほうがいいだろう。彼が選んだ艦隊参謀長ならば間違いがあるはずない、というのがアレックスに対して絶大なる信頼を抱いている部下達の評価であった。
こうして前代未聞ともいうべき、女性佐官であり少佐という階級でしかない艦隊参謀長が誕生したのである。
「ジェシカ」
「はい」
「僕は、参謀長として君も候補に挙げていた。パトリシアに航空戦術をはじめとする戦術理論を教えこんだのは、他でもない君だからだ」
「確かに基礎から教えたのは私ですが、応用から実戦にいたるまで、今でははるかにパトリシアの方が私の能力を越えています。提督がそれを見抜き参謀長に彼女を推挙したのは正しい判断です。私は先輩として彼女を教えこみ、その期待に応えてきた彼女を誇りとしていますし、それで十分です」
「そうか……君達は強い絆で結ばれているんだな」
「はい。ランドール提督とガードナー提督との関係とまったく同じですよ」
「そうだったな。ありがとう」
「どういたしまして」
そして、やおらランドールに耳打ちするようにして、
「それにパトリシアならベッドの上でも作戦会議ができますものね」
といってくすりと微笑んだ。
二人の関係を良く知っているジェシカのジョークだったとはいえ、実際にパトリシアと寝物語で交わした会話の中から生まれた作戦もあったのである。その中には現在進行形で秘密理に進められている遠大な計画も……。
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅱ
2021.03.18
第十六章 サラマンダー新艦長誕生
Ⅱ
司令室を退室して、すぐ近くの主計科主任室に集まった三人。
「はい。これが女性佐官の制服よ」
といって主計科主任であるレイチェルから制服を支給されるパトリシア。
「サイズは合っていると思うけど、一応着てみてくれる」
「はい」
着ている士官用の制服を脱いで、下着になるパトリシア。
「とにかく第十七艦隊に女性佐官はあたし達三人だけだし、もちろん既成服なんかあるわけないから、特注品なのよ」
といってスリップ姿になったパトリシアに制服のスカートを渡すレイチェル。
「そうなんですか。じゃあ、この制服は……」
それを受け取って履きながら質問する。
「ふふふ。アレックスが准将になった時から、この時のために前もって準備しておいたの。あなたなら必ず昇進するだろうと信じていたから」
「ありがとうございます」
「うん。スカートはぴったり合っているわね」
「はい」
「次ぎは上着ね」
といって今度はジェシカがパトリシアに上着を着せてやった。
「最後はこれを付けるのよ」
といって持ち出したのは、少佐の階級肩章であった。
レイチェルが器用に針と糸でしっかりと肩に縫い付けていく。そして縫い終わって糸の始末を施し歯で切った。
そして、戦術士官を示す胸に差している徽章[職能胸章}を、尉官の銀色から佐官用の金色のものに取り替えた。
「いいわ。さあ、鏡の前に立ってみて」
制服を着終えて、言われた通りに鏡の前に立つパトリシア。
真新しい佐官の制服、肩に輝く少佐の階級章。どれもまばゆいばかりに輝いて見えた。
「素敵よ、パトリシア。良く似合っているわ」
「ほんと、どこから見ても立派な少佐殿よ」
「ありがとうございます……」
「さて、パトリシア。少佐になって最初のお仕事よ」
「そうよ。作戦室に全幕僚を招集する役目」
「はい」
早速、主計科主任室に備わっている端末を操作して、全幕僚に連絡を入れるパトリシア。最初に呼び出したのは、アレックスの片腕であるゴードン・オニール大佐であった。
「おう。パトリシア、似合っているじゃないか、その制服」
画面に現れると同時にパトリシアの制服姿を誉めるゴードン。
「あ、ありがとうございます。提督からの指令です、一五○○時に作戦室に集合です」
「わかった。じゃあ、後でまた」
画面からゴードンが消えて、緊張したため息をもらすパトリシア。
さらに次々と連絡を取り続けるパトリシアであったが、親しい間柄にある幕僚のほとんどが、その佐官の制服を誉めちぎった。
すべての幕僚に連絡を取り終えて、緊張した肩の荷を降ろして、ほっとため息をもらすパトリシア。
「ごくろうさま」
といってジェシカは、ねぎらいの言葉を忘れなかった。
それから集合の時間までの間、三人は第十七艦隊の今後について熱く語り合い意見を交換するのであった。
情報参謀のレイチェル、航空参謀のジェシカ、そしておそらく作戦参謀に取り立てられるだろうパトリシア。アレックスを作戦面でバックアップする女性佐官トリオの誕生であった。
「さあ、時間よ。行きましょう」
パトリシアは少佐に昇進したとはいえ、新たなる任務を与えられていない以上、これまで通りアレックスの副官としての職務を引き続き果たさねばならない。作戦室の受け付けに座り次々と入室する幕僚達の名簿をとり案内役を務めた。
幕僚全員が集まった頃合を計ったようにアレックスがやってくる。
「全員揃っています」
「ごくろうさま」
いつものようにアレックスの後ろの副官席に腰を降ろすパトリシア。
「早速だが、新しい幕僚を紹介しよう。ウィンザー少佐」
「はい」
名前を呼ばれて立ち上がるパトリシア。
「知っての通り新任の幕僚となった。パトリシア・ウィンザー少佐だ。みんなよろしく頼む」
「よろしくお願いします」
といって深くお辞儀をするパトリシア。
「よろしく」
「頑張れよ」
という声がかかった。
「ウィンザー少佐には、私の席の隣に座ってもらうことにする」
それに対して一同が耳を疑った。
艦隊司令官の隣の席といえば、副司令官と艦隊参謀長というのが一般的常識であったからだ。
すでに右隣には副司令官のオーギュスト・チェスター大佐が着席していたが、現在艦隊参謀長の席は空位であり、これまで着席する者はいなかった。資格のあるゴードン大佐にしても首席中佐のカインズにしても、アレックスは参謀長として旗艦に残すよりもそれぞれ一万五千隻を有する部隊を直接指揮統制する分艦隊司令官に任命していたからだ。もう一人の大佐であるルーミス・コールは艦政本部長職にすでについていた。
では艦隊参謀長役をどうしていたかというと、定時的に開かれる作戦会議がそれを代行していたのである。与えられた任務に対してアレックスが作戦会議を招集する場合、例え一兵卒でも意見書・作戦立案書を提出して、会議に参加できるようオープンな環境を与えていた。
これまではそれがうまく機能して艦隊参謀長の必要性がなかった。正規の一個艦隊として編成され、より多くの艦艇及び将兵で膨れあがった現在、もはやそれをまとめる艦隊参謀長が必要になってきたのである。
いきなり隣の席を指示されて戸惑うパトリシア。
「どうしたウィンザー少佐。座り給え」
「は、はい」
おどおどしながらもアレックスの左隣に着席するパトリシア。
「さて、私がウィンザー少佐に隣の席を指示して、皆驚いているようだが……。察しのとおり、私は彼女を艦隊参謀長につけることにした」
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