銀河戦記/鳴動編 第一部 第十三章 ハンニバル艦隊 Ⅰ
2021.02.23
第十三章 ハンニバル艦隊
I
タルシエン要塞中央ドックステーション。
スティール・メイスンが副官を引き連れて降りてくる。
「お帰りなさいませ、メイスン准将。今回もまた見事な戦いでした」
ステーションの責任者が声をかけた。
「取るに足りない戦いのことを言っても仕方あるまい。敵は最初から逃げ腰だった。どうしてもこうも無駄な戦いを仕掛けるのか理解に苦しむ」
「同盟のニールセン中将のことですからね。差し詰め、気に入らなくなった提督を処分しようとしたのでしょう」
「処分か……。まったくあいつは将兵のことをただの駒にしか考えていない。そんなにしてまで自分の信奉者だけを身近に集めて何するつもりだ。戦争なんだぞ、貴重な味方の将兵を見殺しにしてどうする」
「その最たるものがランドールでしょう。我々でさえ正気の沙汰ではないと判る無茶苦茶な命令を受けてます。明らかに、潰しにかかっていますよ」
「しかし、ニールセンの期待に反して、見事な作戦で勝利を続けているがな」
「そのランドールが、カラカス基地第三次攻略隊を退けて、またもや多くの艦艇を搾取したもようです」
「そうか……その前のサラミス会戦でも勝利したしな」
サラミス会戦とは、最初のカラカス攻略戦から六ヵ月後に出撃した第二次攻略隊を、宇宙機雷による進撃阻止と、それを迂回しようとした宙域にヘリウム3原子散布による核融合爆発によって、一気に艦隊を全滅させた戦いである。
「ランドール艦隊は、三万隻にまで膨れ上がってしまいました。もはや尋常な手段ではカラカス基地を攻略することはできないでしょう」
「ああ、軍部はランドールの実績を過小に評価しすぎだ。ちょこまかと小部隊で攻略しようとするから、そういう事態になるんだよ」
「そうですね」
要塞作戦本部。
「一体いつになったら、同盟に進撃し屈伏させることができるのだ」
居並ぶ参謀達の前で、要塞司令官が憤懣やるかたなしといった調子で怒鳴っている。
「とにもかくにもカラカスを守備しているランドール一人が問題なのだ。我々の行く先々に待ち伏せして、想像だに出来ない作戦を用いて奇襲をかけてくる。すでに三個艦隊が撃退され、バルゼー提督は捕虜になった。しかも、奴は我々から搾取した艦船を組み入れて戦力を増強している。そうこうしているうちに、奴の艦隊は三万隻にまでになってしまったぞ」
「カラカス基地を放っておいては、シャイニング基地を攻略することもできん!」
「その通りです。背後を取られてしまいます」
「いったいどうしてこうなってしまったのだ?」
要塞司令官が頭を抱えていた。
このままでは自分の責任問題だと、今頃になって気づいたのである。
タルシエン要塞は、自国の防衛以上に共和国同盟への侵攻作戦の拠点として築かれたものである。当然侵攻作戦が行き詰っているとなると、その責任を問われることになる。
(無能な参謀達のせいだろうが……)
スティールは、バルゼー提督を捕虜にされた原因である無策な作戦しか立案できない統合軍参謀連中を信用していなかった。
作戦を指示されて出撃することもあるが、いざ戦場に赴いた時には完全に無視して、自分の思い通りに戦ってきた。ゆえに、参謀達のスティールに対する風当たりは強かった。
「誰か、奴の息の根を止めることのできる者はいないのか?」
場内を見渡して意見具申するのを待っている司令官。
(何を今更ながら言っているんだ。以前にバルゼー提督が、三個艦隊でこれを叩き、余勢を駆ってシャイニングに侵攻するという戦略を意見具申した時に、それを取り入れていれば、ここまでにはならなかったはずじゃないか。バルゼー提督だけが、貧乏くじを引かされたことを、何とも思っていないのか。ただ失敗したという結果だけしか見ていないじゃないか。実際、カラカスを攻略されて以降にも、何度となくランドールを潰すチャンスはあったのだ。なのに彼を過小評価したあげくに、幾度も少数のみの派遣艦隊で散々な目に合い、なおも考えを改めようとしなかった。そして気がついたときには、手を出すこともできない勢力に膨れ上がってしまっていた……実に愚かだ)
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅷ
2021.02.22
第十二章 テルモピューレ会戦
Ⅷ
カラカス基地奪取、キャブリック星雲不時遭遇会戦、そしてテルモピューレ宙域会戦と、奇抜な作戦で十倍以上の敵を撃ち負かしたことで、アレックスに対する将兵達の信頼は揺るぎないものとなっていった。
やがて一ヶ月後に迎えることになる第二次カラカス防衛戦においても、十倍以上の敵艦隊が押し寄せてくるという情報が伝えられた時も、誰一人として不安を抱く者はいなくなっていたのである。
そしてそれは次ぎなる期待へとつながる。
隊員達の最大の感心事が、ランドール司令の准将への昇進である。
「問題は、統帥本部の将軍達方々がどう出るか」
「というよりも、チャールズ・ニールセン中将一人をどうするかじゃないかな」
「奴がいる限り、ランドール大佐の将軍入りはないな」
下士官から准尉(将校)へ、大尉から少佐(佐官)へ、そして大佐から准将(将軍)へというように、新たなクラスに昇進する場合は、必ず軍部内にある査問委員会による適正試験・面接・実地戦闘試験などが行われることになっている。
「いや。国家治安維持法の特別追加条項の第十二条がある」
それは、栄誉ある聖十字勲章を授賞するような特別功績をあげた場合で、国家治安委員会から推挙され、共和国同盟最高評議会において議員の三分の二以上の賛同を得られれば、軍部の意向に関わらず無監査で昇進できるとした法律である。
時として軍部というものは、国政を無視して独断先行して侵略戦争を始めたり、武力抗争を起こしたりするものである。そのために軍部を監視・監督する機関として国家治安委員会が存在する。国家治安委員会が活動の根拠とするのが、国家治安維持法であり特別追加条項である。
第二条 将軍が艦隊を動かす時には、必ず委員会より派遣された監察官が同行する。
第三条 艦隊の行動は逐一監察官を通して委員会に報告される
第四条 監察官は委員会の直轄にあり、軍部はその活動を妨げることはできない。
第九条 委員会は、将軍職の解任請求を最高評議会に提出することができる。
第十一条 必要が生じた場合、新たなる将軍を最高評議会に推挙することができる。
そして先に挙げた第十二条である。
軍部とて国家の治安維持のために存在する以上、国家の法律には逆らえない。
テルモピューレから凱旋し、兵士達が休息を与えられてしばしの息抜きをしている頃、敵から搾取した艦艇の改造作業を不眠不休で続ける人々もいた。
敵艦艇を搾取したとはいえ、ハード面はともかく敵が使っていたソフトがインストールされている艦制コンピューターを、そのままでは利用することはできない。ROMを取り替えてメモリーを完全に初期化した後に、改めて同盟仕様のソフトをインストールする。これはウィルス対策を完全にするためである。またある種の艦では制御コンピューターごと総取り替えし、回線網の再施設という根気のいる作業も必要であった。
これらの担当責任者として、エンジン設計技師のフリード・ケースン中尉と、システム開発・管理技師レイティ・コズミック中尉があたっていた。
「どうだい。作業の進行状況は?」
アレックスは時折二人のもとを尋ねていた。カラカスを脅かす敵艦隊の来訪にそなえるためにも一隻でも多くの艦船を必要とし、逐一の報告は受けて知っていたが、その目でじかに確かめておきたかったからである。
「最初の時は三百隻、次が六百隻、そして今度が千隻です。休む暇もありません」
「本国では予算が足りなくて、損失した艦船の補充を受けようにもままならぬ情勢なのに、いとも簡単に艦船を増強してしまう我が部隊のことを、やっかみも含めて盗賊部隊と呼んでるそうです」
「部隊創設当初の二百隻に、ロイド少佐が持ってらした二百隻の他は、すべて搾取して編成された部隊が、今では二千隻に膨らんでます。本国に要請して手配されたのは、それらを動かすに必要な将兵の増員だけ」
「戦闘要員だけでなく、技術部員の増員もぜひともお願いしますよ。これじゃあ、眠る暇もありませんから」
「判っているよ。大至急に技術部員の派遣を要請しているところだ」
「大至急じゃなくて、超特急でお願いします」
レイティが強い口調で詰め寄ってきたので、思わず後ずさりしてしながら答えていた。
「わ、わかった」
「何にせよ、搾取した艦艇を使役するのは結構ですが、ブービートラップが仕掛けられることも十分考慮にいれてくださいよね。作業中に爆発したとかは、遠慮願いたいです」
「もちろんだよ」
「それじゃあ、忙しいのでこれで失礼します」
とつっけんどんな態度で、艦内に戻っていくレイティだった。
「ああ、済まなかった」
その後姿を見送りながら、頭を下げるアレックス。
技術的なことに関しては、二人がいるからこそアレックスの艦隊も存在できる。じゃじゃ馬でしようがないと廃艦の憂き目にあったハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式を、これほどまでの高性能戦艦に生まれ変わらせたのも二人のおかげだった。
そして、極秘裏に進められている例の件にしても……。
第十二章 了
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅶ
2021.02.21
第十二章 テルモピューレ会戦
Ⅶ
誰しもが考えもしなかった作戦にうってでたアレックス達の完勝であった。敵の誤算は、カラカス基地にある強力な軌道衛星兵器を盾にして防衛に徹し、一歩たりとも出てはこないだろうと考えたことである。まさか防衛しなければならない基地を空っぽにして自分達の勢力圏内奥深くまで進撃してくるとは誰しも想像だにしなかったであろう。それがゆえに何の警戒もせずにテルモピューレ宙域を渡ろうとしたのである。
アレックス達の電撃作戦によるバルゼー艦隊の壊滅、艦隊司令官バルゼーの捕虜という報が伝えられた時、タルシエン要塞司令官はあまりの動揺の激しさのために、要塞に警戒体制を発令しただけで、後続の艦隊を派遣することすらなかった。
追撃の艦隊が出てこないのを知ったアレックス達は、悠々と宙域の掃討を行なうことができた。結果として、またしても千隻近い敵艦艇を拿捕して、基地に持ち帰ることに成功したのである。それもバルゼー提督という有力敵将を捕虜にして。
「前回と違って、今回は敵艦を鹵獲(ろかく)するのですね」
「頂けるものは頂いておくのが、私のポリシーだからな。今回は策謀の余地もないだろう」
こうしてカラカス基地の防衛に成功したアレックスは大佐に昇進した。ゴードン・カインズ両名はそれぞれに中佐となり、配下の多くの士官達も多く昇進を果たしたのである。もう一人の少佐であるディープス・ロイドは、キャブリック星雲会戦に参加していなかったせいで、功績点が僅かながらも昇進点に届かず昇進から外れた。
「残念でしたね、少佐殿。後もう少しでしたのに。キャブリック星雲に参加していなかったのが尾をひきました」
副官のバネッサ・コールドマン少尉が慰めた。
「しかたがないさ。運不運は誰にもある。鹵獲した艦艇に配属された乗組員を訓練しなければならないのは当然だし、だれも敵と遭遇するとは思いもしなかったのだから」
「でも、大丈夫ですよ。ランドール司令は公正な方ですから、すべての将兵に均等にチャンスを与えてくれます」
士官学校時代にアレックスから、戦術理論と戦闘における行動理念を、直々に叩き込まれたバネッサの言葉である。まさしくアレックスの言葉を代弁していると言えるだろう。
さらにもう一人特筆すべき昇進者がいる。
独立遊撃艦隊再編成当初からアレックスの副官として尽力を尽くし、たぐいまれなる情報収集・処理能力でアレックスの作戦を情報面からバックアップした、情報将校レイチェル・ウィングである。
今回の作戦においても、バルゼーの到着を逸早くキャッチし、その艦隊がテルモピューレ宙域を突破するコースを通るという情報を掴んだのも彼女と彼女が指揮する情報班であった。いかにアレックスとて、敵艦隊の正確な情報なしには、テルモピューレ宙域会戦の綿密な作戦を立てられなかった。
彼女の提供した情報は、アレックスの立てた作戦に匹敵する功績とされ、無監査による少佐への昇進を認められ、宇宙艦隊史上初の現役女性佐官の誕生となったのである。
これは意外と思われるかもしれないが、宇宙艦隊勤務につく女性のほとんどが三十歳を前に地上勤務に転属するため、現役で少佐に昇進した例は過去にはない。艦隊勤務の激務による生理不順、無重力の影響による骨格からのカルシウム溶出や、宇宙線による卵細胞の遺伝子破壊などなど、宇宙艦隊生活は女性の妊娠・出産を困難にする障害が多すぎる。ゆえに結婚を考える女性士官としてはごく自然な淘汰であろう。
しかしながら、アレックスの率いる独立遊撃艦隊は、めざましい功績を立て続けにあげて、全員が急進歩的に昇進しており、ただでさえ士官学校出たばかりの新進気鋭が勢揃いしているのだ。現在大尉の階級にあるジェシカ・フランドルもパトリシア・ウィンザーも、確実に佐官に昇進するのは時間の問題である。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅱ
2021.02.20
第十一章 帝国反乱
Ⅱ
タルシエン要塞。
監房の独居房に拘禁されているゴードン・オニール少将。
その髭の伸び具合からして、かなりの日数を閉じ込められていたとみられる。
その房に近づく足音があった。
扉が開けられて、看守が入ってきた。
「オニール少将、出ろ!」
監房内においては、階級は関係ないので、敬語は使われないのは当然。
「腕を出せ!」
大人しく腕を出すと、カチャリと手錠を掛けた。
逃亡されないための用心である。
要塞中央コントロールセンターのフランク・ガードナー中将の前に連行される。
「オニール少将を連れて参りました」
「うむ。ご苦労だった、下がってよし!」
「はっ!」
ゴードンを残して看守は下がった。
「どうやら元気なようだな」
「一応……ね」
ぶっきらぼうに答えるゴードン。
「髭を剃ってきてくれないか。他人みたいで話しづらい」
副官に合図を送る。
「こちらへどうぞ」
手錠を外され洗面所に案内されて、髭剃りの道具を与えられる。
髭を剃り、顔を洗って再びガードナーの所へ戻る。
「早速だが、見せたいものがある。来てくれないか」
言うなり歩き出した。
後を付いていくと、艦隊の駐留機場だった。
修理や燃料補給、休息のための一時待機などの艦艇が立ち並んでいる。
ガードナーの旗艦、戦艦フェニックスの雄姿もある。
そこを通り越してさらに進む。
やがて見えて来たのは、
高速戦艦ハイドライド型改造Ⅱ式だった。
「こ、これは!」
驚愕の表情を表すゴードン。
何故なら、その艦体には水の精霊『ウィンディーネ』が描写されていたからだ。
そして艦の搭乗口タラップ前には、副官のシェリー・バウマン大尉と配下の将兵が立ち並んでいた。
「お待ちしておりました。閣下! 出航準備完了しております」
一斉に踵を揃え敬礼をする。
『ランドール提督より通信が入っております。ウィンディーネ艦橋へお越しください』
場内アナウンスが流れた。
「さあ、さあ。搭乗して下さい。提督をお待たせしては失礼ですよ」
ゴードンの背中を押して、搭乗口へと案内するシェリー。
搭乗係員に申告するゴードン。
「搭乗の許可願います」
「許可します。これをどうぞ」
係員が手渡したのは、司令官用の徽章だった。
徽章からは微弱電波が発信されており、胸に取り付けていれば、艦内を自由に行き来きできるようになる。
艦橋へとやってきた。
オペレーター達が一斉に立ち上がって敬礼で迎える。
「お帰りなさいませ、閣下!」
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銀河戦記/鳴動編 第一部 第十二章・テルモピューレ会戦 Ⅵ
2021.02.19
第十二章 テルモピューレ会戦
Ⅵ
サラマンダー艦橋。
敵艦隊が出現してくるのを待機しながら、アレックスは物思いにふけっていた。
「テルモピューレか……」
つぶやくアランの脳裏には、地球古代史にあるレオニダス率いるスパルタの三百の戦士が数万のペルシャ軍に対して死闘を繰り広げた有名なペルシャ戦役のことが思い浮かんでは消えていった。
「異国の人々よ、ラケダイモンの人々に伝えよ。祖国への愛に殉じた我等はみな、この地に眠ることを」
後世の人々は、最後の一人になっても勇猛果敢に戦ったスパルタ戦士のために、記念碑を建て詩を刻んでその栄誉をたたえた。
戦史でのその後のペルシャ軍は、スパルタ兵を打ち破ったものの、戦略家テミストクレスの策略にかかって、サラミス沖海戦で大敗して撤退することになる。
玉砕しつつも後世に英雄とたたえられたスパルタの戦士達と違って、我々は煙たがられやっかい者扱いのうえに最前線送りとなっている、援軍すら認められない捨て石の部隊である。たとえ全滅したとしても家族以外に涙する者もおらず、誰も気にもとめられないであろう。
「しかし……」
とアレックスは反問する。
アレックスには、戦史通りの轍を踏んで、カラカス基地を死守して玉砕する考えなど微塵もないし、かといって敵を撃滅させることも不可能であるが、将兵を無駄死にはさせたくない。
作戦がことごとく失敗に終わり、最悪カラカス基地を放棄して撤退を余儀なくされても、将兵を失うよりはいい。当然責任問題としてアレックスは糾弾されることになるだろうが。基地はいずれ取り戻せるが、将兵の命は戻らない。常日頃からのアレックスの口癖である。
チャールズ・ニールセン中将の思惑にことごとく逆らうことになるが……。
ともかくも、ここは戦闘を引き延ばせるだけ引き延ばして、ゴードンの別働隊が背後から襲うのを待つだけしかない。
「前方に重力反応探知!」
「敵艦隊が出てきました」
オペレーターが叫んだ。
その声に我にかえるアレックス。
「よし。全艦、砲撃開始」
アレックスの下令と同時に、準備万端整っていた全艦より一斉に砲撃が開始された。
出鼻をくじかれた格好となった連邦艦隊は、指揮系統が乱れて浮き足立ち、狭い宙域を密集隊形で進んでいるため、被爆した艦の巻き添えを食らって誘爆する艦が続出した。一刻も早く宙域を抜けだそうにも被弾して動けなくなった艦艇が行く先を塞いでいて前になかなか進めず、かといって後退しようにも後続部隊がつかえ棒していていた。右往左往しているうちにも後続の艦艇と接触事故を起こしていた。結局ほとんど押し出されるような格好で宙域を抜け出せても、宙域の外からのし烈な集中砲火が浴びせられてあえなく沈没していく。
バルゼーは、前方で繰り広げられる戦況、一進一退すらもままならぬ苦境にいらだちの色を隠せなかった。
「一体何をしているのだ。やられっぱなしじゃないか。戦力では圧倒的にこちらが有利なんだぞ」
「とは申しましても、航行不能宙域に囲まれた隧道のような場所で、出口を完全に塞がれた状態にあっては、艦隊総数は問題ではありません」
「隧道は非常に狭く、戦闘に直接参加できるのは、艦隊の先頭領域にいるせいぜい数百隻程度。対して敵はこれを全艦で包囲する形をとり、数千隻を相手とすることになります」
「実質上の戦力差は敵に有利というわけか……どうやら、敵は我々がここを通ることを事前に察知して待ち伏せしていたようだな」
「まったくです。これだから、統合軍の参謀の考えた作戦通りに行動することなど反対したんですよ」
「仕方あるまい。上の奴らは最前線のことなど、知ったことじゃないんだからな」
「おまけに作戦に失敗したら、責任だけはこっちに回ってくると」
「その通りだ。こうなってはいたしかない。後方の部隊に連絡して、進路転進し宙域を迂回して敵の背後に回りこんで攻撃させよ」
だが後方部隊が行動を起こすよりも早く、新たなる敵艦隊が背後から襲ってきたのである。
ウィンディーネ艦隊が到着したのである。
「何とか間に合ったようだな」
艦橋でほくそえむゴードン。
遠路を迂回してきたゴードン率いる第一分艦隊が、背後から襲ったのである。
こと艦艇の進撃スピードにおいては、巡航艦や駆逐艦といった高速艦艇だけで編成されているゴードンの第一分艦隊にまさる部隊は同盟には存在しない。まさしくこの作戦のために編成されたようなものである。アレックスの信用を一手に引き受けて、単独敵の背後に回ることに成功したことが、それを運用するゴードンの指揮能力の優秀さを証明してくれるだろう。
もちろんいざ開戦となった時の、戦闘指揮能力もずば抜けており、その破壊力はすさまじかった。ただでさえ狭い宙域である、敵艦隊の後方部隊は回頭もままならず、反撃する機会を与えられることなく、ゴードンの容赦ない攻撃を受けて、次々と撃沈されていく。
前面からと後方からとの挟み討ちにあっては、艦艇数の優劣に関わらず主導権を握ったアレックス達のなすがままとなった。ものの二時間も経たないうちに、敵艦隊は壊滅状態となって、敵艦隊司令官であるバルゼーは降伏した。
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