銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅲ
2020.12.26

第十章 反乱




 ゴードン・オニール率いるアルサフリエニ方面軍が反旗を上げたことは、アルデラーンにいるアレックスの耳にも届いた。
 あまりの衝撃に言葉を失うアレックスだったが、その背景を調べるように通達した。
 やがて、タルシエン要塞から驚きの報告が帰ってきた。
 皇太子即位の儀の後に行われた記者会見のTV放映が、タルシエン要塞及びそこを中継するアルサフリエニ方面では、本放送と中継放送とではまるで違っていたのだ。
 それが発覚したのは、念のためにアルデラーンで録画した本放送分をタルシエン要塞に送ったことで、違いが判明したのだ。
 アルデラーンでの本放送では、共和国同盟の処遇に関しては、兼ねてよりの意思として、以前の体制に復帰させることで念押ししたはずだった。しかし、中継放送では帝国に併合させると改変させられたことが判明したのだ。
 おそらくタルシエン要塞側の中継設備にハッカーが侵入して、本放送とは違う別の録画映像を流したのであろう。

「やられたな……」
 ハッカーの犯人は分かっている。
 闇の帝王と称される、ジュビロ・カービン以外にはいない。
「久しぶりに聞きましたね。その名前」
「おそらく今日あることを予期して、要塞奪還後のシステム構築の時に、侵入経路の裏口を作っておいたのだな」
「要塞コンピュータの設定に関わらせたのが仇になりましたね」
「分かってはいたのだが、一刻も早いシステム復興が必要だったのだ」
 それは、要塞を落とせば当然再奪取に艦隊を派遣してくるだろうからである。
「ハッカーという奴は、武器商人と同じだよ。どちらか一方にだけ加担するのではなく、不利になった側について戦況を盛り上げ、永遠の膠着状態にさせるのが本望なのだ。双方が疲弊してゆくのを、高見の見物しながら、裏舞台で高笑いする」

「いかがなされますか?」
「そうだな。バーナード星系連邦に最も近いアルサフリエニ方面を放っておくわけにはいかないだろう」
 内憂外患状態にある事を、連邦に悟られるわけにはいかない。
 速やかに鎮圧部隊を派遣しなければならなかった。
「しかし、今の状態では要塞駐留艦隊を動かすわけにはいきませんね」
「私が行く!」

 共和国同盟の士官としてなら、いつどこへ行こうが構わないだろうが、銀河帝国皇太子たるアレックスが、アルサフリエニ方面に進軍するとした時、マーガレット皇女などは大反対した。
 が、皇太子の意思に逆らうわけにはいかない。
「私も同行致します!」
 マーガレットが配下の皇女艦隊を引き連れて、護衛に同行すると許可を求めた。
 ジュリエッタも参加することを公言した。

 こうして、皇太子即位の興奮も冷めやらぬ間に、アルデラーンからタルシエン要塞への行幸となったのである。
 アルデラーンからトランターまでは、それぞれのワープゲートを調整すれば使えるが。
 ジュビロ・カービンが敵側に着いたと想定される現在、タルシエン要塞にあるワープゲートは、万が一を考えて使うことができない。
 トランターからは、艦隊の足を使って行くしかない。

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2020.12.26 17:46 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第六章 カラカス基地攻略戦 Ⅵ
2020.12.25

第六章 カラカス基地攻略戦




 カラカス地上基地、管制塔。
 夜空をたくさんの流星が流れていく。
「今夜は、やけに多くの星が流れるな」
「六十年に一度のバークレス隕石群への最接近が間近ですからね。惑星の重力に引かれて無数の隕石のかけらが大気圏に突入してきますから当然でしょう」
「それにしても敵艦隊の動きも気になるところだな」
「軌道上の粒子ビーム砲がある限り接近することは出来ないでしょう」

 真っ赤に燃えて消えいく流星群が軌跡を引いて流れる、その中からアレックス達の乗った揚陸戦闘機群がすっと姿を現しはじめていた。
 大気圏突入によって灼熱状態の機体が、通常航行へ移行する頃には冷えて平常に戻りつつあった。
「突入完了。大気圏航行主翼を展開させます」
 翼の必要のない宇宙空間から大気圏に突入後、飛行翼を展開してそのまま滑空することのできる戦闘機、それが揚陸戦闘機である。大気圏航行のための揚力を出す飛行翼の展開と収納が可能となっている。
「こちらブラック・パイソン。各編隊応答せよ」
「こちらハリソン編隊。全機無事に大気圏突入成功した」
「ジミー・カーグだ。こっちも全機追従している」
 両編隊長から無線がはいった。
「地形マップに機影を投射。対地速度マッハ四・六。約五分後に目標に到達します」
「ジュリー、このままのコースを維持せよ」
「了解。コース維持します」
「こちらブラック・パイソン。各編隊へ。ブラック・パイソンに相対速度を合わせ、敵のレーダーにかからないように地面すれすれに超低空を飛行せよ。これより、敵管制基地攻撃にかかるが、攻撃目標から中央コントロール塔への直接攻撃は避ける。対空施設や格納庫、滑走路上戦闘機への攻撃が主体だ」
「ブラック・パイソン。こちら、ハリソン編隊。作戦指令を了解。ハリソンより、パーソン小隊、ジャック小隊へ。両小隊は司令機ブラック・パイソンの両翼に展開して護衛せよ。ミサイル一発たりとも近づけるんじゃないぞ」
「パーソン小隊、了解した。こちらは、左翼を守る。ジャック小隊は、右翼を頼む」
「ジャック小隊、了解しました。ブラック・パイソンの右翼を警護します」
「カーグ編隊長より、全機へ。当初の作戦通り、ミサイル一斉発射後、基地滑走路への強行着陸を敢行する。ミサイル発射装置の安全装置を確認」
 ジュリーが前方を指差しながら報告した。
「敵基地が見えてきました」
「上空に敵戦闘機はいないか?」
「見当たりません」
「すっかり安心しきっているか……。よし」
 アレックスは、無線機を握りしめた。
「ブラック・パイソンより各編隊へ。攻撃開始だ。全機浮上してミサイル一斉発射」
 アレックスの命令と同時に、全機が浮上し、発射体制に入ると同時に一斉にミサイルを発射した。さらにミサイルを発射して軽くなった機体は、加速して敵基地へ突入を開始する。
「ジミー、滑走路に強行着陸しろ」
「了解。カーグ編隊、全機滑走路に着陸しろ」
 次々と滑走路に強行着陸する戦闘機。
 その間にもハリソン編隊が管制塔周辺に対し攻撃を行って、守備隊の接近を阻んでいた。
「ジュリー。管制塔まえに強襲着陸だ」
「了解!」

 敵基地中央コントロール塔管制室では突然の敵襲に騒然となっていた。管制塔の前ではアレックス達と管制官員とが銃撃戦を繰り広げていた。かつて士官学校での模擬戦闘で、戦闘訓練は経験済みの隊員達だ。要領を得て、確実に塔を昇り詰めていく。
「このままでは持ちこたえられんぞ。守備隊はいったいどうしているのか」
「敵戦闘機により通路が分断されており、かつ間断なる攻撃で接近できないでいます」
「せめて軌道上の艦隊とは連絡が取れないのか」
「だめです。敵のジャミングで無線はもちろんのことレーダーすら役に立ちません」
「ううっ。一体守備艦隊は何をしていたのだ」
「これだけの戦闘機が来襲してきたところをみると、すでに味方守備艦隊は全滅しているのでは」
「まさか……」
「そうでなければどうして……」
 言い終わらないうちに肩口を銃弾で打ち抜かれて床に倒れる管制員。
「スキニー!」
 仲間の名前を叫んで駆け寄ろうとしたが、なだれ込むように侵入してきたアレックス達に遮られる。
「動くな!そこまでだ。おとなしく降参しろ」
 管制員に銃口を向けて包囲するアレックス達。
「貴様たちは?」
「同盟軍だよ。基地は完全に掌握した。無駄な足掻きはやめることだ」
 肩をがっくりと落とす管制員。

 管制員を縛り上げて壁際に座らせる隊員達。
「意外と速かったですね」
「ああ、レイチェルが手に入れた基地の詳細図があったからな。階段の場所からゲートを開ける操作盤の位置、迷子にならずに一直線でここまでこれたからな。そして、守備隊を管制塔に近づけさせないため、連絡通路を確実に破壊できたのも、正確な見取り図があったから。さらには基地周辺の地形図まで、攻略に必要なすべての図面を集めてくれた」
「さすが情報参謀ですね。レイチェル少尉のおかげで作戦が立てられたわけですからね」
「ああ、彼女の情報収集能力は一個艦隊に匹敵するくらいだ」
 もっともその功績は、彼女の背後にいるジュビロ・カービンによるものだろうが。

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2020.12.25 16:48 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第六章 カラカス基地攻略戦 Ⅴ
2020.12.24

第六章 カラカス基地攻略戦




「司令。目標の惑星が見えてきました」
 ジュリーの報告通り、目標の惑星が目の前にあった。
 軌道上に整列した十二基の軌道衛星砲と、威圧感を与える粒子ビーム砲の射出口が開いている。
 戦艦搭載用の粒子ビーム砲とは桁違いの大出力を誇り、一基だけで二百隻の戦艦に相当する火力といわれている。戦艦搭載のものは、高速移動の必要性と、塔乗員の生命を守る安全性を考慮されて、軽量かつコンパクトに設計されその性能の限界七割程度に押さえられている。その点、無人で移動の必要のない軌道衛星砲には、最大級で最大性能を与えられて、性能限界ぎりぎりの大出力を引き出すことができる。
「どうやらまだ気付かれていないようだな」
「うまくいきそうですね」
「しかし、これからが正念場だ。今ならまだ引き返すことができるが、君ならどうする」
「ここまで来たんです。やるしかないでしょう」
「そうだな」
 アレックスは無線機を取った。
「全機へ。これより突撃を敢行する。夜の側から大気圏に突入せよ」
「ジミー、了解」
「ハリソン、了解」
「大気圏突入後五分間は交信が不可能になる。その間各自の判断で作戦を遂行せよ。
以上だ」
 マイクを置くと同時にジュリーが、大気圏への突入体制に入る。
「司令、大気圏突入モードに入ります。熱シールド全開、後部放熱ファン展開。機内冷却装置作動」
 ブラック・パイソンの機器を次々と操作して大気圏突入の準備をするジュリー・アンダーソン。
「突入準備完了」
「よし、突入だ」
「突入します」
 大気圏突入と同時に機体が激しく震動をはじめ、摩擦熱による温度上昇から、機内は赤く揺らめいていた。

 サラマンダー艦橋で、アレックス達を心配して食い入るようにパネルを見つめるパトリシアがいた。
「アレックス達が突入を開始する時間だわ」
 サラマンダーに移乗していたレイチェルが、パトリシアの肩をそっと叩いた。
「大丈夫よ。アレックスならきっとうまくやるわ。それとも自分達の立案した作戦に自信がなくなった?」
「そんなことはありませんけど……」
「作戦が完璧にできあがったとしても、それに身内が参加するとわかった途端に、急に心配になってくる。どこかに致命的なミスがあったらどうしよう、それがために命を落とすようなことになったらと、心配でしようがない。そういうことよね」
「え、ええ……」
 レイチェルがわざわざサラマンダーにやってきたのは、夫を敵地に送り出し心細くなっているはずのパトリシアをはげますためであった。
「わたしはね、思うのよ。なぜこの作戦に司令官たるアレックスが自ら参加したのかってね」
「アレックスとて、この作戦が完璧だなんって思ってやしないはずよ。所詮人間が作りあげたものだもの。どこかに見落としや勘違いがあって当然よね。作戦を実行するにあたっては、その時々の状況というものは常に変化するということを念頭に入れつつ、微妙な修正を加えねばならないことも起こる。だからアレックスが同行したのだとも言えるけど……でも、アレックスの真意は別のところにあるわ」
「真意?」
「もし現場の判断が必要ということならば、ゴードンを行かせればいいはずよ。彼の方が最適任者であることは、あなたもご存じのはず。作戦の変更が必要になった時には、司令官が残っていたほうが理にかなっているもの。なのに、アレックスということは、なぜかわかる?」
「…………」
「アレックスはね、この作戦に絶対の自信を持っていると思っているわ。言い換えるとパトリシア、あなた達の作戦能力を高く評価しているということよ。作戦が失敗した場合、ゴードンに撤退の指揮を任せるなんて言ってたけど、その可能性があるくらいなら最初から作戦を取り上げたりはしない。彼の性格でいうと、勝つならばとことんやるが、負けそうならば無理せずにひたすら逃げまくる、というのが信条なのよね」
 それはパトリシアもよく知っていた。
 たとえば士官学校時代の模擬戦闘でのことでいうと、逃げの作戦が基地に仕掛けしておいて完全撤退したことであり、勝ちにいく作戦がレーダー管制を逆手に取って逆襲したことである。まず逃げまくって相手を油断させておき、弱点を見せたその隙を全軍をもって徹底的に攻撃を敢行する。
「作戦が成功するにしろ失敗するにしろ、犠牲者は少なからず出るわ。これだけ突飛な作戦だもの、果たして作戦通りいくかどうかなんて、誰も信じられないはずよ。しかし、司令官自らが同行することで、作戦に参加する将兵達の士気を奮い立たせ、延いては部隊全員に対して指揮系統の優秀さと信頼性を高めることができる。本作戦に限らず今後も幾度かの困難で楽でない作戦命令をこなしていかなければならない。その作戦が困難であればあるほど、それを成功させて無事に戻ってきたとき、独立遊撃部隊の将来は確固たるものになっているでしょう。これは、独立遊撃部隊司令官であるアレックスと、副官であるあなたの最初の試練ということね」

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2020.12.24 18:22 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第六章 カラカス基地攻略戦 Ⅳ
2020.12.23

第六章 カラカス基地攻略戦




 作戦X地点。
 空母セイレーンのフライトデッキから次々と艦載機が発進している。
 0番格納庫の中央に据えられた複座型揚陸戦闘機。
 作戦会議の時にアレックスが指示したものである。
 彼の頭脳には配下にある艦艇の種類は勿論のこと、搭載してある戦闘機のすべて、そしてその装備や性能までがことごとく網羅されている。
 あらゆる角度から考慮しつくして作戦遂行に必要なものを、明確にチョイスして用意できる。

 ヘルメットを小脇に抱えデッキをゆっくりと歩いて、指令機ブラック・パイソンに乗り込もうとしているアレックス。足早に近づいてくる女性士官は、航空参謀のジェシカであった。
「司令。ジミー・カーグ中尉の編隊、全機発進完了しました。ハリソン・クライスラー中尉の編隊もほぼ九十パーセント」
「わかった」
 指令機のそばにジュリー・アンダーソンが待機していた。
「いつでも、出られます」
 敬礼して迎える。
「よし、行こう」
「はっ。では、後ろにお乗りください」
「よろしく頼む」
「司令」
 乗り込むアレックスの背後からジェシカが声を掛ける。
「ん?」
「どうぞ、ご無事でお戻りください。万が一の時には、泣いて悲しむ女性がいることをお忘れなく」
「わかっているさ」
 OKというように親指を立てて見せる。
 後部座席に腰を下ろして、ヘルメットを着用する。
「よろしいですか?」
「いいぞ。発進してくれ」
「了解しました」
 戦闘機の風防が降ろされる。
 管制官とのやり取りが行われ、庫内の空気が抜かれてゆく。
 雑然とした艦内の音が次第に薄れてゆく。
 無音となり、庫内の扉が開く。
 牽引トラクターが接続されて、発艦デッキへと運ばれる。
 すかさず発艦要員が取り付いて、カタパルトに乗せてゆく。
 それが完了すると、足早に待避所へと向かう。
「エンジン始動!」
 前方出口に表示されている発進信号が青色(GO)に変わる。
「発進します!」
 エンジンを吹かして滑るようにカタパルトから発射される複座式戦闘指令機ブラック・パイソン。ふわりと宇宙空間に出たところで、ジミーとハリソンがすっと両袖を固めるように寄ってくる。
 アレックスの手元の無線機が鳴った。
「全機、発進完了しました」
「よし。行くとするか」
「行きましょう」
 マイクを握り締め指令を出すアレックス。
「これよりバークレス隕石群に突入する。隕石を衝突回避しながら、ランダム飛行コースを取りつつ、目標にたいして接近を試みる。全編隊、我に続け!」
「カーグ編隊、了解」
「クライスラー編隊、了解だ」
「ジュリー。進撃開始」
「了解」
 ブラック・パイソンが隕石群に突入すると、追従して続々と戦闘機が突入していく。
アレックスの下に集まった戦闘機乗りは、酒豪のジュリーを筆頭として一癖も二癖もあるやさぐればかりだ。待機勤務中に酒は飲むし、喧嘩は日常茶飯事でどこの艦隊でも鼻つまみ者として放逐されていた。だが操縦の腕前はピカイチだった。そんなやつらだが、同じく軍の異端児であるアレックスの事を聞きつけ、類は類を呼ぶというように、いつしか自然に集まってきていたのだ。
「ハリソン。速すぎるぞ。隕石との相対速度を合わせろ。いくら隕石の中に姿をくらましても、異常な動きを見せて敵に感知されては元も子もない」
「りょ、了解」
「司令が同行して正解でしたね」
 ジュリーが機内無線で応答した。
「ああ、ジミーもハリソンも、ライバル意欲を燃やしてくれるのはいいんだが、功をあせり過ぎる。二階級特進も考えものだな。という俺は三階級特進か……」
「司令の進級は、作戦を考え実行した功績として当然です。その点、あのお二人はただそれに従っただけという点で、二階級は時期尚早という評価もありますけどね」
「そういう声もあったのは確かだが、彼らがいなければあれだけの戦果を上げることはできなかったさ。だからこそ、彼らがやっきになる気持ちも解るがな」

 一方旗艦サラマンダーの方でも、作戦がはじめられていた。
「そろそろ時間です。艦隊を進めてください」
 司令代行のパトリシアが進軍を命じた。
「了解。全艦微速前進」
 部隊二百隻の艦船がゆっくりと動きだした。
 当面の作戦の目的は、自らの存在を敵に知らしめて、揚陸部隊の行動を察知されないようにする陽動である。

 敵守備艦隊旗艦の艦橋。
「敵部隊がこちらに向かっているのは本当か」
「間違いありません。哨戒機が敵部隊を確認しております。到着推定時刻はおよそ四十分後」
「うむ。警戒をおこたるなよ」
「とは申しましても、情報ではたかだか二百隻の部隊だそうですけれどもね」
「たった二百隻だと?」
「はあ……。ただ問題なのは、部隊を率いているのがアレックス・ランドールという
人物らしいということです」
「アレックス・ランドール? 何者だ、そいつは」
「お忘れですか。ほら、ミッドウェイ宙域で第一機動空母艦隊と第七艦隊を敗走させた例の奴ですよ」
「ああ、あいつか」
 警報がなり響いた。
「哨戒機が敵艦隊を発見しました。距離122.4光秒」
「やっぱり来たか。敵艦の数は?」
「およそ二百隻」
「しかしあまりにも少なすぎるな……」
「いかがなされますか」
「戦闘配備のまま待機だ」
「しかしそれでは……」
「この基地をたかだか数百隻の部隊で攻略することなど有り得るものか。これは誘いの隙だ。我々が出撃した途端伏兵が現れてくるに違いないのだ。背後には少なくとも一個艦隊はいるとみたほうがいいだろう」
「とは申しましてもこちら方面に出撃できる同盟の艦隊といえば、第八か第十七艦隊しかおりません」
「その通り。二個艦隊程度なら、軌道衛星の粒子ビーム砲とあわせて我々守備艦隊だけで十分防御できる」
「軌道ビーム砲の射程内で待機しているかぎり安全というわけですね」
「ああ。とにかく敵の誘いには乗らないことだ」
「わかりました」

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2020.12.23 09:15 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第六章 カラカス基地攻略戦 Ⅲ
2020.12.22

第六章 カラカス基地攻略戦




 優秀な参謀を持ちながらも聞く耳を持たずに一人よがりな作戦を実行する愚鈍な司令官も多いのである。その点自分では何も考えることはしなくとも、適材適所に優秀な人材を配置してまかせるということも、また司令官の采配の一つでもあった。
 戦闘の現場における実戦力の手腕に長けたゴードン・オニール大尉。
 艦載機などの航空兵力の運用に優れたジェシカ・フランドル少尉。
 図上演習から作戦立案に至る作戦の要の参謀役パトリシア・ウィンザー少尉 作戦を立てるに必要な情報収拾を担当するレイチェル・ウィング少尉。

「今回の作戦には私自身も戦闘機で出る」
「司令自らお出になられるのですか?」
「そうだ。現場ではどうなるか皆目見当がつかんし、敵勢力圏内で通信回線を通して作戦指令を出すこともできん。傍受されるからな。現場において戦況を逐一把握して、状況の変化に応じて的確な指令を出す必要があるからだ」
「しかし、万が一作戦が失敗したら……」
「その時は、敵地に進入した部隊は全滅。運が悪かったと諦めて艦隊を撤退するしかない。その時はゴードンに後をまかせる」
「いやですよ。そんな役目は」
「それはともかく、司令は戦闘機に乗れるのですか?」
「それが乗れないんだよ。士官学校の教練に戦闘機の操縦科目があるにはあったのだが、さぼっていたからな」
「では、どうなさるつもりですか」
「複座式の揚陸戦闘機ブラック・パイソンがあるから、その後ろに乗っけてもらうさ」
「誰に操縦させるのですか」
「ジミーやハリソン以外がいいだろうな。奴等の性格からして、後ろに司令を乗っけていると、腕が鈍る」
「それでしたら、ジュリー・アンダーソン少尉が適任でしょう」
 とパトリシアが進言した。
「ジュリーか……それもいいだろう」

「ジミー・カーグ中尉、ハリソン・クライスラー中尉が見えました」
「おお、来たか。通してくれ」
「はい」
 両中尉が席につき、無事に大気圏突破を果たした後の詳細な作戦の打ち合わせに入った。
 正面のパネルスクリーンにカラカス基地の全貌が投影されていた。
「これがカラカス基地の詳細図だ。右から、基地周辺の地形図、管制塔周辺見取り図、管制塔内の3D透視図面だ。基地攻略に必要なデータはすべて揃っている」
「司令、基地の詳細図など、どうやって手に入れたのですか?」
「軍事機密ですよ。ガードはとんでもなく固いはずです」
「ふむ……まあ、そこがレイチェルの情報参謀としての能力値の高さを示しているんだな。情報戦略においては一個艦隊に匹敵するだろう」
「司令、あまり買いかぶらないでくださいよ」
 ジェシカが謙遜して訂正する。実際に敵基地の詳細情報を収集したのは、天才ハッカーであるジュビロ・カービンという人物なのだろうが、そういった優秀な人脈を集め維持することも、その人なりの能力でもあるのだ。
「ともかくだ……。ジェシカ、作戦の概要を説明してくれ」
「はい」
 ジェシカがスクリーンの前に立ち、詳細図を指し示しながら作戦を伝達する。
「基地攻撃には、ジミー・カーグ中尉及びハリソン・クライスラー中尉を編隊長とする二編隊を投入します。カーグ編隊は、基地滑走路への強行着陸を敢行し、白兵戦により中央コントロール塔を占拠していただきます。クライスラー編隊は、基地コントロール塔以外への継続攻撃とカーグ編隊の援護を担当していただきます」
「了解した。白兵戦ならお得意だ」
「私の編隊は、ジミーが占拠した管制塔へ敵守備隊を近づけさせなければいいのですね」
「その通りです。中央コントロール塔への連絡通路などを破壊して敵守備隊を分断してください」
「これって士官学校時代の模擬戦闘の作戦まんまじゃないですか。戦艦と戦闘機との違いはありますが」
「まあな。レイチェル少尉とカインズ大尉を除けば、司令官も参謀もその時とまったく一緒だからな。なんたってこの部隊はスベリニアン校舎の士官ばかり集まっている」
 ゴードンが肩をすくめるようにして言った。
「しかし、今回は実戦だ。一度成功した作戦が二度うまくいくとは限らない。失敗は即死を意味するのだ。こころして掛かるように」

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2020.12.22 18:00 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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