銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅲ
2020.11.21

第九章 共和国と帝国




 アレックスは統合艦隊総司令部に全幕僚を招集した。また帝国側から、マーガレット皇
女とジュリエッタ皇女、そしてその配下の提督達を呼び寄せていた。
「ところで座ったらどうだい。マーガレット」
 皇太子であるアレックスにたいしては、いかに実の兄妹であろとも最敬礼をつくさねば
ならない。同盟の提督達が着席しているのもかかわらず帝国の諸氏は不動の姿勢で立って
いたのだ。
「いえ。同盟の方々はともかく、我々は銀河帝国の人間です。皇太子殿下の御前において
は着席を許されません。どうぞお気がねなく」
「皇太子といっても、帝国ではまだ正式に承認されていないのではないかな」
「殿下はすでに宇宙艦隊司令長官に任命されております。皇室議会での承認はまだなされ
ておりませんが、これは事実上の皇太子として認められているからであります」
「宇宙艦隊司令長官は皇太子の要職だったな」
「さようにございます」
「私の皇太子の地位はともかく、共和国同盟最高指導者としての地位もあるのだ。そして
ここは共和国同盟下の首都星トランターだ。帝国の法律やしきたりは無用だ」
「ですが……」
「とにかく座ってくれ。こっちが話しずらいじゃないか。トランターにある時は、トラン
ターのしきたりに従ってくれ。最高司令官の依頼と皇太子の命令だ」
「は。ご命令とあらば……」
 皇太子の命令には絶対服従である。仕方なしに着席する帝国の諸氏。
「それよりも、殿下。私共をお呼びになられたのは、いかがな理由でございましょうか」
 マーガレットが尋ねた。
「先の同盟解放戦線では、解放軍と皇女艦隊が連携してことにあたったのだが、これをさ
らに推し進めて、正式に連合艦隊を結成するつもりだ」
「連合艦隊!」
 一同が驚きの声をあげた。
「誤解を招かないように先に念を押しておくが、これは連邦にたいして逆侵略をするため
に結成するのではないということだ。強大な軍事力を背景にして、連邦に容易には軍事行
動を起こせないようにし、平和外交交渉の席についてもらうためである」
「ミリタリーバランスと呼ばれるやつですな」

「ところでネルソン提督」
「はっ」
「現在の帝国の正確な艦隊数はどれくらいかな」
「帝国直属の艦隊が四百万隻と、国境警備隊及び公国に与えられた守備艦隊としての百万
隻を合わせて、都合五百万隻ほどになります」
「五百万隻か……だが、五百万隻といっても、同盟・連邦が相次ぐ戦闘で次々と新型艦を
投入してきたのに対し、長年平和に甘んじてきた帝国のものは旧態依然の旧式艦がほとん
どだということだが」
「さようにございます」
「しかも、乗員も戦闘の経験がほとんどないに等しいと。どんなに艦隊数を集めても、旧
式艦と未熟兵ばかりでは戦争には勝てない」
「確かにその通りですが、既存の艦隊を新型艦に切り替えるにも予算と時間が掛かり過ぎ、
また資源的にも短期間では不可能で問題外でありましょう」
「そうだな、不可能なことを論じてもしかたがないだろうが、将兵を再訓練する必要はあ
るだろう。今のままでは帝国軍五百万隻をもってしても、同盟・連邦軍二百万隻にはかな
わないだろうな」
 アレックスの言葉は、すなわち今帝国が同盟ないし連邦と戦争する事態になれば、かな
らず敗れることを断言したことになる。しかしこれまで数倍の敵艦隊にたいして戦いを挑
み勝ち続けてきたアレックスの実績を知るものには、信じて疑いのない重き言葉となって
いた。ネルソンにしても、完璧な布陣で艦隊を率いていたにもかかわらず、十分の一にも
満たない艦数でいとも簡単にマーガレット皇女を奪われてしまった、その実力を目の当た
りにしていては反論する余地もなかった。

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11
2020.11.21 14:35 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅱ
2020.11.21

第九章 共和国と帝国


Ⅱ フィッツジェラルド家


 軍事的にも政治的にも、着々と改革を推し進めていくアレックスであったが、どうあが
いてもままならぬ一面があった。
 経済である。
 そしてそれを一手に掌握するフィッツジラルド家とどう対面するかである。
「死の商人」
 と揶揄される一族だった。
 一般市民達は平和であることを望む。
 しかし、武器商人達は平和であっては、飯の種がなくなってしまう。
 次々と最新鋭戦艦を開発生産する大造船所と、死の商人達を傘下に擁する彼らにとって
は、太平天国の世界よりも戦乱動地の世界の方が、居心地がいいはずだ。いずれ彼らの手
によって戦乱の世に導かれていくのは目にみえている。
 たとえばだが……。

 地球日本史において、真珠湾攻撃と呼ばれる奇襲攻撃があったが、米国は事前に察知し
ていた?という陰謀論説がある。
 大日本帝国海軍の真珠湾攻撃を、アメリカ合衆国大統領のフランクリン・ルーズベルト
が、「事前察知をしながらそれをわざと放置した」という説である
 戦争になれば、戦闘機を製造するロッキード・マーチン社やマクドネル・ダグラス社、
、航空母艦ではニューポート・ニューズ造船所などが潤うのだ。
 短期戦では日本に一時的にも追い込まれるだろうが、長期戦に持ち込めれば経済力で日
本に逆転できるとの判断がなされた。

 そういった戦争を望む商人達が、大統領を裏で手を引いていたというのだ。
 ちなみに、幕末に活躍した長崎のトーマス・グラバーも武器商人として来日していた。
 数ある資産家の中でも、その名前を知らぬ者はいないといわれるフィッツジラルド家は、
全銀河の経済覇権を実質上握っていた。共和国同盟内はもちろんのこと、銀河帝国との通
商貿易の九十五パーセントを独占し、連邦側とも闇貿易で通じていると噂されていた。 
 戦時下においては、最も利益を生み出すのが武器の輸出である。そこに暗躍するのが死
の商人と呼ばれる武器輸出業者である。金さえ出してくれれば、敵であろうと誰であろう
と一切関知しない。必要なものを必要なだけ調達して、指定の場所へ運んでやる。
 そしてそれらの死の商人達を影で操っているのが、フィッツジラルド家なのである。

 かつて第二次銀河大戦が勃発し、統一銀河帝国からの分離独立のために立ち上がった、
トランター地方の豪族の中でも最大財閥として、当時の独立軍に対して率先して最新鋭戦
艦の開発援助を行っていたのがフィッツジェラルド家である。

 その総資産は銀河帝国皇室財産をも遥かに凌ぐとも言われており、資本主義経済帝国の
帝王と揶揄されている。
 ことあるごとにランドール提督を目の敵としていた、かのチャールズ・ニールセン中将
もまた彼らの庇護下にあったのだ。
 政治や軍事には直接介入しないが、実力者を懐柔して裏から支配する。

 そんなフィッツジェラルド家の当主が、アレックスに面会を求めてきた。

 トリスタニア共和国は解放されたものの、銀河にはまだ平和は訪れていない。
 バーナード星系連邦との戦争は継続中である。
 そのためにも、軍備の増強も必要であろう。
 あらたなる戦艦の建造は無論のこと、被弾した艦船の修理には彼らの協力を得なければ
ならないことは明白である。
 武器商人との取引も避けては通れないのである。


「アンジェロ・フィッツジェラルドです」
 と名乗った相手は、恰幅のよい体系の50代半ばの男性だった。
 機動戦艦ミネルバを造った造船所を所有している。
 トランターが連邦軍によって陥落された後には、何の躊躇いもなく総督軍にくみして、ミ
ネルバ級2番・3番艦を建造して、メビウス部隊掃討の手助けをした。
 その時々の権力者に媚びへつらって、財力を蓄えて経済面から支配するということだ。
「アレックス・ランドールです」
 差し障りのない挨拶を返す。
「それにしても……。さすがですなあ。総督軍との戦いぶり、じっくりと鑑賞させていた
だきましたよ」
 解放軍及び帝国軍混成艦隊と総督軍との戦いは、TV放映を許可していたから、当然共
和国でも視聴できたということだ。
 それから、軍事や経済に関わる話題が交わされる。
 二時間が経過した。
「どうも長らくお邪魔致しました。今後ともお付き合いよろしく御願いします」
 共和国の軍部最高司令官と、経済界のドンとの会談は終わった。
 何が話されたかは、想像に容易いことだと思われる。

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2020.11.21 14:33 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅰ
2020.11.21

第九章 共和国と帝国




 トランターに君臨していたバーナード星系連邦軍は壊滅した。
 ついにトランターは解放されたのだ。
 取り急ぎ、臨時政府が置かれることとなり、暫定政権の首班として艦隊政務本部長のルーミス・コール大佐が就任することとなった。
 首班としては、アレックスが推挙されていたのであるが、銀河帝国皇太子としての問題もあるので、事を荒げたくないとして辞退したのであった。

 アレックスは、かつてマック・カーサー総督がそうしたように、枢密院議会議長席から同盟の解放が達成されたことを政権放送で全世界に流した。総督府を廃止して、臨時の暫定政府を置き、正規の政府が機能するまでの間、これを軍部が代行することを宣言した。
 アレックスが銀河帝国皇太子ということで、同盟所領が帝国の属国となることを危惧する民衆に対してこれを断固として否定した。その一環として、追従してきた帝国自治領主達が、自分の領土権を主張したり略奪に走る気運があるのをとがめて、同盟所領には一切手を出さないように厳命するとともに、帝国へ強制的に引き返させた。
 共和国同盟を連邦から解放したアレックス達が、まず成さねばならないのは、解放軍と総督軍を取りまとめ新生共和国同盟軍として再編成することであった。
 まず連邦総督軍として再編成された時点において、特別昇進した将兵にたいしての勧告が出された。共和国同盟の規定によらない昇進のあったものはすべて、規定通りの階級に戻されることとなった。
 ただし、将軍職にたいしては特別な処置がとられることになり、規定通りの階級に戻るか、将軍職のまま任意退役するかを選択できるようにされた。これは、将軍とそれ以下の階級では、退役後の恩給に格段の差があるためで、人情的な処置である。結局将軍職にあるものは全員退役の道を選び、共和国同盟の将軍はすべて解放軍からそのまま引き継がれることとなった。
 また空位となった階級には、功績点で昇級点に達している上級大佐や将軍の中から順次上級の将軍へと昇進させた。
 解放軍最高司令官であったアレックス・ランドールは実質的に共和国同盟軍の最高司令官となったのである。にしてもアレックスは中将でありその上の大将や元帥が空席のままなのを、いぶかしげに思うものもいたが、同盟では将軍職には定員があって、欠員が出ない限り昇進できないので、職をわざと開けておくことで、戦績さえ上げれば誰でも昇進できる余地を残し、将兵達の士気は大いに上がったのである。実情は恩給を出せる経済状態ではなかったというのが真相であったのだが。
 先の総督軍総司令だったニコライ・クーパー中将は、元の官位が准将であり総督に取り入って現在の地位についたことと、戦略家としての知名度も低いために、正式な中将の官位にあり数多くの実績を持つアレックスの足元にも及ばなかったことから、結局彼も中将の官位のまま任意退役することとなった。

 その一方で暫定政府を開いて政治と経済の復興を目指すことも必要であった。総督軍を破ったとはいえ、依然として連邦とは戦争状態にあり、一刻も早い復興を図るために軍部指導による政治改革を断行した。
 まず最初に行ったのは、かつての全権区代表選挙による枢密院議員議会制度を廃止したことである。
 全権区を選挙活動するにはあまりにも莫大な財力が必要であり、財力・権力のある実力者による事実上の世襲議員となり腐敗政治の温床となっていたからである。替わって全権区を三十六のブロックに分けた中選挙区代表による任期五年非解散の上院議員議会と、各星系ごとの小選挙区代表による任期四年有解散の下院議員議会との二院議会制度を発動させた。世論をよりよく反映させるために、解散総選挙のある下院議員に立法的先権を与えた。
 両院議員の最初の選挙は、準備期間を考慮して四年後に行われることとなった。両院議員が選出され、議会政治が機能するまでの間、暫定政権として軍部が代行して執り行うこととした。
 アレックスは、アルサフリエニ方面軍最高司令官の職はそのままに、トリスタニア共和国同盟軍最高司令官に就任した。


 軍事的にも政治的にも、着々と改革を推し進めていくアレックスであったが、どうあがいてもままならぬ一面があった。
 経済である。
 そしてそれを一手に掌握するフィッツジラルド家とどう対面するかである。
「死の商人」
 と揶揄される一族だった。
 一般市民達は平和であることを望む。
 しかし、武器商人達は平和であっては、飯の種がなくなってしまう。
 次々と最新鋭戦艦を開発生産する大造船所と、死の商人達を傘下に擁する彼らにとっては、太平天国の世界よりも戦乱動地の世界の方が、居心地がいいはずだ。いずれ彼らの手によって戦乱の世に導かれていくのは目にみえている。
 たとえばだが……。

 地球日本史において、真珠湾攻撃と呼ばれる奇襲攻撃があったが、米国は事前に察知していた? という陰謀論説がある。
 大日本帝国海軍の真珠湾攻撃を、アメリカ合衆国大統領のフランクリン・ルーズベルトが、「事前察知をしながらそれをわざと放置した」という説である
 戦争になれば、戦闘機を製造するロッキード・マーチン社やマクドネル・ダグラス社、、航空母艦ではニューポート・ニューズ造船所などが潤うのだ。
 短期戦では日本に一時的にも追い込まれるだろうが、長期戦に持ち込めれば経済力で日本に逆転できるとの判断がなされた。

 そういった戦争を望む商人達が、大統領を裏で手を引いていたというのだ。
 ちなみに、幕末に活躍した長崎のトーマス・グラバーも武器商人として来日していた。
 数ある資産家の中でも、その名前を知らぬ者はいないといわれるフィッツジラルド家は、全銀河の経済覇権を実質上握っていた。共和国同盟内はもちろんのこと、銀河帝国との通商貿易の九十五パーセントを独占し、連邦側とも闇貿易で通じていると噂されていた。 
 戦時下においては、最も利益を生み出すのが武器の輸出である。そこに暗躍するのが死の商人と呼ばれる武器輸出業者である。金さえ出してくれれば、敵であろうと誰であろうと一切関知しない。必要なものを必要なだけ調達して、指定の場所へ運んでやる。
 そしてそれらの死の商人達を影で操っているのが、フィッツジラルド家なのである。

 かつて第二次銀河大戦が勃発し、統一銀河帝国からの分離独立のために立ち上がった、トランター地方の豪族の中でも最大財閥として、当時の独立軍に対して率先して最新鋭戦艦の開発援助を行っていたのがフィッツジェラルド家である。

 その総資産は銀河帝国皇室財産をも遥かに凌ぐとも言われており、資本主義経済帝国の帝王と揶揄されている。
 ことあるごとにランドール提督を目の敵としていた、かのチャールズ・ニールセン中将もまた彼らの庇護下にあったのだ。
 政治や軍事には直接介入しないが、実力者を懐柔して裏から支配する。

 そんなフィッツジェラルド家の当主が、アレックスに面会を求めてきた。

 トリスタニア共和国は解放されたものの、銀河にはまだ平和は訪れていない。
 バーナード星系連邦との戦争は継続中である。
 そのためにも、軍備の増強も必要であろう。
 あらたなる戦艦の建造は無論のこと、被弾した艦船の修理には彼らの協力を得なければならないことは明白である。
 武器商人との取引も避けては通れないのである。


「アンジェロ・フィッツジェラルドです」
 と名乗った相手は、恰幅のよい体系の50代半ばの男性だった。
 機動戦艦ミネルバを造った造船所を所有している。
 トランターが連邦軍によって陥落された後には、何の躊躇いもなく総督軍にくみして、ミネルバ級2番・3番艦を建造して、メビウス部隊掃討の手助けをした。
 その時々の権力者に媚びへつらって、財力を蓄えて経済面から支配するということだ。
「アレックス・ランドールです」
 差し障りのない挨拶を返す。
「それにしても……。さすがですなあ。総督軍との戦いぶり、じっくりと鑑賞させていただきましたよ」
 解放軍及び帝国軍混成艦隊と総督軍との戦いは、TV放映を許可していたから、当然共和国でも視聴できたということだ。
 それから、軍事や経済に関わる話題が交わされる。
 二時間が経過した。
「どうも長らくお邪魔致しました。今後ともお付き合いよろしく御願いします」
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2020.11.21 14:31 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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2020.11.21

PC版ホームページからの移行ブログです。
最近はスマホが流行し、今後は主流となると思います。
そこで、スマホでは表示が見にくいPC版を、
こちらへと転載していこうと思います。

第一部はこちらです
第二部後半はこちら

第一章 中立地帯へ 
第二章 デュプロス星系会戦 
第三章 第三皇女 
第四章 皇位継承の証 
第五章 アル・サフリエニ 
第六章 皇室議会 
第七章 反抗作戦始動 
第八章 トランター解放 
第九章 共和国と帝国 IVVI
第十章 反乱 I
第十一章 帝国反乱 
第十二章 海賊討伐 
第十三章 カーター男爵 


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銀河戦記/鳴動編 第一部 第一章 索敵 Ⅲ
2020.11.21

第一章 索敵




「私が指揮する限り、配下の将兵に無駄死にを強要させる愚かな戦闘は避けたい」
 パネルの戦力分析図を凝視しながら呟くように言った。
 その時、索敵機から連絡が入った。
「少尉。マザーグース三号機が敵艦隊を発見しました」
「よし、映像をスクリーンに映せ」
「は、ただいま」
 数秒あってパネルスクリーンに映像が映しだされた。
 パネルスクリーンを凝視するアレックス。明滅する光点は、同盟に対して全戦全勝を続けて無敵艦隊の名を欲しいままにしている第一機動空母部隊の雄姿であった。向かうところ敵なし、ナグモの進軍を止められる軍は同盟には存在しないといっても過言ではないであろう、と噂される強敵である。
 主戦級の主力空母が団子状の塊になっている。その塊にたいして護衛艦がぐるりと取り囲んでいるという変形的な球形陣だ。
「普通、空母一隻を中心にして周囲に護衛艦を配する球形陣をとるのが普通なのにな」
「その分全体としての防御力は厚く強固です。戦艦はおろか戦闘機一機すら中心の空母に接近することすら不可能でしょう」
「そうかな……一端中を割られてしまったらまったくの無防備といってよい」
「そりゃそうですが……」
「少尉。いかがいたしましょう」
 アレックスは冷静に分析を続けていた。
 スクリーンの分析図は二次元の映像として現されている。アレックスは頭の中に三次元宇宙を想定して、そこに敵主力空母と護衛艦との位置関係およびその戦力とを正確な三次元座標に描き直していたのである。膨大な計算がなされて三次元分析図が完成されていく。
 やがて、アレックスは急に立ち上がり、
「見ろ!」
 とパネルを指差した。
「空母と空母の間にはわずかながらも間隙がある。小部隊ならここを通過し攻撃を加えることが可能だ」
「攻撃って、まさか……」
「そのまさかだ。敵のど真ん中にワープアウトして総攻撃を敢行するのだ」
「無茶です。たった十数隻で何ができます」
「玉砕するのが関の山ではないですか……」
「誰が玉砕すると言った」
「ですが」
「我々の目の前に敵艦隊が何も知らないでいるんだ。しかも見たところ艦載機さえも全機出撃させて、防御をすべて護衛艦に委ねているようだ。敵空母の懐に飛び込んで戦いをしかければ、こちらに被害を被ることなく、敵空母だけを撃沈させることも可能だ。敵戦闘機に邪魔されることなく、また護衛艦の攻撃も空母を盾にとって行動すれば無力に等しい」

「しかし、それでは索敵の任務から逸脱しはしませんか」
「ふ。確かに、私に課せられた任務は、索敵だが……敵艦隊と接近遭遇した場合、采配はすべて一任するとの指令も頂いているのだよ」
「准将がそんな指令を?」
「つまり、索敵を続行するもよし、中断して引き返すもよし。しかし、一任されている以上、敵艦隊と一戦交えても可、と判断しても構わないのではないか」
「それは、過剰判断ではありませんか」
「ぐだぐだ、いってんじゃねえよ。一任されている以上、何やろうと勝手なんだよ」
 その時索敵の指揮から戻ってきたゴードンがアレックスに同調した。
「みんなはどう思う?」
 アレックスがオペレーター達の意見を確認した。
「やりましょう! 隊長」
「賛成です」
 オペレーター達から黄色い声が返ってくる。全員一致で賛同だ。何せ全員士官学校同期卒業生で、アレックスの人となりをよく知っているからだ。
「このまま引き返しても友軍の敗走は必至です。下手すりゃ全滅して我々の帰る場所がなくなっているかもしれません。この機会を逃せばそれこそ無敵艦隊の呼称を
みすみす許すことになり、今後ナグモの進撃を止めることは出来なくなるでしょう」
「よし、決定する。我が小隊は敵空母艦隊に総攻撃を敢行する」
 作戦が決定されれば、もはや部下に口出しは無用である。
 小隊の全艦に作戦が伝達され行動は開始された。
「いいか、敵艦隊中心部に突入したら、ありったけの攻撃を加えるんだ。ミサイルの一発たりとも残すんじゃない。全弾を撃ちつくし、全速力で駆け抜け、そしてワープで逃げる」
「了解」
「全艦、ワープ準備だ。艦載機は発進準備のまま待機。いつでも発艦できるようにしておけ」

 フライトデッキでは、戦闘班長ジミー・カーグ准尉から、パイロット達への命令伝達・注意がなされていた。
「いいな、目標は空母だけだぞ。護衛艦は相手にするな。戦闘空域に留まる時間は、ジャスト五分間だ。艦載機は発進後、五分以内に必ず戻ってこい。一秒でも遅れたら、その場に置いてきぼりにするからな」
「まもなく、ワープアウトします」
「往来撃戦用意。艦載機、エンジン始動準備。着艦口が開くと同時に発進せよ」
 アレックスの戦闘指示を受けたオペレーターの声が艦内にこだまする。
「艦載機発進デッキの空気を抜きます。整備員は総員退去してください」
 ノーマルスーツに身を包んだ係留係員や管制誘導員を除いて、平服の整備員達は艦載機から離れて待避所に移りはじめた。フライトデッキから空気が抜かれていく音が次第に小さくなっていく。真空中では音が伝わらないからである。
「ワープアウトです」
 艦内にオペレーターの声が響いた。
 もはや引き返すことのできない状況に突入したのである。
「艦載機、エンジン始動!」
 戦闘機の乗員及びフライトデッキ管制員に対しては、ヘルメット内にある送受機によって無線で指示が伝えられていく。
「よし、着艦口開け!」
「艦載機、全機発進!」
「エドワード編隊は右舷側。アックス編隊は左舷側を攻撃せよ」
「エドワード、了解」
「アックス、了解しました」

 敵空母艦隊のど真ん中にアレックス達の部隊が出現した。
「全艦、砲撃開始」
 アレックスはワープアウトと同時に戦闘開始を命令する。
 全艦から一斉に攻撃が開始される。
 着艦口から次々と艦載機が発進して、回りの空母に取り付き攻撃を加えはじめる。まず戦闘機が敵空母舷側の砲塔を破壊、続いて雷撃機による魚雷攻撃が加えられる。これらはすべて球形陣の内側それも空母を盾とするような最内側で行われていた。護衛艦の射程に入ってしまう外側よりには決して移らなかった。
 艦船も負けずに粒子ビーム砲を敵艦にお見舞いした。真空中を切り裂くような閃光が走り、標的に当たった瞬間そのエネルギーが解放されて敵艦を粉々に破壊した。さらには空母と空母の僅かな間隙を縫うようにミサイルが放たれ、周囲の護衛艦を餌食にした。
 こうなっては護衛艦はまるで役に立たなかった。撃てば司令官の搭乗する旗艦空母を、自らの攻撃で撃沈させることになる。そして唯一攻撃可能な戦闘機は一機も存在しない。 アレックス達は、畳み掛けるように攻撃を繰り返し、周囲の主力空母を次々と破壊していった。

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2020.11.21 13:25 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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