銀河戦記/鳴動編 第一部 第二章 士官学校 Ⅱ
2020.11.26

 第二章 士官学校


II

 時代は、アレックスがまだ士官学校に在籍していた頃に遡る。

 士官学校スベリニアン校舎。
 小高い丘の上にそびえ立つ校舎からゆるゆるとした坂となっている小道。道の両
側にはポプラ並木となっており、そこここの木陰には腰を降ろして本を読んだり、
数人集まって談笑している学生達が、昼休みの短いひとときを過ごしていた。
 そんな中を、一人の女子学生が、人探し風にきょろきょろとあたりを見回しなが
ら、足早に歩いている。やがて探していた人影を見つけたのか、アスファルトの道
から、生け垣を踏み越えて芝生の中へと踏みいっていった。
「やっぱり、こんなところでさばっていたのね!」
 芝生の上で、帽子で顔を覆うようにして仰向けに寝入っていた人物がのっそりと
起き上がった。緑色の瞳を輝かせて来訪者の姿を確認すると、親しげな声でその名
を呼んだ。
「なんだ。ジェシカか」
「なんだ。ジェシカか、じゃないわよ。アレックスったら、また体育教練をさぼっ
たでしょう。どうせどこかで昼寝してるんじゃないかと思っていたけど、やっぱり
だったわね」
「で、わざわざ僕を尋ねてきた理由はなにかな」
「今日、模擬戦の指揮官が発表されるというのは知っているわよね」
「そういえば、今日だったかな。ということは決まったのか、模擬戦の指揮官」
「そうよ。聞いて驚きなさいよ」
「ふうん。驚くようなことなんだ」
「そうよ。誰だと思う?」
 といいながら、アレックスの顔色を伺うジェシカ。
「なんか、意味ありげだな。誰なんだい」
「知りたい?」
 なおもじらすようにすぐに答えないジェシカ。
「知りたいね」
「じゃあ、教えてあげる」
「うん」
「あたしの目の前にいる人よ」
 といってアレックスの顔を刺すように人差し指を突き出すジェシカ。
「目の前って……この僕が?」
「そうよ」
「俺がか。落第すれすれの問題児が」
「ふふふ。驚いたでしょ」
「ああ、驚いたねえ」
「あたしも、発表を聞いた時は信じられなかったわ。でも事実よ」
「そっかあ……で、わざわざ知らせに来てくれたんだ」
「そうよ。その問題児を恋人に抱えているあたしとしては、これを機会に名誉挽回
してもらえるチャンスを逃して欲しくないのよね」
「名誉挽回ねえ」
「わかっているの? 今のままでは、卒業は難しいわよ。卒業できなかったら奨学
金も返さなくちゃいけないし、軍に入っても上等兵からよ」
「きびしいことを言ってくれるねえ」
「現実の問題じゃない。とにかく、校長がお呼びよ」
「校長が?」
「そうよ。模擬戦の話しがあるんじゃないかしら。はやく校長室へいかないと」
「わかった」
「ああ、それから。模擬戦の指揮官の副官として、パトリシア・ウィンザーが任命
されたわ」
「パトリシア?」
「あたしの一年後輩よ」
「君の後輩?」
「そうよ。成績抜群で席次ナンバーワンの秀才よ。きっと、あなたのいい補佐役を
務めてくれるわ」
「わかった」
「さあ、時間がないわ。はやく行きましょう」
 二人は立ち上がると、校舎のある丘への道を連れ立って歩きだした。

 士官学校戦術専攻科三年生のパトリシア・ウィンザーが、校内放送で自分の名前
を呼ばれて校長室を訪れると、主任戦術教官が同席しており、単なる学校用事で呼
ばれただけではないことを瞬時に見抜いていた。模擬戦闘の指揮官の人選について
最終決定権を有している人物であった。
「生徒会の仕事が忙しいところをわざわざ呼び立ててすまないね。まあ、掛けたま
え」
「ところで、主任戦術教官がいらっしゃるところをみますと、模擬戦闘の件でしょう
か」
 パトリシアは応接セットに腰を下ろしながら尋ねた。
「うむ。流石にウィンザー君だ。察しがはやいな。およそ半年後に行われる今度の
模擬戦なのだが、当スベリニアン校舎からも精鋭の人材を選抜して、優勝を目指し
てたいと思っている。君を呼んだからには、もちろん参加してもらいたいのだ」
 パトリシアは、三年生では席次首席という優秀な成績を常に維持していたし、品
行方正で学生自治会役員に推薦で選ばれるほど生徒達からの信望も厚く、教官達か
らも一目置かれている良い子であった。
「ありがとうございます。ですが指揮官はどなたを選ばれたのですか」
「それなんだが、アレックス・ランドールが選ばれた。つい先程、彼にそのことを
伝えたばかりだ」
 主任戦術教官が答えた。
「あの……アレックス・ランドールって、あまり良い噂を聞いたことがありません
が……」
 パトリシアは、噂にきくランドールの怠惰な日常を思い起こしていた。
「そう……。遅刻常習だわ、体育教練は欠課するわ。ろくなことはないんだが」
「そのような方に、このような重要な任務を与えるのですね」
「確かに授業態度は最悪なのだが、君も知っての通り裏の学生自治会長とよばれる
ほど、学生達からは人望厚く、人を集めて行動を起こす時の能力値は高い。なによ
り学科の中では、戦術シュミレーションに関してだけはだんとつのトップだ。その
他の教科の分を埋め合わせてなんとか落第を免れているようだが」
 パトリシアも学生自治会役員であるが、表の学生自治会長であるゴードン・オ
ニールの裏で采配を振るっていることを知っている。采配といっても、文化祭や学
園祭、各種パーティーの主催において、出店などの縄張りや、施設の使用許可など
の事実上の決定権を有していたのである。
 また学期末などに提出される彼の戦術理論レポートは、誰もが考えつかないよう
な独特で、一見実現不可能な作戦でありながら、実際の戦術シュミレーションでは
見事に仮想敵を看破して満点に近い成績を修めているのであった。一度彼とシュミ
レーション対戦したことがあるが、見事な戦術を見せられ完膚なきまでに全滅させ
られてしまった。だからパトリシアも、彼の戦術理論だけは必ず目を通すようにし
ていたし、さらに改良を加えることによって彼女もまた戦術シュミレーションで連
戦連勝を続けていたのである。しかし二番煎じであることは否めなかった。その彼
の副官として実際に模擬戦のメンバーに選ばれることは、彼の戦術理論を肌で感じ
ることのできる最高の機会といえたのである。
「つまり授業の全体的な成績ではなく、彼の戦術能力に賭けるというわけですか」
「その通りだ。ここのところ隣のジャストール校舎に大きく水を開けられているか
らね。ここいらで一矢を報いたいところなのだが、今年の四回生は頼りない奴ばか
りで、致し方なくランドールを選ぶしかなかったのだ」
「致し方なくですか」
「そういうことだ。そこで彼一人では心細いので、君に副官として搭乗してもらい
たくて呼んだのだよ」
「喜んで、搭乗しますわ」
「そうか、そう言ってくれるとありがたい」

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2020.11.26 06:08 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二章 士官学校 I
2020.11.25

第二章 士官学校


I

 アレックスが無敵艦隊とまで言われた第一空母機動艦隊を退けて、トリスタニア
共和国同盟始まって以来の大戦果を挙げたことは、翌日のニュースのトップで大々
的に報じられることとなった。

 旗艦空母四隻を撃沈。五人の提督を葬る。同盟の英雄。
 議会は、勲章を授与することを決定した。
 各新聞、TVは連日で報道を続けていた。

 主力空母四隻を含む連邦軍の艦隊の主要艦艇を多数撃沈させ、ナグモ中将以下多
くの司令官クラスの将軍を葬った功績にたいして、共和国同盟は少佐への三階級特
進と第十七艦隊所属特別遊撃部隊の司令官に任じた。本来なら大佐クラスの評価に
値する功績点を挙げたのであるが、少尉がいきなり大佐に昇進するにはあまりにも
無理があるため、とりあえずは一個部隊を指揮できる少佐の階級にとどめ、艦隊運
用の実務を経験させながら一年期末ごとに自動的に昇進させることとなった。
 これらの決定は、異例のスピードで行われたが、同盟の英雄を称えることで、敗
走を続ける同盟軍の将兵達や国民の士気を高めるためのものであった。

 一方、アレックスの出身校である士官学校スベリニアン校舎では、連日ひっきり
なしに報道取材の記者が訪れていた。アレックスのことを調べようにも士官学校で
たばかりで、他に行くところもなく卒業校のスベリニアンを取材するしかなかった
のである。
 記者達が右往左往する中、生徒会役員のパトリシア・ウィンザーと、彼女をお姉
さまと慕う一年下のフランソワ・クレールは、五階にある生徒会室の窓から下界の
騒々しさを遠巻きに覗いていた。
 パトリシア・ウィンザーは、蒼い瞳と肩甲骨の下あたりまである金髪を有してい
た。前髪を眉のあたりで切りそろえ、耳にかかる髪をピンク色のリボンで軽く後ろ
で束ねて垂らしていた。身長百七十二センチ、バスト八十八、ウェスト六十二セン
チ、ヒップ九十二センチという魅力的な理想的に近いプロポーションをしていた。
そのサイズを知っている人物が二人いる。隣にいるフランソワと、婚約者であるア
レックス・ランドールの二人である。
「お姉さま、聞きましたか。学校側はアレックス先輩を特別表彰することに決定し
たそうですよ」
 フランソワはパトリシアの一年後輩である。女子寮で同室になったのが縁で、お
姉さまと呼ぶほどになついている。身長百六十五センチ、バスト八十五センチ、ウ
ェスト六十一センチ、ヒップ八十八センチと、パトリシアより少し小さい。ウェー
ブのかかった肩までの髪をパトリシアとお揃いのリボンでまとめている。
「らしいわね。在校中は厄介者扱いしていたのにね」
「遅刻常習だし、無断欠課はするし、体育教練はさぼるし、それにお姉さまには手
を出すし」
「これこれ、最後は余計じゃなくて」
「だってえ」
「とにかくわたし達は婚約しているんですからね。わかってるでしょ」
「わかっているから、くやしいんだもの。こんな素敵なお姉さまを横取りしたから」
「でも助かったわ」
「何がですか」
「学校側が、わたしとアレックスのことを秘密にしておいてくれたから」
「お姉さまは優秀ですもの。学校がその脚を引っ張るようなことしないですよ。と
はいっても、TV局のことですもの、根掘り葉掘りいずれ探りだすんじゃないでし
ょうか」
「そうね……」
「でも、正式に婚約しているのですから、知られたって構わないでしょう」

 数日後の士官学校。
 その日の報道陣の多さは最高だった。TVカメラが至る所にずらりと立ち並び、
取材の記者達の数は生徒数をはるかに越えていたと言っても過言ではないほどの盛
況であった。今日は、アレックスの特別表彰の日だったのである。それを実況放映
しようとするTV報道陣が殺到していたのである。英雄の表情を捉える最高の状況
設定であるからだ。
 やがて士官学校スベリニアン校舎の上空を一機の上級士官用舟艇が護衛のジェッ
ト戦闘ヘリ二機を伴って飛来した。一斉にTVカメラが空に向けられ、キャスター
の声が騒がしくなる。
「来た、来たわよ」
 教室中は騒然となった。
「聞いた? アレックス先輩、少佐に任官されたそうよ」
「それで上級士官用舟艇に乗ってきたのね」
「配属希望。アレックス先輩のいる部隊に決めたわ」
 生徒達は口々に噂話しに夢中になっていた。
「全校生徒は講堂へ集合してください」
 館内放送が鳴った。
 校舎のあちらこちらから生徒がぞろぞろと出てきて、教官とともに次々に講堂に
入館していく。

 一方、生徒会役員であるパトリシアとフランソワは校庭の隅にあるヘリポートで、
花束を小脇に抱えて歓迎の用意をしていた。婚約者ということで別の人物にしたほ
うがいいのではないかとの指摘もあったが、生徒達がその事実を知っているものも
少ないだろうということで、交替はなしとなった。
「お姉さま。少佐ということは、どこかの部隊の司令官になるんでしょ」
「第十七艦隊所属の特別遊撃部隊だそうよ」
「そうかあ。じゃあ、あたしが卒業したら配属希望先を、特別遊撃部隊にしようっ
と」
 上級士官用舟艇がゆっくりと下降をはじめ、士官学校の校庭に着陸した。昇降口
が開いてタラップが降ろされ、白色の儀礼用の軍服を着込んだアレックスが姿を見
せた。続いて大尉となったばかりのゴードン・オニールの姿もあり、彼も同校出身というこ
とで同じく呼ばれていたのだ。カメラのフラッシュのまばゆい光が至る所で光ってい
る。
 全校を代表して席次首席のパトリシアが前に進み出て歓迎の花束を贈呈した。
「ようこそいらっしゃいました」
「これはどうも」
 二人とも内心、笑いで吹き出しそうなのをこらえながらも、平然の表情を装って
淡々と花束を受け渡ししていた。フランソワはゴードンに花束を手渡していた。

 講堂内。
 ここにも沢山の報道陣やTVカメラが待ち構えていた。
 緊張する全校生徒達が見守る中、アレックスとゴードンが入館してくる。
「気をつけ! 敬礼!」
 生徒全員がアレックスに対して敬礼で迎えた。
 アレックスは立ち止まって軽く敬礼を返し、講堂の壇上への階段を昇りはじめた。
 壇上中央やや右寄りに配置された椅子に、係りの者に案内されて腰掛ける二人。
「これよりアレックス・ランドール少佐とゴードン・オニール大尉の特別表彰をは
じめます。まずは校長よりお話しがあります。校長どうぞ」
 反対側の席より、指名された当校校長が立ち上がった。
 壇上に立ち、こほんと咳払いをした後に、説教を始める校長。
「諸君もすでに承知かと思うが、こちらにお招きしたお二人は、我が校を去年優秀
な成績で卒業したばかりの……」
「よく言うぜ。在校中は厄介者扱いしていたくせにな」
 講堂内のあちこちから笑いが沸き起こる。
 パトリシアは、一年前のアレックスとの出会いを思い起こしていた。

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2020.11.25 08:03 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第一章 索敵 V
2020.11.24

第一章 索敵




 ナグモの艦隊が奇襲を受けているころ、同盟軍第十七艦隊にとりついている連邦
の艦載機群は、一旦後方に退いて第二次攻撃の体制に入っていた。
 そのさらに後方の安全圏に待機する小型高速艇。艦載機群の指揮艦には、航空参
謀のミノル・ゲンダ中佐が坐乗していた。
「中佐、大変です。我が本隊が敵の空襲を受けています」
「なんだと」
 ゲンダはまさかの報告に、我が耳を疑った。
「アカギ、カガ、ソウリュウ、ヒリュウ他多数の艦艇が撃沈されたもよう」
「アカギが撃沈!? 長官は?」
「どうやら難を逃れて、ナガラに移乗なされたもようです」
「そうか……」
 長官が無事と聞かされて一安心とはいえ、事態は急転直下にあった。
 もしかしたら、別働隊に発見され奇襲の受けたのか。別働隊の存在など報告には
ないが、実際主力空母が撃沈されたことは否めない。果たしてこのまま、作戦を続
行すべきか?
 瞬時に判断はためらわれたが、次の報告がゲンダを動かした。
「敵艦隊の打電を傍受しました」
「なんだ」
「『これより反転して反復攻撃を行う』です」
「これ以上、艦艇を損失してはいかん。一刻も早く戻らねば。全編隊に伝達、撤退
して本隊の援護に向かう」
「了解しました」

 トライトンの旗艦リュンクスでは、敵編隊が退却していくのを確認し、全員小躍
りしながら喜んでいた。
「助かったな。全滅は免れたようだ」
「司令。今のうちに前面の艦隊を叩きましょう。数ではこちらが勝っていますし、
敵艦載機もいない」
「よし、反撃に転じるぞ。艦載機発進。全砲門、前面の艦隊に集中砲火を浴びせろ」
 ようやく艦載機の発進命令が下され、待機していた艦載機は勇躍宇宙空間に踊り
出て、敵艦隊へまっしぐらに突進をはじめた。まるでそれまでの鬱憤をはらすかの
ような、猛攻撃を敵艦隊に浴びせはじめた。
 前面の艦隊は自身の艦載機の護衛に守られていたとはいえ、同盟軍の圧倒的多数
の艦載機群の到来には太刀打ちできなかった。やがて身ぐるみはがされて無防備を
さらすことになった敵艦隊はたまらず退却を始めたのであった。
「敵艦隊、撤退をはじめました」
 フランクはスクリーンを指差しながら叫んだ時、一斉に艦橋の士官達は歓声をあ
げた。それがあまりにも騒がしくて、フランク自身がそれを鎮圧するはめになった。
興奮がおさまるのを待つようにトライトンは言った。
「深追いの必要はないぞ。みな、よくやってくれた」
「一体何があったというのでしょうか。完全に敵は勝っていたというのに」
「わからんが……おい。もう一度ランドール少尉の通信内容を」
 戦闘がはじまって小一時間ほどして通信士が傍受したアレックスからの打電され
た通信が気になっていたからだ。
 通信士は艦の戦闘記録から該当の通信内容を再生してみせた。
『これより、敵空母艦隊に奇襲攻撃を敢行する』
『これより、反転して反復攻撃を行う』
 どちらも間違いなくアレックスの編隊からの打電であることを通信士は確認して
いた。しかも後の文はまるで敵に傍受させるのが目的のように、第一宇宙国際通信
波帯を使用していた。それは救難信号や降伏勧告・受諾用の通信波帯として統一使
用されているものである。
「うーむ。敵の撤退とこの通信の内容から考えられることは」
「まさか……たった十数隻で……」

 時間を遡ること一時間前、ヨークタウン上ではフレージャー提督が、ナグモの編
隊が急に退却をはじめるを目の当たりにして、怒りをあらわにしながら全艦に撤退
命令を下しているところだった。もちろんそれを進言したのはスティールであった。
 今回の作戦は、ナグモ達が制空権を確保しながら攻撃を加え、フレージャー達が
艦砲射撃によってとどめを刺す計画であった。そのナグモ達なしには作戦は継続で
きない。戦艦の数では敵の方が勝っているのだから。
「なぜだ。第二波の攻撃を開始すれば、敵を完全に看破できただろうに」
「助っ人に全面的に頼る作戦にはやはり無理があるのでしょう。自分達の都合だけ
で作戦を放棄して退却されたのではたまりませんよ。下手すりゃ、こっちにが全滅
していたかも知れません。すみやかな撤退はやむを得ない決断、さすが提督です」
「負け戦を誉められても少しもおもしろくないぞ」
「しかし被害を最低限に食い止めたのですし、敵本隊にかなりの損害を与えたとい
うことで、ここはよしとしなければ」

 その頃、ヒリュウが撃沈するを見届けて撤退の道を選んだ第一航宙艦隊、その首
席参謀タモツ・オオイシ中佐は、退艦時に怪我を負って入院した参謀長リュウノス
ケ・クサカ少将のベッドを訪れることにした。
「我々は責任をとって自決すべきではないでしょうか。これは幕僚一同一致した意
見として、参謀長どのから長官に善処を勧告されたく、ご同意願いたくて参上いた
しました」
 オオイシは参謀長が同意するのではないかと意見具申したのであるが、意外にも
クサカの口から出たのは叱責の言葉であった。
「今は自決など考える時期ではない。第一航宙艦隊の任務は、生き永らえて戦い、
きたるべき戦闘に勝利することである」
 果たせるかなそれは、第二航宙艦隊司令のヤマグチ少将が残した言葉に相違なか
った。
 しかしオオイシが不服げな言葉を漏らすと、
「馬鹿野郎!」
 と怒鳴って一喝した。
 オオイシが退出したあと、クサカはベッドを降りて、従卒に抱えられながらも幕
僚連中の集まっている所へいき、自決を思いとどまるように諭した後に、ナグモ長
官の居室へ向かった。
 ナグモはナガラの艦長室をあてがわれ、一人きりでいた。
 クサカの入室に気がついたナグモは微かに笑ってはいたものの、異様な眼光に輝
いていた。
「長官は死ぬ気だな」
 クサカは直感した。
 そして幕僚達との一件を包み隠さず報告すると、自分は死して責任を取ることよ
りも、敗戦の恥じを堪え忍びつつも、将来のために生きつづけるほうがより勇気あ
る行動ではないかと思う、とナグモに言い聞かせた。
「そうは思いませんか、長官」
「わかった。万事君にまかせる」
 ナグモは喉を詰まらせながらも説得をつづけるクサカに、涙を両目にためながら
静かにうなずいたのであった。

 アレックスが旗艦に帰投すると、トライトン准将自ら出迎えに来ていた。
「ただいま、もどりました」
「ご苦労だった。君の口から直接報告を聞きたいところだが、見たところ相当疲れ
ているようだな。報告書を提出して、とりあえずはゆっくり休みたまえ」
「はっ、では。お言葉に甘えまして」
 アレックスは敬礼をして自室に戻った。ベッドに入るとそのまま死んだように眠
ってしまった。過度の緊張から解放されて……。
 戦闘中は、極度の緊張から眠気を催す暇もないが、その呪縛から解放された時、
それまでの疲れが怒濤のように押し寄せてきたのである。

 トライトン准将の元には、アレックスの戦闘日誌と彼の乗艦していた艦に搭載さ
れているコンピューターの戦闘記録が解読されて報告された。その内容とアレック
ス自らの戦闘日誌とが照合されて、敵艦隊にたいする戦果が判明することとなった。
 アカギ・ヒリュウ・ソウリュウ・カガの主戦級主力空母を撃沈、重巡モガミ・ミ
スミ沈没、その他多くの艦船に被害を与える。
「大戦果じゃないか」
 報告を聞いたトライトン准将は小躍りしそうになった。まさか索敵に出した十数
隻の艦隊だけで、これだけの戦果をあげようなどとは誰が想像できただろうか。
「敵が撤退をしたのもうなづけますね」
「そうだな……」
「敵艦隊はミッドウェイ宙域より完全に撤退したもようです」
「主力旗艦空母四隻を失ったんだ。おそらく多くの司令官も失っていることだろう。
撤退も止むをえんだろうさ。これで連邦の同盟侵攻も半年から一年は延びることに
なるだろう」

第一章 了

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2020.11.24 03:43 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第一章 索敵 Ⅳ
2020.11.23

第一章 索敵




 連邦軍第一空母機動艦隊旗艦アカギの艦橋は、突然の敵編隊の出現で騒然となっていた。
「な、なんだ。どうした」
 チュウイチ・ナグモ司令長官は、いまだ事態を飲み込めていなかった。
「攻撃です。敵から攻撃を受けております」
 アカギの艦隊参謀長リュウノスケ・クサカ少将が状況を説明した。
「攻撃を受けているだと!?」
 なおも信じられないという表情でクサカを叱責した。
「護衛艦は何していたんだ」
「そ、それが。突然現れまして」
「応戦しろ!」
「はっ」
「迎撃の艦載機はいないのか」
「そ、それが全機敵艦隊攻撃で発進中です」
 その瞬間、艦橋の目の前に爆撃機が現れた。
「伏せろ!」
 全員が床に伏せると同時に爆風が吹き荒れた。
 轟音と震動が艦内を揺るがし、艦橋は無残にも破壊された。隔壁が損傷し、風穴があいて、すさまじい勢いで空気が流出する。その勢いに流されて数人の兵士が風穴から真空の宇宙へと吸い込まれて消えていった。
「ぼ、防御シャッター、降下!」
 薄れていく艦内空気と暴風に、喉を詰まらせながら機器を操作して、緊急装置を作動させるオペレーター。
 一瞬にして緊急防御シャッターが降りて、空気の流出も止まり、徐々に平静を取り戻しつつある艦内。
「大丈夫ですか。長官」
 息、咳き込みながら、参謀の一人が長官の側によって安否をきずかった。
「あ、ああ……何とか無事なようだ。他の者はどうか」
「数名の者が、投げ出されたもようですが、艦橋は無事に機能しているようです」
「そうか……」
 長官を助け起こすアカギ艦長のタイジロウ・アオキ大佐。

「アカギの損傷状況をすぐさま調べよ」
「かしこまりました」
 アオキ大佐は、自分の部下にたいして命令を下した。
「やられましたね。長官」
「そうだな。まさか、たかだが十数隻だけで、敵中の懐の内に飛び込んで来るなどとは、誰も思いつきもしないだろう」
「しかし、実に効果的です。迎撃しようにも、戦闘機は出払っているし、こんな至近距離での艦砲射撃は、同士討ちとなるのが関の山、敵の思う壺にはまります」

 やがて下士官から、アカギの損害状況が報告されてきた。
「艦載機発進デッキ及び格納庫に爆弾が命中、回りは火の海となりもはや使用不能となりました。誘爆により機関部も延焼中です。もはやアカギは退艦やむなしの状況であります」
「退艦だと」
 クサカ少将は艦長の意見に同意して長官に進言した。
「長官、ご決断を。ヒリュウはまだ健在であります。我々はヒリュウある限り戦いつづけねばなりません」
 クサカ少将が指差すパネルスクリーンには、艦載機に取り巻かれながらも奮戦する空母ヒリュウの姿があった。
 アカギの艦長、タイジロウ・アオキ大佐も同意見であり、口をそえるように進言する。
「長官。どうか将旗を移して指揮をおとりください。アカギはこのアオキが責任を持って善処いたします」
 参謀達の進言にわなわなと拳を震わせながらも、ナグモは承諾するしかなかった。
「わかった……退艦しよう」
「ナガラに命じて、駆逐艦ノワケをご用意いたしました」

 だが、幕僚達が最後の望みとしたヒリュウも、アレックス達の猛火を浴びていた。
 その艦橋から、艦体が爆煙を上げながら炎上している様が、スクリーンを通して手に取るように観察されていた。
 第二航宙艦隊司令官、タモン・ヤマグチ少将はこの時すでに決断を下していた。
「残念ながら、ヒリュウの命運もこれまでと思います。総員退去はやむをえません」
 ヒリュウ艦長トメオ・カク大佐が承諾を求めた時、少しも騒がずに長官の安否を尋ねた。
「長官はどうなされた」
「はい。無事軽巡ナガラに」
「よし」
 そしてマイクをとって、全艦に訣別の訓示を垂れたのである。
「諸君、ありがとう。ヒリュウは見てわかるとおり母港に帰還するだけの力はすでにない。艦長と自分は、ヒリュウとともに沈んで責任をとる。戦争はこれからだ。皆は生き残ってより強い艦隊を作ってもらいたい」
 その言葉を受けて、ヒリュウでは総員退艦の準備がはじまった。負傷兵、搭乗兵、艦内勤務者の順で次々と退艦をはじめていく。
 第二航宙艦隊の首席参謀であったセイロク・イトウ中佐がヤマグチ少将に近寄った。
「司令官」
 その声に振り向くヤマグチ。
「おお、イトウ君か。君もはやく退艦したまえ」
「何か頂けるものはありませんか」
「そうか……では、これでも家族に届けてもらおうか」
 ヤマグチはかぶっていた黒い戦闘帽子をイトウ中佐に手渡した。
「誓って、必ずご家族にお渡しいたします」
「うむ。よろしく、たのむ。ところでそれをくれないか」
 ヤマグチはイトウ中佐が腰に下げていた手拭いを指差した。
 イトウはヤマグチの意図を察知して、手拭いを渡したあと最敬礼をして踵を返して退艦するため元来た通路へ引き返した。
 爆音は続いている。
 ヤマグチは手拭いを使って艦のでっぱりに身体を縛り付けはじめた。
 やがて友軍の手によってヒリュウは処分されるだろうが、爆発によって艦の外に弾き飛ばされることを懸念したのである。ヤマト民族の誇りとして、ヒリュウとともにありたいと思うヤマグチの軍人としての心意気の在り方であった。

 第十戦隊の旗艦である軽巡ナガラには、司令官ススム・キムラ少将が乗艦していた。将旗をこのナガラに移したナグモは、彼を捕まえて尋ねた。
「キムラ。このナガラでアカギを引っ張れんか」
「現在のアカギの状況からみて、残念ながら曳航できないと判断せざるをえません」
「そうか……」

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2020.11.23 13:48 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第九章 共和国と帝国 Ⅸ
2020.11.22

第九章 共和国と帝国


IX 援軍現る


 一方、敵艦隊側では一騒動が起きていた。
「後方に艦隊出現!」
「なに?どこの艦隊だ!」
「確認中です!」
「ほ、砲撃してきました!」
「敵艦隊です」
「共和国同盟です。艦数およそ二千隻」
 うろたえる艦橋の乗員たち。
 正面スクリーンに映し出される敵艦隊の映像の中に見出したるもの。
「あ、あれは!!」
 共和国同盟艦隊の中にひときわ目立つ彩色の図柄の入った艦があった。
「さ、サラマンダーです!!」
 艦体に火の精霊を配する艦は、宇宙にただ一つ。
 ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式、バーナード星系連邦を震撼させるシンボルを持つ、
共和国同盟軍旗艦「サラマンダー」である。
「何故、やつらがここにいる?確かタルシエン要塞に向かったのではなかったのか?」
「偽情報を掴まされたようです」
「ただでさえ強敵なのに、こちらの三倍の数、しかも背後を取られてしまいました」


 その頃、当のサラマンダーでは。
「強襲艦、突撃開始せよ!」
 白兵部隊が搭乗する強襲艦が、敵艦隊旗艦に向かって数隻突撃開始した。
「自爆されるまえに、艦橋を押さえるのです」
 指揮を執るのは、旗艦の全権を任されたスザンナ・ベンソン少佐である。

 敵旗艦に取り付いた強襲艦は、すべての出入り口をこじ開けて中へと侵入した。
 艦内にいる兵士達との撃ち合いがはじまる。
 しかし白兵用の特殊装甲を着込んでいる相手には、連邦の持つブラスターでは歯が立た
ない。
 次々と打ち倒される連邦兵士。
「艦橋に急げ!自爆されるぞ」
 入手した艦内見取り図を見ながら着実に艦橋へとたどり着く。
 艦橋になだれ込む白兵部隊。
 バタバタと倒されてゆく、艦橋の兵士達。
 指揮官と思われる士官が取り押さえられる。
「指揮官を確保しました!」
「連れていけ!」
「はっ!」
 強襲艦へと連行される指揮官だった。
「自爆スイッチは入っていないか?」
 艦橋内にある計器をしらべる兵士。
「大丈夫です。入ってません」
「よし!通信機を調べて、記録媒体を抜き取れ!」
「分かりました」
 通信記録は、当然暗号化されているだろうから、媒体を持ちかえって暗号解読機にかけ
るのである。
「通信記録媒体を抜き取りました」
「よおし!総員退去せよ」
 元来た道をたどって、自艦に戻る白兵達。
「総員退去完了しました!」
「離艦せよ!」
 敵旗艦から離れる強襲艦。

 サラマンダー艦橋。
「作戦部隊より報告あり。任務完了!成功です」
「よろしい!強襲艦が十分離れた所で、敵艦を撃沈させる」
 宇宙空間では、すでに戦闘は終了していた。
 六百隻対二千隻では、まともな抵抗は出来るはずがなかった。
 海賊行為は国際法違反である。
 彼らは連邦のあぶれ者であり帰る場所はない。
 全艦が白旗を上げることなく自沈を選んだ。

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2020.11.22 14:47 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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