銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十三章 新提督誕生 Ⅰ
2021.05.03

第二十三章 新提督誕生




 シャイニング基地通信室。
 暗がりの中、壁面に並ぶパネルスクリーンに一人一人の審議官が映し出されている。
 部屋の中央に一人、直立不動でいるのはアレックスであった。
「……それでは、先の軍法会議にて裁定された通りに、貴官に少将の官位を与え、第八師団タルシエン要塞司令官、並びにシャイニング基地、カラカス基地、クリーグ基地を統括するアル・サフリエニ方面軍司令官に任ずる」
「はっ! ありがとうございます。謹んでお受けいたします」
「なお、タルシエン要塞においてはフランク・ガードナー少将率いる第五師団の司令部を併設することとする」
「了解しました」
「また貴官の昇進に際し、第十七艦隊の後任として貴下の武将の准将への昇進と艦隊司令官の任官を承認するものとする」
「ありがとうございます」
「なおいっそうの精進を期待したい。以上である。ご苦労であった」
 パネルスクリーンが一斉に閉じて真っ暗になった。
「提督、おめでとうございます」
 部屋の照明が灯されて、パトリシアとジェシカが歩み寄ってくる。
「ありがとう」
 部屋を出る三人。
 通路を歩きながら質問するアレックス。
「これでやっと自由の身ですね」
「ああ、そうだな」
 これまでのアレックスは、軍法会議の審議預かりの身だった。
 第十七艦隊司令官という地位はすでに解任されており、タルシエン要塞攻略のために仮に与えられていたのである。
「タルシエン要塞はどうなっているか」
「ケースン中佐、コズミック少佐、そしてジュビロ・カービン……さんでしたっけ? その三人でシステムのチェックを行っています。あれだけ巨大な要塞ですから、コンピューターシステムを総取替えするわけにもいかず、そのまま利用させてもらうしかありません。現在、コンピューターなどの使用マニュアル作成や、ウィルスが潜んでいないかとか日夜不眠不休で取り組んでおります」
「またレイティーのぼやきを聞かされそうだな」
「でもちゃんとやってますよ。ぶつくさ言ってますけど」
「しかし、ジュビロさんのことですが……。民間人に軍のコンピューターをいじらせても大丈夫なのでしょうか?」
「最高軍事機密ということか?」
「はい……」
「確かにそうかも知れないがね。仮にジュビロを引き離したところで……いや、何でもない。協力してもらえるのならそれでいいじゃないか。責任は私が取る」
 そう……。
 闇の帝王とさえ言われる天才ハッカーに掛かれば、要塞のシステムに介入することなど容易いだろう。いずれ要塞のコンピューターは本星の軍事コンピューターネットに接続されることになる。つまりジュビロを隔離しても無駄なことだ。
「提督がそうおっしゃられるのなら構いませんが」
「何にしても、あれだけ巨大なシステムだ。一人でも多くのシステムエンジニアが必要だ」
「それはそうですけどね」


 基地の食堂。
 昼休み時間、多くの将兵が食事を取っている。
 話題は、もちろんタルシエン要塞陥落についてである。
「とうとう要塞を落として、連邦にも逆侵攻できるようになったというわけだな」
「そう簡単にいかないさ。タルシエンの橋の片側を押さえただけじゃないか。もう片側の出口も押さえないと侵攻は無理だよ」
「それにしても、うちの提督はすごいよな。誰も成しえなかったあの要塞の攻略を、ほんの数日で成し遂げちゃうんだもんな」
「だってよお、士官学校の時からずっと作戦を練っていたっていうじゃないか。当然じゃないのか?」
「作戦立案者のレイチェル・ウィング少佐とパトリシア・ウィンザー少佐は、二階級特進らしいぜ」
「つうことは大佐か?」
「一体、大佐は何人になるんだ? ディープス・ロイド中佐も大佐昇進が内定してるんだぜ」
「多すぎることはないだろう。何せタルシエン要塞というものがあるんだ。要塞司令官とか、駐留艦隊司令官とか、いくらでもポストはあるだろう」
「なあ、第十七艦隊だけどさあ。次期司令官は誰だと思う?」
「ううん、どうなんだろうね」
「現在、司令官は空位なんだろ?」
「ああ、軍法会議でランドール提督は司令官の地位を剥奪されたらしいからな」
「やっぱり、艦隊司令官となれば俺達のオニール大佐だな」
「当然だな」
 頷く隊員達。
「おい、おまえら!」
 食事をしていた隊員たちを取り囲むようにして、別の一団が立っていた。
 仁王立ちと言ったほうがいいだろう。
「今言ったことを、もう一度言ってみろ」
「はん? 何だおまえら」
「こいつら、チェスター大佐配下の連中だぜ」
「ああ、副司令官のか」
「聞こえなかったのか。先ほど言ったこともう一度言え!」
「何をすごんでるんだよ。ああ、言ってやるぜ。次ぎの艦隊司令官はゴードン・オニール大佐だよ」
「その、根拠はなんだ?」
「知らないのか、退役間近な大佐はいかに功績を上げて昇進点に達していても、将軍にはなれないんだよ。勇退して後進に道を譲ることになってんだよ。慣例だよ」
「そうそう。たとえ司令官になっても、すぐまた退役じゃしようがないだろ」
「つまり、俺達のオニール大佐が司令官になるに決まってるってこと」
「ふざけるな!」
「まだ発表もされていないのに、勝手に決めるんじゃねえ」
「だから、決まってるも同然だと、言ってるんだよ。馬鹿か」
「なんだと!」
 ついに口喧嘩から殴り合いにまで進展してしまう。
「やれやれ!」
 野次馬達が囃し立て、喧嘩がやりやすいようにテーブルを片付けていく。
「どっちも負けるなよ」


 食堂に入ってくるアレックス達。
「何だ、これは?」
 食堂内で起こっている騒動に目を丸くしている。
「喧嘩ですね」
 中央部で幾人かの隊員がくんずほずれつの喧嘩を続け、周りの者がはやし立てていた。
「みんな元気だな」
「何言ってんですか、提督! 喧嘩を止めないのですか?」
「いいじゃないか、やらせておけよ。途中で止めたほうが後々しこりが残るものさ。さあ、こっちは食事をしようじゃないか」
 と言いながら、喧嘩には見向きもせずに、背を向けて配膳台の方へと歩いていく。
「今日も料理長お勧め料理ですか?」
「ああ、時間がないのでね」
 いつもはメニューを見ながらゆったりと食事をするのだが、タルシエン要塞のことで目が回るほどの忙しさだったのである。造り置きされてあるお勧め料理なら、待たされることなくすぐに食べられる。
 騒動の中にあってアレックスに気が付いた者がいた。
 会議に遅刻して便所掃除を言いつけられた、あのアンドリュー・レイモンド曹長だった。
「全員、気をつけ!」
 食堂の隅々に届くような、大声を張り上げる曹長。
 喧嘩していた者達も、思わず静止して声のした方に振り向いている。
「て、提督?」
 全員がアレックスの姿に気が付いて動きを止め、一斉に敬礼を施した。
「何だ……。止めたのか」
 しようがない……といった表情で、膳をテーブルに置き、席に着くアレックス。
 レイモンド曹長が、アレックスの前にやってくる。
「提督」
「喧嘩していた者を、前に並ばせろ」
「はっ!」
 敬礼して、喧嘩していた者達のそばに駆け寄る曹長。
 その間に別の隊員が、アレックスの前にあるテーブルをどかせていた。
「おまえら、提督の前に整列しろ」
 立ち上がってアレックスの前に整列する隊員。
 怪我して立てない者には肩を貸して立たせている。
「悪いな、忙しい身でね。食事を取りながらにさせてもらうよ」
「お食事を取りながらでも結構です。どうぞ、ご質問を」
 誰しもがアレックスの超常的な忙しさを理解していた。
 じきに戦闘だという時に、「昼寝する」と言って部屋に戻ったこともある。食べられる時に食べ、眠れるときに眠る。そんなアレックスを、誰も責めることも邪魔をすることもしなかった。
「うん……おお、これ旨いな」
「提督!」
 皆が緊張して、アレックスの言葉に耳を傾けている。この場を和ませる、冗談ともとれる発言は通じないようだった。
「外したか……。ジェシカ、頼む」
「なんで、わたしが?」
「君が一番の適任者だからな。こういうのは得意だろ」
「もう……」
 ぶつぶつ言いながらも整列している乗員の前に歩み出るジェシカ。
「それで、喧嘩の原因は何ですか?」
「はっ! 第十七艦隊の次期司令官は誰かと言うことでした」
「なるほど……。つまり、チェスター大佐かオニール大佐かということですね」
「その通りです」
「で、殴り合いの喧嘩になったってわけですか」
「はい」
「次期司令官を決めるのは提督です。将兵達の全員に公平に昇進の機会を与え、士気の低下とならないように心砕いています。それをないがしろにして勝手な判断をし、士気の混乱を招く喧嘩をするというのは、提督に対する冒涜以外の何ものでもないと思いますが、違いますか?」
 言葉に詰まる将兵達。
 一言一言がその胸をえぐった。
「喧嘩をするほど力が有り余っているのなら、その情熱をもっと前向きな力となるように努力し、艦隊の糧となるようにしないのですか?」
 そして周囲を見回しながら、
「喧嘩を眺めていた他の人たちも同罪です。なぜ止めなかったのですか? あまつさえ喧嘩をあおるような言動をするなどは、同じ艦隊に所属する者として情けない限りです。提督を慕い、提督の下に集った仲間じゃなかったのですか? 何度も死にそうになった局面を共に戦い、切り抜けてきた同じ第十七艦隊の同士じゃなかったのですか? 一人一人が提督の言葉を信じ、共に生きるために心を一つに結束しなければ、素晴らしい明日はやってこないのです」
 静まり返っていた。
 誰しもが、その言葉に意味する熱い思いを理解していた。
「その辺でいいだろう。ありがとう、ジェシカ」
 食事を終えて立ち上がるアレックス。
「レイモンド曹長」
「はいっ!」
「後のことは、君に任せる」
「私がですか?」
「そうだ。騒動を起こした者には罰を与えねばならない。君の思うとおりに処罰したまえ。便所掃除でも何でもいいぞ」
 くすくすという笑い声が聞こえた。
「提督……」
 赤くなるレイモンド。
「その前に、医務室で治療を受けさせたまえ。以上だ、全員解散しろ」
 そう言うなり、膳を持ち上げて回収台の方へ歩いていく。
「総員、提督に対し敬礼!」
 一斉の敬礼を受けながら、食堂を退室していくアレックス。
「おらおら、聞いたとおりだ。さっさと医務室へ行きやがれ」
 喧嘩をしていた者の尻を引っ叩くようにして、移動を促すレイモンド。

 食堂を出て通路を歩くアレックス達。
「君達、食事はいいのかね?」
「血を流していた者もいましたからね。食欲が湧きませんし、あの状態で食事はできませんよ」
「そうか……自分だけ食事して、済まなかったね」
「いえ」
「何にしても早急に、次期艦隊司令官を選定しないと、他の艦でも同様の事態が起きるのは、避けられないだろうな」
「そうかも知れませんね」
「難しい問題だよ。これは……」
「提督……」
 アレックスが今なお、次期艦隊司令官の選出に苦慮していることを知っているパトリシアとジェシカだった。
 アレックスが抱えている最大の問題。隊員同士が喧嘩をするほどの次期艦隊司令官選出は、早急に解決しなければならなかった。

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2021.05.03 13:13 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十二章 要塞潜入! Ⅲ
2021.05.02

第二十二章 要塞潜入!




 アレックス達が要塞潜入に成功し中央制御コンピューターに取り掛かっていた頃、ゴードン率いる第六突撃強襲艦部隊は、要塞の索敵レーダー圏外で、出撃のチャンスを窺っていた。
「提督が潜入してどれくらい経つか?」
 準旗艦ウィンディーネ艦橋から、P-300VX特務哨戒艇より送られてくる、要塞の全景を見つめるゴードン。
「およそ三十分です」
「そうか……」
 潜入成功を知らせる『赤い翼は舞い降りた』を受電し、配下の部隊に突撃準備をさせて待機していた。
 ゴードン配下の部隊の任務は、潜入部隊が北極及び南極のドッグベイを開くと同時に、要塞内に突入して内郭軍港や反物質転換炉を押さえ、さらに中殻居住区にある中央コントロールルームなどの主要施設を制圧することだった。
 要塞攻略の主任務部隊となるわけであるが、北・南極が解放されなければ成す術もなかった。
「作戦待機時間は二時間だ。それまでに成功してもらわないとな」
 潜入から二時間以上を経過した時には、第六突撃強襲艦部隊を含めて、第十七艦隊は要塞攻略を断念し撤収する命令を受けていた。
 いつまでも何もしないで要塞の外で待機しているわけにはいかないのだ。いずれ要塞内に潜入したことが発覚し、手を打たれてしまう。
 潜入部隊が密かに行動できるタイムリミットが二時間とされたわけである。
「しかし提督を残して撤収などできませんよ」
「だからといって、艦隊をみすみす全滅に追いやることもできないだろう」
「それはそうですが……」
「捕虜交換で戻ってこれる可能性もあるしな。こちらには先のシャイニング防衛の際に捕虜にした、敵の大将のキンケルがいる。准将と大将との交換だ。相手も応じるかも知れないだろう」
「問題は、こちらがわの軍部の反応ですよ。果たして提督を助けますかね」
「また、軍法会議の時みたいにTVを利用するか?」
「そうそう何度も同じ手が使えるとは」
「何にせよ。参謀長殿がいい手を考えてくれるさ。或いは捕虜になった時の救出作戦のことも、とっくに手を打ってるかも知れないしな」

 旗艦サラマンダーにおいても、アレックスの無事と作戦成功を祈っていた。
 時を刻む時計表示だけがむなしく進んでいく。
 やがて一人のオペレーターが声を上げた。 
「大佐! 北極が開いていきます!」
 オペレーター達が一斉に声を出した方へ振り向いた。
「やったか!」
 スクリーンを凝視するカインズ。
「続いて南極も開いていきます」
 両極を閉じている分厚い装甲ハッチがゆっくりと開いていく。
「提督が両極を開け放したんですね」
「ああ、そうだとも」
 パトリシアの方に見直るカインズ。
 両手を合わせて唇に指先を当てて涙を流していた。
 感激の余りに言葉に詰まり、指令を出せないでいる。
 その気持ちが痛いほどに判るカインズだった。
「第六突撃強襲艦部隊が突撃を開始しました!」
 勇躍、要塞に向けて進撃を開始する第六突撃強襲艦部隊がスクリーンに大写しにされる。
「よおし! 全艦、攻撃開始だ! 第六部隊を援護する」
 パトリシアの指示を待つことなく、自らの判断で命令を下し始めた。
 全艦一斉に砲撃を開始する第十七艦隊。
 これまでの鬱憤を晴らすかのような猛攻撃である。
「フランドル少佐に連絡」
 スクリーンにジェシカが出る。
「艦載機への補給状態は?」
『すでに完了して、全機発進させました。もうじきそっちに到着するはずです』
「さすが航空参謀ですな。手際が良いですね」
『一刻一秒を争いますからね。艦載機を遊ばせておくわけにはいかないでしょう』
「なるほどね。ああ、今到着したようだ」
 スクリーンに敵守備艦隊への攻撃を開始した艦載機群が映し出されている。
『それでは、要塞の中で再会しましょう』
「判った」
 通信が切れて、北南極へ突入していく第六部隊の映像に切り替わった。
「要塞の中で会いましょうか……」
 ジェシカの言葉が確実性を帯びてきたことを認識するカインズだった。
 パトリシアは後部座席に腰を降ろしたまま、フランソワに介抱されるようにただ黙って俯いていた。
「所詮、愛する人に心砕くごく普通の女性と言うことだ……。これまでの緊張が一気に解き放たれたというところだな」
 神のような提督に比べれば、なんと人間性のあることか。返って親しみが湧いてくる。
「後のことは任せて、そこでゆっくり休んでいてくれたまえ」
 提督やウィンザー少佐、そしてウィング少佐らによって、綿密に精緻に組み敷かれた作戦というレールの上に置かれた機関車の発射ベルは鳴った。後は時刻表通りに突き進むだけだ。
 作戦立案者の手を離れ、実行部隊の指揮官に委ねられている。
「守備艦隊を足止めする。軍港に入港させるなよ。全艦突撃開始」
 これまで囮役として敵の注意を引き付けていたが、勇躍敵艦隊に向けて進撃を開始した。
 守備艦隊を要塞内に入れるわけにはいかないからだ。


 要塞内、中央コントロール。
「誰が、軍港を開放した!」
「判りません。勝手に開いてしまいました」
「そんな馬鹿なことがあってたまるか」
「敵艦隊が軍港に侵入してきます」
「駐留艦隊に迎撃させろ!」
「だめです。駐留艦隊は、休息待機でほとんどの兵士が降りています。動かせません」
 スクリーン上には、軍港に接舷した強襲艦から怒涛のように白兵の戦士達が飛び出してくる映像が映し出されていた。
「要塞内の警備隊に侵入する奴らを撃退させろ」
「そ、それが外部との連絡が取れません!」
「なんだと?」
「軍港に通ずる遮蔽壁も作動しません」
「システムが……システムが乗っ取られています」
「乗っ取りだと?」
「おそらく中央制御コンピューターに何者かが侵入して操作しているものと思われます」
「何てことだ! さてはあの時に侵入したのか!」
 第二弾の次元誘導ミサイルが隔壁を破砕した時のことを思い出したのだ。
「あの不発弾の中に潜んでいたのか……」
 地団太踏んでくやしがる司令官。
「こうなったら要塞を自爆させる」
「無駄ですよ。システムが乗っ取られているんですから」
「やってみなけりゃ、判らないだろう」
 胸ポケットから鍵を取り出す司令官。
 それを自爆用のシステム起動装置に差し込んで、自爆コードを入力する。
「どうだ?」
 鍵をゆっくりと回すと、正面スクリーンにカウントダウンの数字が表記された。
「自爆コードが入力されました。これより60秒後に自爆します」
 コンピュータの合成音が発声される。
「59・58・57……」
「み、見ろ。やってみなけりゃ判らんといっただろう」
「43・42……」
 カウントダウンが続いている。
 息を呑んでそれを見守るオペレーター達。
 誰も動かなかった。
 所詮60秒では逃げ出せないと判っているからである。
「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1」
 大半のオペレーターが目を瞑った。

 しかし、何も起きなかった。

 爆発どころか、コンピューターも静かになっている。
「どうしたというんだ……」
 ほっと胸を撫で下ろすオペレーター。
 遮蔽壁が開いて、白兵の戦士達がどっとなだれ込んできたのはその直後だった。
「全員、手を挙げろ!」
「席を離れて壁際に並ぶんだ」
 銃を構えられ、仕方なく手を挙げ席を離れて、壁際に移動するオペレーター達。
 やがてゆっくりとゴードンが入室してくる。
「要塞は、すでに我々の手に堕ちた。あきらめたまえ」
 肩をがっくりと落とす司令官。

 タルシエン要塞陥落の報が、全世界に流されたのは、それから二時間後だった。

第二十二章 了

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2021.05.02 07:25 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十二章 要塞潜入! Ⅱ
2021.04.30

第二十二章 要塞潜入!




 ジュビロから声が挙がった。
「よし! 侵入した。成功だ」
 ものの数分でコンピューターの侵入に成功するジュビロ。
「さすがだな」
「俺を誰だと思っている」
 憤慨気味のジュビロ。
「まあな……。レイティ、端末を操作して見てくれ。そうだな……要塞のブロック図を出してみてくれないか」
「OK。要塞のブロック図ですね……ちょっと待ってください」
 レイティは操作パネルをいじりはじめた。
「間違っても警報システムは作動させるなよ」
「いやだなあ、提督。僕達を誰だと思ってるんですか、コンピューターのシステム管理者と天才ハッカーですよ。システムなんてのは日常茶飯事で取り組んでいるんです。操作パネルのデザインを見ただけでもおよそのことはわかります」
「そ、そうか」
「よし、こいつだな……」
 と確信した表情でスイッチを押した。
「お、出たでた」
「レイティ、ごみ処理場周辺を出してくれ」
「はい」
「どうやら二区画先まで閉鎖されているようだな」
「大型ミサイルの不発弾があるから用心のためですね。これなら、ここへ踏み込まれることはないでしょう」
「しかし、その内に爆弾処理班がおっつけやってくるはずだ。早いところやってしまわなければならない」
「そうですね」
「中央制御コンピューターの位置は?」
「ここから二十七ブロック先の所にあります」
「そこへたどり着く最短コースは」
 レイティはパネルを操作してルートを表示してみせた。
「そうですね、このルートを通れば」
「途中の保安システムは?」
「残念ながら、この端末からでは保安システムを止めることはできません。ローカルコード専用の端末ですからね。保安システムへのアクセス権が設定されていません」
「このままでは、中央制御コンピューターへは行くことができないか……後は、ジュビロ次第だな」
「保安システムへのアクセスルートを探っているところだ。もう少し時間をくれ」
 たとえアクセス権が設定されていなくても、中央制御コンピューターに接続されてさえあれば、ジュビロの腕前なら何とかしてくれるだろう。
「それにしても……」
 レイティーが小さく呟くのを聞いて、アレックスが尋ねる。
「どうした?」
「いえね。ここのシステムは一世代前のものなんですよ」
「一世代前?」
 ジュビロが代わって答える。
「さっきからいろいろ探っているが、カウンタープログラムはおろか、ハッカーの侵入を防ぐ対策らしきものが一切ない」
「どういうことだ」
「つまりですね。この要塞は完全独立コンピューターによって制御されていますから、外からアクセスする道が遮断されています。ハッカーの侵入を考慮する必要はないと判断しているのではないでしょうか」
「がっかりだぜ。この程度なら、レイティでも攻略できるかもしれないね。時間さえあれば」
「その時間が惜しい。一秒でも早く落とさなければならないんだ。外の艦隊だけでは、この要塞を直接攻略することは不可能だ。いつまでも要塞に手を出さずにいれば、いずれ勘繰られて、侵入した我々のことを悟られることになる。時間が掛かれば掛かるほどな」
「しかし旧式のシステムとはいえ、やけに広大過ぎる。どうやらシステムのすべてを中央制御コンピューターが管理しているようだ」
「それは、僕もさっきから感じていました。普通いくつかにモジュール化して分散させておいて、メインがシステムダウンしても他からバックアップできるようにしておくものですが、ここのは違う。ほらこれを見てください」
「これは?」
 表示パネルには、中央制御コンピューター室から一本の通路が外へ向かっているのが、映しだされていた。
「排気口ですよ」
「排気口?」
「そうです。システムのすべてを中央制御コンピューターが担っているから、過負荷となって膨大な熱が発生します。熱源が一ヶ所に集中していて冷却が間に合わないから、その熱を外へ排気するための通路ですよ。巧妙に隠されて外からは気付きませんでしたけど」
「排気口か……いずれ使えるかもしれないな……」
「使える……?」
「いや、何でもない。ということは、中央制御コンピューターに侵入できれば要塞のすべてをコントロールできるわけだな」
「その通りです。ところで、同じように熱源として動力炉もありますが、こちらは熱循環させて要塞内の暖房に使われています。同じ熱量があったとしても、コンピューターは超電導素子の関係からシビアに冷却する必要があるので、絶対零度に近い宇宙空間に放出するほうが効率がいいわけです」
 戦闘に関しては神がかりの才能を発揮するアレックスであるが、ことシステムエンジニアに関しては無知といってもいいだろう。レイティーやジュビロが解説することを、百パーセント理解しているとは言いがたい。
 が、それでいいのである。自分にできないことは他人にやらせればいいこと。そういう人材を集め利用する。それが指揮官たる才能なのである。
「やったぞ、中央制御コンピューターに侵入した」
 指を鳴らして叫ぶジュビロ。
「どうします? 保安システムを解除しますか」
「いや、ただ単純に解除したのでは、察知されて保安システムが作動していない原因を調査にくるだろう。正常に作動しているようにみえて、実は解除されているという具合でないとな」
「そういうことなら簡単さ」
 再び、端末をいじるジュビロだが、一分も経たないうちにシステムを改竄してしまう。
「保安システムを解除した。お望みの通りにね」


「よし! 各自レーザーガンを装備」
 アレックスはミサイルの中から、レーザーガンを取り出して腰に装着しながら、ヘッドセットの携帯無線機を通して指令を出した。
「我々は中央制御コンピューター室に直行する。その間ジュビロはここにいて、敵の動静を監視しつつ逐次無線で報告せよ」
「あいよ。一人寂しく待機してるさ」
 ジュビロは、無線機に向かって答えた。
「無線機のチェックOKです」
「よし、行くぞ。ジュビロ、扉を開けてくれ」
「今開ける」
 すーっと扉が開いて先の通路が現れた。
「気をつけろ。どこから敵が出て来るかわからない。ジュビロ、扉を閉めておいてくれ」
「へい、へい」
 扉が閉まるのを確認してアレックス達は、一路中央制御コンピューター室への通路を駆け出した。通路の交差点や角では注意深く敵影の存在を確認しながら突き進んでいく。
 時折出くわす兵士達を有無をいわさず打ち倒しつつ目的地へと急ぐ。
 大きな隔壁で閉ざされた箇所に差し掛かると、
「この先が中央制御コンピュータールームのようだな」
「動体生命反応が多数あります」
「この扉の先に敵兵がいるということか」
「どうします?」
「と、いわれても、行くしかないだろう」
「そうですけどね……」
 アレックスは、隔壁の側に記された区画名を確認して、携帯無線機を通してジュビロに指令を出した。
「ジュビロ、Dー137ブロックの扉を開けてくれないか」
『わかった』
「レイティは後ろに下がっていろ」
 レイティは技術将校で戦闘の訓練を受けておらず、かつ作戦の重要人物なのでアレックスは彼に危害がかからないように安全な場所への待避を命じた。レイティは命令に従って通路の影に隠れるようにして顔だけ覗かせるようにしてアレックス達の動向を伺っていた。
「気をつけろ。構え!」
 隊員は床に伏せて銃を構えた。
 重い扉がゆっくりと上がっていく。
 そばの隔壁が開いて、アレックス達の姿を確認してたじろぐ敵兵。銃を構える暇を与えることなくアレックスの下令が廊下にこだまする。
「撃て!」
 一斉砲火を浴びせられてばたばたと倒れていく敵兵。
 保安システムの端末に飛び付く者もいたが、すでに保安システムはジュビロが握っており、警報を鳴らすことも他部署へ連絡を取ることもできない。地団駄踏んでそこを離れようとしたところを仕留められて床に倒れてしまう。
 戦闘はものの数分でかたがついた。
 気がつけば目前には、特殊硬質プラスティックの窓を通して、五階建てのビルに相当するほどの部屋の中央に巨大な構築物がそびえたっていた。
「これが、中央制御コンピューターか」
 システムから発生する熱を回収し、かつまた超電導回路を支える超流動状態の液体ヘリウムが部屋全体を流れているらしく、冷えた壁面に暖かい制御室内の水蒸気が霜状に付着している箇所が随所に見られる。
「レイティ。早速だが、はじめてくれ」
「わかりました」
 自分の出番はここからだ、とばかりに端末に取り掛かるが。
「提督……。宇宙服を脱いでもいいですか? 息苦しくて精神を集中できません」
 とすぐに切り返してくる。
「いいだろう。総員、宇宙服を脱いでいいぞ」
 宇宙服を脱ぎ始める工作隊員。
「ふいぃー。見てくださいよ。汗びっしょりだ」
「すぐに汗が引くさ。目の前に巨大な冷蔵庫があるんだからな」
「ほんとだ。ひんやりとしてますね。風邪をひきそうだ。はやいとこかたずけましょう」
「そうしてくれ……」
 そして無線機で、ごみ処分区画のジュビロに連絡する。
「ジュビロ。そこはもういい。区画を封鎖してこっちへ合流してくれ」
「わかった。今からそっちへ行く」

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2021.04.30 08:47 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十二章 要塞潜入! Ⅰ
2021.04.29

第二十二章 要塞潜入!


I

 要塞ゴミ処分区画。
 穴の明いた隔壁からさらに一区画内部に入った所に、大型ミサイルが突入してめちゃくちゃになっている。
 隔壁の応急処置に集まってきた工兵隊達。
「えらくひどくやられたものだな」
 空気が抜けているために、船外服を着込み、ヘルメット内に仕込んである無線機で会話をしている。もちろん空気がなければ音が伝わらないのは当然だ。
「なんだこれは!」
 区画内に横たわる黒光りする物体に釘付けになる隊員。
「不発ミサイルだ」
「例の次元誘導ミサイルとか言う奴か?」
「おかしいじゃないか、この穴を開ける爆発を起こしたんだろ?」
「偶然、二発同時に突入したのかもな。先に突入した奴の爆発で、信管が動作不良を起こして不発になったのかも知れない」
「兄弟殺し(fratricide)と呼ばれる現象だよ。多弾頭では良く起きる」
「ともかく、爆弾処理班を呼ぼう」
 艦内電話をとって連絡する兵士。
「そっちは放って置いて、こっちの穴を早く塞ぐんだ。ここを狙い撃ちされたらもたないぞ」
「了解!」
 作業機械が明いた穴に取り付き、修復が開始された。予備のブロック片が運び込まれて、穴を塞いでいく。
「ここの区画は爆弾処理が終わるまで封鎖だ。誘爆して他の区画に被害が出ないようにしなくては」

 中央コントロール。
「隔壁の修復はどうなっている?」
「まもなく完了します」
「そうか……。それで不発弾の方の処理は?」
「レクレーション施設の方で手一杯です。多弾頭ミサイルだったらしく、不発の信管を抱えた子弾の処理に追われています」
「急がせろ! 守備艦隊はどうなってる?」
「クンケイド少将が指揮を引き継いでおります。別働隊を警戒して現状空域で全艦停止、敵本隊と睨み合いが続いています」
「別働隊の動きは?」
「全艦、撤退しました」
「引き続き警戒を怠るなよ」
「はっ!」

 ごみ処分区画。
 すでにブロック片によって穴は塞がれ、接合処理が行われていた。
「よし、応急修理は完了した」
「不発弾が爆発しなくて良かったですね」
「そうだな。その性能からして、たぶん時限信管を使用しているはずだ」
「だとすれば、いつでも爆発する可能性がありますね」
「そうだ。後は処理班にまかせよう。処理が済むまでは、本格修理はお預けだ。一旦ここを退去しよう。遮蔽壁を降ろせ!」
 作業機械が撤収し、ごみ処分区画を閉鎖するために、遮蔽壁が降りはじめている。
「しかしゴミ処分区画に突入するとはな」
「ああ、ここの隔壁は他より薄いんだ」
「ともかく不発弾でよかったな」
「まったくだ」
 遮蔽シャッターが降りされていく。
 それを掻い潜るようにして工兵隊が区画の外へ避難していく。
「爆弾処理班は、いつ到着する?」
「レクレーションの方の処理がまだだそうです。まだ当分かかりそうです」
「そうか……」
 工兵隊の避難が完了し、遮蔽シャッターが降り切って、完全に封鎖された区画となった。

 その区画の中に取り残されたミサイル。
 やがてミサイルが軽い爆発と同時に割れて中からノーマルスーツに身を包んだアレックス達が出てきた。ジュビロ、レイティー、その他の工作隊の面々である。
「端末は?」
「提督、あそこにあります」
 レイティが隅の端末を目ざとく見つけて指差した。
 素早く駆け寄って端末を操作してみるレイティ。
「どうやら、中央制御コンピューターに接続されているようです」
「予想通りだ。ジュビロ、君の出番だな」
「まかせな」
 ジュビロは端末機器と接続コネクターの間に、持ち込んだ自慢の支援システムコンピューターを接続した。
「システムに侵入するのに、どれくらい掛かりそうだ」
「今、接続したばかりだぜ。まあ、あせるな。十分もあれば侵入できるはずさ」
「よろしく頼む」
 ジュビロが端末を操作しているのを横目で見ながら、ごみ処分区画を監察するアレックス達。
「隣の区画はどうか?」
 遮蔽壁を開閉する操作盤を調べている工作隊員に尋ねるアレックス。
「隣の区画も空気が抜かれています。どうやら避難して人はいないみたいですね」
「ここが爆発し、この遮蔽壁が破砕した場合に備えてのことでしょう」
「そうか……」
「さすがに堅固な要塞ですね。かなりの爆発があったでしょうに、この区画だけしか破壊できないとは」
 レイティーが感心したように言った。
「隔壁を破壊するために、外側へのみ爆発圧力を加える指向性爆弾を使用した」
「指向性? そんな爆弾があるんですか?」
「フリードに頼めば、何だって作ってくれるよ」
「さすが、フリード先輩。でも、そんな爆弾の考案をする提督もすごいです」
「おだてても何も出ないぞ」
「分かりましたよ。二発目の次元誘導ミサイルって、隔壁を破壊するためのものだったんですね」
 工作隊の一人が声を挙げた。
「何を今さら気が付いたのか?」
「作戦の詳細は聞かされていませんでしたから」
「それにしても、壁の向こうには防御艦隊が集結してるんでしょうね」
「そりゃそうだ。穴を塞いだとはいえ脆弱だからな」

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2021.04.29 11:29 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十一種 タルシエン要塞攻防戦 Ⅳ
2021.04.28

第二十一章 タルシエン要塞攻防戦




 要塞周囲に出現を果たしたジェシカ配下の艦載機群は、猛烈なる攻撃を加えつつ各砲塔を破壊していった。
「さすがに堅固な要塞だな。砲塔を破壊するのが精一杯だ」
 空母セイレーンより発進したエドワード中尉は、一足先にワープアウトした空母セラフィムから出撃したハリソン率いる第一波攻撃隊の様子を遠巻きに眺めていた。
「中隊長。カーグ少佐の重爆撃機が右上方にワープアウトです」
「よし、援護射撃に入る」
 ジミーの操艦する重爆撃機を取り囲むようにして編隊が集まって来る。
「よう。みんな、待たせたな」
 ジミーからの通信が入ってくる。
「隊長、いつでもいけますよ」
「よし。そのまま待機だ。第六突撃強襲艦部隊は?」
「我々の後方にて、第三次攻撃待機中です」
「うむ、提督らが要塞潜入に成功し、システムを乗っ取った後の活躍部隊だからな」

 空母艦隊の出現にも要塞の方は落ち着いていた。
「新たなる敵が出現しました」
「やはり別働隊がいたか!」
「艦数およそ二千隻。空母部隊です。艦載機急速展開中!」
「迎撃しろ。その程度の艦船でこの要塞を落とすことはできまい。それより次元誘導ミサイルの方が脅威だ。守備艦隊には迎撃を続行させよ」
「各砲塔、迎撃体制に入れ」
「守備艦隊は追撃を続行せよ」
「しかし、航空母艦が直接乗り込んでくるとは、死ぬ気ですか? 攻撃力も防御力も弱いですから、戦闘機を発進させて後方で待機するのが通常ですよ」
「判らんよ。何か目的があるはずだが」

「ジミー・カーグ編隊が配置に付きました」
「判りました。通信士、降伏勧告にたいする返答はまだですか」
「ありません」
「やはり突入しかありませんね。大佐、もう一つの次元誘導ミサイルを要塞内に向けて発射してください。目標、敵要塞ごみ処理区画」
「了解した」
 向き直り配下の部隊に指令を下すカインズ。
「サザンクロスへ、次元誘導ミサイル発射準備だ。なお弾幕として通常弾も同時に発射する。全艦、艦首ミサイル全門発射準備」
 命令が復唱伝達されて戻って来る。
「全艦ミサイル発射準備完了しました」
「よし。発射せよ」
「発射します」
 全艦から一斉にミサイルが放たれて要塞を目指した。
 そして次元誘導ミサイル二号機。

 もちろん途中には守備艦隊が待ち受けていて迎撃体制に入っていた。
「迎撃せよ!」
「だめです! 歪曲場シールで遮られて、粒子ビーム砲が当たりません」
「迎撃ミサイルも、追従するミサイルによって落とされてしまいます」
「だめか……。こうなったら最後の手段だ。当艦は体当たりして、次元誘導ミサイルの行く手を阻む」
「提督! それは……」
「他に手があると思うか?」
「いえ……」
「前にも言ったはずだ。もはや私にはこの戦いの後はないんだ。捲土重来なくは、当たって砕けろだ」
「判りました」
「よし! 全速前進だ。目標、次元誘導ミサイル」

 セイレーン艦橋。
「いつまでもここに留まっていられません。ありったけの攻撃を敢行しつつ急いで駆け抜けます」
 防御力の小さな空母が長時間戦闘空域に留まっているわけにはいかなかった。
 提督の乗る特殊ミサイルを搭載した重爆撃機を目標地点に運んで発進させるのが任務だった。重爆撃機を発進させたら、すぐさま戦線離脱することになっていた。
「敵旗艦が次元誘導ミサイルに向っていきます」
「特攻です!」
「カスパード編隊に攻撃させて下さい。次元誘導ミサイルを落とさせるわけには参りません」
「了解。カスパード編隊に迎撃させます」

 守備艦隊旗艦。
 次元誘導ミサイルに向って進撃していた。
 弾幕のミサイル群の標的になっていた。
「右舷損傷」
「構うな、そのまま直進」
「左舷より、艦載機急速接近中!」
「迎撃しろ!」
「左舷、レーザーキャノン掃射!」
 ミサイルと艦載機との集中攻撃を受け、ぼろぼろになっている。
「目標との距離は?」
「0.2宇宙キロ。三十秒後に接触!」
「急げよ。持たないぞ」
「目標まで二十五秒」
 艦内で誘爆が続いている。
 消火班が必死で消火作業にあたっている。
 次ぎの瞬間、大きな爆発とともに吹き飛んでいく。
 その衝撃は艦橋をも揺り動かしていた。
「弾薬庫に被弾! 爆発炎上中」
「むう……これまでか……」
 再び大きな振動が起こり火の手が上がった。
 床に投げ出されるフレージャー。全身傷だらけで額から血を流していた。
 ゆっくりと立ち上がって周囲を見回すが、その惨状は目を覆いたくなる状況だった。
 多くのオペレーター達が機器に突っ伏すように倒れている。
 スクリーンに映るサラマンダーに視線を移すフレージャー。
「ランドール……貴様との決着もここまでだ」
 サラマンダーに向って敬礼をするフレージャー。
 フレージャーを炎が包む。
 ミッドウェイ宙域会戦からの長き宿命的な戦いの終止符だった。
 やがて大きな爆発に巻き込まれて吹き飛んでいく。
 次元誘導ミサイルの目前で爆発炎上する旗艦。


 その様子は要塞中央コントロールでも見つめていた。
「フレージャーが撃沈しました」
「結局。ランドールには適わなかったというわけか」
「次元誘導ミサイル接近中!」
「かまわん。かたっぱしから撃ち落とせ」
「ミサイルがワープしました」
「だめか!」
 再び大きな衝撃が襲った。
「どこをやられたか?」
「ごみ処理区画です」
「射程が短か過ぎたようだな。助かったよ、九死に一生だ」
「しかし、隔壁に穴が明いてしまいました。今そこを攻撃されたら、いくらこの要塞でも持ち堪えられません」
「スクリーン。要塞外部から被弾箇所を投影」
 数秒あって、要塞周縁にあるごみ処分場の一角から爆発の火の手があがるのが見えた。
 外部からの攻撃に対して完全防御を満たしていても、内部からの誘爆の圧力を受けてはさすがに持たなかった。
 要塞とて小さなブロック片を組み立てて造られている。内部圧力として人間の生きる一気圧に保たれているため、真空との圧力差で外へ向かう定常的な抗力が働くが、それよりも外部からの攻撃の爆発的圧力に耐えることの方が大切である。ゆえに内部圧力に関してはあまり考慮に入れられていなかった。
 そこへ次元誘導ミサイルの攻撃による爆発的圧力が掛かり、接合部がその衝撃に耐え切れずに破断し、一部のブロック片が剥がれ飛んでしまったのである。
「工兵隊に穴を封鎖させよ」
「応急処置だけでも最低十二時間はかかります」
「急がせろ、敵は目の前なんだぞ! 守備艦隊を呼び戻すんだ!」
「それでは、敵に易々と次元誘導ミサイルを発射させることになりますが?」
「構わん! どうせ奴らの目的はこの要塞の奪取なのだ。重要施設を破壊するような攻撃を仕掛けてくるはずがない。次元誘導ミサイルにも限りがあるはずだ。これまでの攻撃の仕方からすれば、せいぜい数発しか残っていないはずだ。敵艦隊の攻撃さえしっかり守っていれば、要塞が落ちることはない」
「判りました。守備艦隊を呼び戻します」
「要塞内に駐留する艦隊を出撃させますか?」
「別働隊が張り付いている今はだめだ。発着口を開けばそこを狙い撃ちされる、内部誘爆を招いて身動きが取れなくなる」


 その頃、要塞の隔壁の破壊を確認したカーグ編隊。
「よし! 穴が開いたぞ。ただちに突入する」
「了解!」
 カーグ編隊全機が合図と同時に投入を開始した。
 すでに先行のハリソン編隊の集中攻撃によって、目標地点付近の砲塔はほとんど撃破されていた。
「ジュリー。ミサイルの安全装置を解除しろ」
「了解。解除します」
「目標接近!」
「照準セットオン。艦の噴射コントロールを同調させてください」
「わかった。噴射タイミングをそちらに回した。後は頼むぞ」
「行きます!」
 さらに加速を上げて目標に突撃する重爆撃機。人を載せているがゆえに自走能力がないミサイルのために、それを重爆撃機に搭載し、急降下爆撃で突撃射出させるという前代未聞の作戦。
「最大加速に達した。最終セーフティ解除」
「ミサイル射出!」
 懸吊されていたアレックス達を乗せたミサイルが、重爆撃機より投下されてゆっくりと要塞に近づいていく。
「急速反転、離脱する」
 ミサイルを放ったカーグの乗った重爆撃が反転離脱していく。 
 要塞ゴミ処分口に突刺さるように見事命中するミサイル。
「巧くいったわ」
「お見事」
「わたし達の役目は終了した。脱出しましょう」
「まかせとけ」
 加速して要塞宙域から脱出する二人を乗せた重爆撃機。
「本隊へ。『赤い翼は舞い降りた』繰り返す。『赤い翼は舞い降りた』以上」
 ジミーは音声信号による打電を送信した。

 打電はパトリシアにすぐさま報告されることとなった。
「カーグ少佐より入電。『赤い翼は舞い降りた』です」
「成功だわ」
「成功? どういうことですか、先輩」
「第十七艦隊のシンボルとなっている、旗艦サラマンダーのボディーに描かれた動物は何だったかしら」
「火の精霊サラマンダーです」
「その絵柄は?」
「ええと、赤い翼を持った……え? じゃあ、提督が……」
「その通り。提督が目標地点に無事到達したということ」
「じゃあ、じゃあ。提督が、あの要塞の潜入に成功したのですか?」
「あたりよ」
「信じられません」
「真実よ。でもね、本当の戦いはこれからよ。潜入に成功したとしても、脱出は不可能。無事作戦を果たすまではね」
「そうですね……」

第二十一章 了

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2021.04.28 12:44 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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