銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 Ⅲ
2021.05.14

第二十五章 トランター陥落




 タルシエン要塞中央コントロールルーム。
 オペレータ達は一様に計器を操作しているが緊迫感は見られない。
 正面スクリーンにはタルシエンの橋の方角を映し出していた。
 連邦が通常航行で攻めてくるとすれば、橋を渡ってくるしかなく、こちら側を押さえた現状では、連邦もそうそうは攻めてこれないという安堵感である。
 総指揮官席に陣取っているのは、要塞技術部開発設計課長のフリード・ケースンだった。
「これより要塞主砲の陽子反陽子対消滅エネルギー砲の試射を行う。要塞よりタルシエンの橋に至るコースにある艦艇はすみやかに退避」
 後方では、アレックスとパトリシアが立ち並んで、それらの作業を眺めていた。
「要塞砲がどれだけの威力をもち、発射に際して要塞にどれだけの障害を与えるかを、前もって把握しておかなければならないからな」
「それでフリードさんに指揮を?」
「要塞砲のことなどまるで判らないからな。いや、要塞そのものすらほとんど把握していない。要塞を機能させるシステムコンピューターなどのソフトウェア関連はレイティーに、ハードウェアはフリードとそれぞれ仕様マニュアルを作成してもらっているが、兵器などは実際に試射してみなければ判らないことも多い」

 要塞の内部は、さまざまな粒子加速器が取り巻くように建設されていて、要塞のエネルギー源となったり、粒子ビーム砲などの武器となったりしている。
 まるで素粒子物理学の巨大な実験施設といっても良いぐらいである。
 その集大成ともいうべき兵器が、陽子反陽子対消滅エネルギー砲である。
 陽子と反陽子を、粒子加速器によって加速衝突させると、その質量のかなりの部分がエネルギーに替わる。核融合反応における質量欠損によるものとは桁違いの変換率である。質量がどれほどのエネルギーを持っているかというと、1グラムの質量を熱エネルギーに変えることができれば、なんと20万トンもの水を沸騰させることができるということである。
 さて陽子はどこにでもある水素原子核のことであるから入手に困ることはないが、電荷が反対の反物質である反陽子はどうするか。反陽子は、反物質であるがゆえに近くの物質とすぐに反応して消滅してしまい、自然界にはほとんど存在しない。それを作り出すのが、キグナスシンクロトロンである。
 1GeVエネルギー以上に加速された陽子ビームを、重い原子核に照射すると核破砕反応(Spallation)が起こる。 原子核の構成要素の一つである中性子が叩き出されたり、標的原子核の一部である短寿命原子核が放出されたりする。さらに、50GeVといった高エネルギーに加速された陽子を用いると、元来原子核内部には存在しなかったK中間子、反陽子といった粒子が生成される。また高エネルギーのπ中間子が生成され、その崩壊により高エネルギーのニュートリノやミュオンが生成される。これらの生成粒子は二次粒子と呼ばれる。
 キグナスシンクロトロンはこのようにして反陽子を生成させて、そこから取り出した反陽子を、反物質貯蔵庫へと導いて貯蔵していつでも使えるようにしているのだ。

「要塞内、素粒子計測器の作動状況は?」
「正常に稼動しています」
「エネルギー変換率計測器はどうか?」
「正常に作動しています」
「それじゃあ、いってみるか」
 と、後方を振り向き、アレックスの頷くのを確認して、
「陽子加速器始動、前段加速器へ陽子注入!」
「陽子加速始動します」
「前段加速器へ陽子注入」
「続いて反陽子加速器始動、前段加速器へ反陽子注入!」
「反陽子加速器始動します」
「前段加速器へ反陽子注入」

 その頃、要塞周辺にて哨戒作戦に当たっているウィンディーネ艦隊。
 ウィンディーネの艦橋、スクリーンに要塞主砲の様子が映し出されている。
「まもなく要塞主砲が発射されます」
 パティーが報告する。
「要塞主砲の威力をこの目で見られるとはな」
「こんなに間近で大丈夫でしょうか?」
「フリードが算定した避難距離以上に離れているんだ。大丈夫だよ」
「ケイスン中佐のこと信頼されているんですね」
「天才科学者だからな。設計図を見ただけでその機能や能力をずばりと当ててしまう。この要塞砲のことを一番熟知しているのは彼だろうな。というか、あれを設計した科学者すら気づかない設計上の欠陥とかもな」
「要塞砲、発射三十秒前です」
「閃光防御スクリーンを降ろせ。可動観測機器はすべて収納せよ」」
「了解。閃光防御」
「可動観測機器を収納します」
「発射十秒前。9・8……3・2・1」
 要塞砲が発射される。
 凄まじい閃光が辺り一面に広がり、付近に待機している艦艇をまばゆく輝かせる。
 
「終わったか」
「……のようですね」
「閃光防御スクリーン及び収納した観測機器を戻せ。艦体のどこかに異常が起きていないかチェックしろ」
「それと、艦内における人体への素粒子被爆量の測定を全員に実施する」
 高エネルギーを持った素粒子同士の衝突実験においては、副産物としての大量の二次生成粒子が生じ、場合によっては人体に多大な害を及ぼすことがある。それを確認することも、今回の要塞砲発射実験の調査項目の一つだった。
 もちろん同様のことは、要塞内でも行われている。

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2021.05.14 13:30 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 Ⅱ
2021.05.13

第二十五章 トランター陥落




 そんな会話を耳にしながら、副官が言い出した。
「提督は、奥様のところへ行くんですよね?」
「まあな。それが軍人の役目でもあるからな」
「奥様のいる提督や佐官以上のクラスの人たちがうらやましいですよ。私たち下っ端は、誰に当たるか判らない授産施設なんですから」
「君も早く出世することだな。大尉じゃないか、あと一歩じゃないか」
「そうなんですけどね……じゃあ、私は授産施設に行って参ります」
 副官はそう言うと、先ほどの兵士達の向かった方へ歩いていった。
 一人残ったスティール。
「授産施設か……」
 一言呟いて、自分の妻の待つ既婚者用の官舎へと向かった。

 授産施設。
 先ほどの兵士達が順番待ちをして並んでいる。
 きょろきょろと落ち着かない雰囲気の兵士。
「落ち着けよ」
「そうは言っても……」
「ほら、まずは受付だ」
 順番待ちの列が流れて、目の前に受付があった。
 認識番号と姓名、所属部隊などを申告する兵士。
「アレフ・ジャンセン二等兵。今回がはじめてですね」
「は、はい」
 受け付け係りは、端末を操作して相手を選出した。女性との経験がない男性には、妊娠の経験がある場馴れした女性があてがわれることになっている。
「結構です。では、入ってすぐ右手の部屋で裸になって、まずシャワーを浴びてください。出た所に替えの下着が置いてありますので、それを着て先に進んでください。部屋番号B132号室に、あなたのお相手をします女性が待機しております」
 といって部屋の鍵を手渡された。
「そちらの方は、隣のB133号室です」
 受付を通り過ぎ、授産施設の入り口から中へ。
「おい」
 扉のところで、伍長が呼び止めた。
「はい」
「いいか。女にはな、男にはない穴がここにあるんだ。ちんちんの替わりにな。うんこをする穴じゃないぞ」
 といって股間を指差す。
「あな……ですか」
「そうだ。その穴に自分の固くなったちんちんを入れればいいんだ」
「あなに固い……」
「ま、後はなるようになるもんさ。頑張りな」
 といって、兵士の肩を叩いて隣の部屋に消えた。
 扉を開けると自動的にシャワーが噴き出してきた。
 身体の汚れを落として先に進むと、受付の言った通りに棚の上に、タオルと替えの下着が置いてあった。タオルで身体を拭い、さらにその先にあるドアを開ける。
 途端に甘い香りが鼻をくすぐる。
 部屋に入るときれいな女性が、ベッドの上で下着姿で待機していた。
「よろしくお願いいたします」
 入ってきた兵士に向かって丁寧におじぎをすると、笑顔で迎え入れた。
 兵士は、おそらく女性の下着姿など見たことなどないのであろう。恥ずかしがってもじもじとしていた。
「どうぞ、こちらへ」
 女性がやさしく手招きする。
「実は、お、俺、はじめてなんです」
「あら……ほんとうですの?」
「はい」
「大丈夫ですよ。ほらこんなに元気ですもの」
 といって兵士の股間を差し示した。
 すでにパンツを押し上げて、ぎんぎんにいきり立っていた。
「それじゃあ、はじめましょうか」
「は、はい。よ、よろしくお願いします」
「うふふ」

 それからしばらくして授産所から出てくる兵士。
「どうだ、すっきりしたか」
 出口のところで伍長が待っていた。
「女の人の肌が、あんなにも滑らかというか、柔らかいものだったなんて、はじめて知りました」
「女性というものは、身体の作りが俺達男性とはまるで違うからな。まず子供を産むことができる」
「え、まあ。しかし、これで俺の子供をあの女性が産むんだと思うと、なんかへんな気分です」
「あほ、一回や二回くらいで妊娠するとは限らないさ。おまえの前にも幾人かの男の相手しているだろうしな」
「そうなんですか?」
「おまえって、本当に無知なんだな。簡単に説明してやろう」
 といって、女性の生理について講義をはじめる伍長であった。

 バーナード星系連邦では、男性は6歳になれば親から離されて幼年学校へと進み、兵士となるための教育を受ける。そして女性は人口殖産計画に沿って子供を産むことを義務付けられており、妊娠可能期には授産施設へ通うことになる。
 それが当然のこととして受け入れられている。
 イスラム教に曰く。
「男は髭を蓄えターバンを巻き、女はプルカで全身を覆って顔を出さない。何故と問うなかれ、それがイスラムなのである」


 その頃、スティールも妻との営みに励んでいた。
「あ、あなた!」
 久しぶりのこととて、妻は激しいほどに燃えてスティールの愛撫に悶えた。
 そしてスティールのすべてを受け止める。
 妻として、夫の子供を宿すために。
 もちろん確実に妊娠するために、スティールの帰還に合わせてピルを飲む加減を調整し、帰宅のその日に排卵が起こるようにしているはずだった。

 寄り添うようにスティールの脇で眠っている妻。
 実に幸せそうな寝顔だ。

 女性として軍人の妻となり、彼の子供を産むことは一番の幸せである。

 連邦に生きる女性のすべてが、幼少の頃からそう教えられて育ってきた。
 男性は軍人として働き、女性は子供を産み育む。
 それが当然のごとくとして、連邦の人々の人生観となっている。
 誰も疑問を抱かない。抱く思想の種すらも存在しないのである。
 すべての民に対して幼少の頃から教育されれば、そのような思想や概念が植え付けられるということである。
 かくして、スティールの妻も、軍人の妻になるという幼少の頃からの夢が適って幸せ一杯の笑顔を見せる。そして子供を産み育てることを生きがいとしているのだ。
 スティールと結婚する前には、他の女性と同じように授産施設に通っていた。結婚して夫婦となってからは、士官用官舎に入居してただ一人の男性と夜を共にする。
 官舎暮らしに入れる士官との結婚を、すべての女性が夢見ているのであった。

 妻の寝顔を見ながら物思うスティール。
 共和国同盟との戦争が膠着状態となり、すでに百年近く続く戦争。
 この戦いに勝つために必要なことは、味方が一万人殺されたら、敵を二万人殺せばいい。そして死んだ一万人に代わる新たなる生命を生み出すこと。
 そうすればやがて敵は人口減少からやがて自然消滅する。
 長期的となった戦争を勝ち抜くには、いかにして人口を減らさないかに掛かっているのだ。
 こういった思想から、現在の連邦の教育制度が出来上がった。
 特に女性に対しての徹底的な思想改革が行われ、人口殖産制度が出来上がった。女性のすべては軍人の妻となるか、授産施設に入るのを義務付けられ、妊娠可能期がくれば男性の相手をして妊娠しそして子供を産む。そして子供を産んだ場合は、その子が一人立ちするまで、十分な養育費が支給される。女性自身が働かなければならないことは一切ないから、安心して子育てに専念できるというわけである。
「授産施設か……」
 そういった制度が、果たして女性にとって本当に幸せなのか?
 スティールには判断を下すことができない。

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2021.05.13 08:47 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 Ⅰ
2021.05.12

第二十五章 トランター陥落




 バーナード星系連邦の首都星バルマー。
 連邦軍統合本部の作戦会議場。
「タルシエン要塞に、共和国同盟軍の精鋭艦隊が続々と集結しております」
「ますますもって、同盟への侵攻が困難になってきたというわけだな」
「タルシエンの橋の片側を押さえられてしまったのですから。どうしようもありませんね」
「橋の道幅は狭い。ここを通って行くには、例え大艦隊であっても一列に並んでと言う状態だ。出口付近に散開して待ち伏せされると、各個撃破されて全滅するしかない」
 議場は悲観的な雰囲気に包まれていた。
 あれほど強固な要塞が落ちるとは、みなが落胆し精気がなくなるのも当然と言えるであろう。
 その時、声をあげて息まく士官がいた。
 スティール・メイスン少将である。
「さっきから何を非建設的な意見を言っていらっしゃるのですかねえ。今が絶好の機会だというのに、これを逃すおつもりですか?」
「何を言っているか、スティール」
「ですから敵の精鋭艦隊がタルシエンに集結している今がチャンスだと申しておるのです」
「どういうことか? 説明しろ!」
「それでは……」
 といいながら立ち上がるスティール。
「先程からも申している通り、今が共和国同盟に侵攻する最大のチャンスです。同盟はタルシエン要塞に第二軍団の精鋭艦隊を集結させており、本国の防衛が手薄になっております。第二軍団以外の戦力が恐れるに足りないことは、かつて敵にハンニバル艦隊と言わしめた後方攪乱作戦において実証済みであります」
「タルシエンの橋の片側を押さえられていると言うのにどうやって同盟に進撃するというのだ」
「なぜタルシエン要塞にこだわるのですか? 我々には銀河の大河を渡ることのできるハイパーワープエンジン搭載の戦艦があるじゃないですか」
「しかしハイパーワープエンジンで大河を一瞬に渡っても燃料補給の問題がある。ハイパーワープは莫大な燃料を消費する。ぎりぎり行って帰ってくるだけの燃料しか搭載できないのだぞ。同盟内に入り込んで戦闘を継続するだけの燃料はない。敵勢力圏では足の遅く攻撃力のない補給艦を引き連れていくわけにはいかんぞ。万が一の撤退のことを考えれば実現不可能と言える。後方撹乱作戦のように現地調達もできないだろう。片道切符だけで将兵を送り出すわけにはいかない」
「それにだ。仮に燃料の問題が解決したとしても、将兵達を休息させることなく、最前線での戦闘を強要することになる。ハイパーワープで飛んだ先は、ニールセン率いる五百万隻の艦隊がひしめく、絶対防衛圏内だ。休んでいる暇はないから、士気の低下は否めないぞ。これをどうするか?」
「手は有ります。図解しながら説明しましょう。パネルスクリーンをご覧下さい」
 スティールが端末を操作するとパネルスクリーンに一隻の戦艦が表示された。
「まず、これが同盟に侵攻する戦艦ですが、この艦体の後方に三隻の戦艦をドッキングさせます」
 表示された戦艦に、別の戦艦が三隻接合され、まるで補助ロケットのような形状になった。
 この時点で感の良い者は、スティールが言わんとすることを理解したようであった。
 作戦を概要すると、

1、後方の三隻をブースターとしてハイパーワープエンジンで大河をワープして渡る。
2、前方の戦艦は、ペイロードとなって後方の三隻に送り出してもらい、その間将兵
達は休息待機に入る。
3、ワープが完了して向こう岸に渡ったら、ブースター役の三隻の戦艦はそのまま引き返す。
4、燃料満載、将兵休息万全の前方の戦艦は、侵略を開始する。

 というシナリオである。
 全員が、スティールの奇策に目を丸くしていた。
「しかし合体した状態で無事にワープできるのかね?」
「そのためのエンジン制御プログラムを使用します」
「君のことだ。そのプログラムもすでに開発しているのだろう?」
「もちろんです。でなければ提案しません」
 懐疑的な上官たちに、自信満面で解説するスティールだった。
「万事うまくいけば、燃料補給と将兵の休息の問題が解決するし水と食料の消費もしない、Uターンしたサポート軍はそのまま、自国の防衛にあたれると、つまり一石四鳥が解決するというわけだな」
「そうです」
「よし、決定する。メイスン少将の作戦案を採用することにする。これ以上手をこまねいていれば、あのランドールがさらに上に上がって、ニールセンと同等以上に昇進すると、もはや侵攻は不可能になる。ニールセンとランドールとの間に軋轢のある今のうちがチャンスだからな」
 一堂の視線がメイスンに注がれる。
「判りました。誓って、共和国同盟を滅ぼしてみせましょう」
 キリッと姿勢を正し敬礼するスティール。


 ぞろぞろと議場から出てくる参謀達。
 スティールのそばに副官が駆け寄ってくる。
「いかがでしたか?」
「予定通りだ。忙しくなるぞ」
「よかったですね。頭の固い連中ばかりだからどうなるかと思いましたがね」
「実行部隊の司令官がことごとく全滅や捕虜になっている。そしてとうとう要塞を奪取されてしまった。あのランドールに何度も苦渋をなめさせられて、もうこりごりだという雰囲気が漂っている。例え名案があったとしても二の足を踏んでしまうのも仕方のないことだろう」
「それで、提督に任せることになったわけですね」
「ともかく、ぐずぐずしているとあのランドールに嗅ぎ付けられて先手を取られてしまう。奴の配下にある情報部は優秀だからな」
「でもランドールがいかに素早く情報を得たとしても、ニールセンが動かないでしょう。どんな情報も握りつぶしてしまうのではないでしょうか」
「そうかも知れないが、万全を期しておいて損はないだろう。それより二の段の手筈はどうなっているか?」
「何とか二百隻ほど調達できました。すべて実際の戦闘に耐えられる完動戦艦です」
「二百隻か、取り合えずそれだけあれば何とかなるだろう。後は戦闘員の腕次第だな」
「しかし調達した先々では首を捻っていましたね。何せ運航システムが旧式化して退役した戦艦ばかりですから」
「まだまだ使える物を旧式になったといって、次々と最新鋭戦艦に切り替えるのは考えものだ。旧式にもそれなりの使い道があることを教えてやろうじゃないか」


 その日から、共和国同盟への侵攻に向けての、戦艦の改造が開始された。
 四隻の戦艦を一組として、同盟に侵攻する任務を与えられた戦艦の後方に、大河を飛び越えるためのブースター役を担う戦艦が三隻ずつ合体させられていく。
 もちろん合体戦艦を収容するドックなどあるはずもないから、宇宙空間に浮遊させた状態で作業が行われていた。作業用のロボットスーツを使用して、接続アームをそれぞれの戦艦に取り付けて合体させてゆく。
「いいか。ワープ中にばらばらになったりしないように、しっかりと固定するのだぞ。我々のこの作業が共和国同盟侵攻の成功の鍵を握っているんだ。一箇所一箇所、気を抜かずに確実にやるんだ」
 監督の指示の元次々と合体戦艦が作り出されていく。
 さらに戦艦の内部では、四隻の戦艦を同時にハイバーワープさせるためのエンジン制御システムのインストールが進められている。

 戦艦の改造の状況が眺められる宇宙ステーションの展望室。
 スティールと副官がその作業を見つめている。
「これだけの戦艦が集められると、実に壮観ですね」
「残存艦隊の八割が集結しているからな」
「総勢三百二十万隻です。この中から都合八十万隻が同盟に侵攻するというわけですか。これまでにない大攻勢じゃないですか」
「大河を飛び越えて、絶対防衛圏内に直接飛び込むのだ。なにしろ相手は、ニールセン率いる五百万隻からなる大艦隊だ。戦闘の経験のない有象無象の連中とはいえ、数が数だからな油断はできない」
「にしてもあの旧式戦艦を投入すると聞いて、皆びっくりしていましたよ。本当に役に立つのかとね」
「言わせておくさ。それより明後日に最後の作戦会議を行う。各部隊長を呼び集めておいてくれ。今回の戦いは司令官の指揮よりも、各艦長の裁量によって勝敗が決定するからな。各部隊配下の艦長にまで作戦概要が行き渡るように、しっかりと打ち合わせをしておかないとならない。16:00時に中央大会議室だ」
「判りました」
 そんな二人のそばを、数人の兵士が通り過ぎていく。
 会話が聞こえてくる。
「おい、おまえら」
 伍長の肩章を付けた下士官が兵士を呼び止めた。
「はい、何でしょう」
「授産施設にいくぞ」
「授産施設?」
「おうよ。まもなく出撃だ。いつ戦死してもいいように、自分の子供を残しておかなければならん。」
「それって、女の人とベッドを一緒にして、その……つまりセックスというんですか……するんですよね」
「ま、そんなところだ」
「俺、経験ないんですよ」
「わ、私もです」
「気にすんな。みんな最初は初心者さ」
「でも……」
「いいか、これは命令だからな。女性の子作りに協力するのも軍人の仕事のうちなんだぞ」
「はあ……」
「さあ、元気を出せ。そんなことじゃあ、立つのも立たなくなるぞ」
 と大笑いし、兵士達の肩を押すようにして、授産施設なる場所へと追い立てていく。

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2021.05.12 13:45 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十四章 新生第十七艦隊 V
2021.05.11

第二十四章 新生第十七艦隊




 タルシエン要塞には、第八師団総司令部が置かれたほか、フランク・ガードナー少将率いる第五師団も要塞駐留司令部を置いて第八艦隊が駐留することになった。
 これを機に二つの師団と要塞、及び後方のシャイニング・カラカス・クリーグの各軍事要衝基地、それらを統括運営するためアル・サフリエニ方面軍統合本部が設置されて、その本部長にアレックスが就任した。その主要兵力は艦艇数三十万隻と、それと同数に匹敵するといわれる攻撃力と防御力を有するタルシエン要塞、兵員数一億五千万人を擁する巨大軍事施設であった。

 本土にはチャールズ・ニールセン中将率いる絶対防衛艦隊があって、最終防衛ラインを守備していた。第一師団第一艦隊・第四艦隊・第七艦隊などが所属する第一軍団、及び第二・第三軍団配下の各師団の旗艦艦隊合わせて総勢三百万隻の大艦隊である。
 人々のもっぱらの噂は、最前線を戦い抜き精鋭が揃っているランドール提督率いるアル・サフリエニ方面軍と、後方でぬるま湯に浸かっている状態に近い絶対防衛艦隊とが、もし仮に戦ったとしたらどちらが勝つかということであった。
 艦艇数ではニールセン側に分があるものの、実戦経験と作戦能力に優るランドール側有利というのが大方の予想であった。

「しかし、どうして皆比較したがるのかね」
「そりゃまあ、自分の所属する艦隊や部隊が一番でありたいと思うのは自然な心理でしょう。そして自分もその一役をかっているという自負からくるのでしょう」
「士官学校の候補生の配属志望先では、圧倒的に第十七艦隊所属だそうですよ」
「志願兵も合わせて皆が皆、第十七艦隊を希望するから倍率五十倍以上の難関、逆に他の隊を志望すれば希望通りすんなり入隊できるそうです」
「席次によって順番に配属されていきますし、成績では女性士官候補生のほうが優秀ですから、自然として第十七艦隊に女性が多く集中するようになりました。現実として六割が女性士官になっております」
「優秀であるならば、性別は問わないのが提督の方針だからな。それに大昔の肉弾戦闘が主体だったころならともかく、ボタン戦争時代となりすべてはコンピューターが動かす今日では男女による体格差は無関係だから」
「しかし女性は結婚退職や育児休暇がありますからね」
「しようがないだろ。無重力の宇宙では子供は産めないからな」

 要塞に第八艦隊が到着した。
 戦艦フェニックスに坐乗して、フランクが幕僚達を従えて要塞ドッグベイに降り立った。
「よくいらっしゃいました。先輩」
 アレックスは自らフランクを迎えに出ていた。
 アル・サフリエニ方面軍統合本部の長官であるアレックスに対して、フランク以下の士官達が一斉に敬礼をほどこした。
「おう、悪いな。当分、間借りさせてくれ」
 と敬礼をしたその手をアレックスに向けて差し出すフランク。
「どうぞ、遠慮なく使ってください」
 その手を握り返すアレックス。
「早速だが、こいつらを要塞司令部に案内してやってくれないかな」
 フランクの後ろには、第五師団の幕僚と第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が控えていた。
「フランソワ、ご案内してさし上げて」
「はい。どうぞこちらへ」
 指名されて、参謀達を案内していくフランソワだった。

「君も出世したなあ、とうとう追い越されてしまった」
「何をおっしゃいます。同じ少将じゃないですか」
「いやいや。君は、カラカス基地・シャイニング基地・クリーグ基地、そしてこの巨大要塞を統括するアル・サフリエニ方面軍統合本部長じゃないか。階級は少将とはいえ、これは中将待遇だよ。何せこの要塞だけで、三個艦隊に匹敵すると言われているからな」
「三個艦隊とはいえ、動かない艦隊では私の手にあまります。それに今後は防御戦がメインになりますからね。なんたってゲリラ攻撃戦が私の主力です。トライトン中将が、先輩をよこしてくれたのも、防御戦では同盟屈指ですからね」
「ははは。君は攻撃しか能がないからな」
「その通りです。要塞防御司令官として、先輩のお力を拝借いたします」
「ま、期待にそえるように頑張るとしますか」


 タルシエンに全艦隊が揃ったところで、改めて会合が開かれた。各艦隊の司令や参謀達を交えるとかなりの人数に及んだ。もちろん初顔合わせという士官同士がほとんどであった。
「ところで、連邦軍がこの要塞を避けてトランター本星を直接攻略するというのはあり得るのかね」
 早速、アレックスに次ぐ地位にあるフランク・ガードナー少将が質問に立った。
「当然でしょう。現在ここには三十万隻からの艦隊が駐留していますし、要塞そのものの防御力もあります。これを真正面から攻略するには、その三倍の艦隊を必要とするでしょう」
「都合九十万隻が必要ということか」
 続いてリデル・マーカー准将が問題にする。
「お言葉ですが、提督は数十人の将兵で要塞を攻略なされました。同様の奇抜な作戦で敵が奪回する可能性もあります」
「それはないと、俺は思うな。この要塞を攻略できるような作戦能力に猛る参謀が敵にはいない」
 フランクが答えると、すぐにアレックスが訂正する。
「過信は禁物ですよ。向こうにはスティール・メイスンという智将がいるんです」
「しかしこれまで表立った戦績を上げていないじゃないか」
「それは彼が参謀役に甘んじていたからです。艦隊司令官として直接戦闘を指揮するようになれば手強い相手となるはずです」
 アレックスは、これまでに調べ上げたスティールに関する情報から、彼が着々とその地位を固めていることを確認していた。もし次の侵略攻勢があるとすれば、彼が総指揮官として前線に出てくると踏んでいた。
 その作戦も尋常ならざるを得ない方法を仕掛けてくるだろうと直感していた。
 それがどんな作戦かは想像だにできないが、少なくともタルシエンの橋の片側を押さえられ、多大な損害を被ることになる要塞を直接攻略するものではないと確信できる。
「とにかく……。仮に通常戦力で敵が襲来してきた場合を想定すると、連邦軍がそれだけの艦隊をこの宙域に派遣するには相当の覚悟がいります。同盟が要塞防衛に固執して艦隊を集結させ、その他の地域の防衛が疎かになっている点に着目すれば……」
「要するに、ここには共和国同盟軍の精鋭部隊のすべてが集結しているということですよね」
「逆に言えば、アル・サフリエニ以外の後方地域は、有象無象の寄せ集めしかいないということで、本星への直接攻略という図式が成り立つというわけだ」
「侵略政策をとっている連邦は、敵陣内に深く入り込んで戦闘を継続しなければならない関係で燃料補給や艦の修繕の必要があるからこそ、要塞を建造した。そこを拠点として同盟に進撃することができるというわけですね。
 でも、専守防衛を基本としている共和国同盟にとっては、要塞を防衛することは戦略上の重要性は少ないとみるべきでしょう。いくら要塞を押さえていてもそこから先に進撃することはあり得ないのですから、燃料補給も艦隊の修繕もあまり必要ありませんからね。ゆえにこの要塞は破壊してしまうか、同盟本星近くに曳航して最終防衛戦用として機能させるべきです」
「まったく軍上層部は一体何考えているんでしょうねえ」
「というよりも評議会の連中の考えだろうさ。金儲けのことしか頭にないからな。要塞を所有していることの経済効果を考えているのだろう」
「経済効果ね……確かにこの要塞の建造費がどれくらいは知らないが、ただで儲けたものだし、ここの生産設備をフル稼動させれば、たとえ本国からの救援がとだえてもある程度は自給自足できる」
「ともかく、軍の命令には逆らえない以上、言われた通りにするしかないからな。たとえ本星が占領されても知ったこっちゃないということさ」
「それ、それですよ。本星が占領され同盟が降伏すれば、同然ここを明け渡すことになるわけですよね」
「そう。結局連邦にとっても本星さえ落としてしまえば、この要塞は苦もなく手に入れることができる。苦労して要塞を攻略する必要はないわけだ」

「果たして燃料補給の問題をどう解決するかですね」
「それさえ解決すれば、明日にも攻めてくるのは間違いない」

第二十四章 了

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2021.05.11 10:46 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十四章 新生第十七艦隊 Ⅳ
2021.05.10

第二十四章 新生第十七艦隊




 タルシエン要塞の運用システムが正常に稼動をはじめて、アレックスは配下にある部隊や軍人及び軍属の、タルシエンへの配置転換をはじめた。
 これまではシャイニング基地が最前線だったのだが、それがタルシエン要塞となったわけである。最前線基地をタルシエン要塞として艦隊を集合させつつあった。
 アレックスが第八師団司令官となったのを機に、新生第五艦隊と第十一艦隊がその配下に加わった。それがタルシエン要塞に向かっていた。
 タルシエンの収容艦艇は十二万隻しかないために、それをオーバーする艦艇は要塞周辺に展開して、哨戒行動と警戒態勢。交代で休息待機に入るときのみ要塞内に入場することとした。
 要塞内にあって、もっともスペースを占有しているのが、中心核部にある反物質転換炉である。半永久的にエネルギーを取り出せるとはいえ、あまりにも巨大過ぎた。反物質を閉じ込めておくためのレーザー隔離システムが、その全体容量の三分の二を占め、使用するエネルギーだけでも要塞内の全エネルギーを賄うことができるくらいである。考えれば実に無駄なことをしているとしか言いようがなかった。
 すべては対消滅エネルギー砲という破壊力抜群の兵器運用のために建造されたといっても過言ではないだろう。
「軍部の考えることは無駄が多い。確かに反物質を利用した対消滅エネルギー砲は破壊力抜群だし、エネルギー問題は考える必要もない。しかし、動けない砲台など攻略次第では無用の長物だ。が今更通常の核融合炉などに取り替えるわけにもいかないしな……」
 取り替えるとなれば要塞全体を解体するよりないし、反物質の処理にも困る。二十一世紀初頭、核廃棄物処理に困った地球連邦はカプセルに詰めて太陽に打ち込んだらしいが、反物質はそうはいかない。

 アレックスは、司令官の就任式を無事終えたチェスターの第十七艦隊と、途中合流する予定の新生第五艦隊及び第十一艦隊と共に、残しておいたゴードンの新生遊撃艦隊の待つ、タルシエン要塞へ向かうことになった。

 宇宙空間において合流した第五艦隊と第十一艦隊の司令を交えて、旗艦サラマンダー艦上で初の会見が行われていた。
 パトリシアがそれぞれの司令官を紹介していく。
「第五艦隊司令のヘインズ・コビック准将です。旗艦は空母ナスカ。今後の母港をカラカス基地とします」
「第十一艦隊司令のジョーイ・ホリスター准将です。旗艦は戦艦グリフィン。母港、タルシエン要塞」
「第十七艦隊司令のオーギュスト・チェスター准将です。旗艦は戦艦ペガサス。母港、シャイニング基地」
「そして第八師団総司令のアレックス・ランドール少将。旗艦はこの高速戦艦サラマンダー」
「後、ランドール提督直属の独立遊撃艦隊としてゴードン・オニール上級大佐がタルシエン要塞に駐留しております」
「ありがとう。ウィンザー大佐。彼女は、第八師団作戦本部長であるから、よろしく。それとガデラ・カインズ大佐にも同席してもらった」
 パトリシアとカインズは軽く礼をした。

 顔合わせが済んで、サラマンダーのカフェテラスで、司令官と同伴の士官達がくつろいでいる。
「しかし、この旗艦は一体何なんだ。やたら女性が多いが……」
 第五艦隊のコビック准将が周囲を見回すように言った。
「知らんのか、別名をハーレム艦隊というらしい。ここの艦橋は全員女性だし、女性士官だけの部隊もあるそうだ。英雄としてのランドール提督の名声と、女性総参謀長のウィンザー大佐の人気によって、士官学校から女性士官が続々集まってきているそうだ。自然女性の割合が高くなってくる。どうだい、勃起艦隊とよばれる貴官の第五艦隊の連中が喜ぶんじゃないか」
 第十一艦隊のホリスター准将が答える。
「よしてくれよ。それは先任の旧艦隊司令の時のことだろう。いつまでも股間を膨らませているわけがない。俺が新生第五艦隊司令として任官されて以来、その悪名を取り払おうと努力しているのは、君も知っているはずだが」
「悪い悪い。ともかくだ。それだけでなく、全体として青二才ばかりともいえる、第十七艦隊の連中は。チェスターを除いてだが」
「俺達が戦闘の度に戦艦を消耗してそれぞれ五万隻に減らしているというのに、ここにはオニール上級大佐の独立遊撃艦隊を含めて十三万隻の艦隊があるし、シャイニング基地には、連邦から搾取した三万隻の未配属艦艇も残っている。同じ准将だったというのにな」
「そう、その三万隻だ。提督からは、まだ発表されていないが、どこへ配属されるのだろうか」
「オニール上級大佐の独立遊撃艦隊に回されて、新たに正式な一個艦隊を組織して、彼は准将に昇進するだろうというのが、最有力情報とのう・わ・さ・だ。オニール同様、カインズ大佐に第二独立遊撃艦隊をというのもある」
「噂はあてにできん。チェスターが昇進したのだって、誰も想像だにしていなかったのだからな。どっちにしろ艦艇を動かす将兵がまだ足りなくて未配属のままだ」
「軍令部では、士官学校の学生を繰り上げ卒業させる人選に入ったそうだ」
「ともかく三万隻の艦隊の存在が明らかなのだし、それの指揮権を巡って第十七艦隊では水面下で、駆け引きが行われているそうだ」
「三万隻を配属させるとなると、もう一人大佐を置かねばならないからな。中佐クラスの連中がやっきになっておる。もちろんその配下の士官も必要だ」
「第十七艦隊にいる限り、昇進は保証されているってところだな」

『まもなくアル・サフリエニ宙域バレッタ星系に入ります』
 艦内放送が告げていた。
「見ろ。要塞が見えてきた」
 コビック准将の指差す窓の向こうにタルシエン要塞の雄姿があった。
 それは近づけば近づくほどその巨大性に驚かされ、戦艦がまるで蟻のような小ささに感じられるほどであった。
「こ、これがタルシエン要塞か……この要塞をたった十数人の特殊工作部隊だけで、攻略したというのか」
「し、信じられん」

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2021.05.10 09:41 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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