銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 Ⅱ
2021.05.20

第二十六章 帝国遠征




 ワープゲートに進入するスティールの旗艦シルバーウィンド。
 それを囲むように護衛艦数隻が同行している。
 その様子を艦橋から眺めている副官が呟くように言った。
「来るときはあれだけの大艦隊を引き連れていたのに、帰りはやけに寂しい限りですね」
「連邦でも戦闘に長けた精鋭部隊などは、連邦にいない方が後が楽だからな。我々の計画には邪魔になるだけだ。致し方あるまい」
「それに閣下の配下の部隊でもありませんしね。みんな置いてきちゃいましたから、栄光の同盟侵攻の手柄を他人に譲るのかって不思議がってました」
「言わせておくさ。それもこれも連邦が存続してのことだからな」
「そうですね」
「ワープゲート始動十秒前です」
 オペレーターが告げるのを聞いて、自分の席に戻る副官。
「さあ、いよいよだ」


 機動要塞「タルシエン」中央管制室。
 中央の指揮官席に座りパネルスクリーンを見つめるアレックス。そしてオペレーター達も神妙な面持ちで眺めている。
 その映像は、要塞内はもちろんすべての艦艇の艦内放送に流されていた。
 画面一杯にクローズアップされたニュースキャスターが、背後の建物について解説している。
『こちらは共和国同盟評議会議場です。バーナード星系連邦の戦略陸軍の兵士達によって占拠され、議員全員が軍部によって強制的に解散させられました。今後は、総督府の管理指導の下に、再選挙が行われる予定であります。それでは、その総督府にカメラを切り替えましょう。アイシャさん、お願いします』
 カメラが切り替わって、別のニュースキャスターが登場する。
『はーい。アイシャです。総督府から中継します。さて、ご覧下さい。こちらがかつての共和国同盟軍統合本部であり、新たに設立された総督府となった建物であります。これからの政治の中心となる最高の統治機関となります』
 カメラが総督府の建物をズームアップする。
『総督府の最高責任者は、戦略陸軍マック・カーサー中将です……』

 放映を見ていたジェシカが呟く。 
「おかしいですね。トランターはスティール・メイスン少将が陥落させたのに、どうして別人が統治することになったのでしょうかね」
「そうそう。マック・カーサーなんて名前は聞いたことありません」
「戦略陸軍っていうくらいだから、惑星の占領や、占領後の政策を担当する部隊なのだろう。メイスンは宇宙艦隊所属で宇宙空間での戦闘が任務と、宇宙と地上とで分業になっているのかも知れない」

 キャスターの解説は続いている。
『それでは総統府の総督執務室にカメラは切り替わります。二コルさん、お願いします』
 見慣れたいつもながらのTV報道であった。
 普通なら報道管制が敷かれてしかるべきなのに、各報道機関は自由に取材と報道を許可されているようだった。通行人さえ自由に行き来している姿も映像の中に見受けられる。
 戒厳令を執らない、マック・カーサーという人物なりの占領政策の一環なのであろう。
『二コルです。こちら総督執務室では、マック・カーサー総督の記者会見が、まもなく執り行なわれことになっています』

「記者会見とは、しゃれたことしますね」
「どうやらカーサー提督という人物は、占領した住民との宥和を大切にしているらしい」
「融和政策ですか……」
「銀河帝国のことがあるからよ。銀河帝国に侵略するためには、まずバックボーンとなる地盤を固めておかねば、いざ侵略開始って時に反乱や騒動が起きて、足元を崩されたら元も子もない。そうですよね、提督」
 ジェシカが代わって解説してくれる。
 相変わらず手間をはぶいてくれる御仁だ。
「提督が、第八占領機甲部隊をトランターに残してきた理由がやっと判りましたよ。メビウスに内乱を起こさせて銀河帝国への侵略を少しでも遅らせようという魂胆だったのですね」
 リンダが左手のひらを右手拳で叩くようにして合点していた。
「気づくのが遅いわよ」
「だってえ……」
「あ! 総督が出てきました」
 パティーの声でみなが一斉に画面に集中する。
 そこにはバーナード星系連邦トリスタニア総督マック・カーサーが、入場してきて着席する場面であった。
『本日をもって、トリスタニア共和国同盟はバーナード星系連邦の支配下に入ったことを宣言する』
 そして開口一番占領宣言を言い放ったのである。
 場内に微かなどよめきがひろがった。
 一人の記者が代表質問に立った。
『共和国同盟には、出撃に間に合わなかった絶対防衛艦隊や、周辺守備艦隊を含めて、残存艦隊がまだ三百万隻ほど残っています。これらの処遇はどうなされるおつもりですか?』
『残存の旧共和国同盟軍は、新たに編成される総督軍に吸収統合されることになるだろう』
『タルシエン要塞にいるランドール提督のことはどうですか? 彼は未だに降伏の意思表示を表さずに、アル・サフリエニ方面に艦隊を展開させて、交戦状態を続けています』
『むろんランドールとて共和国同盟の一士官に過ぎない。共和国同盟が我々の軍門に下った以上、速やかに投降して、要塞を明け渡すことを要求するつもりだ。もちろん総督軍に合流するなら、これまで共和国同盟を守り通したその功績を評価して、十分な報酬と地位を約束する』

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2021.05.20 07:51 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十六章 帝国遠征 Ⅰ
2021.05.19

第二十六章 帝国遠征




 バーナード星系連邦の智将スティール・メイスン少将の策略によって、トランター本星は陥落し共和国同盟は滅んだ。すぐさまに占領政策が執り行われるその実施部隊として、マック・カーサー中将率いる戦略陸軍が、トランターの地へと召喚されることとなった。
 絶対防衛艦隊を蹴散らして、トランター本星の共和国同盟中央政府を降伏させたとはいえ、地方都市や惑星住民そのものが、降伏を承諾したわけではない。
 暫定政府を樹立して、住民を統治し新たなる国家の再建。
 そのためにも、その方面の最適任者が戦略陸軍司令長官マック・カーサー中将というわけである。
 トランターの衛星軌道上、カーサー中将の旗艦ザンジバルにおいて、攻略部隊指揮官のスティールとの間で引継ぎが行われていた。
「それでは、占領政策の方はおまかせ致します」
「了解した。しかし、なぜにわしを呼んだのだ。おまえぐらいの智将なら占領政策くらいお手のものだろうに」
「私は、敵惑星住民を相手にする占領政策などはやりたくないのですよ。何かと気に入らないとすぐに暴動を起こすし、パルチザンとなって抵抗の反旗を翻してくる。いつ寝首を欠かれるかも知れない不安定な政治状態が長く続くでしょう。そんな生臭い占領政策よりも、銀河帝国をどうやって攻略するかを考えたほうが楽しいじゃありませんか」
「ふふん。恒星ベラケルスを超新星爆発させて、敵艦隊三百万隻をあっという間に壊滅させたようにか?」
「私は地を這い蹲るよりも、宙(そら)を駆け巡るほうが性分に合っているんですよ」
「おいおい。それはわしに対するあてつけかね」
「ああ、これは失言しました。許してください」
「まあ、いいさ。連邦の次なる目標が、銀河帝国であり全銀河の掌握には違いないからな。せいぜい頑張って銀河帝国の攻略作戦を考えることだ。期待しているよ」
「ありがとうございます。タルシエン要塞に残るランドール艦隊がまだ残っておりますので、配下の八十万隻を残しておきます。どうぞお使いください。それでは、これにて失礼させて頂きます」
「うむ。ご苦労であった」
 敬礼をし、退室するスティール・メイスン。
 その背中を見送るカーサー。
「ところでメイスンが言っていたランドールのことだが、その後の詳細は判っておるか」
 そばに控えている副官に尋ねる。
「まったく音沙汰なしといったところです。何ですかねえ……本国が占領の憂き目にあっているというに、救援を差し向けるでもなし、一向にアル・サフリエニ宙域から出てこようとさえしません。あまつさえ旧統合軍本部への連絡もよこさないとは」
「何せ要塞だけでも強固なのにその前面には、旧同盟軍最強のシャイニング基地をはじめとして三つの基地が守っているからな。その気になれば新しい国家を興して攻め込んでくることもありうる。軍部に連絡をよこさないのはそのせいかも知れぬ。すでに奴は同盟軍を見限っている」
「同盟軍上層部からは、これまでに無理難題を押し付けられてきていましたからね。自分達に命令を下す上層部の存在が消失した以上は好き勝手放題でしょう」
「まあ何にせよ。目の上のタンコブは、早いうちに荒療治してでも消さなければならん。メイスンの奴め、一番の難物を残していきやがった」

 トランター衛星軌道上に浮かぶステーション。
 スティールの乗艦するシルバーウィンドが待機している。
「お帰りなさいませ。出発の準備は完了しています」
 乗降口で艦長の出迎えを受けて搭乗するスティール。
「判った。すぐに発進するぞ。ステーションに連絡してワープゲート使用許可を取ってくれ」
「了解しました」
 トランター本星と月との間にあるラグランジュ点に長大ワープを可能とするワープゲートが設置されていた。同様のワープゲートは共和国同盟の要所に設置されており、ゲート間を瞬時に移動することができる。もちろんバーナード星系連邦にも、まったく同じものがあるので、運行システムを調整すれば連邦へのワープも可能だ。
「連邦と同盟を自由に行き来できるようなった今、タルシエンは完全に孤立状態ですね」
「そういうことになるな」
「さすがのランドールもせっかく苦労して攻略した要塞を明け渡すしかないでしょう」
「そうは簡単にはいかないさ」
「どうしてですか?」
「トランターで訓練中だったランドール配下の第八占領機甲部隊が姿をくらましたという。どこへ消えたと思う?」
「はあ……確かに新たに旗艦となった新造機動戦艦ミネルバ共々、行方不明になっていますね」
「惑星占領用のモビールスーツ部隊だが、パルチザンとして暗躍する可能性がある。そうは思わないかね。そもそもタルシエン要塞攻略で最も占領部隊を必要としていた時期に、新兵の訓練と称してわざわざ占領機甲部隊をトランターに残したことが、常識的には理解できないだろう」
「ということは、ランドールはこうなることを前もって予測して、準備していたとおっしゃるのですか?」
「そういうことだ。最初から占領後の反抗勢力として残しておいたくらいだ。降伏することなど微塵も考えていないだろう」
「となると相当やっかいでしょうね」
「せいぜい、カーサー中将には頑張ってもらうしかないな」
「それがあるから、占領政策を譲られたのですね」
「忘れたか、私たちにはもう一つの大切な使命があるだろう」
「ああ、そうでしたね。同盟になんか関わっていられませんね」
「と納得したら、急いで帰るとしよう」
「判りました」

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2021.05.19 09:19 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 Ⅵ
2021.05.18

第二十五章 トランター陥落




 ベラケルス恒星系。
 ニールセン中将率いる同盟軍絶対防衛艦隊三百万隻と、スティール・メイスン少将率いる連邦軍侵攻艦隊八十万隻。
 両軍が恒星ベラケルスを挟むような位置関係で対峙するように接近しつつあった。
 連邦軍旗艦「シルバーウィンド」の艦橋。
「同盟軍との接触推定時刻、1705時です」
 スティールは指揮官席に腰掛けたまま、副官の持ってきたお茶をのんびりと飲んでいた。
 まもなく戦闘だというのに余裕綽々の表情である。今回の作戦に対する自信のほどが窺える一面だった。
 そんな指揮官の姿を見るに着け、配下の将兵達もすっかり信用し安心している。
「よし! そろそろいいだろう。輸送艦ハイドリパークに打電。当初予定通りに自動プログラムに任せてワープをセットし、乗員は速やかに退艦せよ」
 正面スクリーンには輸送艦ハイドリパークが映し出されている。その艦内には小ブラックホールが納められている。
 やがて退艦する乗員達の舟艇が繰り出して、近くの同僚艦に拾われていく。
「ハイドリパークの乗員、退艦終了しました」
「自動ワープ開始まで三分です」
「うん……」
 飲んでいたカップを副官に返しながら、
「全艦に戦闘配備命令を出せ。それと全艦放送の手配だ」
 と戦闘指示を下す。
「全艦、戦闘配備」
 すぐさまに指示命令が伝達されて、臨戦態勢が整っていく。
「自動ワープまで二分」
「戦闘配備完了しました」
「全艦放送OKです」
「判った」
 というと、スティールはこれから繰り広げられる戦闘に際しての訓示をはじめた。
「全将兵の諸君。これより開始される戦闘は、経験したことのない前代未聞のものとなるであろう。何が起きても慌てず騒がず、与えられた作戦通りに任務を遂行してくれたまえ。
 戦闘がはじまれば一切の通信も連絡もできない状態になるはずだ。もはや指揮官の采配は届くことはない。君たちひとりひとりが指揮官となり、自分の判断で的確に行動してくれ。勝つも負けるも君たちの腕次第だ。生きて再び故郷の大地を踏みしめたかったら、持てるすべての力を振り絞って戦ってくれたまえ。迫り来る敵艦を各個撃破し、この戦いを勝利へと導くのだ。
 そして敵艦隊を壊滅し、勇躍敵の母星トランターに迫ってこれを占領、共和国同盟をこの手に入れるのだ。以上だ、諸君達の奮戦を期待する」
 身を震わせるような熱い熱弁だった。
 放送を聴いた全将兵が、目前の敵艦隊に対するだけでなく、共和国同盟そのものにも言及する指揮官の言葉に喚起した。
「自動ワープ開始。三十秒前です」
「よし、光電子システムをすべて停止し、補助の運営システムに切り替えだ」
 光電子システムは、光通信を軸とした光ファイバー網が巡らされ、中央処理システムを十六進光コンピューターが担っていた。一方の補助の運営システムは電流による通信と、電気信号の強弱やオンとオフとで計算を行う二進法の制御コンピュータによっていた。
 光は真空中ではいわゆる光速で移動するが、物質中ではその屈折率によって速度が制限される。これを利用して、複数の誘電体を光の波長程度の周期で交互に積層させた構造体を持つ結晶として、フォトニック結晶というものが開発された。その構造次第によって光の伝播速度を極端に遅くしたり、光が同じ軌道を周回し続ける無限回路も可能である。光の伝播速度を変え自由自在に曲げ、光の回折や干渉といった現象をも利用して開発された光量子コンピューターを、そのシステムの中心に置いたものが光電子システムである。
 つまり一度に膨大なデータを送り超高速で処理できる光を主体としたシステムに対して、電流によるシステムはデータ量も処理速度も一万分の一にも満たないお粗末な代物だった。ゆえに戦闘に際しては自動システムは一切使えず、ミサイルや魚雷発射はすべて人間の目で計測してデータを入力して発射する。実際にはそんな暇はないから、すべて感に頼る当てずっぽうとなる。スティールが艦内放送で言った通りのことが再現されるということだ。
「補助システムに切り替え完了しました」
「自動ワープ開始、十秒前。……5・4・3・2・1。ワープします」
 スクリーンに映っていた輸送艦ハイドリパークがワープし、艦影が消え去った。
「ちゃんとワープアウトしたかどうかを確認できないのが残念だな」
「いずれ判りますよ」
「よし、全艦進路そのままで敵艦に向かえ。これが最後の通信だ」
「了解。全艦、進路そのままで敵艦に向かえ」


 それは突然に始まった。
 スクリーンがすっと消え、照明も落ちてしまった。
「補助の電源に切り替えろ。緊急発電装置始動」
「補助電源に切り替えます」
「緊急発電装置始動」
 そして奇妙な現象が起こった。
 すべての物体が光り輝きはじめたのだ。
 機器や艦の壁面、ありとあらゆるもの、もちろん人間の身体も例外ではなかった。
「ニュートリノバーストがはじまったな」
 恒星ベラケルスの中心核で爆縮がはじまったのだ。
 発生したニュートリノが光速で中心核から恒星表面へと駆け抜け、宇宙空間へと飛び散っていく。そして進路にあるすべての物体を貫いていく。付近にある両軍の艦艇や内部の機器、そして生きている人体も例外にはならない。
 その数は一インチ当たり数百億個を超える途方もない数である。しかしニュートリノが物体に衝突することは、極めてまれのことである。
 元来物質を構成する原子は中心にある原子核と外側を回っている電子とで構成されているが、原子の大きさとなる最外郭電子の軌道半径にくらべれば、原子核の大きさは点ほどの極微小でしかない。いわば原子というものはすかすかであるということである。通常、荷電素粒子は、この電子が持つマイナスの電荷や、原子核のプラスの電荷によって弾き飛ばされて、容易に近づけない。
 しかし電荷を持たず質量もほとんどないニュートリノはこのすかすかの空間を平気で通り過ぎていく。
 副官が神妙な面持ちで尋ねる。
「大丈夫ですかね。放射線病のような身体に異常は起きないでしょうかね」
「判らないさ。誰も経験したことがないのだから。それに我々の住む母星にしても、バーナード星からのニュートリノが一平方センチ当たり毎秒六十六億個も通過しているのだからな」
「毎秒六十六億個? それで平気でいるんですかあ。信じられませんね」
「敵戦艦、推定射程距離に入りました」
 計器類が正常に作動していないから、速度と時間の経過で推測して判断しているのであった。
「よし、攻撃開始!」
 旗艦シルバーウィンドが砲撃を開始し、それを合図にしていたかのように味方艦が次々と攻撃開始した。

 一方の同盟軍艦隊は、突然の異常事態にパニックになっていた。
「な、なんだこれは?」
「身体が光っているぞ!」
「いったい何が起きてるんだ」
 口々に悲鳴を上げ、恐れおののき、完全に自我の崩壊を起こしていた。
 持ち場を離れ、まるで夢遊病患者のように艦内を右往左往していた。
 指揮官たるニールセンも同様であった。
「こ、これは、敵の新兵器か?」
 正常な精神にある者は一人もいなかった。
 そんな状態にある時に、スティール率いる連邦軍艦隊の攻撃が開始されたのである。
 次々と撃破されていく同盟軍艦隊。

 まるで戦いにならなかった。

 やがてニュートリノバーストが終了して元に戻り始めた。
「よし、システムを復旧させる。光電子システムに戻し、直ちに現宙域を離脱する。全艦ワープ準備にかかれ!」
 急がねばならなかった。
 ニュートリノバーストの次に来るのは、超新星爆発である。
 おそらく一時間以内に、それは起きるはずであった。
「システム復旧完了しました」
「ワープ準備完了!」
 直ちにワープ体制に入るスティール艦隊。
「ワープ!」
 一斉に戦闘宙域から姿を消すスティール艦隊。
 同盟軍艦隊はなおも指揮系統を乱したまま当てどもなく浮遊していた。
 そして直後に超新星爆発が起こり、同盟軍絶対防衛艦隊三百万隻を飲み込んだのである。

 ニールセン中将率いる絶対防衛艦隊壊滅。
 その報が伝えられたのは、それから二時間後であった。
 スティール率いる艦隊は、トランター本星に進撃を開始していた。

 そしてさらに五時間後、ついにトランター本星は陥落し、共和国同盟は滅んだ。

第二十五章 了

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2021.05.18 08:28 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 V
2021.05.17

第二十五章 トランター陥落




 タルシエン要塞。
 士官用の喫茶室にアレックスと参謀達が集っていた。
 いわゆるお茶を飲みながらの作戦会議といったところである。
 連邦が現れたのは絶対防衛圏内だから、自分らにはお呼びは掛からないし、ここからではどうしようもないからである。
「絶対防衛艦隊および連邦軍艦隊が動き出しました」
 パトリシアが新たなニュースを持って入ってきた。
「やっと動いたか」
「同盟軍の艦隊は総勢三百万隻。対する連邦軍は八十万隻です」
「しかし同盟軍はともかく連邦軍が一時進軍を停止していたのは何故でしょうか? まるで同盟軍が動き出すまで待っていたふしが見られます」
 ジェシカが質問の声を挙げた。
「待っていたんだよ。同盟軍が集結し一団となって迎撃に向かって来るのをね。どうやら連邦は、スティール・メイスンというべきかな……、同盟軍を一気に壊滅させるつもりのようだ」
「両艦隊の遭遇推定位置、ベラケルス恒星系と思われます」
「ベラケルスか……。赤色超巨星だな。この戦い、ベラケルスに先に着いたほうが勝つ」
「どういうことですか。敵は八十万隻にたいして我が方は四倍近い三百万隻ですよ」
「艦船の数は関係ない。我が軍が一億、一兆隻の艦隊で向かったとしても、先にベラケルスに到着したたった一隻の敵艦によって壊滅させられることだって可能だよ」
「馬鹿な」
「提督……まさか、あの作戦を」
 パトリシアが気づいたようだ。
 何かにつけてアレックスと共に、机上の戦術プランを練り上げてきたので、該当する作戦プランがあるのを思い出したのだ。
「その、まさかさ。どうやら、敵将も考え付いたようだ。進撃コースをわざわざ遠回りとなる、ベラケルスを経由しているところをみるとな」
「はい。同盟が全速で向かっているのにたいし、連邦は丁度恒星ベラケルスに十分差で先に到着できるように艦隊速度を加減している節がみられます」
「どういうことですか。私にもわけを話してください」
 ジェシカが再び質問する。
 疑問が生じればすぐに解決しようとする性格だからだ。
「恒星ベラケルスは、いつ超新星爆発を起こすかどうかという赤色超巨星だ。中心部では重力を支えきれなくなって、すでに重力崩壊がはじまっている。そこへブラックホール爆弾をぶち込んでやればどうなると思う?」
「あ……」
 一同が息を呑んだ。
 ゴードンが一番に答える。
「そうか! 超巨星は急速な爆縮と同時に超新星爆発を起こして、近くにいた艦隊は全滅するってことですね」
「でも条件は両軍とも同じではないですか」
「いや、違うな。超爆といっても巨大な恒星だ。中心部で重力崩壊が起こって衝撃波が発生する。その衝撃波が外縁部に伝わり超新星爆発となるまでには時間がかかる。超新星爆発という現象は、中心核で起こった重力崩壊の衝撃波が恒星表面に達してはじめて大爆発を引き起こすのだ。通常の超新星爆発は、重力崩壊が始まって数千年から数万年かかると言われている。だがブラックホール爆弾を使って爆縮を起こせばすぐに始まる」
「へえ、そうなんですか? 知りませんでした。さすが宇宙って、人間の尺度で測りきれない物差しを持っているんですね」
「それじゃあ、意味がないじゃないですか。中心核で爆縮が起こっていても、見た目何も起こっていないということでしょう?」
 フランソワが尋ねる。
「違うな。確かに見た目は変わらないように見える。だが、ニュートリノだけは恒星中心から光速に近い速度で伝わってゆくので、数秒後にニュートリノバーストが艦隊を襲うことになる。ニュートリノに襲われた艦隊がどうなるかわかるか?」
「ニュートリノってのは、ものすごい透過力を持っていて、どんな物質でも突き抜けてしまうんですよね。それでも非常にごくまれに、原子核と衝突して光を発生するってのは知ってます」
「正確には原子核をニュートリノが叩いた時に発生する光速の陽電子が水中を通過するときにチェレンフ光として輝くのだよ。艦には光コンピューターをはじめとして、光電子管やら光ファイバー網があって、チェレンコフ光によってそれらがすべて一時使用不能になるってこと」
「でも水中ではありませんよ。人体なら輝くでしょうけど」
「だがチェレンコフ光として観測されているのは実験室内だけだ。これが恒星のすぐそばで桁違いの数のニュートリノが通過すればどうなるか判らないだろう。それにどんな物質にも水分が含まれているしな」
「まあ、ともかく艦の制御が出来ない空白の時間が発生するということですよね……」
「制御が出来なくても、艦は慣性で進行方向にそのまま進んでいく。その時、ベラケルスから遠ざかる位置にある艦隊と、近づきつつある艦隊では?」
「ああ!」
「ニュートリノバーストが止んだ時には、すでに艦隊はすれ違っていて、相対位置が逆転している。やがて超爆が起こった時に、連邦は当然ワープ体制に入っているだろうから、即座にワープして逃げることが出来るのにたいして、同盟はターンして恒星を待避しつつワープ準備をしてからでないとワープに入れない。おそらく超爆には間に合わないだろう」

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2021.05.17 08:05 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十五章 トランター陥落 Ⅳ
2021.05.16

第二十五章 トランター陥落




 要塞中央コントロール。
「陽子反陽子対消滅エネルギー砲は、正常に作動、発射されました」
「よし、マニュアルに沿って、各種のチェック項目を実施せよ」
 マニュアルには、発射直後から確認すべき要塞損傷状態の確認チェックや素粒子被爆線量測定などの手順が各項目ごとに詳細に書き綴られていた。そのチェック項目は多岐に渡るために、いちいち口頭で指示などしていられないのである。
「ふう……」
 とため息をつくフリード。
 その肩に手を置いてアレックスが労った。
「ご苦労様。後は任せて休憩したまえ。報告は後で君のところへ送るよ」
「了解しました」
 席を立ち上がり、退室するフリード。
 その後姿を見ながらパトリシアが感心する。
「無事に発射成功しましたね。それもこれもフリードさんのおかげですね。発射マニュアルのない状態から、独自に調べ上げて複雑な行程を網羅した詳細マニュアルを作成しちゃうんですから」
「そこが天才たる所以だな」
「これで一安心ですね。要塞砲をタルシエンの橋に照準を合わせておけば……」
 フランソワも間に入ってくる。
「いや。もう二度と要塞砲は発射することはないだろう。今回が最初で最後の試射だ」
「え? どういうことですか」
「今後はその必要性がなくなるからだ」
「詳しく説明していただけませんか?」
 フランソワが興味津々の表情で尋ねてくる。
「内緒だ!」
 といって、笑って答えないアレックス。
「ていとくう~。それはないですよお」
 食い下がって、ぜひとも聞き出そうとするフランソワ。
「フランソワ。やめなさいね」
「でもお……」
「さあさあ、休憩時間よ。行くわよ」
 とフランソワの背中を押して出て行くパトリシア。
「あん!」

 それから二週間が過ぎ去った。
 タルシエンを奪取され、通常航行での共和国同盟への進撃ルートを絶たれたバーナード星系連邦は、不気味なほどに静かだった。
 これまではタルシエンと敵母星の間に頻繁に行われていた通信が途絶えたことで、傍受による敵軍の情勢も知りうることができなくなっていた。もっともレイチェルがトランターに極秘任務で居残ってしまって、ここにいないことも原因の一つでもあるが。
「ほんとに静かですね……静か過ぎて、余計に不気味に感じます」
 つい先ほど哨戒の任務を終えて戻ってきたゴードンがこぼしている。戦いの場を失って暇を持て余している雰囲気が滲み出ていた。
 その時、警報が鳴り渡った。
「なんだ!」
 オペレーター達に緊張が走る。
「統帥本部から入電!」
「報告しろ」
「ソロモン海域に、敵艦隊を発見との報です」
「ソロモン海域? 絶対防衛圏内じゃないか。詳細は?」
「ソロモン海域にある無人監視衛星の重力探知機が、ワープアウトした敵艦隊を探知。戦艦が四隻ずつ並んで進撃しているところをカメラがキャッチしました」
「四隻ずつ並んで?」
「そうです」
「そうか……。やはり、その作戦できたか」
「え? どういうことですか」
「タルシエンからの侵略を諦めて、ハイパーワープドライブエンジンによる長距離ワープを使って、絶対防衛圏内への直接攻撃に踏み切ったというわけだよ」
「しかし、大河を渡ることのできるハイパーワープは燃料を大量消費して、ぎりぎり往復するだけの航続距離しかありません。絶対防衛圏内に踏み込んでの継続的な戦闘は不可能とされています。だからこそ連邦はタルシエンの橋の出口に要塞を築いて橋頭堡となし、そこから侵略を続けていたんじゃないですか」
「では聞くが、敵戦艦が仲良く四隻ずつ並んでいたことの理由が判るか?」
「判りません。どういうことですか?」
「多段式の打ち上げロケットを考えてみたまえ。ペイロードを宇宙へ運ぶのに、一段目・二段目・三段目という具合に各段のロケットを順番に使って燃焼加速を行い、燃焼が終了すれば切り離されるだろう? 打ち上げロケットで何が一番重量を増やしているかといえば燃料そのものの重量だ。下の段が切り離されれば当然全体の重量は軽くなるし、上の段にいくほど燃料消費量は少なくて済む。本体ロケットに取り付けられたブースターエンジンでもいい。要は最終段のロケットは、出番がくるまではずっと押し上げて貰うだけで、燃料を温存しているということさ」
「ブースター? そうか、判りましたよ。四隻のうち、たぶん三隻がブースター役で、残りの一隻を運ぶだけなのでしょう。おそらくこの後、引き返すのではないですか?」
「理解できたようだな」
「しかしそれでは、戦闘に参加できる艦艇数が限られてしまいます。百万隻を下るのではないでしょうか。対して絶対防衛艦隊は総勢五百万隻です。いくら戦闘未経験の素人の艦隊とて数が数ですから……」
「当然、二の矢を放ってくるに違いないさ。想像を絶する作戦でね」
「しかし、さすがにこれだけ離れていると、いくらニールセンでもここから迎撃に出ろとは言えないでしょうね」
「仮に迎撃命令が出たとしても、間に合うわけがないしな」
「ニールセンの奴、絶対防衛圏内に踏み込まれて、今頃慌てふためいているでしょうね」


 そのニールセン中将は怒り狂っていた。
「一体これはどうしたことだ! 絶対防衛圏内だぞ。ランドールは何をしていたのだ」
「閣下。敵艦隊はタルシエンからやってきたのではありません。大河をハイパーワープしてきたのです」
「ハイパーワープだと! そんな馬鹿なことがあるか。燃料はどうしたんだ? ハイパーワープは燃料を馬鹿食いする。撤退のことを考えれば余分の燃料などあるはずがないじゃないか。あり得ん!」
「ハンニバルの時のように、現地調達するつもりでは?」
「一個艦隊程度ならともかく、あれだけの数を補給できるほどの補給基地は、あちら方面にはないぞ。そのまえに絶対防衛艦隊が到着して交戦となる。燃料不足でどうやって戦うというのだ」
「はあ……。まったく理解できません」
「それより出撃準備はまだ完了しないのか?」
「はあ、なにぶん突然のこととて連絡の取れない司令官が多く。かつまた乗組員すらも集合がおぼつかない有様で」
「何のための絶対防衛艦隊なのだ。絶対防衛圏内に敵艦隊を踏み入れさせないための軍隊じゃないのか?」
「はあ……。これまでは侵略となれば、タルシエンからと決まっていました。ゆえに、まず第二軍団が迎撃し、万が一突破された際には周辺守備艦隊の第五軍団が動き、その時点ではじめて絶対防衛艦隊に待機命令が出されるという三段構えの防衛構想でした。それがいきなり第二・第五軍団の守備範囲を超えて絶対防衛権内に侵入してきたのです」
「つまり……第二軍団が突破されない限り、防衛艦隊の将兵達は後方でのほほんと遊びまわっているというわけだな」
「言い方を変えればそうなりますかね」
「こうなったら致し方ない。TV報道でも何でも良い。敵艦隊が侵略していることを報道して、全将兵にすみやかに艦隊に復帰するように伝えろ」
「そ、そんなことしたら一般市民がパニックに陥ります」
「敵艦隊は目前にまで迫っているのだぞ。侵略されてしまったら、何もかも終わりだ。遊びまわっている艦隊勤務の将兵達を集めるにはそれしかないじゃないか」


 スティール率いる艦隊。
 ブースター役の後方戦艦との切り離し作業が続いている。
「作業は、ほぼ八割がた終了したというところです」
「慌てることはない。どうせ同盟軍側も大混乱していてすぐには迎撃に出てこれないだろうさ。絶対防衛艦隊の陣営が整うまでゆっくり待つとしよう。ハイパーワープの影響で緊張したり眠れなかった者もいるはずだ。今のうちに休ませておくことだ」
「相手の陣営が整うまで待ってやるなんて聞いたことがないですね」
「有象無象の奴らとはいえ数が数だからな、いちいち相手にしていたら燃料弾薬がいくらあっても足りなくなる」
「すべては決戦場で一気に形を付けるというわけですね」
「そう……。すべては決戦場。ベラケルス恒星系がやつらの墓場だ」

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2021.05.16 12:01 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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