銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅶ
2021.03.23

第十六章 新艦長誕生




 それから数日後。
 リンダのサラマンダー艦長としての初搭乗の日がやってきた。
 その日は、リンダの大尉の任官式でもあった。
 サラマンダーの上級士官搭乗口には、寿退艦予定の副長のカーラ・ホフマン中尉以下主要な艦の責任者達が出迎えていた。
「ようこそリンダ・スカイラーク艦長。お待ち申しておりました」
 艦長と呼ばれて、改めて感慨深げになりつつも、就任の挨拶を交わすリンダ。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 カーラが出迎えの要人達を紹介し始めた。
「紹介します。機関長のジェド・コナーズ上級曹長です」
「コナーズです」
「よろしく」
「航海長のエレナ・F・ソード先任上級上等曹長です」
「エレナです。よろしく」
「よろしく」
 以下次々と紹介が続いていく。
「それでは早速艦橋へ案内しましょう。みんなが待ってますよ」
「判りました」
 タラップを昇り艦内に入ってすぐに、乗艦受付所があった。
 そこで乗艦する士官達を管理しているデビッド・ムーア軍曹に申告する。
「リンダ・スカイラーク大尉。乗艦許可願います」
 そしてリンダの個人情報が記録されているIDカードを差し出す。
 それを受け取って端末に差し込み、個人情報を確認しているムーア。
 画面にリンダの写真画像と共に、チェックOKの文字が現れた。
「リンダ・スカイラーク大尉を確認しました。艦長殿、サラマンダーへようこそ」
 とカードを返しながら敬礼をした。
「ありがとう」

 艦橋に入った。
 一斉にオペレーター達が立ち上がって敬礼で出迎えてくれた。
「リンダ・スカイラーク艦長! ようこそいらっしゃいました」
「これから、よろしくお願いします」
 ここでもまた士官達の紹介が繰り広げられた。
 周知の通りに全員女性士官である。
 艦隊の総指揮を司るサラマンダーの艦橋は、今まで勤務していた軽空母セイレーンと大きく違うところがあった。
 その大きな違いは艦橋が二層構造になっていることだった。
 一個の戦艦としての操舵や艦の艤装兵器への戦闘指示を執り行う戦闘艦橋と、一段上の階層にあって、戦闘艦橋を見下ろす位置にある、ランドール提督が鎮座する艦隊運用のための戦術艦橋とに分かれていた。
 戦闘艦橋には、操舵手、艤装兵器運用担当、機関運用担当、レーダー哨戒担当、重力加速度計探知担当など直接の戦闘に関わるオペレーターがおり、戦術艦橋には多くの通信管制担当がひしめいており、他にパネルスクリーンなどの操作や戦術コンピューターなどの設定を行なう技術担当、そして各種参謀達の席がある。
「艦長の席はこちらです。わたしの隣の席になります」
 航海長のエレナが席を案内してくれた。
 艦長と航海長は何かと蜜に連絡を取り合う必要があるので席が隣同士になっているのだ。しかも戦術艦橋の一番前にある。
 そこは、旗艦艦隊司令としての修行をはじめた、前艦長スザンナ・ベンソン大尉の席だったところだ。
「今後ともよろしくお願いします」
「よろしくね」

 丁度そこへランドール提督がパトリシアと共に入室してきた。
 他のオペレーター達と共に立ち上がって敬礼するリンダ。
 目ざとくリンダを確認して話しかけるランドール提督。
「良く来たねリンダ。よろしく頼む」
「はい、期待に応えられるように頑張ります」
「うん。みんなも共にカバーし合って、より良い艦隊運用が行なえるようにしてくれたまえ」
「了解しました!」
 全員が一斉に答えた。
「いい声だな。早速だが任務だ」
「ええーっ! いきなりですかあ?」
 黄色い声が飛び交った。リンダの声も混じっている。
「こらこら。遊びじゃないんだぞ。リンダ、初の操艦だ。心の準備はいいな」
「は、はい。いつでも結構です」
「よし、それでは全員配置に付け」
 ランドール提督はやさしい口調ではあったが、何かしら重要な任務を帯びているらしいことに、オペレーター達は気づきはじめていた。
「これよりシャイニング基地に向かう。バーナード星系連邦の新情報を入手したからだ。連邦が総勢七個艦隊の大艦隊をもって、シャイニング基地及びクリーグ基地に向けて大攻勢をかけて来ることが判明したのだ」
 オペレーター達の表情が一瞬にして固まった。
「大攻勢って、それはいつの事ですか?」
「時期はまだ明らかにされていないが、急を要することは確実だ。速やかにシャイニング基地に戻って打開策を練らなければならない」
 淡々と答えるランドールであったが、事態は急転直下で進展していくことになった。
「全艦発進準備。シャイニング基地に向かえ」
 リンダにとっては着任早々の大仕事が待ち受けていた。

第十六章 了

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2021.03.23 07:22 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅵ
2021.03.22

第十六章 新艦長誕生




 カラカス基地司令部にある、ランドール提督のオフィスを訪れるリンダとジェシカ。
 秘書官のサバンナ・ニクラウス中尉に出頭命令に応じて来訪したことを告げる。
「お待ちしておりました。少々お待ちください」
 インターフォンを取って中に居るランドールに連絡を入れるサバンナ。 
「リンダ・スカイラーク中尉がいらっしゃいました……。はい、判りました」
 受話器を置いてから言った。
「どうぞ。お入りください」
 正面のドアが開いた。
「リンダ・スカイラーク中尉。入ります」
 ドアをくぐって中に入るリンダ。
 正面の大きな机に威風堂々のランドール提督が腰掛けており、周りには見慣れた人物達が立ち並んでいた。少佐の制服も凛々しいパトリシアを筆頭にガデラ・カインズ中佐、ディープス・ロイド中佐、スザンナ・ベンソン艦長、そしてリーナ・ロングフェル大尉もいた。ゴードンはシャイニング基地方面で、哨戒作戦任務で出撃中である。
「リーナ!」
 まさか、やっぱり報告したの?
 と疑問が再び湧き上がる。
 しかし提督の表情はにこやかで、とても注意されるような雰囲気ではなかった。周囲の参謀達も和やかであった。
「リンダ。休息中のところ済まなかったね」
「い、いえ……」
「このやかましのジェシカの下で、セイレーンの艦長として日頃から激務をこなしてくれて感謝している」
「提督! そんな言い方しないでください。まるでわたしが苛めているみたいじゃないですか?」
 ジェシカが横から口を出した。
「違うのか? このリーナから日頃の君の様子を聞いているがね。何かにつけて苛めて遊んでいるそうじゃないか」
「リーナ! あなた、そんな事まで報告しているの?」
「わたしは副指揮官として、見たこと感じたことを正直に報告しているだけです」
 と淡々として答えるリーナ。
「違います。フランドル少佐は、艦長として甘えた態度があるわたしを、叱責し教育してくださっているのです」
「そ、そうですよ」
 冷や汗拭きながら弁解するジェシカ。
「まあいい。話を戻そう」
 とにこやかに答える提督。
「さて、日頃からの君の働きぶりについては、このリーナから報告を聞いているが……」
 あ、やっぱり報告していたんだ。
 いやだなあ……。
 そう思いつつもランドールの言葉に耳を傾ける。
「君にはセイレーン艦長としてこれまで任務についてもらったわけだが、そろそろ他の艦を指揮してみたいと思わないか?」
「他の艦に転属ですか?」
「そうだ。すでに大尉としての内定が下ったことは聞いているな」
「はい。伺っております。それに関しては、感謝しております」
「大尉となると、通常は主戦級の攻撃空母の艦長として指揮を任されることが多い。がしかし、君も知っての通りに、我が部隊には主戦級の攻撃空母は一隻も配備されていない」
「確かにその通りです」
「そこでだ。君には、第十七艦隊旗艦サラマンダーの艦長としての任務を与えたいと思うのだがどうかね?」
「サラマンダー!」
 衝撃だった。
 サラマンダーと言えば、共和国同盟にあっては最速最強の高速戦艦。連邦を震撼さ
せる代名詞として名だたる名鑑中の名鑑である。
「し、しかし……サラマンダーの艦長は、スザンナ・ベンソン大尉がいらっしゃいます」
「スザンナには艦長の任を降りてもらうことにした。本人にとっては、いつまでも艦長として腕を振るっていたかったろうが、後任にすべてを託しその成長を見守ることも大事だと説き伏せた」
「ではベンソン大尉は?」
「スザンナは先任上級大尉としてすでに少佐への昇進点に達している。いずれはディープス・ロイド中佐の後任として旗艦艦隊の司令官の任務を与えるつもりだ。ただ戦術士官ではないので現状では司令官にはなれない。そこでしばらくは中佐の下で副司令官の任務をこなし、戦術士官としての艦隊勤務教育を施す事にしている」
 司令官になる資格を有するには、高等士官学校において戦術専攻科の課程を卒業して任官されるか、このスザンナのように少佐昇進点に達した一般士官が、戦術士官としての艦隊勤務教育を一定期間受けた後に査問審査に合格した場合、そしてもう一つは名誉勲章を受けるほどの素晴らしい功績を挙げた場合の三種類があった。
 なお、戦術士官は胸に職能階級を示す徽章を付けているので、戦術士官と判別がつくようになっている。
「艦隊勤務教育ですか……」
 提督が、スザンナに類稀なる指揮統率能力を見出して、何かにつけて指揮官としての教育をしていたのはよく知られていることだ。それが正式採用されたわけである。
 しかも、旗艦艦隊司令に任命するのだという。これこそまさしく適材適所の好材料である。

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2021.03.22 12:13 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 V
2021.03.22

第十六章 新艦長誕生




 カラカス基地に戻った第十一攻撃空母部隊。
 その旗艦「セイレーン」の艦長、リンダ・スカイラークは、各艦への弾薬・燃料等の補給と、艦体の整備の指揮のために艦橋に残っていた。
「よお、リンダ。居残りか? 確か休息中だろう」
 ハリソン・クライスラーが尋ねてきていた。
「ええ。艦長としての責務がありますから。休んではいられません」
「殊勝な心がけだね。その調子だよ」
「ところで何か御用ですか?」
「用は他でもない。例の賭け事のことだよ」
「ああ、あれですね。ちゃんと集計は取れてますよ。各人の配当の計算も終了しています」
「おお、さすが!」
「各人にメールを送って確認してもらって、それぞれの軍預金口座から入出金する予定です」
「そこまでやってくれるのか? ありがたいね」
「戦闘中に賭け事などとリーナに叱責されました。どうせなら最後まで面倒みてあげなさいと言われたものですから」
「ほう……リーナがねえ」
「ところでパトリシアさんがどうなったかご存知ですか?」
「ああ、それだったら、無事に試験に合格して少佐に昇進を果たしたそうだ」
「よかったですね。艦長としてご一緒した甲斐がありました」
「何を言っているか。君だって、大尉への昇進が内定したそうじゃないか」
「ああ、そうですねえ」
「気が抜けた声出すなよ」
「だって、そんな実感が湧かないんですよね。何もしなくても、いつの間にか昇進していたという感じでさあ」
「それはみんなも同じ思いだよ。ランドール提督の昇進に引きずられるように昇進していく。しかし提督はよく言っているじゃないか」
『何もしないのに、昇進したと思っている者もいるようだが、それは間違った考えだと言っておこう。指令に忠実に従って任務を遂行していることこそ肝心なのだ。指令を無視し自分勝手な行動をしたり、指令に対し疑問を抱き部下の士気を低下させるような発言をしたりする。そんな足を引っ張るような行為をしない。私を信じ、私に従うことが功績として認められる結果として現れるのだ』
「……とね」
「確かにそうおっしゃってましたね」
「何にせよだ。昇進おめでとう」
「ありがとう、ハリソン」

 リンダは、タシミール星への出撃一時間前の事を思い起こしていた。
 上官であるジェシカ・フランドル少佐に呼び止められた。
「セイレーンの艦長として、スザンナを臨時に任命してはどうかという意見もあったわ」
「オニール大佐ですか?」
「その通り」
「ウィンザー大尉とは提督共々、士官学校時代からの親友ですからね。心配するのは当然でしょう。艦隊運用にも実績があって、信頼のおける者を艦長に推したかったのでしょう」
「当然の配慮でしょうね」
「でも提督自らが拒否されたわ」
「拒否した?」
「司令はこう言ったわ」
『セイレーンの艦長はリンダだ。第十一攻撃空母部隊の旗艦の艦長として、最もふさわしい人物としてジェシカが推薦して、私が任命したものだ。どうして代える必要があるか』
「とね。これがどういう意味か判る?」
「信頼されているということですか?」
「そうね。わたしの口から言うののも何だけど、司令はわたしを信頼してくれているし、わたしの部下であるあなたの事をも信頼しているわ。『部下を信ぜずして司令は務まらない』というのが口癖。しかも自分の大切な人物をも任せるほどにね。これはパトリシアの任官試験であるけど、あなたの艦長としての技量をも試される機会でもあるのよ。今回の任務を無事に終了したら、あなたの大尉への昇進も内定しているのよ」
「そうでしたか……」
 意外という表情を見せているリンダ。

「取りあえずは、わたしの昇進試験は合格したというわけね……」
 一人呟くリンダだった。
「何だよ。独り言なんか、らしくないぞ」
「そうだね」
「さてと……俺も、自分の機体の整備に取り掛からなくちゃならん。賭けのことはサンキューな」
「どういたしまして」
「まあ、頑張りなよ」
「うん」
 軽く手を振るようにしてハリソンが引き返していった。
 入れ替わるようにしてジェシカがやってきた。
「あ、いたいた。探したわよ」
「探すも何も、艦長なんですから、ずっとここに居ましたよ。で、ジェシカ……。何でしょうか?」
「提督がお呼びよ。至急、基地司令室に来て頂戴」
「提督が……?」
 提督が何の用だろう?
 と疑問に思いつつも、後のことを副長のロザンナに任せて、セイレーンから降りて基地司令室に急ぐ。
「もしかしたら、タシミールの時、パトリシアを艦内案内した際に、出発前にジミー達とおしゃべりして任務を怠慢していたことかしら? リーナが報告してて注意されるのかな……任務には厳しい提督だからなあ」
 ううん。リーナがそんなこと報告するはずない。
「一体、わたしに何の用なんですか?」
 ジェシカに尋ねてみるが、微笑んでいるだけで答えてくれない。
「行ってみれば判るわよ」

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2021.03.22 12:07 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅳ
2021.03.21

第十六章 サラマンダー新艦長誕生




「さあ、時間よ。行きましょう」
 パトリシアは少佐に昇進したとはいえ、新たなる任務を与えられていない以上、これまで通りアレックスの副官としての職務を引き続き果たさねばならない。作戦室の受け付けに座り次々と入室する幕僚達の名簿をとり案内役を務めた。
 幕僚全員が集まった頃合を計ったようにアレックスがやってくる。
「全員揃っています」
「ごくろうさま」
 いつものようにアレックスの後ろの副官席に腰を降ろすパトリシア。
「早速だが、新しい幕僚を紹介しよう。ウィンザー少佐」
「はい」
 名前を呼ばれて立ち上がるパトリシア。
「知っての通り新任の幕僚となった。パトリシア・ウィンザー少佐だ。みんなよろしく頼む」
「よろしくお願いします」
 といって深くお辞儀をするパトリシア。
「よろしく」
「頑張れよ」
 という声がかかった。
「ウィンザー少佐には、私の席の隣に座ってもらうことにする」
 それに対して一同が耳を疑った。
 艦隊司令官の隣の席といえば、副司令官と艦隊参謀長というのが一般的常識であったからだ。
 すでに右隣には副司令官のオーギュスト・チェスター大佐が着席していたが、現在艦隊参謀長の席は空位であり、これまで着席する者はいなかった。資格のあるゴードン大佐にしても首席中佐のカインズにしても、アレックスは参謀長として旗艦に残すよりもそれぞれ一万五千隻を有する部隊を直接指揮統制する分艦隊司令官に任命していたからだ。もう一人の大佐であるルーミス・コールは艦政本部長職にすでについていた。
 では艦隊参謀長役をどうしていたかというと、定時的に開かれる作戦会議がそれを代行していたのである。与えられた任務に対してアレックスが作戦会議を招集する場合、例え一兵卒でも意見書・作戦立案書を提出して、会議に参加できるようオープンな環境を与えていた。
 これまではそれがうまく機能して艦隊参謀長の必要性がなかった。正規の一個艦隊として編成され、より多くの艦艇及び将兵で膨れあがった現在、もはやそれをまとめる艦隊参謀長が必要になってきたのである。
 いきなり隣の席を指示されて戸惑うパトリシア。
「どうしたウィンザー少佐。座り給え」
「は、はい」
 おどおどしながらもアレックスの左隣に着席するパトリシア。
「さて、私がウィンザー少佐に隣の席を指示して、皆驚いているようだが……。察しのとおり、私は彼女を艦隊参謀長につけることにした」

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2021.03.21 08:19 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第一部 第十六章 サラマンダー新艦長誕生 Ⅲ
2021.03.19

第十六章 サラマンダー新艦長誕生




 場内がざわめく。
 但しタシミール星捕虜救出作戦における出撃の際に、事前に知らされていたカインズだけは落ち着いていた。
「提督。艦隊参謀長は、大佐をもって任にあてるのが慣例ですが……」
 副司令官のチェスター大佐が皆にかわって質問した。
「慣例では、そうかもしれない。しかしそれをいうなら、私が少佐として最初に与えられた部隊とて、独立遊撃部隊という慣例からはずれた状態から出発している」
「それはそうですが……」
「ゴードン、君はこの席に着きたいと思うかね」
 と尋ねられて、言葉に出さず否定するように肩をすくめるゴードン。
「適材適所という言葉にあてはめるならば、ゴードンも首席中佐のカインズもそれぞれウィンディーネ・ドリアードを駆って暴れまわるのが信条で、作戦を練り上げ企画する艦隊参謀長にはふさわしくない。その点、パトリシアは士官学校時代から私の参謀として参画していた。私が少佐となる原動力となったミッドウェイ宙域会戦での作戦、今ではランドール戦法と別名もついているが、あれはパトリシアとの共同で戦術理論レポートをシミュレーションしている時に、同盟と連邦の想定戦で考え出したものだったのだ。実戦では私が実行して名を挙げはしたが、その功績の半分はパトリシアにあるといってもいいわけだ」
「そこまでおっしゃるなら、私は反対はしません。慣例にとらわれて適切でない参謀をおいたところで艦隊のためにはならないでしょう。実際、資格があるもので参謀長にふさわしいと断言できる人物がいないのも確かですし」
 統帥本部から与えられる階級と、アレックスが将兵に与える地位が同列でないことは、誰でも知っている。例えば旗艦艦隊指揮官は、副司令官に次ぐ者が選ばれるものだが、ゴードンやカインズではなく、ディープス・ロイドである。防御に徹すれば負けることはないと評される沈着堅実な彼だからこそ旗艦艦隊にふさわしいと考えた末であり、激烈なる戦闘の最中にあっても、旗艦艦隊を彼に委ね自身は安心して、全艦隊の指揮運用に専念できるということである。アレックスが重視するのは階級ではなく、個人の能力なのである。個人の隠された能力を見出しては、作戦において適所に投入するから、当然の如く見事な戦果を上げて相当の地位に駆け登って来る。

 パトリシアの艦隊参謀長就任は誰一人反対意見を述べないまま円満に決定した。というよりも、アレックスがすでに決めていることに対しては、誰にも逆らえないといったほうがいいだろう。彼が選んだ艦隊参謀長ならば間違いがあるはずない、というのがアレックスに対して絶大なる信頼を抱いている部下達の評価であった。
 こうして前代未聞ともいうべき、女性佐官であり少佐という階級でしかない艦隊参謀長が誕生したのである。

「ジェシカ」
「はい」
「僕は、参謀長として君も候補に挙げていた。パトリシアに航空戦術をはじめとする戦術理論を教えこんだのは、他でもない君だからだ」
「確かに基礎から教えたのは私ですが、応用から実戦にいたるまで、今でははるかにパトリシアの方が私の能力を越えています。提督がそれを見抜き参謀長に彼女を推挙したのは正しい判断です。私は先輩として彼女を教えこみ、その期待に応えてきた彼女を誇りとしていますし、それで十分です」
「そうか……君達は強い絆で結ばれているんだな」
「はい。ランドール提督とガードナー提督との関係とまったく同じですよ」
「そうだったな。ありがとう」
「どういたしまして」
 そして、やおらランドールに耳打ちするようにして、
「それにパトリシアならベッドの上でも作戦会議ができますものね」
 といってくすりと微笑んだ。
 二人の関係を良く知っているジェシカのジョークだったとはいえ、実際にパトリシアと寝物語で交わした会話の中から生まれた作戦もあったのである。その中には現在進行形で秘密理に進められている遠大な計画も……。

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2021.03.19 12:02 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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