陰陽退魔士・逢坂蘭子/第一章・夢魔の標的
其の弐
大阪府立阿倍野女子高等学校へと続く通学路の小道。
女子高制服に身を包んだ一団が次々と通り過ぎる。
スクールゾーンとなっているこの時間帯には自動車は通れない。
ために、道いっぱいに広がってゆったりと歩いている。
その中に、逢坂蘭子の姿もあった。
春のそよ風に、そのしなやかな長い髪がそよぎ、つと掻き揚げる仕草には、まさしく今
時の女子高生の雰囲気をかもし出していた。
「蘭子〜!」
と、突然背後から声が掛かった。
立ち止まり、振り返ると、同級生の鴨川智子が小走りで駆け寄ってくる。
「おはよう、智子」
「おはよう、相変わらず早いわね、蘭子」
「門限ぎりぎりに駆け込むというのは、性にあわないのでね」
「何事にも、心にゆとりを持って行動する……ってか?」
「そういうこと」
「おはよう!」
「おはようございます」
見知った友達同士や先輩・後輩が挨拶を交わしながら、次々と学校の校門をくぐり、自
分たちの教室へと向かう。
1年3組とプレートの掲げられた教室の前。
蘭子と智子の二人が中へ入っていく。
「おっはよう!」
手を上げて大きな声で先に来ていたクラスメートに挨拶をする智子。
「おはよう智子。相変わらず元気ね」
「元気が取り柄やからね」
「おはよう蘭子」
「おはよう、静香」
たちまちのうちに仲良しグループが集まってくる。
そしていつものように他愛のない会話がはじまる。
昨晩のTV番組のことや、誰それが男の子と云々とか話題は尽きない。
やがて予鈴がなって、それぞれの自分の席へと分かれて授業の始まりを待つ。
一時限の授業がはじまる。
教本を読む教師、名前を呼ばれて立ち上がり、指定された箇所を読誦する生徒。
黒板に書き綴られた内容を、ノートに書き写す生徒。
蘭子もまたそんな生徒の一人として、窓際の席で楚々として授業を受けていた。
どこの学校でも見られるごく普通の授業風景であった。