陰陽退魔士・逢坂蘭子/第二章 夢幻の心臓

其の参  逢坂家のいつものような朝食風景。  TVを見ながら一家団欒の最中であった。  つと、ニュースに釘付けとなる家族。 『○○町××交差点にある交番にて、首を切断された警察官と、心臓のない女性の遺体が 発見されました』  心臓のない女性という言葉に注目する家族だった。 「聞いたか?」 「はい」 「昨夜は何も感じなかったのか?」 「いいえ。何も……」 「だとすると、妖魔の仕業ではなさそうだな」 「悪霊の類ではないかと思うのですが」 「うん。あるいはな」  そもそも生霊や悪霊、あるいは人の魂というものは、元々同じものであって、区別でき るものではなかった。殺人者と一般人とを、見た目で見極めることが不可能なのと同じで ある。  ゆえに、昨夜の事件が悪霊の仕業であるならば、蘭子にさえ気づかせなかったのも道理 である。それでも直接に対面すれば、悪霊かどうかくらいは判別できる。 「しかし、神出鬼没の妖魔と違って、悪霊は限られた地域にしか出没しないから、二度三 度と繰り返されるうちに、おのずと特定できるだろう」 「それだけの犠牲者を出すことになりますけど……」 「仕方あるまい。これだけは、さしもの蘭子とてどうしようもあるまい」 「そうではありますが……」  大阪府警阿倍野警察署。  入り口には「阿倍野区変死事件捜査本部」という立て看板が立てられている。  その捜査会議室の壇上から、府警本部から派遣されてきた井上馨刑事課長が怒鳴ってい る。 「最初の事件からもう十日だぞ! 犠牲者もすでに五人に上っていると言うのに、未だに 何の手掛かりも見出していないとはどういうことだ!」  周囲にある刑事達をギロリとにらめ付けながら、 「被害者の検視報告を言ってみろ」  一人の刑事がすっと立ち上がって、報告書を読み上げる。 「はい。被害者はすべて女性。年齢としては十四歳から十七歳の間。被害者は心臓を抉り 取られるようにして亡くなっています。しかも、身体の皮膚には全く傷一つ付けずにで す」  室内にざわめきが沸き起こる。 「それが判らんのだ。皮膚に傷一つ付けずに、どうやって心臓だけを抜き取ることができ るというのだ」  現在の常識、科学的に不可能な事件であった。  仮に殺人犯を捕らえたとしても、起訴に持ち込む困難であろう。  殺人にいたる動機と証拠・アリバイなどを突き止めても、殺人の方法が科学的に証明不 可能だからである。  いわゆる不能犯というやつである。
     
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