陰陽退魔士・逢坂蘭子/血の契約
其の参  その夜。  帰宅途中の女性が襲われ変死を遂げるという事件が起こった。  事件現場は物々しい警戒体制が敷かれ、パトカーが何台も出動して道を封鎖していた。  何事かと集まってくる野次馬達。  付近一帯の住民達への聞き込み捜査が開始される。  現場責任者として府警本部から、殺人担当の我らが井上課長が派遣されていた。  野次馬の中に巫女装束をした蘭子が現れる。 「こりゃ、近づいちゃいかん」  仕切りロープをくぐろうとする蘭子を警察官が制止する。 「責任者の井上課長に取り次いでください。呼ばれてきたのですから」 「呼ばれた?」  怪訝そうな表情をする警察官だったが、蘭子の声を聞き分けた井上課長がやってきた。 「その娘を中へ入れてやれ。私が呼んだのだ」  許可を得て、仕切りロープをくぐって事件現場に足を踏み入れる蘭子。 「やあ、わざわざご足労いただいて感謝する。我々の手では解決できない事件が起きて ね」  被害者が科学では解明できない摩訶不思議な変死を遂げていたからである。  そこで蘭子に陰陽師としての協力を依頼してきたのである。 「まあ、遺体を視てくれないか」  と、鑑識に命じて遺体を覆っている布を取り除けさせた。  その遺体は完全に干からびてミイラ状態となっていた。  首筋に鋭い爪痕があって、そこから全身の体液を吸い取られたような感じだった。  その衣装と体型から若い女性と判断はできるが……。  さらに慎重なる観察を続ける蘭子。  やはり【人にあらざる者】の仕業に違いないと結論するしかないだろう。  頃合を計って井上が口を開き、 「もういいか?」 「はい」 「よし、行政解剖に回してくれ」  と、鑑識官に指令する。  遺体に再び布が掛けられ、担架に乗せられて護送車で運ばれていった。 「こんな街中でいきなりミイラ騒ぎだ。エジプトやインカならまだしも、ここは現代日本 だぞ。あの遺体はまぎれもなく日本女性だ」  井上課長は憤慨しきりの表情だった。 「やはり【人にあらざる者】の仕業と思うか?」 「間違いありませんね」 「そうか……」  深いため息をついて、肩を落とす井上課長。  事件が起きたからには解明しなければならぬ。  犯人がいるのならば検挙しなければならぬ。  しかし……。今回の事件は明らかに【人にあらざる者】の仕業だろう。  人間が手出しできるようなものではない。が、遺体がある以上は何らかの結論は導き出 さねばならぬ。 「またもや迷宮入りだな……」 「お察しいたしますが、事件はこれで終わりというわけではなさそうです」 「同じような事件が今後も続くというわけか」 「そのとおりです」  蘭子は学校内にあった祠のことを話した。  呪符が剥がされ【人にあらざる者】が解放されてしまったことを。 「難儀だな……」  頭を掻く井上課長。  おもむろに内ポケットから煙草を取り出し口に咥えて、百円ライターで火を点けた。気 を落ち着かせるように紫煙を吐き出し、ポケットから携帯灰皿を出して吸殻をしまった。 「さてと、蘭子君。君を呼んだのは他でもない。今回の事件には【人にあらざる者】が関 わっている事は確実だし、君の話からすれば同様の事件が今後も起こりそうだ。陰陽師と しての君に協力を要請したい」 「判りました。ただし、夜の行動の自由を保障してほしいですね。不審人物として問答無 用で連行されたりしたら仕事になりませんから」 「承知している。その巫女装束を着用している君を見かけても一切手出ししないように全 署員に通達を出しておくよ」 「そうして頂くとありがたいです」
     
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