陰陽退魔士・逢坂蘭子/第三章 夢鏡の虚像
其の拾漆  一進一退が続いている。  蘭子は次第に気力が衰えているのに気づき始めていた。  一方の魔人は平然としていた。  目の前に鏡が迫っていた。  それに反映された自分の疲れきった表情。  間一髪身をかわして鏡攻撃を避けるが、バランスを崩して青龍の背中から落下して地に 伏した。同時に青龍の姿も消え去っていた。 「そうか……。鏡は、私の精神波を吸収しているのか……。そして奴は」  その時、どこからもなく精神波が届いてきた。 「その通りじゃ蘭子」  晴代の思念波だった。魔鏡を通して鏡の世界へ思念波を送り込んでいるのだ。 「おばあちゃん!」 「いいか、良く聞け蘭子。魔人はそこら中にある鏡の中に閉じ込められた魂から、無限と もいえる精神波を吸収して、消耗した体力を回復させているのだ。そしておまえは、鏡に 精神波を吸収されて、体力を消耗するだけだ。落ち着くんだ。怒りの精神波は、邪念や恐 怖といった負の精神波に近い。それこそが奴の活力の源なのだからな。そのままだと、他 の魂と同様に鏡の中に封じ込まれて、永遠に鏡の中を彷徨うことになるぞ。怒りを鎮めよ。 冷静さを取り戻せ!」  そこで、思念波は途切れた。 「そうか……。そうだったのね」  ゆっくりと立ち上がる蘭子。  魔人が輪姦シーンの鏡を見せたりして、わざと怒らせて興奮させるような言動をしたの は、蘭子の精神波を負の力へと導くためのものだったのだ。  邪念を捨て、精神統一をはかる蘭子。  冷静さを取り戻し始め、やがてその身体からオーラが輝き出しはじめた。  魔人の放つ鏡が、そのオーラによって砕け散ってゆく。  正義に燃える精神波が、負の精神波である鏡に打ち勝ったのだ。  目を閉じ、静かに呪法を唱える蘭子。  突然、歯で指を噛み切って血を流し、その滴る手を高く掲げて叫ぶ。 「虎徹よ。我の元へいざなえ!」  現世の土御門家の晴代の居室。  棚に置かれた御守懐剣が輝いて一瞬にして消えた。  鏡の世界の中空の一点から強烈な光条が蘭子を照らし出した。  そして一振りの剣が、ゆっくりと蘭子の差し出した手元へと、ゆっくりと舞い降りてそ の手に収まった。  虎徹に封じ込まれた魔人の精神波が解放されて怪しげに輝きだす。 「それは? 魔剣か!」  さすがに夢鏡魔人も、これには驚かされたようだった。  虎徹の本性も【人にあらざる者】であり、その実体は魔人である。  鏡の世界の中へ飛び込んでくるくらいは簡単にできるはずであった。
     
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