冗談ドラゴンクエスト
冒険の書・16

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チャッキリ村  目的地への道は、龍峡谷というだけあって山あり谷あり、おまけにモンスターもテンコ盛りだった。  チャリラリラン♪ 勇者のレベルが上がった、体力が1上がった……。リリアのレベルが上がった、体力が1上がった……。 「ふうっ……キリがないわね。まあ、レベルの低いリリアの経験値稼ぎには丁度いいけど」 「勇者さんも同じですね」 「おりゃあ!(とモンスターを一匹倒す)わらわらと出てきやがるな」 「見て!(と指さす)山里が見えますよ」 「チャッキリ村ですよ」 「急ぎましょう」  というわけで、チャッキリ村に駆け込む一行。 「宿屋を探しましょう」 「それがいいな。飯をたらふく食いたいぜ」 「それは止めてください。太りますから」  自分自身の身体を心配するリリア。  とにかく目を離したら、見境なく食べるので心配なのだ。 「なんだよ、飯ぐらい好きに食わせろよ」 「喧嘩は止めなさいよね。ほら、あそこに宿屋があるわ」  ナタリーが仲裁する。 「先に宿屋に行ってください。私は、教会に行きます」 「司祭様に、クアール最高導師様についてお聞きするのね」 「どこかで見かけたという情報でもいいから、聞きだせるとよいわね」  一行から離れて教会へ向かったコンラッド。  そそり立つ尖塔を構えた教会が、村の中心に立っていた」  村の中にモンスターが入れないのも、この教会が発する強力な結界が村を守っているのである。 「よくぞ参った、コンラッド殿」 「お久しぶりです、司祭様」 「噂に流れ聞いているぞ。クアール最高導師様を探しているそうだな」 「左様にございます。司祭様はご存知ないですか?」 「そう聞くだろうと思って、実は礼拝の時に村人達にそれらしき人物を見かけなかったか尋ねてみた」 「で、いかがでしたか?」 「うむ……そもそも最高導師様がどんなお姿かも知っている者はおらんからな。並みの人間ではなさそうな、あくまでそれらしき人物」  じらすような口調で言葉を続ける司祭。 「龍峡谷の東斜面にムース滝があるのは知っておるな」 「はい。存じております」 「その激しい瀑布に打たれている修行僧らしき人物がいた、ということだ」 「あの瀑布に打たれれば、普通の人間なら死にますよ。どころか、激流に押し流されてしまいます」 「まあそうだろうな。常人じゃない雰囲気を持っていたそうだ」 「つまり、ムース滝近辺に最高導師様がいらっしゃる可能性ありですね」 「行ってみるか?」 「もちろんです!」  こうして、新たなる情報を得たコンラッドは、司祭にお礼を言って仲間の待つ宿屋に戻った。 「止めてください!お願いですから!!」  宿屋の食堂から、リリアの悲鳴が聞こえてくる。 「何事ですか?」  と食堂に入ると。 「おお、コンラッド帰ったか!」  と見ると、勇者が上半身裸で、食卓の上に登って踊っていた。 「こ、これは何ですか?」 「あたし酒は飲めないんですよ。それなのに……」  本来酒を飲めないリリアの身体なのに、勇者がいつものように酒を飲んだから起きた珍事というところだ。 「こいつ酒乱だったんだ」 「あ、あたしじゃありませんからね」 「は、はあ……」  ため息をつくコンラッド。 「と、とにかく服を着てください!」  悲鳴のような声で懇願する。 「え、なに?じゃあ、下も脱ぎまーす」 「きゃあああああ!」 「しょうがないわねえ。スリープ!」  眠りの魔法をかけて、事態を収拾させるナタリー。 「ほえ……」  魔法により食卓の上にうずくまって眠りこける。 「しようがないですねえ……」  勇者を抱きかかえるコンラッド。  魂は勇者でも、身体は元々リリアなので、優しく扱うコンラッドだった。 「寝かせますから、部屋はどちらですか?」 「あたしが案内します」  リリアに案内されて勇者の部屋に入り、ベッドに寝かせ付ける。  そして夜が明ける。  食堂で食事をしている一行。そこへ勇者青い顔をして現れる。 「気持ち悪いぜ……」 「飲めないのに、がぶ飲みするからよ」 「そうなのか?」 「今のあなたの身体は、酒の飲めないあたしなんですから」 「なるほど、すっかり忘れていたよ」 「まあ、おかげで昨夜は、夜這いされることなくぐっすり眠れたわ」 「はい、お水をどうぞ」  リリアがコップを刺しだすと、 「おお、サンキュー」  ゴクゴクと飲み干す。 「みなさん、お静かに。今日の予定を発表します」  コンラッドが立ち上がった。 「予定ですか?」 「司祭様からの情報です、龍峡谷の東斜面のムース滝で、最高導師様らしき人を見かけたという村人がいたとのことです」 「ほんとうですか?」  目を爛々と輝かせるリリア。 「あくまで不確定要素ですが……」 「でも手探り状態の現状を考えれば、どんな些細な情報でも確認する必要があるでしょう。ね、リリア」 「はい、わたしもそう思います」 「反対!!」  と手を挙げる勇者。 「それでは、ムース滝に行くべしという方は挙手して」  勇者を無視。 「はい、賛成!」  当然リリアは賛成である。  勇者を除く三人が手を挙げた。 「決まりね。多数決でムース滝行き決定!」 「少数意見無視だ!多数決横暴!!絶対反対だぞ、行くならおまえらだけで行け」 「どっかの国の政党みたいね。政権取ったら少数意見を無視して多数決原理で政治を強行して、いざまた野党に戻ったら、多数決横暴とか議会運営を邪魔する」  ナタリーが正論のように主張する。 「行く行かないは個人の自由ではありますが、あなただけの問題ではないのですからね」 「そうよ。リリアは元に戻りたいのよ。そのためは、その場にあなたの同席がいるの!」 「元に戻りたくないのですか?わたしは戻りたいです」  必死の表情で懇願するリリアだった。  うるうると瞳をうるませて、じっと勇者を見つめる。 「あんたの性格なら、女でいる方が世のためかも知れないけどね」 「そんなあ、ひどいです!」 「あ、うそよ。うそ」 「わかったよ……行けばいいんだろうが!」  場の雰囲気に飲まれて、渋々ムース滝行きを承諾する勇者。 「よし!決まりですね」  というわけで、龍峡谷東側斜面にあるというムース滝に向けて、チャッキリ村を出発する一行だった。

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