冗談ドラゴンクエスト
冒険の書・14
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冒険の書・14 旅の準備
その夜の一行が泊まる宿屋。
「よし!これでいいわ」
なんと勇者がロープで縛られていた。
「これはどういうことじゃあ!?」
「借金が30000Gに増えた理由を考えれば分かるでしょ」
「理由……分からん?」
「外で頭冷やして考えなさい」
さらに布団でぐるぐる巻きにされて、バルコニーの手すりから吊るされた。
「なんじゃこれはあ!俺は冴羽〇かああ〜!」
身体をよじらせたりして、何とか抜け出そうとする。
「これで安心して眠れそうね」
それは甘い考えだぞ!彼は脱獄のプロだし、冴羽〇だって難なく脱出しているぞ。
「勇者さんて、そんなに女好きなんですか?」
「好きなんもんじゃない。あいつの頭の中には女しかいない」
「でも、今は女の子……じゃないですか?」
相手が実の自分の身体なので、気が気でないリリアだった。
「身体はね。中身は全然変わらないんだからね」
「……(意味深な表情)」
「さあて、もう寝ましょう。明日は早い」
「彼、じゃなくて、彼女。いや、やっぱり彼を放っておいていいんですか?」
勇者の代名詞で迷うリリアだった。
「大丈夫よ。そんな軟弱な気性じゃないから」
「と、とにかくもう休みましょう」
なんやかんやで、解散して各自の部屋に別れる。
皆が寝静まった頃、ナタリーの部屋に侵入する怪しげな影。
怪しげな物音に気が付くナタリー。
「だれ!ってか、一人しかいないよね。勇者でしょ」
「おお、気づかれたか」
「気づかないでかあ〜!」
毎度のことなので、敏感になっているのであろ。
「あんた、夜這いすることしかできないのかあ」
「ハッキリ言おう。できない!」
「まったくう、懲りない奴だな」
「それが俺だ」
「女になったんでしょうが、男に興味は持たないの?」
「ない!(キッパリと)」
「でしょうね。中身は男なんだから」
「ということで、頂きまーす!」
勇者飛び掛かるが、ナタリーはすばやく枕元にある紐を引くと同時に、体を交わ
すようにベッドから転げ降りる。
と突然、天井から網が降りてきて勇者を絡めとった。
「なんやこれはあ!」
「脱獄の名人だし、これまでのこともあるしね、罠を仕掛けておいたの」
「罠とは小癪なことを、脱獄名人・縄抜け名人の俺にかかれば朝飯前じゃ……あれ
れ?」
抜け出そうとするが、身動きできない。
「残念でした。その網には呪縛の魔法が掛けてあるのよ」
「ち、ちくしょう……」
これぞ地団太を踏んだという表情の勇者だった。
「さてと、そこどいね」
と言うと、空中浮遊の魔法を使って勇者を網ごと部屋の片隅に移動させた。
「ここから出せ〜!」
「無駄よ。魔法を解かない限り抜けられないわよ」
「この借りは、必ず払ってもらうからなあ」
「静かにしてよね、眠れないじゃない。さてと、おやすみなさい」
なんやかんやで、夜が明ける。
食堂に集まる一行。
「おはようございます」
「いい天気ですよ」
「おっは〜!」
互いに挨拶を交わしながら席に着く。
ただ一人、勇者だけが無言で、肩に手を当てて揉み解している。
「おはようございます。皆さん、ぐっすり眠れたでしょうか?」
「一睡もできなかったぞ(怒)」
「あらまあ!いかがなされましたか?」
「こいつが(ナタリーを指さして)」
とナタリーを指さすが、とっさにその口を手で塞いだ。
「ああ、こいつの言うことは気にしないでいいですよ」
「ぐぐぐぐ〜」
口を塞がれて声が出せない勇者。
「私は、一度王宮に伺わなければならないので、出発の準備をしておいてください」
「食事をされてからでいいのでは?」
「いえ、一秒でもお待たせするわけにはいきませんから」
王宮謁見の間。国王の前で傅くコンラッド。
「おお、朝からご苦労であった」
「陛下におかれましては、ご健勝のほどお慶び申し上げます」
「コンラッドも忙しい身であろう。早速だが、これを遣わす」
侍従から書状を受け取ってコンラッドの前に差し出す。
数歩前に進み、傅きながらうやうやしく受け取るコンラッド。
「大神官様への紹介状である。有用に使うが良い」
「ははっ!重々承知にございます」
コンラッドが宿屋に戻ると、一行の出発準備は整っていた。
「お帰りなさい。出発準備は整ってます」
「最初に大神官様にお会いするのよね」
「大聖堂ですよね」
「では、参りましょうか」
「おお、気を付けて行けや」
相変わらず場の空気を読めない勇者。
「あんたが行かなきゃ始まらないじゃない」
「なんでだよ?」
「パーティーの先頭は勇者と決まってるでしょ」
「誰が決めたんだよお」
「いいからきなさい」
と、いつものように耳を引っ張りそうになる。
リリアをチラと見て、背を押して連れ出す。
というわけで、大聖堂へやってきた一同。
「さあ、入りましょうか」
コンラッドが、入り口に立つ衛兵に国王印の押された親書を見せると、敬礼して
重い扉を開けて一行を迎え入れた。
大聖堂の身廊{Nave}と呼ばれる長い廊下を突き進む先の祭壇に、大神官は立っ
ていた。
「おや、珍しいですな。騎士団団長殿が何用ですかな。それと後ろの方は?」
「こちらは私のパーティーでございます。故あって大神官様にお目通りを願いまし
た。国王様からの親書をお持ちしました」
うやうやしく国王の親書を手渡す。
「うむ(親書を読みながら)なるほど、クアール最高導師様の居場所を知りたい
と?」
「左様にございます」
「最高導師様は引退後は世捨て人として、人里離れた山の奥地に隠居されたのだが」
「重々承知しております」
「それほどまでして、どうしても会わねばならぬ理由を説明してくれいまか?」
「わたしがご説明いたします。リリアと申します」
リリアが進み出て、身体と心が入れ替わってしまったこと、元の身体に戻りたい、
ということを懇切丁寧に説明する。
「なるほど人体錬成ですか、そういうわけだったのですね」
「大神官様よお、手っ取り早くあんたの力で何とかならんか」
突然、横やりを入れる勇者。
「こ、こらあ!大神官様に向かってなんてことを」
「だってよお、ウイスが言うには全宇宙五本の指に入る実力者なんだろ?精神入れ
替えなんざ、朝飯前だろ?」
「何の話をしているのよ」
「だから、ドラゴン〇ール超では……」
「ここは、ゲームの世界ではないでしょ!」
二人の会話を聞いてクスリと微笑みながら、
「ほほう、面白い方ですね」
無作法な態度にも怒ってはいない様子。
「すみません、すみません」
と、勇者の頭を押さえつけて十回謝る。
「あはは、残念ながら精神入れ替えのような術は持っておりませんよ」
「ちぇっ!大した奴じゃないということか……」
「すみません、すみません」
と、もう一度、勇者の頭を押さえつけて十回謝る。
「最高導師様がどちらにいらっしゃるかご存知ありませんか?」
リリアが尋ねる。
「いいでしょう。お教えしましょう」
「ありがとうございます」
「クアール最高導師様は、竜王バハムートの住む龍峡谷のとある祠に住んでいると
いう」
「竜王だと?上手くすりゃあ、ロトのつるぎが手に入るか?」
「何の話?」
「と、その前に。たいようのいし、ロトのしるし、あまぐものつえ、にじのしずく、
とか集めなきゃいかんのか……面倒だな」
「だからあ、何の話ししてるって言ってんのよ!!」
「ドラゴンクエストIに決まっているだろ」
「もういっぺん死んでこい!」
ファイアボールの魔法を勇者に投げつける。
「きゃああ!その身体はあたしですぅ!!」
「あ、ごめんごめん」
そんなボケと突っ込みに大笑いする大神官。
「ははは、面白い方だ」
「恐縮いたします」
「まあ良い。これを持っていくがよい」
と、何かを差し出した。
「これは?」
コンラッドが、恭(うやうや)しく受け取りながら尋ねた。
「それは、最高導師様から預かっていた『道しるべの羅針盤』」
「道しるべの羅針盤ですか?」
「通常はただの羅針盤なのだが、ある一定の条件が揃うと、最高導師様の居場所を
指し示してくれるという」
「それで羅針盤ですか……で、その条件とは?」
「それは教えて下さらなかったよ。その時がくれば自然に条件は揃うと仰られていた」
「そうでしたか……おそらく龍峡谷へ向かえば道は開かれるかもしれませんね」