冗談ドラゴンクエスト
冒険の書・1

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 とある王国。町を出ればモンスターが徘徊し、魔王が支配力を広げようとしてい た。そんな折、一人の若者が国王の前に呼び出された。 「よくぞ参った。待っておったぞ」 「別に来たくて来たわけじゃねえよ。親に引きづられて来ただけだい」  本意じゃないと苛立つ勇者だった。 「そうそうか。おまえを呼んだのは他でもない。我が国をモンスター達が襲い掛か り、魔王の元へ姫を連れ去ってしまった。おまえには姫を救い出してもらいたい」 「一つ聞きたいのだが、その姫と言うのは若い美人か?」  その質問には答えずに、 「城下には、おまえを手助けしてくれる仲間が待っているはずだ。彼らと合流し共 に魔王討伐に向かってくれ」  淡々と勅命を下す国王だった。 「おい、聞いてないのかい。国王さんよ。姫は美人かと聞いてるんだ」 「支度金として100Gをおまえに授けよう。城下町で装備を整えて、野へ繰り出 してモンスターを退治し、腕を磨いて精進し魔王の元へと向かってくれ」 「ちょっと待てよ。いまどき100Gで何が買えるってんだよ。姫を救い出すのだ ろう? 地下の宝物庫に王家の神剣があるらしいじゃないか。それをくれ」 「それではしっかりと戦って、国の危機をそして姫を救ってくれ」 「おい。いい加減にしろよ。こっちの言い分にも耳を傾けろよ」  有無を言わさず100Gを手渡され城外に追い出される勇者であった。 「まったく……100Gで何が買えるってんだよ」  といいつつ武具屋に入る。 「へい、いらっしゃい! 武具屋でやんす」 「とにかく見せてくれや」 「これなんかどうどすか? ドラゴンバスター剣1000000Gに、ジュラルミン製盾 100000G、そして炭素繊維ファイバー兜500000G。どれも使い心地満点どす」 「おい、俺がそんなにGを持っているように見えるか?」 「言ってみただけやねん。いくら持ってんねん」 「100G」 「ざけんじゃねえ! そんな貧乏人相手にしてる時間あるか!」  と、いきなり放り出される勇者であった。 「だから100Gじゃ、何も買えねえと言ったじゃないか。この物価高だぞ!」 「ねえ、ねえ。お兄さん」 「だれだ!」  声のした方に振り向くときれいなお姉さんが手招きしている。 「ちょっと、寄ってかない?」 「そういえば、仲間が城下にいると言っていたな」 「こっちよ」  女に案内されるままに、後ろをついていくとそこは安アパート。その一室に一緒 に入る勇者。 「安アパートだけどいいでしょ?」  と、言いながら服を脱いでいく女。 「据え膳食わぬはなんとかと言うからな……」  英雄色を好む。血液はすでに下半身に集中していて、脈絡のない状態なのにも気 づかない。 「そいじゃ、ご好意に甘えて」  と服を脱ぎ、いきなり襲い掛かる。 「ちょ、ちょっと待ちなさいよ。あ! あっ、あっ!」  女の声など聞こえていない。夢中で女にしゃぶりつき、事を成し遂げてしまう勇 者であった。 「ふう……っ。久しぶりだったから、実に良かったぜ」 「な、なにが良かったよ。いきなり襲い掛かって、しかも中出しまでして、この責 任とってもらうからね」 「誘ったのはそっちじゃないか」 「あのねえ……。まあ、いいわ。はいっ」  と、手を差し出す。 「なんだよ、その手は?」 「お金に決まっているじゃない。あなた、ただで女が抱けると思ってたの?」 「知るかよ! 勝手に誘っておいて、金をふんだくろうとは、売春婦にも劣る行為 だぞ」 「だから、あたしは売春婦なの!」 「なんだよ。それなら最初から言えよ」 「言わなくったって、こういうことは常識じゃない!」 「何にしても持ってる金はこれだけだ」  有り金全部の100Gの金を見せる。 「本気なの?」 「冗談言っているように見えるか?」  どうだとばかりに、胸を張る勇者だった。 「まったく……とんでもない奴を相手にしてしまったわ。とにかく頂くものは頂く わよ」 「100Gでいいのか?」 「冗談言わないでよ。だれが100Gでいいって言ったのよ。10000G、耳を揃えて支払ってもらうわ」 「10000G! あるわけないだろ」 「なければ身体で払ってもらうわ。こら! パンツを脱ぐな。勘違いしないで!」  衣服を脱ごうとする勇者だったが、制止されて履きなおした。 「こっちの身体じゃないのか?」 「あのねえ……。あんまりこんな話ばかりしてると、18禁になっちゃうじゃない!」 「俺はかまわないぞ」 「もういい! あなたと論議してると頭が痛くなるわ。とにかく身体で払うっての は、仕事を引き受けてもらうのよ」 「どんな仕事だ?」 「ギルドで仕事を斡旋しているわ。そこで依頼を受けて報酬をあたしが貰うのよ」 「なんで俺が働いて、報酬をおまえが貰うんだ?」 「何を言ってんのよ。あなたには、あたしに10000Gの借金があるんだからね」 「いつ、そんな借金ができたんだ?」 「たったいまよ! ふさけないでよね。あたしとしたくせに」 「同意の上での行為は強姦罪にならないはずだが」  聞きかじりの法律を持ち出す。 「もう! 18禁になるって何度言ったらわかるの!」 「い、痛い。痛い。痛い」  これ以上口論しても無駄と判断し、勇者の耳を引っ張って、ギルドへと連行する 女だった。 「やあ、お客さん、久しぶりじゃないですか。ええと……、そちらのお客さんは、 初顔だね」  どうやら、この女性はお得意様といったところだろうか。 「こいつが、仕事をしたいそうだ」 「俺は、まだやるとは言っていないぞ。それにこいつとはなんだ。俺にはちゃんと した名前が……」 「そういや、まだ名前を聞いていなかったわね」  これまで、双方自己紹介していないのに気付く。 「勇者だ!」  胸を張って名乗りを上げる勇者。 「ぷっ! 何それ、ふさけてるの?」 「ふざける? 勇者という名前の勇者なのだ」 「変わった名前ですね。名前は勇者、職業は勇者……でいいですか?」 「ああ、それでよいが、二つ名というか、遊び人も併記登録できないか?」 「無理です。システム上、一人一職業と決められていますので」 「しょうがねえな。なら、勇者でいいや」 「じゃあ、勇者で登録しますね」 「で、おまえの名前は?」  女性に向かって名前を尋ねる。 「あたしは、ナタリーよ。職業は魔導師よ」 「あん?売春婦じゃないのかよ」 「あれは内職よ。ギルドの依頼だけじゃ、食べていけなくてね」 「……まあ、いい。で、仕事を請ける気はあるのかないのか、はっきりしてくれ」 「楽な内容で、高給な仕事はないか? 突っ立てるだけで1000000Gとかな」  とんでもない報酬内容を要求する勇者。 「そうだな……隣村まで荷物を運ぶ仕事はどうだ?」 「1000000Gか?」 「50Gだ」 「ふざけるなよ! 誰がそんなチンケな仕事を引き受けるか!!」  1000000Gにこだわる勇者。  どうやら、最初の武具屋で見せつけられた、ドラゴンバスター剣の値段を見てい るのであろう。 「ふざけてるのは、あなたじゃない。身も知らぬ初対面に重要な仕事を最初からま かせられると思う? まずは手始めに簡単な仕事からというのが常識よ。仕事をこなしていくうちに信用がついてきて、大きな仕事を任せられるようになるというも のよ」 「面倒だな」  といいながら、鼻くそをほじくっている。 「馬鹿言ってんじゃないの!」 「しかし、50Gなんてはした金受け取っても何も買えんじゃないか。ここの武器 屋においてあるのは6桁や7桁という馬鹿高い代物ばかりなんだぜ」 「それはここが城下町だからよ。魔王を退治するために必要な最強の武具が置いて あるのよ」 「荷物を運ぶ隣村に行けば50Gで買える安い武具を売っているよ。何せ冒険の最 初の村だからね」  ギルドが案内する。 「冒険の最初?」 「そういうことよ。冒険はそこからはじまるのよ」 「じゃあ、この城下町はなんなんだ?」 「決まっているじゃない。国王に謁見し、冒険の使命を受けるために存在するのよ。 あなた、国王から姫の救出を依頼されたでしょう?」 「そう言われればそんなこと言われたような気も……そうだ。ところで姫は美人なのか?」 「姫を救出するために、魔王の居城の場所とかの情報を集め、立ちはだかるモンス ターをなぎ倒して、経験を積んで一人前の冒険者になる必要があるわ。その時のた めに必要な強力な武具がここにあるというわけよ」  姫の事は無視して、話を進める。 「おい!」 「その仕事請け負います」 「こら! 無視するなよ」 「よし決まりだな。依頼主は城下町の南門のそばの道具屋だ。荷物を受け取って届 け先を聞いて、隣村へ向かってくれ」 「だから、人の言うことを聞けよ!」 「ほれほれ、依頼を受けに道具に行くわよ」  結局、勇者の意思を無視して契約を済ませた。  勇者の背中を押してギルドを出る。 「結局……完全に無視されたな」 「さっきから何ぶつぶつ言ってるのよ。あ、ほら。道具屋が見えてきたわ」  軒先に薬草と思われる植物の図柄の入った看板が下がっているのが見える。  扉を開けて中へ入る二人。 「いらっしゃいませ!」 「客ではありません。ギルドの依頼を受けた者です。荷物の配達だとか聞きましたが」 「あらあ、早速引き受けてくれる方がいたのね。ついさっき依頼を出したばかりな のに」 「ご安心ください、お嬢さん。美人の依頼は断らないことにしています」  と言いつつ、ちゃっかりと道具屋の娘の手を取っている勇者であった。それもそ のはず、この道具屋の娘は絶世の美女と言ってもいいくらいの美人だったのである。 しかもとびきり若かった。 「まったく……遊び人の性格、もろ出しじゃないの! これで本当に勇者なの?」 「だから言ってるだろ。俺は根っからの遊び人なんだってよお。勇者なんてなりた くてなったんじゃねえやい!」 「あ、あのお……。この方は、遊び人なんですか? それとも勇者さまなのですか?」  いきなり手を取られて困惑しながら、女性に向かって尋ねる道具屋の娘であった。 「城から出てくるのを見ていたしね……。どうやら勇者というのは本当らしいんだ が、どうみてもすけべったらしの遊び人そのままね。脈絡もなく襲い掛かってくる しさあ」 「まあ! 襲われちゃったんですか?」 「いろいろとあってね……。んでもって、こいつには10000Gの貸しがあって、その 返済のためにギルドで働いてもらってるんだよ」 「てやんでえ! そんな金、借りた覚えなんかないわい」 「とか言ってますけど?」 「こいつの言うことには耳を傾ける必要はないわよ」 「なんだとお!」 「あのお……。どうでもいいんですけど、いい加減手を離していただけませんか?」  そうなのだ。会話の間中もずっと、馴れ馴れしく手を握り締め、さすったり、な でなでしながら、その柔肌の感触を楽しんでいたのである。 「いい加減にしないか!」  と勇者の頭をポカリと叩く。 「痛えなあ!」  と頭をさすっている。 「ところで……そろそろご用件を承りたいのですが?」 「え? あ、ああ。そうね、その通りね」  いきなり見知らぬ男に手を握られてしまったのだ。動転してしまっても仕方がな いだろう。 「依頼というのは、ここから東へ約28000マイラの所にあるモトス村にいる姉にこ れを届けてほしいのです」  と取り出したのは表面に綺麗な細工の施された、一見宝石箱のような小箱であった。 「28000マイラだあ!? 最低でも10日はかかるじゃないか。依頼料は50Gな んだろ?」 「うーん。確かに安すぎるわね」  しばし悩みの表情を見せるナタリーだった。 「いえ、これには訳があるんです。本当の依頼料は7800Gです。これはとても大切 なものですから、報酬目当てで何でも引き受けるような請負人には任せられないと 思って……。それで50Gという誰も引き受けないような報酬でも請け負ってくれ る方なら誠意で大切に運んでくれるのではないかと考えました」 「なるほどね。確かに報酬が高いと、当然荷物も高額だと推測できるし、下手すら 荷物を持ち逃げされることもあるわよね」 「7800Gか……10000Gにはちょっと足りないが、まあ最初の仕事としては妥当な 線だろう」 「おやおや。どうやらやる気になっているようね。いい事だわ、ちゃんと無事に届 けられれば借金を大幅に減らせるわよ」 「うるせえ!」 「あの、依頼には条件があるんです」 「条件?」 「非常にデリケートなものですので、キメラの翼やルーラなどの跳躍魔法などは使 わないでください。もちろん飛行船などに乗船して運ぶのも厳禁です」 「つまり、28000マイラという距離を地べたを這いずって行けということか?」 「そういうことになります」 「それは難儀ね」


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