特務捜査官レディー(五)新たなる人生
2021.07.09

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(五)新たなる人生

 とある部屋。
 ベッドの上で天井をじっと見つめたままの薫がいる。
「ここはどこだろう……」
 ついさっき意識を回復したばかりだったのだ。
「確か……撃たれて死んだのじゃなかったのかな?」
 身体を動かそうとしたがだめだった。何かで身体全体を縛られているようだった。
「どうして?」
 その時ドアが開いて誰かが入ってきた。
「やあ、気がついたようだね」
「あなたは?」
「医者だよ」
「あたしに何をしたのですか?」
 と身体を揺する薫。
「ああ、まだ身体を動かさない方がいい。移植した臓器がずれてしまう」
「移植?」
「そうだよ。君は銃撃を受けて内臓をずたずたにされてしまったんだ。道端で死にかけていた君を拾ってあげてここに運び、内臓を移植して蘇生させたのだ。移植した臓器がずれたりしないように、君の身体をベッドに縛り付けて拘束させてもらっている。まあ、そんなわけだから、臓器が落ち着くまでもうしばらく我慢して身体を動かさないでくれ」
「……ちょっと待ってください。移植したということはドナーがいるはずですよね。その人はどうなったんですか?」
「残念ながら、救いようのない脳死患者でね。生き返ることがないのなら、それを必要とする人間、つまり君に移植したんだ」
「そうでしたか……」

「あ……あの、あたしの身体見ましたよね……」
「まあね……。睾丸摘出していたようだね。最初てっきり女性かと思ったんだが……胸は女性ホルモンで大きくしたんだね。プロテーゼは入ってないようだから」
「はい……」
「恥ずかしがる事はないよ。実は、私は産婦人科が専門なんだ。性同一性障害についても理解があるつもりだよ」
「産婦人科ですか?」
「そうだ。ついでだから話すと、君の身体には卵巣と子宮、そして膣などの女性器のすべても移植してあるんだ」
「女性器? じゃあ、死んだのは女性ですか?」
「ああそうだ。彼女自身は死んだが、臓器は君の身体の中で生きている。しかも卵巣と子宮もあるから、君がその気になれば彼女に変わってその子供を産む事もできる。死しても子孫を残せるなら、彼女も本望じゃないかな。女性ホルモンを投与し、睾丸摘出している君なら、性転換しても拒絶しないだろうと思った。だから移植した」
「じゃあ……。あたし、本当の女性になったんですね。それも子供を産む事のできる……」
「ああ、そうだ。もはや完璧な女性だよ」
 それが本当なら、敬の子供を産む事ができる? 自分自身の子供ではないが、父親が敬ならそれで十分だ。
「しかしこの状態どうにかなりませんか。寝返りが打てないから身体中が痛いんですけど」
「あはは……、我慢我慢。一つの臓器だけならまだしも、腹腔にある臓器のほとんどを移植したんだ。生きているだけでも感謝しなくちゃ」
「そんなにひどかったのですか?」
「もうずたぼろ状態。これが消化器系の腹腔だから助かったが、循環器系の胸腔だったら即死だったな」

 それから二週間ほど経った。
 その間ずっと考え続けてきたのは敬の安否だった。
「ちゃんと逃げ出せたかな……」
 自分の方は、敬の「最期の最期まで生きる希望を捨てるな」という言葉を守って? 生きる執念が実って、どうやら危機を脱して生き延びたようだ。しかも念願の性転換というおまけもついて。
 敬が別れ際に言った言葉を思い出した。
「いいか、おまえも最期の最期まで、生きる希望を捨てるなよ。簡単に死ぬんじゃないぞ、俺が迎えにくるのを信じて、命の炎を絶やすんじゃない」
 そう言ったからには、絶対にあたしを見捨てたりはしない。必ず生き延びて迎えにきてくれる。敬は、そういう男だと、信じていたい。

 先生が診察に来た。
「よく頑張ったね。もう大丈夫だ、起き上がってもいいよ」
 先生に支えられて起き上がりベッドの縁に腰掛ける。
「あの……。あたしのあそこ見せて頂けませんか?」
「やっぱり気になるだろうね。いいだろう、見せてやるよ。今鏡を持ってきてやる」
 先生が持って来てくれた手鏡を股間の前にかざして、じっくりと観察した。
 いつも見慣れたペニスはすでになく、まさしく女性そのものの外陰部がそこにあった。大陰唇・小陰唇、隠れるようにクリトリスと尿道口、そして男性を受け入れる膣口が開いていた。
 ああ……。とうとう女性に生まれ変わったんだ。
 それは長い間待ち望んでいた姿だった。自分のためでもあったが、それ以上に敬のためでもあった。
「傷が見当たりませんが……?」
「ああ、針と糸を使った従来の縫合では醜い痕ができるから、特殊な生体接着シールを使ったからね。ただ急に動いたりすると剥がれて傷が開いてしまう。それもあって当初君の身体を縛って動けなくしたんだ。もちろん内臓のほうも急な動作は厳禁だった」
「そうだったんですか」
「満足してくれたかね」
「はい。もちろんです」
「うん。それでこそ、手術した甲斐があったというものだな」
 今まで股間ばかりを映していた鏡に、自分の顔が入った。
「ちょ、ちょっと……。この顔は?」
 鏡に自分の顔を映して食い入るように見つめている。
「ああ、言わなかったけ……。顔も少しばかり整形して死んだ女性に似せてあるよ。喉仏も切削して平らにした。何せ君は組織に狙われている身だ。そのままの顔で外を出歩いては、生きている事がばれてしまうじゃないか。また命を狙われるに決まっている。私が精根込めて生き返らせた意味がなくなる」
「それは、そうですけど……あたしの知人にも判らなかったら、困ります」
 知人とはもちろん敬のことだ。
 愛している敬が、自分が判らなかったら生きていてもしようがない。
「仕方ないな。うまく接触して納得させるんだな」

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響子そして(四)愛する明人
2021.07.08

響子そして(覚醒剤に翻弄される少年の物語)R15+指定
この物語には、覚醒剤・暴力団・売春などの虐待シーンが登場します


(四)愛する明人

 遠藤明人。
 わたしのいる宿房の長だった。
 暴力団の組長の息子だった。その身分と、毎日のように届けられる差し入れによって宿房はおろか、少年刑務所全体の顔となった。その経歴は、五歳の時に、寝ていた母親を撲殺したのを皮切りに、数えきれない人々を殺傷し続けた根っからの悪玉だった。
 看守でさえ一目おいている。
 いつのまにかわたしは明人のお気に入りとなっていた。明人はわたしをいつでも抱ける優先権を獲得し、わたしを情婦のように扱った。わたしを独占したがったのだが、少年達の相手ができるのは、わたし一人しかいない。もてあます性欲のはけ口として、わたしは必要不可欠な存在になっている。それを取り上げてしまったら、反逆・暴動に発展するのは確実。所内での顔を維持するにも寛容も必要だった。しかたなく、他の少年達の相手をするのを黙認した。

 それまでのわたしの役目は、新しく入所した新参者に移った。
 毎晩のようにその新参者が襲われるのを黙って見ているだけのわたし。
 それが彼の運命なのだ。だれも止めることはできない。
 新参者は屈辱に必死に耐えている。
「馬鹿ねえ。あきらめて、女になっちゃえば楽になるのに」
 わたしは心で思ったが、最初の頃は自分も抵抗していたものだ。
 しかし当の本人にしてみればそう簡単に心を切り替えることなどできないのだ。

 そのうちに興奮してきた明人が、わたしの肩に手を回し唇を奪う。そしてそのまま押し倒されてしまう。
「咥えてくれ」
「ええ、わかったわ。明人」
 言われるままに、その張り裂けんばかりになっているものを咥えて、舌で愛撫する。やがてわたしの口の中に、その熱いものを勢いよくぶちまける。わたしは、ごくりとそれを飲み込む。
「尻を出せ」
「はい」
 わたしの心はすっかり女になりきっていた。なんのてらいもなく、四つんばいになって明人を迎え入れている。
 次第に明人に心惹かれていく自分がいた。

 ある日のこと、明人がシートパックされた錠剤を手渡して言った。
「これを飲むんだ。毎食後にな」
「なに、これ?」
「女性ホルモンだよ。いつも差し入れをする奴に、持ってこさせた」
「女性ホルモン?」
「そうだ。毎日飲んでいれば、胸が膨らんでくるし、身体にも脂肪がついて丸くなってくる」
「わたしに女になれというの?」
「完全な女にはなれないが、より近づく事はできる。頼む、飲んでくれないか」
「明人がどうしてもって言うなら飲んでもいいけど……」
「どうしてもだ」
「わかったわ。明人のためなら、何でも言う事聞いてあげるわ」

 わたしは思春期真っ最中の十代だ。
 女性ホルモンの効果は絶大だった。
 飲みはじめて一週間で乳首が痛く固くなってきた。
 胸がみるみるうちに膨らんできた。
 二ヶ月でAカップになり、半年でCカップの豊かな乳房が出来上がった。

 その乳房を明人に弄ばれる。
 全身がしびれるような感覚におそわれ、ついあえぎ声を出してしまう。
「あ、あん。あん」
 乳房やまめ粒のような乳首に、性感体が集中していた。
 脂肪が沈着し、白くきれいな柔肌になっている全身にも性感体が広がっている。
 成長途上にあった男性器は小さいままで、睾丸はどんどん萎縮しており、もはやその機能は失っていた。髭や脛毛なども生えてはこなかった。
 声帯の発達も、ボーイソプラノから、きれいなソプラノを出せる女性の声帯に変わりつつあった。もちろん喉仏はない。

 看守は、わたしの身体の変化に気がついていたが、だれも注意すらしなかった。
 明人の父親の組織の力が働いているようだった。女性ホルモン剤の差し入れがすんなり通っているのもそのせいだろう。


 芸術の秋。
 少年刑務所内において、毎年春と秋に行われる恒例の慰問会が開催されることになった。各種イベントや出店などが目白押しだ。
 実行委員長は、所内の顔である明人だ。
 わたしは明人に頼んで、その演目に舞台劇「ロミオとジュリエット」を入れてもらった。演劇が好きだったのでどうしてもやりたかったのである。
 もちろん、ジュリエットはわたしが演じる。劇団に所属し娼婦役を演じていたので、容易いことであった。問題は監督をはじめとする他の役者や道具係りを集めることだが、演劇好きな少年達を探し出して、わたしがお願いすれば、みんな快く参加してくれた。にわか劇団の誕生だ。
 舞台衣装は、作業所の縫製科で職業訓練をしている少年達に依頼して製作してもらった。もちろんわたしもそれに入って裁断やミシン掛けして手伝った。演じる舞台や小道具は、木工作業所の少年達。舞台背景は美術科、
 慰問会に際しては、看守側も通常の作業時間を減らして、劇団の練習や必要備品製作のための時間を作ってくれた。

 慰問会の日が迫り、所内では調達できない、照明器具や音響機器、特殊美術に必要な器材を、明人が特別許可を得て外部から搬入された。
 やがて所内の一角に舞台作りがはじまる。大工や鳶の職業を受けている少年が、組み上げていく。人手が足りないので、劇団員以外の少年達も声を掛けて手伝ってもらう。断る少年はいない。怪我したら大変と、ねじ釘一本持たせてもらえない。わたしは傍で、組み上がっていくのを眺めているだけで済んでいた。
 舞台稽古は一日しかない。当日の所内作業を休ませてもらって、朝から舞台衣装を着込んでの稽古。
 やがて本番の日が来た。
 わたしは貴婦人の着るドレスで着飾り、ジュリエットを完璧に演じた。
 ステージの真ん中でスポットライトを浴び、先に死んでしまったロミオの後を追って、毒薬を飲んで自殺する演技を披露する。
「おお! ロミオ、ロミオ。わたしを残してどうして先に死んでしまわれたの? いっそわたしも……。ここに、まだ毒薬が残っているわ。これを飲んで、あなたの元へまいります……」
 クライマックス、精一杯の声量を会場に響かせて、死への道を高らかに演じて死んでいく。そしてエンド。
 割れんばかりの拍手喝采だった。
 アンコールのステージに立ち、スポットライトを浴びるわたし。
 わたしはまさしくヒロインだった。演劇を続けてきた甲斐があった。
 こうして悲劇「ロミオとジュリエット」は、大成功した。

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特務捜査官レディー(四)蘇生術
2021.07.08

特務捜査官レディー(R15+指定)
(響子そして/サイドストーリー)


(四)蘇生手術

 とある部屋、手術台に乗せられ裸状態の薫がいる。数本の輸液の管が腕に刺され、
酸素呼吸装置に繋がれ、何とか自発呼吸を続け生命を取り留めている様子だった。万が一に備えての人工心肺装置も用意されていた。
 薫の開腹手術が始まった。
「こりゃあ、だめだな……」
 マシンガンの掃射を受けて内臓はずたずただった。弾丸を摘出したくらいでは修復は不可能だった。手当は移植しかなかった。実際これだけの弾丸を受けて生きているのが不思議なくらいだ。たった一発の弾丸を受けただけでも、その衝撃で心臓麻痺を起こして死ぬ事もあるのだ。
 生に執着するよほどの執念でもあるのだろうか?
 英一郎は、硝子越しに見える隣の部屋のベッドに横たわる患者を見た。
 二十歳前後の日本女性で、頭部に弾丸を受けて脳死状態になってすでに十二時間以上立つ。呼吸中枢はまだ生きていて自発呼吸を続けてはいるが、いずれ完全死を迎えるのは必死だ。治療は不可能だから、このまま臓器を摘出しても構わないのだが、身体は無傷で心臓も動いている状態では、やはり躊躇してしまう。しかも同じ日本人だ。
 ショルダーバックに入っていたパスポートと身分証から、東京在住の薬学部に在学する女子大生と判明している。観光かなんかでこのニューヨークを訪れていたが、運悪く事件に巻き込まれてしまったらしい。同じく一緒にいた友人らしき女性は、心臓を射ち抜かれて即死、すでに臓器を摘出してここにはもういない。
 とにかく、このまま放っておいては二人とも死んでしまう。女性の患者は助けられないが、男性の方は臓器を移植すれば助かる可能性がある。
「やってみるか……」
 本当なら脳をそっくり移植することができれば、身体に一切傷をつけることなく生き返らせることができるのだが……、頭部に傷は残るが髪で完全に隠れてしまうから見破られることはないだろう。しかし、自分には脳神経外科の技術を持っていない。ほんのちょっとの傷をつけたり、ほんの数秒血流が跡絶えただけでも麻痺が残ってしまうデリケートな組織なのだ。傷をつけることなく、血流を跡絶えさせることもなく移植を完了させることは不可能だ。
「免疫反応はどうかな……」
 ここにはヒト白血球抗原(HLA)を調べる設備がなかった。
「例によって簡易検査で済ますか」
 二人の肝臓を少し採取して組織をばらばらにし、片側には人体無害の蛍光染料で染めてから、両組織を混ぜ合せて培養基に移して、しばらく蛍光顕微鏡で観察してみる。
 肝臓の細胞は不思議なもので、細胞分裂・増殖の速度が他の組織よりはるかに早くて、顕微鏡下で見ている間にもどんどん増殖していくのが観察できる。それは肝臓が人間の臓器の中で唯一、細胞内に核を二組持っている理由からだとされている。減数分裂時の生殖細胞を除けば、通常細胞の核は一組しかないが、なぜか肝臓は二組の細胞核を持っているのだ。
 もう一つ面白い現象がある。細胞同士が隣り合うとその間隙に毛細胆管組織を形成するように働く。肝臓は毒物などを処理した廃物(胆汁)をその毛細胆管に排出し、それらの毛細胆管が寄り集まって胆管となり、やがて胆汁分泌器官の胆嚢へと集合進化していくのである。
 増殖しながらも接触する細胞と連携しながら胆管組織を形成していく、二人のそれぞれの肝臓組織の動向を観察する。蛍光染料で染められた細胞とそうでない細胞がどう働いているか?
 もし拒絶反応があれば、接触した細胞は胆管形成することなく離れていくはずだ。
 結果は、二人の細胞は互いに仲良く寄り添うように増殖と胆管形成を繰り返していた。拒絶反応はまったく見られなかった。
「よしよし、オーライだ。免疫はパスだ」
 確率数万分の一というまさしく偶然の一致だった。同じ日本人だからこその結果だろう。もし二人の民族が違っていたらまず有り得なかったことだ。
「今、生き返らせてやるからな」

 その頃、敬は追っ手を何とか振り切り、一息ついていた。
 旅立ちの時に空港での、薫の母との会話を思い出していた。
「じゃあ、敬くん。薫をお願いね。あなただけが頼りなんだから」
「まかしておいてください」
 申し訳ない気持ちで一杯だった。薫を守る事もできず、その場に残したまま逃げ回っている。男として情けなかった。
「ちきしょう! せめて真樹の仇を討たねば済まさないからな」
 よろよろと歩きながら、夜の闇にかき消えるように姿が見えなくなった。

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響子そして(三)少年刑務所
2021.07.07

響子そして


(三)少年刑務所

 事件が露見し、わたしは少年刑務所に収容された。
 一年近くを独居房で暮らし、更生指導が行われた。
 やがて、多種多様の犯罪を犯した少年達と一緒の宿房に入れられた。
 雑居房の生活は悲惨なものとなった。
 新参者に対する陰湿ないじめが横行した。
 食事を横取りされたり、暴力を受けたり、看守に気づかれないようにそれは行われた。
 ある夜のことだった。
 消灯の時間になって、横になっているとまわりがざわついている。
 忍び寄る気配。
「な、なに?」
 いきなり大勢の人間に組み敷かれた。
 口の中にタオルを強引に詰め込まれた。声が出せないようにして、看守に気づかれないようにである。
「おい、しっかり押さえておけよ」
 尻を持ち上げられ、硬いものが当たった。
 次の瞬間、肛門に激痛が走った。
「ううっ……」
 相手が前後運動を繰り返す度に、ぎりぎりと挽千切られるような痛みが走る。
 やがて相手の動きが激しくなりうめき声をあげたかと思うと、わたしの中に熱いものがどうっと勢いよく流れ込んできた。
 すべてのものを放出して満足した相手は、ゆっくりとそれを引き抜いていく。わたしの太股を、ねっとりしたもが伝わり落ちた。暗くて判らないが、相手の精液とわたしの血液とが混じっているに違いない。
 すぐさま次の相手が馬乗りになって同様の行為をはじめた。
 その日以来、毎晩のように犯された。相手は毎回入れ代わった。しかも一晩に数人の相手をさせられた。
 わたしは、男しかいない宿房で、少年達の慰みものにされてしまったのである。

 どうせ抵抗できないのだ。わたしは自ら進んで身体を提供するようになった。
 フェラチオもしてあげた。数をこなす内に上手になり、不潔なバックよりフェラチオを望む少年が多くなった。
 やがて少年達の態度が変わった。
 やさしくなったのだ。いじめられる事がなくなり、食事もちゃんと取れるようになった。それまでは一晩で数人の相手をさせられていたのが、わたしの健康を気遣って一晩に一人という約束ごとが決められ、順番待ちをするようになっていた。
 少年達もそうであるが、実はわたし自身にも変化が起きていた。
 感じるようになっていたのである。自分でも信じられなかったが、バックで突つかれるたびに、あえぎの声を上げるようになっていた。
 わたしのあえぎの声を聞いて、少年達はさらに興奮していく。そしてありったけのものを、わたしの中に放出して果てていく。
 時々チョコレートなどの嗜好品が、外部から差し入れされることがあるが、おすそ分けに預かれるようになった。それにはもちろん代償行為として、夜の相手をすることを意味した。

 外部から遮断され行き場のない少年達のほとんどが、性欲をもてあそんでいた。溜まったものは出さねばならない。たまりにたまって限界に達っし、夢精してしまうこともある。そんな恥ずかしいところを見られる前に、各自隠れた場所で処理している。
 わたしのいる宿房では、おとなしく待っていれば順番が回ってくる。自分の手で慰めるよりはるかに気持ちが良いので、ちゃんとその日を指折りながら待っている。
 それでも順番を待ちきれなくなる少年達。
「なあ、頼むよ。もう限界なんだ」
「いいわよ。やってあげるわ」
 いつしかわたしは女言葉を使うようになっていた。少年達もそれを受け止めて、わたしを女としてやさしく扱うようになっていた。
 いそいそとズボンのファスナーを降ろす少年。ぎんぎんにそそり立って暴発しそうなそれを咥えて、やさしく愛撫してあげる。その根元や袋・タマにもやさしく刺激を与えてやると、感極まってどうっとわたしの口の中に放出する。
「ありがとう。借りはちゃんと返すから」
 ファスナーを上げながら、ウィンクをする少年。

 少年刑務所だから、当然所内作業がある。
 わたしが重いものを持っていると、
「重いだろ、持ってやるよ。君はこっちの軽いやつにしなよ」
 といって代わってくれる。先程フェラチオしてあげた少年だ。全然仕事しないわけにはいかないから、より軽作業になるようにしてくれる。
「ありがとう」
 わたしが精一杯の微笑みを浮かべてお礼を言うと、
「いやあ、当然だよ。きつかったら、いつでも代わってあげるから」
 顔を赤く染めて照れていた。
 同室の宿房の少年だけでなく、所内の全員がやさしく対応してくれていた。
 わたしが女として相手していることは、所内のほとんどの少年に知れ渡っていたからだ。そういった行為の背後には下心がある。
 チョコレートを手渡しながら、わたしに囁く。
「なあ、いいだろ?」
「ええ、いいわよ。でも、どこでするの?」
 するとほんとうに嬉しそうな表情になって、その秘密の場所に連れて行ってくれる。
「ここでいいの?」
 相手は溜りに溜まっているので、その股間は弾きれんばかりに膨らんでいる。待ちきれないようにズホンを降ろすと襲いかかってくる。わたしのズボンを剥ぎとりパンツを脱がすと背後からいきなり入ってくる。
 たいがいの少年はものの二三分で果ててしまう。わたしとしてはもっと楽しませてほしいと思ったりするが、少年刑務所の中であり、いつ見つかるかもしれない。時間との勝負なのだ。
 男の感覚というものは単純だ。射精すれば誰でも快感があるが、それをわたしの中に放出すればしびれるような感覚がたまらないといった表情になる。相手は、オナニーでは得られない感覚に酔いしれて満足するのだ。
 一度関係すると、わたしの虜となった。


 少年刑務所というと、未成年の受刑者が対象だと思われているが、実は少年よりも高齢者の方が多い。佐賀少年刑務所において88歳の受刑者が病気で死亡したという例があるとおり、凶悪犯でないかぎり少年は少年院に入れられるのが通常である。
 法務省によると、2016年の少年刑務所の入所者数は2609人。20歳未満は12人だけ。

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特務捜査官レディー(三)逃亡
2021.07.07

特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)


(三)逃亡

 宿舎を目前にした所で、急に敬が立ち止まった。
 険しい目つきになり宿舎前に停車している車を凝視している。
 野生の勘が立ち止まらせたようだ。
「どうしたの? 立ち止まって」
「逃げるぞ」
「え! なんで?」
 だが、次の瞬間銃声がしたかと思うと、二人のすぐそばに着弾した。
「撃ってきた! あたし達を狙っているの?」
「そういうことだ。どうやら俺達は、局長にはめられたんだ」
「どういうこと?」
「ニューヨーク市警研修は口実だ。俺達を日本から遠く離れたニューヨークの地で抹殺するのが目的だったんだ」
「そんな……」
「日本では何かと警察官の不祥事続きで風当たりが強いからな。こっちでならどのような風にでも事件をでっち上げられると思ったのだろう。適当に死亡報告書が提出されて日本に遺体で帰るという算段だろう」
「ひどい!」
「とにかく逃げるが先だ」

 角を曲がった時だった。目の前に銃を構えた追っ手が立ちふさがっていた。
 だが、敬の反応の方が早かった。間髪入れずに回し蹴りを食らわすと、どうっとばかりに相手は地面に突っ伏した。
「ふん! 日本の警察官を甘く見るなよ」
 その懐から落ちた手帳を拾い上げる薫。
「見て、敬!」
「なんだ」
「こいつ警察官よ」
「ほんとうか!」
「ほら、警察手帳」
 といって懐からこぼれ落ちた手帳を開いて見せた。
「そういうことか……、市警本部長もグルだったんだ」
「そんなあ、警察が相手だったら逃げきれないわ」
「ああ、空港に張り込まれたら、国外脱出もできない。袋のねずみだ」
「せめてニューヨークからでも離れないとだめね」
「とにかくこいつは貰っておこう」
 拳銃を拾い上げる敬。
「シグ・ザウエルP226か……。警察官というのは本当みたいだ」
 P226は、スイスのシグ社とドイツの子会社ザウエルが製造している、FBIやCIA及び各警察署のご用達の拳銃だった。全長196mm・重量845g・口径9mmx19・装弾数15+1発だ。日本の陸上自衛隊も使用しているP220(9mm拳銃)の性能を向上させ、マガジンをダブルカアラム化して装弾数を増加させたものだ。
シグザウエルP226
 銃を手にした敬は、立ちふさがる刺客を次々に撃ち倒しながら、ついでに倒した相手の銃の補充を繰り返しながら逃げ回っていた。
「敬、射撃の腕、上がったね」
「命が掛かっているからね。火事場の何とやらだ。それに図体がでかいから当てやすいしな」
 とにかく相手は警察だ。
 赴任してきたばかりで、まるで知らないニューヨーク。身を寄せる場所も隠れ場所もなかった。
 やがて事態は深刻になってきた。
「奴等、拳銃じゃ埒があかないと、マシンガン持ち出してきやがった」
「敬……ちょっと待って……」
 薫が立ち止まった。息があがり苦しそうだ。
 まずいな……。薫は体力的に限界だ。これ以上走れそうになかった。
 こうなったら俺が囮となって奴等を引き付けて、その隙きに逃げださせるしかない。

「薫、いいか。おまえはここでうずくまって隠れているんだぞ、いいな」
「敬は、どうするの?」
「俺が奴等を引き付ける。そして銃声が遠ざかっていったら、おりをみてここから逃げ出してニューヨークを離れろ」
「いやだよ。あたしは、ずっと敬と一緒にいるんだから。誓い合ったじゃない」
「今はそんなことを言って……」
「危ない!」
 薫が急に立ち上がって、俺の背後に回った。
 マシンガンが掃射される。
 俺はすかさず拳銃で相手を倒した。
「た、たかし……」
 薫が、か細い声を出し、地面に崩れ落ちた。
「か、薫!」
 その腹部に無数の弾痕と血が吹き出していた。
「う、撃たれちゃった。ごめんなさい、あたしはもうだめだわ。あたしを置いて、敬一人で逃げて」
「馬鹿野郎、おまえを放っておけるわけがないだろう。俺達はどこまでも一緒だろ」
「ふふ……。それさっきあたしが言った言葉。でも、あたしは助かりっこない。自分でもわかる」
「おまえを置いてはいけない」
 敬は薫を抱きかかえるとゆっくりと歩きだした。敬とて疲れ切っていた。それを薫を抱いていくとなると余計に負担がかかる。腕が痺れ足が棒のように固くなった。

「最後のお願いよ。あたしを愛しているのなら、生き抜いて頂戴。生きて生き抜いて、あたしの分まで長生きして欲しいの。だから、あたしを置いて、一人で逃げてお願い」
「そんなこと……できるわけ……ないよ。愛してるからこそ、死ぬ時は一緒だよ……」
「そんな哀しい事言わないで。もういいの。こんなあたしと、今日までずっと一緒にいてくれてありがとう」

 再び足音が近づいてきた。
「ちきしょう。しつこい奴等だ」
「敬、はやく逃げて。あたしを愛してるのなら、逃げて生き残って」
「……。判ったよ」
 そっと薫を地面に寝かせつける敬。
「いいか、おまえも最期の最期まで、生きる希望を捨てるなよ。簡単に死ぬんじゃないぞ、俺が迎えにくるのを信じて、命の炎を絶やすんじゃない」
「判ったわ、待ってる」
「それじゃあ、行くよ」
「ええ、頑張って」
 立ち上がり、駆け出す敬。
 その後ろ姿を見つめる薫。
「必ず、生きぬいて……」
 やがてゆっくりと目を閉じて動かなくなった。
 そのそばに駆け寄る抹殺者達。
「死んでるな。こいつは放っておいて男を追うぞ」
 一目見て判断し、敬を追い掛ける。

 静寂を取り戻した路地裏。
 横たわる薫に近づく人影があった。屈みこみ、薫の頸部に指を当てている。
「まだ、脈があるな。助かるかも知れない」
 そう言うと、薫を抱きかかえて運び、乗ってきた車に乗せていずこへと走り去ってしまった。

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