銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 IX
2020.01.05

 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦


IX


 ミネルバ艦橋。
「敵機来襲!」
「後方に揚陸母艦が見えます」
「何隻いるか?」
「三隻です」
「ヘリウム残量は?」
「残り12%です」
「超伝導磁気浮上システム維持できる時間は?」
「およそ56時間です」
「そうか……」
「やはり、ここへ来るときに、敵艦隊の足止めに放出したのが痛いですね」
「仕方がなかった。そうしなければ、ミネルバの運命もどうなっていたか」

「訓練部隊総員帰還しました」
「よし、ミネルバ浮上!」
 砂塵を巻き上げて浮上するミネルバ。
「戦闘配備!」
 艦内を駆け回って、それぞれの持ち場に急ぐ隊員達。
 モビルスーツの格納庫では、出撃の準備が始まっている。
 旧式機から昇降機を使って降りながら、整備員に大声で尋ねるサブリナ中尉。
「新型の整備状況はどうか?」
「液体ヘリウムの注入がまだ完了してません」
「何割注入した?」
「六割です」
「なら、二十分は飛べるな?」
「ええ、たぶん」
 新型の諸元表によると、液体ヘリウム満タンで大気中を三十分飛べることになっている。
もちろん気温や気圧といった環境でも違ってくるが。
「ハイネはまだか?」
 と叫ぶと、
「今行きます!」
 待機所から、携帯食料のチューブを咥えながら出てきた。
「ちょっと小腹が空いたもんで」
 言い訳していた。
「早く乗れ!」
「了解」
 新型は複座式である。
 パイロットの他、超伝導磁気浮上式システムを操作する機関士が必要なのだ。
「システム起動!」
「よし、出発する」
 ノシノシと歩いて射出機に両足を乗せる。
 前方の信号機が青になると同時に、
「サブリナ機、行きまーす!」
 カタパルトによって前方空域へと飛び出した。
 浮上システムによって、ふわりと空中に浮かぶサブリナ機。
「三時の方向に編隊多数!」
 レーダー手でもあるハイネが報告する。
 が早いか、戦闘機から発射されたミサイルが飛んでくる。
 防御用の盾を前にかざして、それを防ぐと同時に、身近を通った戦闘機をバルカン砲で
なぎ倒す。
 戦闘機の方も、素通りしてミネルバを急襲する。
「ミネルバなら大丈夫だ。こっちは敵母艦を叩く」
 戦闘機には目もくれずに、敵母艦へ向かってゆく。
 当然として、激しい弾幕攻撃を受ける。
 しかし、それも難なくかわして、母艦に取り付くのに成功する。
 背負っていたビームサーベルを手に取って、
「くらえっ!」
 とばかりに、ビームサーベルを艦体に突き刺す。
 ビームエネルギーが流れ込み、艦内のあちこちで爆発が起こり始める。
 サブリナが離艦すると同時に、轟音と共に大爆発した。
「役目は終わった、帰還するぞ」
 母艦が轟沈するのを見て、散り散りに逃げ去ってゆく戦闘機を見送りながら帰還するサ
ブリナだった。

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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 VⅢ
2019.12.29

 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦




「ナイジェル中尉はトラップに気づきますかね」
「最初の一発を食らえばいやでも気づかされるだろうが、時すでに手遅れという状況に
追い込んでやればいいのさ」
「どうやって?」
「オーガス曹長が考えていた手を使わせてもらうさ」
「湿地帯を?」
「いや、山岳地帯を登っていく。途中に開けた場所があって、狙撃には格好の場所だ。
隊を二手に分ける。私のチームが山岳地帯へ向かう。カリーニ少尉は、トラップ地帯か
ら抜け出してきた機体を迎え撃て」
「判りました」
「上手くいけば、こちらは損害を被ることなく全滅させることができるだろう」
「そう願いたいですね」
「第一から第三小隊は私に続け、残る第四から第六小隊はカリーニ少尉と共にここでト
ラップから抜け出てきた敵を攻撃」
「了解!」
「総員機体に乗車!」
 サブリナとカリーニが率いる二隊が分かれて、それぞれの作戦に向かう。

 山岳地帯へと向かう傾斜を登るサブリナ隊。
 やがて開けた場所に出た。
「ここなら眼下を進撃するオーガスらを狙撃することができるな」
 双眼鏡で監視するサブリナ。

 数時間後、ナイジェル中尉率いるB班が登場した。
「B班が森林地帯に入る瞬間を狙うのだ」
「ブービートラップに追い込むのですね」
「ん?ナイジェルめ、気が付きよったな」

 覗く双眼鏡のレンズを通して、同じように双眼鏡でこちらを眺めているナイジェルが
いた。
 と同時に、部下の一人が対戦車用擲弾発射機(ロケットランチャー)を撃ってきた。
 慌てて退避し、難を逃れるナイジェル。
「どうやら、見透かされていたようだ」
 砲弾は至近距離に着弾したものの、砲弾に炸薬は入っていないペイント弾なので人体
被害は免れた。とは言っても、部下三名がペイントを浴びて戦線離脱となった。

 さてどうするか?

 と考えていると、通信士が叫んだ。
「隊長!敵襲です、ミネルバが敵に発見されました。至急訓練を中止して帰還せよ」
 上空を戦闘機が飛び交いはじめた。
 地上にいる所を発見されると、機銃掃射される危険がある。
「分かった!ナイジェルにも伝えろ。総員退却帰還!」
 これからいいところだったのに、という名残惜しさが漂う中、慌ただしく総員撤収が
はじまった。

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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 Ⅶ
2019.12.22

 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦


                 Ⅶ

 湿地帯の中を突き進むオーガス曹長の班。
 足を取られながらも前進を続けていた。
「ようし、ここらでいいだろう。上陸するぞ」
 向きを変えて、湿地帯から上がろうとするオーガス班。
 およそ三分の一ほどが上陸した時だった。
 森林の奥からミサイルが飛んできて、一機に命中した。
 ペイント弾が破裂して、機体を真っ青に染め上げる。
『ガラン上級上等兵、命中です。行動不能に陥りました。隊より離脱して帰還してくだ
さい』
 通信機から指示が入った。
 戦闘シュミレーションによって、攻撃を受けた場合の損傷状態が計算され、戦闘不能
と判断されて帰還命令が出されたのである。
「りょ、了解。帰還します」
 隊を離脱して帰還の途につくガラン上級上等兵。
 奇襲攻撃にたじろぐ兵士たち。
「な、なんだ? どうしたんだ」
 オーガス曹長も例外ではなかった。
「奇襲です。森の奥から攻撃を受けています」
「森の奥からだと?」
 攻撃は続いていた。
 次々と撃破されて離脱する機体が続出していた。
「一時後退だ。湿地帯へ戻れ」
 湿地帯へと避難するオーガス班の機体。
 だが、違う方角からの攻撃が加わった。
「後方よりミサイル多数接近!」
「ミサイル?」
「対岸より発射されたもよう」
「対岸というと、サブリナ中尉か!」
「挟み撃ちです」
 進むもならず、退くもならず。
 進退窮まって全滅の道を急転直下のごとくに陥るオーガス班だった。

 全滅だった。

「こんなのありか……? 二班から同時攻撃を受けるなんて」
「おそらく共同戦線を張られたのかと思いますが」
「共同戦線だと?」
「はい。作戦概要の禁止条項を確認しましたところ、ルール違反にはならないようで
す」
「サブリナ中尉の策略か」
「そのようですね」
 通信機が鳴った。
『オーガス曹長の班は、総員帰還せよ』
 ミネルバからの連絡は、冷徹な響きとなってオーガスの耳に届いた。
「了解。帰還する」
 ペイントまみれの機体が続々と帰還をはじめた。

「オーガス班、全滅です。総員、帰還の途に着きました」
「ふふん。天狗になっているから、こういうことになるのさ」
「これから、どうしますか?」
「共同戦線はここまでだからな。この勢いに乗ってハイネの班へ殴り込みをかけたいと
ころだ」
「C班ですね」
「まあ、ハイネは個人としての戦闘能力はずば抜けて高いが、所詮はただの下士官だ。
作戦を立て、隊を指揮するなどという頭脳プレーは経験がない。ちょっとかき回してや
れば、隊は混乱に陥り、士気は乱れて自滅する」
「サブリナ中尉の指揮下にあってこそのものということですね」
「その通りだ。ハイネ上級曹長、恐れるに足りずだ」
 数時間後、ナイジェル中尉率いるB班と、ハイネ上級曹長率いるC班が、戦闘の火蓋
を切った。
 ナイジェル中尉の予想通り、ハイネ上級曹長率いるC班は、緒戦こそ善戦したが、ナ
イジェルが放った陽動作戦に見事に引っかかって、善戦むなしく敗退した。
 奮戦むなしく帰還するC班を見送るナイジェル中尉。
「ようし続いて、残るD班との決戦だ。その前に補給だ。しっかり燃料弾薬を積み込ん
でおけ」
 負け組みが帰還した後に残された陣地は、勝ち組が自由に使っていいことになってい
た。

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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 VI
2019.12.15

 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦


                 VI

 A班は、リーダーのオーガス曹長を中心にして、地図を広げながら作戦会議を行って
いた。
「ポイントは密林の中央に広がる湿地帯だな。これをいかに利用するかに、作戦成功の
鍵が秘められていると言っても過言ではないだろう」
「敵を湿地帯の中へ誘い込むのですか?」
「そういう手もあるが、俺は逆のことを考えている」
「逆といいますと?」
「例えば、脳細胞の単純なナイジェル中尉などは、猪突猛進で真っ直ぐ俺たちの班に向
かってくると思う」
「まあ、それは言えてるかも知れませんね」
「そこでだ。我々はわざと湿地帯の中を通って、ナイジェル中尉の背後に回り込んで奇
襲を掛けることができるだろう」
「つまり最初のターゲットはナイジェル中尉というわけですね」
「その通りだ。性格も良く判っているし、どう動くかも予想がつき易い」
「ところでサブリナ中尉は、どちらに動きますかね?」
「判らんが、心配しても仕様がないだろうし、こちらが湿地帯を突き進んでいることま
では想像もしていないだろうし、空になったベースキャンプで地団太踏むだけさ」
「ハイネ上級曹長の班は?」
「対角線上側にいる相手は、とりあえず考えなくてもいいんじゃないかな。我々がハイ
ネ上級曹長と一戦交えるのは、ナイジェル中尉を片付けてからだ」
 という具合に作戦会議に余念がない。

 それに対して他の班は、武器や機体のチェックに余念がない。
 A班が作戦に固執しているのに対して、他の班は直接戦闘に関わることを考えている
ようだった。

 ミネルバの艦橋のスクリーンには、そんな各班の動きがモニターされて投影されてい
た。
「A班は余裕ですね」
「まあ、考えは人それぞれですから」
「艦長。時間です」
 オペレーターが戦闘開始時刻を告げた。
「はじめてください」
 フランソワのその一言によって、戦闘開始の狼煙があがる。
「AからD班、戦闘開始せよ」
 通信を入れるオペレーター。
 勇躍として密林へと繰り出していく各班のモビルスーツ隊。
 オーガス曹長のA班と、ナイジェル中尉のB班が、互いに接近するように進撃してい
た。そして、中間点に差し掛かる頃、作戦通りに湿地帯に迂回するA班だった。B班の
背後に回り込む作戦を実行していた。
 その頃、ハイネ上級曹長はまったく動かずに、何やら工作活動らしきことをやってい
た。
 そしてサブリナ中尉はというと……。
「ナイジェル中尉、聞こえるか?」
『何か用か?』
 B班のナイジェル中尉と通信回線を開いて交信中だった。
「提案があるのだが」
『提案?』
「ここは一つ共同戦線といかないか?」
『共同戦線だと?』
「そうだ、四班入り乱れての戦闘は何が起こるか判らない」
『まあ、そうだろうな』
「そこでだ。我々二班が共同でオーガスかハイネのどちらかを叩く。数の上で二倍にな
るから勝利は確実だ」
『ルール違反にならないか?』
「いや、この戦闘訓練の作戦概要の禁止条項には含まれていない」
『いいだろう、共同戦線といこう。で、どちらから仕掛ける?』
「オーガス曹長の班を先に叩く」
『ふん。それもいいかも知れないな。こしゃまな口を塞いでくれるわ』
「奴は、湿地帯の中を通って、B班の後背に回り込む作戦だ」
『湿地帯だと? なるほど奴の考えそうなことだな』
「湿地帯から上陸する出鼻を森に潜んで集中攻撃すればひとたまりもないだろう。私は、
湿地帯の中にいるものや、逃げ込んでくるのを攻撃する」
『なるほど、いい作戦だ』
「そちらの攻撃開始を合図に、こちらも攻撃を開始する」
『わかった。多少こちらに分が悪いが、奴の動きを教えてくれたことでおあいことしよ
う』
「ハイネ上級曹長の動きが見られないのが気になる。慎重を期したほうがいいだろう」
『ハイネか。無口な奴だからな。何を考えているのか判らん』
「まあな……。それじゃあ、武運を祈る」
『そちらこそな』
 通信を切断して、腕組みをして考え込むサブリナ。
 やがて腕組みを解いて再び通信機を操作する。
「カリーニ少尉!」
 副隊長のカリーニを呼び出す。
『はっ! カリーニです』
「進行状況はどうなってるか」
『はい。遠距離攻撃用のミサイルへの換装は終了しております。残るブラスター砲の調
整もまもなくです』
「まもなく戦闘開始だ。急いでくれ」
『わかりました』

 その頃、ナイジェル中尉の班は湿地帯から攻めてくるはずのオーガス曹長の班に対す
る迎撃体制を整えていた。
「中尉。湿地帯の方角にエネルギー反応です」
「来たか。十分引き付けてから攻撃を開始する。上陸するその時を狙うのだ」
「了解!」
 通信を終えて、
「さすが作戦巧者のサブリナ中尉だ。鋭い読みをする」
 と、しきりに頷いていた。
 いずれ戦わなければならないとは知りつつも、今は目前の敵に集中すべきだと、意識
をオーガス曹長との戦いに専念することにした。


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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 V
2019.12.08


 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦


                 V

 ミネルバ以下の戦艦がカッシーニの森に隠れるように着陸している。
 恒久修理班が損傷した外壁を修理している。
 その間に、パイロット候補生達の訓練が再開された。
 発着格納庫に集められた訓練生に、サブリナとナイジェルが訓示を述べる。
「パイロットになるための訓練はきびしいが、十分な訓練を重ねて立派な戦士になって
もらいたい。幸いにも先の作戦で多くのモビルスーツが手に入ったので、各自に一機ず
つあてがう事ができるようになった」
「いいか。正規パイロットの先輩達のご好意で、これらの機体を訓練に使わせてもらう
のだ。ようく感謝することだ」
「訓練用の模擬弾を装填しているとはいえ、実戦用の機体は訓練機に比べてパワーが違
う。心して掛かれよ」
「これよりA班からD班までの四チームに分かれてもらう。チームリーダーとして、A
班にはオーガス曹長、B班にはナイジェル中尉、C班にはハイネ上級曹長、そしてD班
は私が担当する。A班は戦艦ポセイドン、B班は空母サンタフェ、C班は空母サンダー
バードに、それぞれ移乗してもらう」
 搾取したモビルスーツは、ミネルバに随行する各艦にそれぞれ配分されていた。
 戦闘訓練も、各艦から出発するという方式ではじめられる。
「おい。おまえは、B班か?」
「おうよ。おまえと一緒でなくて助かったぜ」
「仲間の足を引っ張るなよ」
「おまえこそ、戦闘でちびるなよ」
 というわけで、A班からC班の三チームは輸送トラックに分乗して、それぞれの艦へ
と移動する。
「中尉殿、もうしわけありませんが勝たせてもらいますよ」
「何を言うか。おまえが戦うわけでもあるまいし」
「作戦ですよ、作戦」
「作戦だと?」
「ランドール提督だって、どんな不利な情勢でも、作戦によって勝利に導きましたから
ね」
 ナイジェル中尉とオーガス曹長が言い争っている間にも、訓練生の出発準備が整った。
「中尉殿。B班全員搭乗しました」
 輸送トラックに全員が乗り込み、ナイジェル中尉の合図待ちである。
「おう。それじゃあ、出発するぞ」
 傍らに待たせておいたジープに乗り込むナイジェル中尉。
「オーガス。おまえの作戦とやらをじっくりと見せてもらうぜ」
「たんまはなしですからね」
「抜かせ! おい、出発させろ」
 ジープを発進させるナイジェル中尉。
 地上用発着場からジープが出てゆく。
 それを見送りながら、オーガス曹長はある物が到着するのを待っていた。
「曹長! 手に入れてきましたよ」
「おう、でかした」
 部下が持ってきたのは、訓練の戦場となるカッシーニの森の見取り図だった。
「これで作戦が立てられるぞ」
 見取り図を握り締めてジープに乗り込むオーガス曹長。
 その視線にはハイネ上級曹長があった。
 黙りこんだままジープに乗り込んで出発していった。
「無口なハイネ上級曹長にはチームリーダーとしてやれるのかねえ」
「心配ですか?」
「んなわけないだろ」
「そろそろ出発しましょう。中尉殿が睨んでいますよ」
 サブリナ中尉がこちらをじっと見つめていた。
「おっと。後でお目玉貰いそうだ」
 慌ててヘルメットを被りながら、
「ようし! 乗り込め!」
 出発準備を開始した。


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