あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-2
2020.01.02

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-2

 で、なんでかんでと放課後となる。
 放課後というと学級掃除である。
 学校によっては業者が掃除をやってくれるところもあるそうだが、この学校では生徒が
やることになっている。
 不公平だとは思わないか?
 でもってお決まりの、男子逃走である。
 いつも女子だけが居残って掃除にいそしむことになる。
「あーあ。いやんなっちゃうなあ、なんで男の子は逃げちゃうの?」
「あんたも逃げちゃえば」
「いいの?」
「だめ!」
「でしょ?」
「結局、誰かがやらなきゃならないんだし、埃まみれの教室で勉強するのはいやだもん
ね」
「そうそう。純徳な乙女を演出するのも楽じゃない」
「なにそれ?」
「どこでだれが見てるか判らないし、まじめにやってるところを先生に認められれば、内
申書の評価を落とすこともないしね」
「結局そこに行き着くわけね」
「そ、だだでは起きない。やったからと言って、評価が上がるものじゃないけど、下がる
こともないから」
「こんな時は女の子ってのは損な役回りだわ」
「掃除洗濯ご飯炊きは女の仕事。まだまだ男尊女卑的な因習がまかり通ってるもんね」
「言えてる。何かっていうと、女の子でしょ」
「そうそう」
 そんな会話を片耳に箒がけをしている弘美。
 ほんとは弘美も逃げ出そうかと思ったのであるが、ヴィーナス選出の仲良しのクラス
メートが居残っているので、逃げるに逃げられない。それに愛と一緒に帰る約束もしてし
まっていた。

「それじゃあ、また明日ね」
 掃除を終えて帰り支度である。
 三々五々解散となる。クラブ活動にいそしむ者がいれば、帰宅部もいる。
 弘美は帰宅部だった。クラブには属していない。
 愛はテニス部だが、今日は休養日だ。
「それで、今朝の話だけどさあ。何なの?」
 弘美と愛。仲良く並んで帰宅の途についていた。
 帰る方向が途中まで同じなのである。
「ねえ、弘美のうちに寄ってもいい?」
「あたしのうち?」
 帰りは弘美の家のほうが近い。それでそういう話を切り出したのだろうが……。
「だめ?」
「べつにいいけど……」
「ありがとう。弘美のとこでお話しするわね」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-1
2020.01.01

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-1

 朝食を終えて学校へ行く。
「弘美! おはよう!」
 いつも聞きなれた声が背後から近づいてくる。
「愛ちゃん。おはよう」
「今日は、お兄さんと一緒じゃないのね」
「クラブで今日は早出」
「そっか、野球部だもんね。地区予選もはじまるし」
「一年だから、当分球拾いと用具片付けとかばかりだよ。後はランニングばかりらしい
よ」
「でもすぐにレギュラーになれるよ。中学ではキャプテンだったし」
「そうかな」
「それに女子の間では結構人気があるのよ。妹として鼻が高いでしょ」
「なにそれ?」
「知らないの?」
「知らない」
「呆れた、灯台下暗しね」
 知るわけないだろ。
 そういうこと、妹(弟)に自慢するもんじゃないし。
 それにしても、愛ちゃんとはすっかり仲良しになってしまった。
 もちろん女の子同士としてである。
 幼馴染として、これまでにも多少の付き合いがあったが、やはり異性ということで垣根
が存在して、これほどまでに親密にはなれなかった。男女が一緒に歩いていれば、噂の種
にもなるし……。
「ところでさあ……」
「なに?」
「もうじき夏休みだよね」
 とさも意味ありげに尋ねる。
「そうだね」
「予定あるの?」
「予定?」
「旅行とか、アルバイトとかさあ……」
「別に……ないけどさ」
「そう……」
 とぽつりとつぶやいて考え込むように黙った。
「なによ?」
「うん……ちょっとね」
「だから、なによ?」
「あのね……」
 どうやら切り出しにくい話のようだ。
「うん」
「やっぱり、後で話すわ」
「何よお、気になるなあ」
「とにかく、後で」
 結局口に出しただけで、内容を話さない。
 気になるなあ……。

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あっと!ヴィーナス!!第二部 プロローグ
2019.12.31

あっと! ヴィーナス!!(14)


第二部


プロローグ

ナレーション
再び天上界。
オリュンポスの頂きにそびえ立つ神殿の玉座に鎮座するゼウス。
神々の王。全知全能の神。神と人間の支配者。
ゆえに彼の意志は掟であり、気まぐれは運命と言われる。
彼はまた大変な浮気者であった。
姉であり妻であるヘラの目を盗んでは行幸を重ねていた。
その姿を変えて……。

ゼウス
ところでディアナ。最近ヴィーナスの姿が見えないが知っておるか?

ナレーション
神の酒(ネクタル)と神の食物(アムブロシア)を口に運びながら、
壇上から見下ろすそこには、天空の女神アルテミスことディアナがかしこまって
傅いていた。

ディアナ
存じませぬ。ヴィーナスとは犬猿の仲であります。
(実は知っているが。ここは黙っていた方がいいと黙っている)

ゼウス
うむ……。そうであったな。
ところで、例の件であるが、どうやらヘラに知られてしまったらしい。

ディアナ
……と申しますと、ファイルーZでございますな。

ゼウス
その通りじゃ。
どこから秘密が漏れたのかは判らぬが……。

ディアナ
……ヴィーナスだよ。(そう思うが口には出さない)

ゼウス
おまえも知っていると思うが、わしゃあヘラには頭が上がらん。
今頃、わしの計画を潰そうと、策を巡らしているに違いない。
何とかならんか?

ディアナ
ヘラ様が、ファイルーZの存在をお気づきになられたとなれば、
必ずやその対象を拉致監禁なさる可能性がございます。

ゼウス
だろうなあ。
そうじゃ、お主。
時の充まで、ボディーガードとして、そのもののそばに参っておれ。
いいな。

ディアナ
御意にございます。

ナレーション
深々と頭を垂れて玉座を離れて退室するディアナ。
神殿の入り口にディアナが出てくる。
空をつと仰ぎため息をつきながら……。

ディアナ
参ったな……。
ヘラ様のお気持ちも判るし、ゼウス様の意志には逆らえない。
それもこれも、あの飲んだくれのせいだ。
ともかく御意が下った以上従うまでだ。

暗転

ナレーション
ところ変わってここはゼウスの妻ヘラの神殿である。
壇上に怒りくるった表情のヘラがいる。
いらいらと壇上を右往左往している。
そこへ一人の神子が駆け込んでくる。

神子 D
ファイルーZの居所がわかりました!
証拠写真も、ほれこの通り。(と写真を手渡す)

ヘラ
(写真を受け取って)でかしたぞ。
(しばらく写真を眺めてから)
アポロ! アポロはおらぬか。

ナレーション
そこへ神子を右脇に抱えるように連れ添い
(その手は神子の胸元をまさぐっている)
左手にカクテルグラスを捧げ持つようにして、アポロが登場する。

アポロ
お呼びですか?
お母さま。

ヘラ
用があるから呼んだのです。
しかしその格好はどうにかならんのか。

アポロ
これ? 可愛い娘でしょう。
すぐそこでひっかけました。
(と神子の衣装の胸元をはだけると豊かな乳房が露になる)

神子 E
…………。(乳房を露にされて恥ずかしがっている)

ヘラ
さすがゼウスの息子。血は争えないか……。
まあ、それはどうでもよい。
おまえに命令を与える。
この写真の娘を拉致して我が元へ連れてくるのじゃ。
(と指先で写真を弾くと、それは宙を舞ってアポロの手へ)

アポロ
(写真を眺めて)この娘が何か?

ヘラ
どうやら次の浮気の相手のようだ。

アポロ
ほほう。相変わらず女に手を出されているのか。

ヘラ
人のことを言えた身分か!
(とアポロが抱えている神子を見つめて)
まあ、いい!
とにかく、その娘が十六歳になるまえに拉致するのじゃ。

アポロ
十六歳というと成人する前ということですね。

ヘラ
そうだ!

ナレーション
天上界では、十六歳を成人として扱い、それ未満の婦女子には
手を出してはならないという暗黙の了解があった。
それはゼウスをしても破ることのできないものだった。
ゼウスは運命管理局が管理しているファイル。
これから生まれ出る予定の人間達の中でも、絶世の美女として生まれる運命と
なっている娘のファイル。それをファイルーZとして、
時の充まではと管理しているのであった。

アポロ
拉致ねえ。わたしだってただ働きは遠慮したい。
もし私の気に入ることになれば……。

ヘラ
ああ、かまわぬ。妻にでも何にでもするがよい。
ゼウスにだけは、いいようにさせなければよいのじゃ。

アポロ
ならば、結構。
では、さっそく。(神子を抱えたまま退場)

ナレーション
さて諸君もご存じの通り、このアポロはゼウスの最初の浮気の相手とされる
レトが産んだ双子の一人で、姉(妹?)がディアナである。
なぜか彼が恋する相手は悲劇を迎える。
月桂樹となったダフネ。
ヒヤシンスの花にまつわる美少年ヒュアキントス。
他にもシビュレーやカッサンドラーなどなど。
それがゆえに常に新しい恋を求めてさまよう。
なお、アポロとはディアナ(ダイアナ)と同じく英語名。

役者は揃った。

ゼウスの命を受けたアルテミスことディアナ。
かたやヘラの命を受けたアポロ。
この兄妹とヴィーナスを交えて、物語は波乱の様相を呈してきた。
さて、これらの神々の下。
我らがヒロイン。
相川弘美ちゃんの運命は?
期待が膨らむ中、第二部がはじまる。
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あっと!ヴィーナス!!第五章 part-6
2019.12.30

あっと! ヴィーナス!!


第五章 part-6

 ええと……。どれかな……。
 昨日と今日と買ったばかりの新品衣料の中からパジャマを探し出す。昨日着用したもの
はすでに洗濯機の中だ。以前なら二三日は同じのを着ていたりしたが、女の子としては毎
日着替えるようにとの厳命だ。だから洗濯サイクル、乾きにくい雨の日のことをも考慮し
て、最低でも後三着はあるはずだ。
「これかな……」
 可愛い花柄のネグリジェだった。
「ん……。パス!」
 どうも、てるてる坊主のネグリジェは敬遠したい。
 整理好きな母だから、同じ物をあちこちばらばらにしまうことはしない。当然、これの
下が……。
 胸元に華やかなレースが施されたネグリジェだった。
「……。つぎね」
 さらに下を探る。
 肩紐式のストレートなスリップドレスのネグリジェだった。
「肩紐な分、胸の膨らみがくっきりとでそう……パス」
 さらに下を探る。
 透け透けとは言わないが、ピンクのナイロン製のネグリジェだった。
「こいつは暑い夏には着れないね」
 さらに下を探る。
 もうなかった……。
 …………。

 ということは、パジャマが一着にネグリジェが四着というわけか……。
 もろ母の好みで選んでるというところ。
 母はネグリジェ派だった。
 もっとも結婚していて、旦那との夜の相手をするには、ネグリジェの方がなにかと都合
がいいからに違いないが……。

 はあ……

 思わずため息が洩れてしまう。
 シーツがよけいに汚れるからと母がうるさいので、裸で寝るわけにもいかない。
「しようがない……こいつでいいや」
 一番最初に取り出した花柄のネグリジェにした。

「しかし……今日も一日、ほんとに疲れたよ」
 朝目覚めた時から今この時まで、緊張と羞恥心との連続で、ひとときも気の休まること
はなかった。
 ベッドに潜り込み祈る。
 朝目覚めたらすべてが元に戻っていますように。


第一部 完

 引き続き第二部をお楽しみください。

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あっと!ヴィーナス!!第五章 part-5
2019.12.26

あっと! ヴィーナス!!


第五章 part-5


 というわけで、今一緒に風呂に入っている。
 母とはいえ生の女性の裸を目の当たりにするのははじめてだった。そりゃあ、子供の時
は一緒に入っていた記憶があるにはあるが、異性を意識する年頃になってからはまだ一度
もない経験だった。
 あたりまえだ!
 この歳でまだ母と一緒に入っていたとしたら常識を疑う。
 それがいきなり女の子になって、自らの裸をさらすことも重なって、恥ずかしさの極み
だった。
 とにかく入浴は、裸と裸のぶつかり合い、じゃなくて……ちょっとエロチックな状態に
あるといえた。生身の女性の裸体をさらけ出し合って身体を洗いっこしたりして、
「いやーん。そこ、くすぐったい」
「あらん、ここが感じるのね」
 とか言いながら……。
 ちがう! ちがう!
 なに考えてんだよ。
 …………。

 胸もあそこも隠すわけにはいかないから恥ずかしくて、見られるくらいならずっと湯船
に浸かっていたいくらいだ。
 それじゃあ、のぼせちゃうって。
 でも母はまるで気にもかけていない。そりゃまあ、これまでにも公共浴場に入ったこと
は数知れないだろうし……。身を分けた実の娘だもんな。
「いい? 女の子の肌はソフトに洗わなければいけないの。特にお顔は念入りに専用の洗
顔フォームを使わなくちゃだめよ。普通の石鹸はアルカリ性で肌を傷めちゃうのよ。だか
ら中性か弱酸性タイプの洗顔フォームが必要なの。洗うときはよーく泡立ててから使うの
よ。泡で汚れを落とすかんじよ」
 とにかく一から十まで、噛んで含ませるように丁寧にレクチャーしてくれる。
「ああ……。やっぱり女の子はいいわよねえ。こんなにも色白で柔肌で、もちもちっとし
た感触が最高よ。それに何より一緒に入れるのがいいわよね。これからも一緒に入りまし
ょうね」
 あ、あのねえ……。
「弘美ちゃん、いいわよね?」
 なんて目をじっと見つめられて真剣に尋ねられたら、
「う、うん」
 と、答えるしかないじゃないか……。
 しようがない、お願いを聞いてあげよう。親孝行の一貫ということで、母親だし。

「だめだめ、だめよ!」
 風呂から上がって身体を拭っている時だった。
「身体はともかく、お顔はそんなにごしごしやったらだめじゃない。刺激には一番敏感な
肌なのよ。いい? そっとタオルで押さえるようにするの。押さえるようによ」
 とにかく、一つ一つの動作にチェックが入る。
 なんて面倒なんだ。
 さらにはドレッサーの前に座らされて、就寝前のお肌の手入れだった。
「中学生に化粧は必要ないとは言うけれど、お肌を常に最高の状態に保つためには、やは
り手入れは絶対よ。アルカリに傾き加減の肌を弱酸性にするためのローション。入浴で失
ったお肌を覆っていた脂肪を補って、水分の蒸発を避けるための乳液。ちゃんと毎晩しっ
かりと手入れをしなくちゃ」
 もう……うんざり。
「聞いてるの?」
「聞いてるよ」
「はい! これで完璧よ」

 母から解放されたのはそれから三十分後だった。
 女の子としての在り方のうんちくをさんざん聞かされた。
 こんなことが毎日繰り返されるのだと思うと……。

 頭が痛い!

「だから、わたしがあなたのそばに付き添っているのよ」
 ヴィーナスの声が聞こえたような気がした。
 いや、確かに脳裏に語り掛けてきたようだ。
 いついかなる時も、ヴィーナスの庇護下にあるようだ。

 パジャマに着替えようとタンスを開けてみると。
 ない!
 以前着ていた男物の衣類が一切なくなっていた。
 捨てられた?
 学校に行っている間にだろう。
 女の子になったからには、もう必要のないものとはいえ、愛着のある服もあった。それ
を無断で処分されては気分を害された感じ。
「いつまでもうだうだ言ってんじゃないよ。いい加減あきらめな」
 ヴィーナスの声だ。
 四六時中監視されているというところかな。
 ところで女神も寝るのだろうか?
 酒なんか飲んで酔っ払っているところをみると、いかにも人間臭いからやはり寝るんだ
ろうな。
 しようがねえな……。
ポチッとよろしく!

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