あっと!ヴィーナス!!第三部 序章・前編
2020.12.09

あっと! ヴィーナス!!


序章 前編


 ここはイタリアはローマの美術館である。
 深夜、そこへ侵入した二つの怪しい影。
 キョロキョロと辺りを探っている。
「この辺りだと思うんだが……」
「あれじゃないか?」
 広場の中央に設置された石像に駆け寄る。
 それは、ギリシャ神話で語られるアポロンの石像だった。
「これだ!これに間違いない!!」
 二つの影は頷くと、石像を台座から引きはがした。
 突然、鳴り響く防犯警報の音。
「やべえ!急ぐぞ」
 石像をヒョイと肩に担いで、運び出し始めた。
 しかし、さすがに石像だけにかなり苦労しているようだった。
 やがて聞こえてくるパトカーのサイレン。
「まずいな……」
「おい!あそこにあるのは、下水道じゃないか?」
 広間の隅に、マンホールの蓋を発見する。
「よし、ここから逃げようぜ」
 蓋を開けて、石像を慎重に下へと降ろす。
「蓋を閉めるのを忘れるな」
「分かってるよ」
 下水管に設けられた側道を伝っていずこかへと消える二つの影。

 ローマ郊外のとある洞窟。
 夕暮れとなり、たくさんの蝙蝠(こうもり)が出入りしている。
 その洞窟の奥の方に蠢(うごめ)く影があった。
「よっこらしょっと!」
 抱えていた石像を地面に横たえる影。
「何とか警察をまいて逃げてこれましたね」
 服の袖で汗を拭いながら安堵のため息を付いている。
「さてと……そいじゃ、取り掛かるとしますか」
 傍らに置いていたバケツから、何やら取り出して石像に塗り始めた。
「ちょっと臭いですね」
「我慢しろよ」
 それは、蝙蝠の糞だった。
「この方法で、本当に石化が解けるのでしょうか?」
「間違いないよ。冥界ジャンプで読んだ漫画に描いてあったぞ」
「それって確か……『Dr.石像』とかいう奴ですよね」
「おうよ。科学考証もかなり正確に描いているし、大丈夫だろう」
 さらに蝙蝠の糞を塗りたくる。
 石像の表面は糞だらけとなった。
「しかし……さすがに臭すぎます"(-""-)"」
「我慢しろよ」
 そして、一時間が経過した。
「変化ありませんね」
「ああ……」
 さらに、一時間経過。
「おかしいな……」
 と言いつつ、懐から一冊の本を取り出した。
「Dr.石像で確認してみよう」
 単行本だった。
 本を最初から読んで、石化を解く方法を改めて確認を始めた。
 石化解除薬は、硝酸と96度アルコールを3:7の割合で調合すると書いてある。
「やはり足りないようです」
「蝙蝠の糞だけではダメなのか?」
「でも石化した者が、強靭な意識を保てば硝酸だけでも可能と書いてあります」
「でもな……蝙蝠の糞が硝酸と言えるか?」
 石化が解けない像を見つめながら、意気消沈する二つの影。
「このままじゃ、帰れませんね」
「ああ、手ぶらで帰るとハーデース様に叱られて、最悪ケルベロスの餌にされちまうぜ」
「ひええ!堪忍してください」
 どうやら、この二つの影は冥府の神ハーデースの従僕のようである。
「何とかしなくちゃ。とにかくできうる限りのことをしようぜ」
「そうはいっても……」
 石像をじっと見つめる二つの影だった。
「なあ、ところで催さないか?」
「何をですか?」
「実はずっと我慢してたんだよ」
 といいつつ、ズボン?のジッパーを外した。
 そして、おもむろに石像に向かって放射したのである。
「ああ!そんな事したら……いいんですか?」
「何もしないでいるよりましだろ?何でもやってみる以外ないだろ」
「それはそうですが……」
「ほら、お前も出せよ。溜まってるんだろ?」
「分かりました。やればいいんでしょ」
 と、同じようにする。
 神の従僕に生理現象があるのかは謎だが……。

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-11(終章)
2020.02.05

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-11(終章)

「大団円ということだ」
 ゼウスが手打ちにする。
「さてと……ディアナ!」
「はっ!」
 ディアナが傅く。
「天駆ける戦車で、二人を地上に送り届けよ」
「御意にございます」
 ということで、神殿に天駆ける戦車が呼び寄せられる。
 清々したといった表情で、戦車に乗る弘美と愛。
「ヴィーナス、こっちへ」
 と手招きして耳打ちする。
「いいな、ヴィーナス。弘美のことは任せる。あのじゃじゃ馬っ気の気性を直して、清楚
な乙女になるように仕向けるのだ」
「判りました。そして……」
 言いかけるヴィーナスの口を封じて、
「言わずもがなだ」
 頷くヴィーナス。
「行くぞ、ヴィーナス!」
 ディアナが急かせる。
「今行く(返事をして)では、ゼウス様。行って参ります」
「よろしくな」
 一同戦車に乗り込む。
「振り落とされないように、気をつけろよ」
「分かった」
 確認してから、手綱を打つディアナ。
「はいよー!シルバー!!」
「ローン・レンジャーはもういいよ!」
 弘美と愛、端麗なる女神二神を乗せた天駆ける戦車は地上へと舞い降りていく。


 二人を見届けたゼウス。
 傍らに石像にされた黒服の石化を解いて、
「黒服よ」
 しばし呆然としていた黒服は、気を取り直して、
「はっ!」
「おまえには、下界に下りて弘美の身辺警護の役を命ずる」
「御意!」
「行け!」
 黒服は、羽をはばたかせて飛び上がり、弘美のいる下界へと降りていった。


 その頃。
 石像にされたアポロン。
「ちくしょう!石化が解けたら、必ず復讐してやるからなあ。ハーデスと共謀して地の底
へと追いやってやる」
 と呪い続けていたとさ。

あっと!ヴィーナス 第二部 了

第三部 ハーデス/地の世界編、につづく……かもしれない(*^^)v
第四部 ポセイドン/海の世界編?(`・ω・´)ゞ

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-10
2020.02.04

あっと! ヴィーナス!!第二部(32)


第二章 part-10

「油断したな……。まさか暴力を振るうとは思わなかったよ。可愛い顔している割には豪
傑のようだ。まるで巴御前だな」
「もう一度投げ飛ばしてあげようか?」
 袖まくりして息荒い弘美。
「遠慮しておくよ」
 と言いながら立ち上がり、椅子にかけ直す。
「まあ、落ち着きたまえ。腰を落ち着けて話し合おうじゃないか」
 突然の出来事で面食らったようだが、気を取り直していつものアポロの表情に戻る。
「愛ちゃんを返してくれるんだろうな」
「仕方あるまい。返してあげよう……。ただし」
 というと、愛に向かって何やら仕草をした。
 すると、愛の身体が石になっていき、やがて石像となってしまった。
「石像の愛だがな。あっはっはあ!」
 高笑いするアポロ。
 一度手に入れたものを、簡単に返してしまっては、神様としての沽券に関わる。
 そして、反骨精神旺盛な弘美も、手なずけるのは困難であろう、
「おまえも石像になるがよい!」
 と石化の神通力を掛けた。
 身構える弘美。
 しかし、何の変化も見せなかった。
「なぜだ?なぜ、石像にならない!?」
 身振り手振りを繰り返し神通力を発動させながらも、石像化しない弘美に唖然とするア
ポロン。
 と、その時だった。
「それは、彼女がファイル-Zの娘だからだよ」
 神殿の奥から、荘厳な響きを持った声が届く。
 振り返る一同。
 そこには全知全能の神、オリンポスの最高神ゼウスの姿があった。
「ゼウス様!!」
 ヴィーナスとディアナが同時に叫ぶ。
「ゼ、ゼウス……さま……?」
 アポロも意外な神の登場にうろたえる。
「アポロよ。速まったな」
「こ、これには、訳が……」
「ヘラに命じられたか?」
「そ、その通りです」
「そこの愛もか?」
「これはただの石像ですが……」
「そうか」
 とゼウスが指をパチンと鳴らすと、愛の石化は無論麻痺化も解けて元に戻った。
「弘美ちゃん!」
 目を見開き弘美に駆け寄り抱きつく。
「よかった、よかった」
 その身体を受け止めて、強く抱きしめる弘美。
「さて、申し開きを聞こうか、アポロよ」
 と詰め寄ると、アポロの身体が石化した。
「ちっ!ヘラの仕業だな。口封じしたか……」
 舌打ちするゼウス。
「仕方あるまい。その姿のまま、地上界で頭を冷やして来い」
 ポンと肩に触れると、一瞬にして消えた。
 そして、その姿はギリシャ時代のエーゲ海の海底へと深く沈んでいた。
 やがて考古学者によって発見され引き上げられて、ローマ国立博物館に所蔵されること
となった。
「弘美そして愛。済まなかったな、神として謝罪する」
 腕まくりする弘美。
「一発殴ってもいいか?」
「それは勘弁してくれないか」
 慌てて手を前にかざして横に振るゼウス。
「で、ファイルーZとやらはどうするんだ?」
「それはそれ、これはこれ。ま、クレオパトラとかジャンヌダルクとかと同列に扱われる
んだ。栄誉と思って感謝して欲しいな。いずれ君は歴史を変えるような働きをすることに
なるのだから」
「いまいちピンと来ないんだが」
「念のためにはっきり言っておこう。ファイルーZは何もわたしの愛人にするとかいった
リストではないとだけ。ヘラは何か勘違いしているようだがな」
「本当だろうな?」
「インディアン、嘘つかない!」
「おまえも神夜映画劇場見てんのかよ!」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-9
2020.02.03

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-9

「ふわっはっは!これは参ったな」
 と大笑いするアポロ。
 キョトンとする弘美。
「そいつが、愛をさらった誘拐犯のアポロよ」
「それは本当か?」
「インディアン、嘘つかない……」
「ローン・レンジャーかよ」
「いやね、神夜映画劇場で地上放送の再放送やっているのよ」
 ヴィーナスが解説する。
「なんだよ、その神夜映画劇場ってのは」
「知らないのかよ。天上界で人気の映画シリーズだぞ。天上界でも地上界の放送番組と契
約して再放送しているんだよ。今大人気なのが【神劇の巨人】というアニメだな」
 今度は、ディアナが説明する。
「知るわけねえだろ!天上界のことなんか」
「だよな」
「そんなことどうでもいいだろ?こいつが、アポロなんだな?」
「それは間違いない!!」
 ヴィーナスとディアナがほぼ同時に答えた。
「やい!アポロとやら、愛を返せ!!」
 単刀直入に詰問する弘美。
「ほう……。なかなかシャイな娘だね」
 反対の異義語で答えるアポロ。
「君って面白いね。たまには風変わりなのもいいかもな」
「返すか返さないのか、どっちなんだ!?」
「そうだね……。君が僕の妻になってくれるというなら、考えてもよい」
「つ、妻だとお!?」
 顔を真っ赤にして激怒する弘美。
 アポロの思惑はこうだろう。
 ゼウスのお気に入りである、ファイル-Zの娘を自分の妻にすることで、ゼウスに一泡
吹かせてやろうということだ。
 人間には寿命があるので、いくらでも代わりの相手はいる。
「ふざけるなあ!」
 というとアポロの胸倉をむんずと掴み、勢いよく背負い投げをぶちかました。
 それは見事に決まり、
「一本!それまで!!」
 ヴィーナスが宣言する。
 床にもんどりうって転がるアポロは、一体何があったのかという表情をしている。
「ふん!」
 どうだ、参ったか!
 というように勝ち誇る弘美。

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-8
2020.01.30

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-8

 アポロの居城。
 すでに玉座についているアポロ。
 その両脇には、弘美と愛が眠らされて椅子に座っている。
「さて、一応話を聞いてやろうか」
 神子に酒を注がせながら余裕綽々ヨユウシャクシャクの態度で応対する。
「おまえが拉致するのを命じられたのは、弘美だけだろう。なぜ愛も連れ去る?」
「ああ、黒服が間違えたのは謝るよ。その黒服は、ほれ、そこの石像になっている」
 アポロが指差した先には、確かに黒服そっくりの顔つきをした石像が置かれていた。
「間違いを犯したと言うだけで、石像にするのか?」
 ヴィーナスが追求する。
「心配するな。ほんの一時のことだ」
「神暦時間でだろ。人間の時間にして何百年だ?」
「人間の時間に直してどうなる。ここは天上界だ」
「長年、人間の運命管理していたから、人間時間が身についてしまったわ」
「なるほど……。ともかく一旦わたしの元に来た者は、何があろうともわたしのものだ」
「だがな、弘美はともかく愛は無関係だろ。ヘラ様はともかく、ゼウス様に知れれば懲戒
ものだぞ。解放してやれよ」
 ディアナが忠告する。
「ゼウス様か……」
 ふふんと鼻を鳴らすような態度で、
「そもそもファイルーZなどという可愛い女の子リストを作成するゼウス様に、わたしの
ことを責めるには及ぶまい」
 と、相手にもしない雰囲気だ。
「ふぁああ!よく寝た……」
 大きな欠伸と共に弘美が目覚めた。
「あれ?ここはどこだ?」
 キョロキョロと辺りを見回す。
「弘美!」
「ヴィーナスじゃないか!ディアナもいるな」
 まだ、現状を把握していない様子だった。
「ところで、隣のこいつは誰だ?」
 アポロを指差して訊ねる。
 が返答する前に、
「あれ?そのまた隣にいるのは、愛ちゃんじゃないか!」
 椅子を立ち上がり、アポロの前を横切って、愛のところに駆け寄る。
「愛ちゃん!大丈夫?」
 声を掛けるが返事は無い。
 まだ眠っているのか?
「これは、どういうことだよ?」
 ヴィーナスに向かって問いただす。
「それは、そこにいる人物に聞くんだな」
 とアポロを指差すヴィーナス。
 向き直り、
「おい、おまえは誰だ!?」
 と訊ねる。

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