美奈の生活 for adlut episode-1

 父親の場合  【序章 入れ替わりの朝】  寝室のベッドに加奈子が横たわっている。  かすかな寝息をたてて安らかに眠っている。  だが、加奈子は交通事故で蘇生不可能な脳死状態となり、病院のICU(集中治療室) 人工心肺装置に繋がれていたはずである。  それがどうしてここに、平穏無事にして寝ているのだろうか?  やがて目覚める加奈子。 「あれ? ここはパパとママの寝室? ……だよね」  思い起こしてみる。 「確か、ママが交通事故にあって脳死になって……。その子宮とかの臓器をボクの身体に 移植するために手術台に……?」  加奈子夫妻の寝室である。 「あはは……。こんなところでうたた寝をしちゃったから変な夢を見たんだね。でも…… いやに生々しい夢だった」  起き上がってベッドの淵に腰を掛けて考えをまとめようとした。  その時、部屋の隅に置いてあった姿見に自分の姿が映っているのに気がついた。 「ママ!」  紛れもなき加奈子の姿が映っているの気づいた。 「大丈夫だったの?」  と、思わず駆け寄ろうとした。  しかし、次の瞬間には、鏡に映る自分の姿だと思い知らされることになる。 「な、なに?」  呆然と立ち尽くす加奈子だった。 「どういうこと? 鏡に映っているのはママ……。でも、ここにいるのはボクだよ。美奈 だよ」  手足を動かして確認しようとする。  だが鏡に映る加奈子の姿が自分であることを認識させられるだけであった。  着ていたネグリジェを脱いでベッドの上に放り出すと、あらためて鏡の前に立った。  豊かに膨らむ乳房。  一人の子供を産んだとは思えないほどに細く締まったウエスト。  上から下までしなやかなラインは加奈子が自慢するプロポーションであった。  そして、もっとも女性である部分……。  わずかに盛り上がった丘の茂みの下に隠れるように、女性である象徴が垣間見える。  美奈であったならばぶら下がっているはずのものは陰も形もなくなっていた。  まぎれもなく加奈子の裸体であった。 「ママの身体とボクの心が入れ替わった?」  どうやら加奈子の身体に美奈の精神が宿っている?  行き着く答えにたどり着く。  そうとしか考えられなかった。 「でも、どうして? どうしてこうなっちゃったの? ボクの身体はどうしたの?」  そうなのだ。  もしこれが夢でなかったとしたら、美奈の身体と加奈子の心もどこかに存在しているは ずである。  おそらく加奈子の心が宿っているかも知れない美奈の身体が……。  寝室のドアが開いた。  入ってきたのは、加奈子の夫であり、美奈の父親である、ガウンを着た俊介だった。 「パパ!」  つづく
   
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