プリンセスドール/闇の世界へ(1)

 いつものように夕食の支度をしながら、秀雄の帰りを待っていた。  玄関のチャイムが鳴ったので、いそいそと出迎える。 「はーい。今行きます」  覗き窓から秀雄が見える。 「お帰りなさい」  ドアを開けて、秀雄を迎え入れる。  しかし、次の瞬間だった。  いきなり柄の悪い男達が秀雄と共に強引に入ってきたのである。 「邪魔するぜ」 「ほれ、おまえも早く入れや」  突き飛ばされるようにして玄関に転がるように崩れる秀雄。 「秀雄!」  秀雄に駆け寄るが、あちらこちらに殴る蹴るの痕があった。 「どうしたの? 秀雄!」 「理奈、ごめん」  やっとのことでそう口に出した感じの秀雄だった。  口の中を切っているのであろう、血が垂れていた。 「あなた達は、何ですか?」  こんなひどいことをした、この侵入者に向かって尋ねる。 「借金取りだよ」 「借金取り?」 「おうよ。そいつがとある所から金を借りて、返せなくなっちまったらしくてよ。こうし て取立てにきたってわけよ。どうせ現金はねえだろうから、取りあえずは金目の物を頂い ていこうというわけさ」  別の一人がわたしをいやらしい目つきで見つめている。 「秀雄……。ほんとうなの?」 「あ、ああ……」  申し訳なさそうに弱々しく答える秀雄だった。 「お嬢ちゃん、結構いいおべべを着ているじゃないか。ははん、そうか。こいつ、お嬢ち ゃんに貢ぐために金借りたってわけだな。しかし、金返せなくちゃしょうがねえや」 「どうしようと言うの?」 「おまえ、なかなか可愛い顔しているな」  といつつ、わたしのあごを右手でしゃくり上げ、じっくりと観察するように言った。 「理奈に触るな!」  秀雄がいきり立つが、 「おまえはすっこんでろ!」  侵入者に腹を蹴られてうずくまる。 「ほう……。理奈っていうのか。いい名前だ」  さらに頭から足先までじろじろと嘗め回すように見つめていた。 「よし! このお嬢ちゃんを借金の形に貰っていくとしようか」 「ま、待ってくれ! 金なら……あ、明日中になんとか工面して返す。だから理奈を連れ て行かないでくれ」 「もう、決まったんだよ」  再び蹴られてしまう秀雄。 「さあ、お嬢ちゃん。俺達と一緒に来るんだ」  と、手を掴まれて連れて行こうとする。 「い、いやです!」  抵抗するが相手の力は並外れていた。  か弱い女の子の力では腕を振り払うこともできなかった。 「や、やめてくれ。理奈を連れて行かないでくれ。理奈は病気なんだ」 「うるせえんだよ!」  殴る蹴る、散々に暴力を受けてついに失ってしまったようだ。 「さあ、行こうか。お嬢ちゃん」  わたしは、やくざな連中に抱きかかえられて連れ出されてしまった。  どうしようもなかった。  非力な十四歳の女の子には、秀雄を助けることも、力の強い男達を振りほどいて逃げ出 すこともできない。いくら人造生命体だからといって、人間の数倍の筋力があったり、早 く走ったりもできない、ごく普通の女の子でしかなかったのだ。  黒塗りのベンツの後部座席に放り込まれるように乗せられると、いずこともなく連れ去 られてしまったのである。  仮に、通りがかりの人がいても、相手は暴力団らしきと知れば、こそこそと逃げてしま うだろう。
     
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