プリンセスドール/目覚め(2)

 突然、どこからか音が聞こえた。 「誰か来たのか?」  助かったと思った。  たぶん助手だろうが、動けないでいる私を見て、何とかしてくれるだろう。  ドアを開ける音。  あれ? おかしいな研究室のドアはこんな音はしない。  それに最初に聞いた音は、何かを横にスライドするような……。  そして再びドアを閉める音。  締め切ったような部屋に反響する独特の音。  間違いない! ここは私の家の隠し部屋だ。  研究室からここへ運んだのだな。  だが、何のためにか? 「やっと、警察は帰ったよ。ひつこい奴らでね。やたら疑いの目で見るんだよ」  どういうことだ?  警察がどうしたというのだ。 「いくら事故だと言っても信じてくれないんだ」  事故?  事故とはどんな事故だ。  私が動けないのは、その事故が原因なのか? 「でも、何とか状況証拠から白と判断されて、無罪放免になったよ」  わからない。  いったいどんな事故が起きたというのだ、教えてくれ。  しかし私の心の叫びは、助手には伝わらないようだった。  声になって出ないようなのだ。 「これからどうしようか? 先生が死んじゃったから、この家も出なくちゃいけないだろ うね」  先生が死んだ?  どういうことだ。助手がいう先生とは、この私のことに他ならないじゃないか。  私は、こうして生きているぞ。  耳だけしか聞こえない半身不随みたいな状態だが、確かに生きている。 「あ! そうだ、食事だね。警察の相手で朝と昼を抜いたから、随分お腹が空いただろ う? 今あげるからね」  食事か……。  そう言えば、お腹がぺこぺこだった。  何やら音がしている。料理でもしているのかと思ったがそうではなさそうだ。  どんな食事だろうか。  再び近づく足音。 「待たせたね」  やがて異様な感覚が襲った。  なんだこれは?  胃の中に何かが入り込んでくる。  その感覚の原因はすぐに判った。  どうやら流動食を胃に流し込まれているようだった。  き、気持ち悪い……。  これは経験したものにしか判らないだろう。 「これくらいでいいだろう? あまりたくさんあげても太るだろうからね。女の子だもの、 太っちゃ可哀想だ。せっかくの美貌がだいなしだ」  なに?  今、確かに女の子と言ったよな?  女の子……。  美貌がだいなしになるとは……。  事態が少しずつ飲み込めてきた。  信じがたいごとだが、それを認めなくてはならないようだ。
     
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