死後の世界と民族の神話
インドの神話


リグ=ヴェーダ
 紀元前13世紀ごろインドに侵入居住したアーリヤ人が起こした婆羅門教の聖典<Veda>4集のうち、賛歌の集成書<RgーVeda>のことをいう。その中に登場する神々(閻魔を含む)の神話や、魔神、妖精などの記述が登場するものとしては、世界最古の文献といえる。  本章のほか、ブラーフマナ<Brahmana>(祭義書)、アーラニヤカ<Aranyaka>(森林書)、ウパニシャッド<Upanisad>(奥義書)などの諸文献がある。特に、ウパニシャッドは、宇宙の最高原理<brahman>ブラフマン(梵)と、人間の本体である<atman>アートマン(我)との探究が深められてついには一致することを説いている。すなわちこれを極めたものは、死後も輪廻転生の境涯を解脱して、客観的に存在するとされる梵界に到達するという。

アヴェスタ
 ゾロアスター教の経典<Avesta>予言者ゾロアスターがペルシャ在来のマズダ教を改革した思想によって、祭司であるマギの間に伝承したものを収録したもの。アヴェスタ語というインド・イラン語系の言語で記述されているが、ヴェーダ語とは密接な関係があり、アーリア人のもつ言語の一方言であったと考えられる。ヤスナ・ヤシュト・ヴィデーヴダートの3部構成になっている。神々の神話や悪魔や疫病退散の方法などが記されている。
 アレクサンダー大王や後のイスラム教侵入によって散失し、原典の1/4しか残っていない。

閻魔
サンスクリット語<Yama>ヤマの漢音訳。炎摩、夜摩などとも音写される。古代インドの聖典<リグ・ヴェーダ>においては、人類最初の死者、天上の楽土の王者として明確に記述されている。ところが叙事詩<マハーバーラタ>では、恐ろしい死神と考えられ領土も天上から地下へと移されている。一般的に鬼界の王、地獄の支配者、人間の行為の審判官といった概念を持たれている。マハーバーラタの主要部分が成立したのは仏教がもっとも勢力をのばしたマウリア朝アショーカ王時代のころである、浄土と仏陀の思想をつらぬくため、同様の思想上にあるえん魔が貧乏くじを引かされ、地下へと引きずり降ろされてしまったのかもしれない。と、これは筆者の推測である。

阿修羅
インドの民間信仰上に想定される魔族<Asura>ヴェーダ神話に登場する阿修羅は、本来悪魔という概念はなくきつくて近寄り難い性格から、一般の神々<deva>から区別された一群の神の呼称として扱われていた。それが後に、凶暴な性行を加えてくるようになり、悪鬼・魔族の総称として用いられるようになった。
アヴェスタ神話に登場するアフラ<ahura>と同一と見られている。

魔羅
サンスリット語<mara>マーラ、略して魔ともいう。悪魔、邪神。 語義は<殺す者>という意味である。仏教において、人命を害し、仏や弟子達を悩まして善事・善法を妨げる悪鬼神。魔王を<波旬>といい、欲界の第六他化自在天の高所に居住するという。

地獄
閻魔王、ヤーマラージャ<Yamaraja>が支配する世界。原語にあたるサンスクリット語のナラカー<Narakah>はいとわしいもの、苦しいものを意味するが、地下の暗黒は苦界の連想をいだくからであろう。ラテン語で地獄を意味するインフェルヌス<Infernus>も地下の世界を表している。これらはおもに埋葬の風習からきているものと考えられている。
旧約聖書では、悪しき者がいく死後の世界として、ヘブライ語のシェオール<Sheol>が使われていたが、地獄というよりも眠り、忘却そして、沈黙という<忘れの国>という観があった。それがやがて新訳聖書にいたって、ゲヘナ<Gehenna>という永遠の焦熱地獄の考えが登場するようになる。

浄土
サンスクリット語で<Budahadahatu>ブダハダハーツ(仏国)もしくは、<Buddhaksetra>ブダハクセトラ(仏刹)と表され、衆生救済の誓いをたてて悟りを開いた仏陀が建設したとされる、清浄な国土のこと。英語訳は<Pure Land>

極楽
サンスクリット語で<Sukhavati>スハーヴァティーと表する、楽<sukha>、有<yati>の意味があるので、極楽と訳されている。
本来<sukha>にはいかなる肉欲的快楽の意味は有してはいない。
阿弥陀経において<これより西方十万億の仏土を過ぎて世界有、名ずけて極楽という……>とあり、金銀、瑠璃などの家宝でできた宮殿楼閣があるとか、底に金沙がしきつめられ八徳功水で満たされた七宝の池があったり、白鵠や孔雀などの鳥が和雅な音を出して飛びかっているという。だがこれらの描写は、決して物質的欲望を述べているのではなくて、そういった風・池の音、鳥のさえずりも<五根、五力、七菩提分、八聖道分、是の如き法を演暢す>と結んでいるようにすべては仏事を行じているのである。
ところがなかには、七宝の家に住み、美味な食事、豪華な衣服、金銀財宝よりどりみどり、生活の苦労がまったくなく女においては、妊娠すらしないという、欲望だけが広く世間に流布されている場合もある。

サンスカーラ
 サンスクリット語<Sanskara> 浄化し完成することを意味する。
 転じてヒンドゥー教が家庭内で行う儀式を意味するようになった。
 再生族(ブラーフマナ、クシャトリヤ、ヴァイシャ)といった上流階級だけが行えるが、数ある儀式のなかでも、ウパナヤナ(入門式)と呼ばれる、アーシュラマの第1期にはいる儀式がもっとも重要であり、これにより、宗教上の生命を得て再生することができる。
      ⇒part-3