難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

川崎病

1.川崎病とは?(定義)
2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?(疫学・頻度)
3.この病気はどのような子供に多いのですか?(男女比・発症年齢)
4.この病気の原因は何ですか?(病因)
5.この病気は遺伝するのですか?(遺伝)
6.この病気ではどのような症状が出ますか?(症状)
7.この病気にはどのような治療をするのですか?(治療)
8.この病気はどういう経過をたどるのですか?(予後)
9.よく聞かれる質問とこたえ(FAQ)

1.川崎病とは?(定義)
 この病気は英語でもKawasai Disease(KD)と呼ばれ、昭和42年に、当時、日本赤十字病院小児科に勤務し、現在は日本川崎病研究センター所長である川崎富作先生が『急性熱性皮膚粘膜淋巴腺症候群』として報告したのが初めてでした。川崎先生は、この病名のとおりの、急に高熱が出て、発疹がみられ、目が充血し、唇が真っ赤になり、舌がいちごの表面のように赤いぼつぼつが目立ち、頚のリンパ腺が腫れ、手足が腫れ、後で指先から皮膚が剥ける、今までにみられなかった病気として記載しました。その後、多くの小児料医が、確かに同じような病気があること、発病から数週間で突然、心臓の発作で亡くなってしまうことがあることなどに気付きました。
 今まで特に異常がなかった小児に、しかも1−2歳で、大人の心筋梗塞のような亡くなりかたをする例があるため、厚生省の研究班がつくられ、診断基準ができたり、アメリカを初め多くの国でも研究が行われるようになり、WHOやCDC(米国国立防疫センター)でもこの病気を正式に川崎病Kawasai Diseaseと呼ぶようになりました。

 川崎病は主に4歳以下の乳幼児に起る全身の中小動脈の炎症です。

 これは、心臓自身を栄養する冠動脈を中心に炎症がみられ、その結果、その部分の血管が細くなりますが、その手前の中心側は、かえって拡大して動脈瘤ができます。そのため血栓性閉塞、心筋障害による虚血性心疾患により突然死を来たすことがあるのです。心臓後遺症がなければ1か月程で炎症は完全に治まり、他のリウマチ性疾患のように慢性化することはありません。

 致死率は0.3%程度で、同胞発症(1〜2%)があり、数か月、数年後に再発例もあります(2〜3%)。しかし、最近は治療法が進歩し、特にガンマグロブリン大量療法により冠動脈病変の発症を減少することができるようになっています。

2.この病気の患者さんはどのくらいいるのですか?(疫学・頻度)
 厚生省の研究班では1970年以後、2年ごとに全国調査を行っており、1994年までに12万8千人が報告されています。日本では年間、約1,500〜2,000人、多い年では5,000人前後の新しい患者さんが出ています。

3.この病気はどのような子供に多いのですか?(男女比・発症年齢)
 1994年までの約12万8千人では男7万4千人、女5万3干人でした。発病年齢は、6か月から1歳代に多く、その後は年齢と共に少なくなり、特に4歳以後は少なくなります。しかし、稀には生後lか月の赤ちやんや40代の成人にも発病した記録があります。

4.この病気の原因は何ですか?(病因)
 結論からいえば、まだ原因はわかっておりません。この病気では発熱、発疹、いちご舌、頸部リンパ節腫脹があり、回復期には皮膚が剥け、しょう紅熱に似る点が多かったため、川崎病が初めて報告されたころは、A群レンサ球菌感染症説がありました。しかし抗生剤が無効であり、菌は証明されないため、この説は、後で否定されました。口腔内のサンギウスレンサ球菌やビィリダンスレンサ球菌などについても現在も研究されています。

 そのほかウイルス感染、リケッチア感染症説もありました。水銀中毒説やダニ抗原説も話題になりました。

 エルシニア感染症は一部の症例が、非常に類似していますので、川崎病の原因とも考えられました。

 このようにいろいろな研究がありますが、いまだに結論は出ていません。

5.この病気は遺伝するのですか?(遺伝)
 川崎病は遺伝する病気ではない様です。子供の頃川崎病に罹ったことがある人の子供が川崎病になったという例は数例ある様です。稀に、兄弟、姉妹でほぼ同時に、あるいは数か月後に発病した例もありますが、これは遺伝よりも感染症を考えるべきだと思います。

6.この病気はどのような症状が出ますか?(症状)
 川崎病にはいろいろな共通する症状があります。それは発熱、発疹、頸部リンバ説腫脹、結膜充血、口唇の発赤・亀裂、硬性浮腫(硬く指で圧してもあとがつかないむくみ)、いちご舌、BCG接種部の発赤、指先からの落屑(膜の様に皮がむける)などです。また、これらにも特徴があります。

 発熱:38℃以上の発熱が5日以上続きます。抗菌薬は無効で、通常の解熱剤では熱がほとんど下がりません。

 四肢末端の変化:急性期には指趾先が赤くなり、手背、足背が腫れます。これは指で押してもあとが残らないため、硬性浮腫と呼ばれます。1週間以後の回復期には爪と指先の移行部から皮膚の皮が剥がれ始め、これは手の平、足の裏では膜の様に"ペロン"と剥がれます。

 皮疹:胸、腹などを中心に麻疹様、風疹様、蕁麻疹様など不定の皮疹がみられます。普通は、水ぶくれ(水疱)をつくることはありません。また、BCG接種部位が赤くなるのが特微的で、これは他の病気ではみられない現象です。

 眼球結膜充血:病初期からみられ、4−5日間続きます。眼やにはありません。

 口唇、口腔所見:口唇の発赤、充血、乾燥、ひび割れ(亀裂)がみられます。口腔粘膿も赤くなり、舌は表面にぶつぶつが目立ち、いちご舌と呼ばれます。

 頸部リンパ節腫脹:両側性の首の痛を伴うリンパ節腫脹がみられます。

 心循環器系障害:聴診上の異常(頻脈、心雑音、馬調律、微弱心音など)、心電図異常がみられます。胸部X線では、心陰影拡大し、心膜炎、胸膜炎が証明される例もあります。心エコー上、冠動脈の拡張は第5病日頃より始まり第15病日頃が最も頻度が高くみられます。

 消化器症状:腹痛、下痢などのほか、麻痺性イレウス、胆嚢腫大、肝障害、黄疸がみられることがあります。

 神経症状:稀に髄膜炎、けいれん、意識障害がみられます。

 関節症状:一過性の関節痛がみられますが、明らかな関節炎は稀です。

7.この病気にはどのような治療をするのですか?(治療)
 川崎病は原因が不明のため、根本的な治療が現在はできませんが、最近は以前よりは、心合併症を少なくすることができる様になりました。

 急性期にはまず、冠動脈瘤の炎症を防ぐため、ガンマグロブリンの点滴静注を行い、同時に炎症を治療するためアスピリンなどの抗炎薬を使います。

 1.アスピリン:抗炎症薬として、またアスピリンの持つ血液が血管内で凝固する作用を防ぐ、抗凝固薬の両方の作用を期待して使用します。炎症反応を示す検査所見が正常となるまでの約1月間使います。もし、使用前から肝機能障害がある場合にはフルビロプロフェン(フローベン)などを使います。

 2.ガンマグロブリン大量療法:冠動脈炎の発症予防および治療に、ガンマグロブリンを点滴静注します。川崎病と診断がつき次第、なるべく早く使用します。通常は5日間おこない、アスピリンと併用します。

 3.急性期以後の治療:冠動脈に障害を残さなかった例では、約1か月間の抗炎症薬を中止した後は特に治療は不要です。稀に、後になって冠動脈瘤障害が出現することもあるので年に1−2度の検診が必要です。

 冠動脈瘤を残した症例では、血栓防止のためにアスピリンを継続しながら、13か月ごとに、心エコー図、心電図、胸部X線検査などを行いながら経過をみます。動脈瘤が小さい例では1年ぐらいで、動脈瘤が消えてしまう例も多くみられます。

 しかし、血管の狭窄が重症で、虚血性心障害が著しい場合には、細くなった血管のバイパス手術が必要となることもあります。

8.この病気はどのような経過をたどるのですか?(予後)
 川崎病の約80%は、冠動脈に変化がみられず、約1か月間で炎症が治まり、あとは全く心配がありません。しかし、このような子供たちが中年以後になり、冠動脈硬化などがどのように進行するか、つまり冠動脈硬化が起り易いのか否かについては、まだわかっていません。念のため、動脈硬化の危険因子の一つと考え、1年に1度程度の検査は必要と思われます。

 直径が4ミリ以下の小さな冠動脈瘤が残った場合は、1年ほどで自然に消えてしまうことがあります。

 4ミリ以上、特に8ミリ以上の大きな動脈瘤が残った場合には血栓が起る危険性があるため血栓予防が必要です。

9.よく聞かれる質問とこたえ(FAQ)
Q1:川崎病に罹ったのですが心臓の後遺症は残りませんでした。学校生活などの制限は必要ですか?
A1:後遺症が残らなかった場合には、炎症が完全に治まり、退院後には徐々に通常の日常生活に戻り、特に運動制限などは不要です。しかし、後遺症が残らなかったとはいえ、程度の差があるにしろ、冠動脈には炎症が起きたと考えられ、これは成人になれば動脈硬化などの危険因子となり得ると考えられています。したがって、成人しても定期的な検診は必要であり、高脂血症の予防、喫煙の禁止、運動不足の解消など一般的な生活習慣病の予防に注意することが大切です。
Q2:川崎病に罹ったのですが、運動は可能でしょうか?
A2:川崎病の病状、特に心臓に後遺症を残したかどうかで、今後どのように管理するかが異なりますので、主治医とよく相談して下さい。
 一般的には急性期に心臓に後遺症がなければ、学校での体育は制限する必要はありません。小さな冠動脈の拡張あるいは動脈瘤が残った場合には、アスピリンなどで血栓予防をしながら、運動制限は不要です。
 比較的大きな冠動脈瘤が残った場合には、その程度により、運動制限があるかも知れません。また運動部活動などの激しい運動は禁止します。
Q3:川崎病に罹り、冠動脈瘤が残ったといわれましたが、これは今後どのようになるのでしょうか?
A3:4ミリ以下の小さな冠動脈瘤は1年以内にほとんどが消えてしまいます。4−6ミリの場合には、70%は1〜2年で正常の大きさに戻ります。しかし8ミリ以上の大きな冠動脈瘤の約半数が狭窄性病変(血管のない膜が厚くなったり、血栓が生じる)に進行する可能性があります。
Q4:川崎病に罹ったのですが、再発することがありますか?
A4:川崎病に罹った人の約3%が再発します。稀には(0.2%)2回以上、再発したという調査結果があります。再発の半数は1年以内です。
Q5:川崎病について、もっと詳しく知りたいのですが、やさしく解説した本がありますか?
A5:一般向きの本はあまりありません。日本大学小児科の原田研介教授らが書かれた本をお薦めします。

 題名:川崎病Q&A
 監修:原田研介
 発行所:ライフ・サイエンス
 (東京都渋谷区神宮前5-53-67 電話03-3407-8963)

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