難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】
この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。
ヒュミラ(Humira)
◆ ヒュミラ(Humira)R(一般名 アダリムマブ)◆
ヒュミラはTNFαという分子と特異的に(TNFαとのみ)結合し、TNFαの作用を阻害するモノクローナル抗体です。TNFαは関節リウマチ(RA)の関節炎や骨の破壊に関係している重要な分子です。したがって、この働きを阻害すれば、関節の痛みや腫れが軽くなり、さらに骨の破壊が抑制されて、将来関節が変形するのを防いでくれる画期的な薬剤です。TNFαを阻害するRAの治療薬としては、日本でもすでに2003年7月にレミケード(一般名インフリキシマブ)、2005年3月にエンブレル(一般名エタネルセプト)が発売され、使用されています。ヒュミラは3番目のTNFα阻害薬として2008年4月に承認されました。いずれの薬剤も関節炎を抑える効果は抜群で、RA治療の基本的薬剤で、強力な抗リウマチ薬であるメトトレキサート製剤(以下MTXと略します;商品名でリウマトレックス、メトレートなどのことです)でも効果が不十分な患者様に、これらの抗TNF製剤のいずれかを併用すれば、関節炎の症状が治まるだけでなく、骨の破壊を抑えることによって将来の関節の変形も防止できることが言われています。
表1 RAの治療に使用されるTNFを標的とした生物学的製剤 |
|
インフリキシマブ (レミケードR) |
エタネルセプト (エンブレルR) |
アダリムマブ (ヒュミラR) |
標的分子 |
TNFα |
TNFα/β |
TNFα |
製剤 |
キメラ型 モノクローナル抗体 |
可溶性TNF受容体とIgGのリコンビナント融合タンパク |
ヒト型 モノクローナル抗体 |
作用機序 |
・TNFαの中和 ・TNFα産生細胞傷害 |
・TNFα/βの中和 |
・TNFαの中和 ・TNFα産生細胞傷害 |
用法 |
点滴静注 0,2,6週目と 以後1回/8週 |
皮下注 2回/週 |
皮下注 1回/2週 |
MTXとの 併用 |
必要 |
しなくてもよい |
しなくてもよい |
1回の用量 |
3 mg/kg |
25 mg |
40 mg |
国内での状況 |
2003年7月発売 |
2005年3月発売 |
2008年6月発売 |
これら3剤の違いについて解説します(表1)。
レミケードは、キメラ型モノクローナル抗体で、TNFαと結合する部位のみがマウスの蛋白質からなり、その他はヒト由来の蛋白で、遺伝子工学によって2種の蛋白を合体したものです。全体の25%がマウス蛋白なので、ヒトにとっては本来の体にはない異物と認識されるために、アレルギー反応がおこることがあります。このためアナフィラキシー(急性のアレルギー反応で血圧の低下やショック状態を起こす)と呼ばれる、生命にも関わる可能性がある強いアレルギー反応も、0.5%程度ですが、起こりえます。また連用しているとレミケードに対する抗体(抗キメラ抗体)ができて、効果がうすれてくることがしばしばあります。このアレルギー反応や抗キメラ抗体の産生を抑えるためにMTXと必ず併用します。したがって、MTXがどうしても服用できない患者様はレミケードも使用できません。
エンブレルは、TNF受容体という蛋白とヒトの免疫グロブリンという蛋白の一部を人工的につなぎ合わせたもので、すべてヒト蛋白でできています。マウス蛋白がないので抗キメラ抗体はできないため、MTXとの併用は必ずしも必要ではなく、単独でも使用できます。アナフィラキシーはほとんどありませんが、局所の発赤やかゆみなどの軽いアレルギー反応は多くみられ、時に全身のかゆみやじんましんなどの強いアレルギー反応や効果の減弱がみられます。MTXとの併用で、アレルギー反応も抑えられ、RAに対する効果も強くなることが知られていますので、できればMTXと併用で使用した方がよいでしょう。またレミケードと異なり、皮下注射で使用します。半減期(体内での薬の濃度が半分になる時間)が4日と短いため、1週間に2回の注射が必要で、多くは患者様自身がトレーニングを受けて自己注射で使用します。
ヒュミラはレミケードと同様のモノクローナル抗体製剤なので、エンブレルとは異なり、TNFβとは結合(中和)せず、TNF産生細胞上の膜型TNFαと結合し、その細胞を壊す作用があります。レミケードとの違いは、マウス蛋白を含まないことと、皮下注製剤であることです。このためMTXは併用不要で単独での使用が認められています。しかしマウス蛋白を含まなくても、中和抗体(抗アダリムマブ抗体)が欧米では17%、国内の治験では約40%の患者にみられたと言われており、効果の減弱やアレルギー反応がみられる可能性があります。したがって、他の製剤と同様にMTXとの併用が推奨されます。ヒュミラの投与方法は皮下注ですが、エンブレルと異なり半減期が長いため2週間に1回でよく、エンブレルの週2回と比較して使用しやすいと思います。注射した部位に発赤やかゆみなどが時々みられますが、通常軽度で、使用を継続することは可能です。
有害事象では、3つの抗TNF製剤に共通して結核などの感染症(特に肺炎)が多いことに注意が必要です。ニューモシスチス肺炎という特殊な真菌(かびの1種)による肺炎が、レミケードやエンブレルを使用した患者で報告されており、ヒュミラについても市販後注意が必要です。発熱や咳などの症状がつづく場合は、早めに主治医にご相談ください。
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