難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

特発性拡張型(うっ血型)心筋症/診断・治療指針(公費負担)

特定疾患情報認定基準

■定義
特発性心筋症は原因不明の心筋疾患であり、著しい心筋の肥大を形成する肥大型心筋症と心内腔の著明な拡大と高度な収縮不全を呈する拡張型心筋症に大別される。拡張型心筋症は、心筋収縮と左室内腔の拡張を特徴とする疾患群であり、高血圧、弁膜性、虚血性(冠動脈性)心疾患など原因の明らかな疾患を除外する必要がある。

■疫学
平成11年の厚生省の特発性心筋症調査研究班で施行した全国調査では、拡張型心筋症の全国推計患者数は約17,700名であり、人口10万人あたりは14.0人であった。この調査は病院受診者を対象としており、病初期の拡張型心筋症は無症状の場合が多いため、実際の有病率はより高いものと思われる。男女とも60歳が最も多く、男女比は2.6:1と男に多い。

■病因
本症の病因としてウイルス感染との関連が注目され、本症の心筋からコクサッキーウイルス、アデノウイルスやC型肝炎ウイルスなどのウイルスゲノムが検出されており、ウイルス性心筋炎との関連が考えられている。
  家族性の拡張型心筋症は、外国での報告は20〜30%にみられ、上記の厚生省の調査では5%である。心筋アクチン遺伝子、デスミン遺伝子、ラミン遺伝子、δ-サルコグリカン遺伝子、心筋βミオシン重鎖遺伝子、心筋トロポニンΤ遺伝子、αトロポミオシン遺伝子の異常で拡張型心筋症様病態を発症することがあると報告されている。
  既知の心疾患では説明のつかない心拡大、うっ血性心不全をみれば本症を念頭におくことが診断への手掛かりとなる。脈拍は小さく速く(房室ブロックのない場合)、心電図でST-T異常を認め、心室性期外収縮が頻発し、聴診で非特異的全収縮雑音と奔馬調律、心エコー図で心内腔拡大と壁運動のびまん性低下をみるが弁膜の病変を欠く場合、疑いは濃厚となる。
  特定心筋症との鑑別が必要である。特に重症左室機能不全を伴う虚血性心疾患との鑑別が重要である。鑑別には冠動脈造影が必須となるが冠動脈CTも有用である。心サルコイドーシスや心アミロイドーシスの除外には心筋生検所見が重要であり、神経・筋疾患や筋ジストロフィ、ミトコンドリア心筋症、内分泌疾患、膠原病などの全身性疾患の存在の有無に注意する。肥大型心筋症であったものが左室内腔の拡張、収縮不全をきたし、拡張型心筋症様病態を呈することがあり、肥大型心筋症の家族歴の有無を調べることが必要である。

■症状
左心不全による低心拍出状態と肺うっ血や不整脈による症状を特徴とし、病期が進行すると両心不全による臨床症状をきたす。
  初期には自覚症状に乏しく、集団検診で発見されることも多い。自覚症状は労作時呼吸困難、動悸や易疲労感の訴えで始まり、進行すると安静時呼吸困難、発作性夜間呼吸困難、起座呼吸を呈するようになる。また、不整脈による脈の欠滞や動悸、あるいは胸部圧迫感や胸痛などをきたすこともある。
心拡大と心不全徴候がみられる。頻脈、脈圧小、皮膚の蒼白、頸静脈の怒張、浮腫、肝腫大、肝拍動、腹水などがみられる。
心臓聴診上、V音、W音、重合奔馬調律も聴取される。心尖部収縮期雑音もしばしば聴取され、僧帽弁閉鎖不全症によって生じる。肺聴診上湿性ラ音を聴取する。
  胸部X線上で心拡大や心電図異常があり、うっ血性心不全や不整脈などを認め、かつその原因が明らかでない場合には本症が疑われる。心エコー図上、左室内腔の拡大とびまん性壁運動低下がみられ、弁膜症や先天性心疾患を認めない場合は本症である可能性が高い。

■治療
身体活動の調整が必要で、できるだけ安静にさせる。食塩制限(5〜8g)と水分制限が必要である。左室収縮機能障害に対しては、アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬、β遮断薬を早期に用いる。アンジオテンシンU受容体拮抗薬の有用性も報告されている。うっ血症状があれば利尿薬を併用する。スピロノラクトンは利尿薬としての作用だけではなく長期予後改善効果が認められている。
  重症の心室性不整脈による突然死に対する対策が重要である。クラスTの抗不整脈薬の投与はかえって催不整脈作用によって悪化させる可能性がある。β遮断薬は突然死を低下させることが示されている。重症心室性不整脈が出現する場合には副作用に注意しながらクラスVの抗不整脈薬アミオダロンの投与を行う。薬物抵抗性の場合には植込型除細動器の使用を考慮する。
  高度の房室ブロックや病的洞結節症候群などの除拍性不整脈を合併している場合には人工ペースメーカの適応を検討する。
  本症では左室拡大を伴うびまん性左室壁運動低下が存在し、左室壁在血栓が生じる場合がある。また、左房拡大が伴う心房細動の例で心房内血栓が生じる場合もある。このため、予防的にワルファリンによる抗凝固療法を行う。

■予後
前述の厚生省の調査では、本症の5年生存率は76%であり死因の多くは心不全または不整脈である。
  男性、年齢の増加、家族歴、NYHA V度の心不全、心胸比60%以上、左室内径の拡大、左室駆出率の低下の存在は予後の悪化と関連する。


特発性心筋症に関する調査研究班から
研究成果(pdf 88KB)
この疾患に関する調査研究の進捗状況につき、主任研究者よりご回答いただいたものを掲載いたします。

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