難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

自己免疫性肝炎/特定疾患情報

診断・治療指針

1. 自己免疫性肝炎とは
 英語ではAutoimmune hepatitisと呼ばれ、頭文字からAIHとも略されます。肝障害の原因は不明ですが、既知の肝炎ウイルス感染、薬物などによらず免疫異常特に自己免疫の異常が病気の成り立ちに重要と考えられています。すなわち、自己免疫性肝炎はその発症・進展に自己免疫反応が関与している肝障害であると考えられます。

 臨床的特徴としては女性に多く、検査所見で高ガンマグロブリン血症、抗核抗体をはじめとする自己抗体の陽性所見が特徴的で、免疫抑制薬特に副腎皮質ステロイドが良好な治療効果を示します。肝生検組織では一般に慢性肝炎像特に活動性を示し、形質細胞浸潤が特徴的とされています。免疫反応であるLE細胞現象が陽性の場合ルポイド肝炎とも呼ばれます。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
 頻度 : 日本の特定疾患調査研究班 難治性の肝疾患調査研究班による全国集計では約1000人ほどの患者さんが集計されており、推定で約6000人程度の患者さんがいると思われます。肝炎ウイルスの検査が簡単に実施できるようになり、また自己免疫性肝炎の診断も進んできていることから、今後診断される患者さんは増加していくものと思われます。

 疫学 : 慢性肝疾患の原因としては日本ではウイルス肝炎が最も多く、自己免疫性肝炎の頻度は高くありません。しかし、ウイルス肝炎の少ない欧米では自己免疫性肝炎は慢性肝炎の重要な原因の一つとなっており、地域差が認められます。この原因の一つは人種差であり、日本では組織適合抗原であるHLA−DR4が自己免疫性肝炎と関連しているのに対し、欧米ではこれに加えてHLA−DR3が関連することで説明されています。日本国内での地域差はないと思われます。環境などの関連は不明です。

3. この病気はどのような人に多いのですか
 男女比 : 自己免疫性肝炎と診断される患者さんの80%以上は女性で男女比は1:7で女性に多い病気です。

 発症年齢 : 中年女性に多く40歳から50歳台が発症の中心となっています。欧米では10歳から20歳と40歳から50歳台とで多い2峰性を示しており、日本とは異なる分布を示します。この違いも主要組織適合抗原で示される人種差が関係しているものと考えられています。また、最近では60歳以上の高齢者での発症も報告されています。

4. この病気の原因はわかっているのですか
 原因 : 残念ながらまだ不明です。しかし、免疫グロブリンの上昇、血清自己抗体が陽性、免疫抑制剤特に副腎皮質ステロイドが著効を示すなどの事実から自己免疫機序が病気の発病や進行に関わっていると考えられています。つまり、本来自分の身を守るための免疫が自己免疫性肝炎では肝臓の細胞を攻撃するようになり、結果として肝臓の炎症を起こしているのです。

 誘因 : 明らかな誘因はありません。多くの症例は検診での肝機能検査や、また、不定の全身倦怠感などで病院を受診、血液検査で異常を指摘されることで発見されています。

 病態 : 肝障害による血中のGOT、GPTの上昇がみられ、重症の場合は黄疸も認められます。自己免疫反応の結果として血中ガンマグロブリンが上昇、IgGの上昇(2000mg/ml以上)、さらに自己抗体が陽性となります。陽性自己抗体としては抗核抗体が最も多くみられ約90%以上の患者さんはこの抗核抗体が陽性です。しかし、この抗核抗体は自己免疫性肝炎に特徴的に認められるものではなく他の疾患、例えば全身性エリテマトーデス(SLE)でも95%が陽性となりますので、この抗核抗体が陽性となったからといって自己免疫性肝炎とは診断できません。他に抗平滑筋抗体も陽性となることがあります。

5. この病気は遺伝するのですか
 自己免疫性肝炎は遺伝しませんが、組織適合抗原は親から子へと受け継がれますので、一般の人の発症頻度よりは子供では高くなると考えられます。しかし、詳しい統計は難しく、きちんとした成績はありません。

 家族内発生は比較的稀ですが、時に家族内で自己免疫性肝炎を発症する場合が報告されています。しかし、遺伝子異常は明らかにされていません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
 自己免疫性肝炎に特徴的な症状はありません。しかし、初診時には多くの患者さんが何らかの症状を訴えます。最も多いのは倦怠感で約6割の患者さんが訴えます。慢性ウイルス肝炎に比し黄疸を訴える患者さんは35%と高頻度です。他の症状としては食思不振、関節痛、発熱などがあります。関節痛、発熱は通常慢性ウイルス肝炎で認められることは少なく、これらの症状とともに肝障害が認められた場合自己免疫性肝炎を考える必要があります。また、甲状腺機能低下、関節リウマチなど他の自己免疫性疾患が合併する場合も少なくありません。

 一方、こうした症状を全く示さず、血液検査での異常をきっかけに発見される患者さんも少なからずあります。

 病気が進むと肝硬変になり、腹水、黄疸など肝硬変による症状が現れてきます。ウイルス性の肝硬変に比べ肝細胞癌の合併は大変少ないとされています。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
 自分自身に対する免疫反応、いわゆる自己免疫反応を抑えるために免疫抑制剤特に副腎皮質ステロイドが治療に用いられます。この副腎皮質ステロイドは自己免疫性肝炎の特効薬で、殆どの患者さんで投与により血清GOT、GPTは速やかに正常化し、この効果によって診断が確定されることもあります。この薬剤は副腎の皮質からでるホルモンを化学的に合成したもので、自己免疫性肝炎には一般的にプレドニソロンが使用されます。通常30から40mg/日で開始し、GOT、GPTの改善を確認しながらゆっくりと減量します。GOT、GPTが正常化しても肝臓の組織内の炎症反応は必ずしも平行して改善するわけではないので、投与は長く続けることが大切です。

 副腎皮質ステロイドの効果が不十分あるいは副作用のため使用できない患者さんにはアザチオプリン(イムラン)などの免疫抑制剤を使用します。また、病気が重く重症度が高い場合には副腎皮質ステロイドを点滴で大量に用いる場合もあります。

 副腎皮質ステロイドには消化性潰瘍、満月様顔貌、糖尿病、骨粗鬆症などがありますが、これら副作用についてもよく理解し、病態に応じて予防薬投与を受けることも大切です。副腎皮質ステロイドの自己中止は自己免疫性肝炎の再燃につながり、再燃すると治療抵抗性になる場合が多いことを理解し、きちんと服用することが大切です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
 発病は一般に緩徐であり、自覚症状は軽微な場合が多いとされています。しかし、治療を行わないとその進行は早く、肝硬変になります。しかし、適切な治療を行えば、肝臓の炎症は良く改善し、進行もみられなくなります。日本での調査では治療をきちんと受けている場合、10年の経過では殆ど進行はないようです。また、死亡率も高くありません。


情報提供者
研究班名 消化器系疾患調査研究班(難治性の肝疾患)
情報更新日 平成20年5月13日

メニューに戻る