難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

再生不良性貧血/特定疾患情報(公費負担)

診断・治療方針認定基準

1. 再生不良性貧血とは
再生不良性貧血は血液中の白血球、赤血球、血小板のすべてが減少する疾患です。この状態を汎血球減少症と呼びます。白血球には主に好中球とリンパ球の2種類がありますが、そのうち好中球が減少します。これらの血球は骨髄で作られますが、本症で骨髄を調べると多くの場合脂肪に置き換わっており、血球が作られていません。そのために貧血症状、感染による発熱、出血などが起こる重い病気です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
1993年の我が国の調査では、全国の患者数は約5,044人(95%信頼区間4,358〜5,731人)で、新たに発病する患者さんの数は2,556人(100万人に20人程度)と推定されました。ただし、欧米や東アジアのより正確な調査によると、1年間に新たにこの病気を発症する頻度は100万人に5〜7人程度とされていますので、日本における頻度もこの程度の可能性があります。

3. この病気はどのような人に多いのですか
男女比を見ると女性の方が男性より多く、約1.4倍です。すべての年齢にみられますが、男女とも15〜19歳と70〜79歳にやや多い傾向があります。

4. この病気の原因はわかっているのですか
骨髄中の造血幹細胞が何らかの原因で傷害されて起こる病気です。造血幹細胞とは骨髄中にあって、赤血球、好中球、血小板の基になる未熟な細胞です。赤血球、好中球、血小板は骨髄で完成すると血液中に放出され、その後赤血球は約120日、好中球は半日、血小板は約10日で壊れます。健康な人では造血幹細胞からこれら3種類の血球が絶えず作り続けられて、毎日壊れた血球分を補っています。再生不良性貧血ではその造血幹細胞が何らかの原因で傷害されて、3種類の血球が補給出来なくなってしまったわけです(図1)。

〔 図1 〕

再生不良性貧血には生まれつき遺伝子の異常があって起こる場合とそうでない場合があります。生まれつき起こる(先天性の)再生不良性貧血はごくまれな疾患で、その多くは人の名前が付けられたファンコニ貧血という病気です。後者は後天性再生不良性貧血と呼ばれ、これが大部分を占めます。

後天性再生不良性貧血には何らか原因があって起こる場合と原因不明の場合があります。約80%の例は原因不明です。残りは薬剤・薬物、放射線、ウイルスが原因として疑われています。原因不明の例を特発性再生不良性貧血と呼び、原因のある例を二次性再生不良性貧血と呼びます。

特発性再生不良性貧血の大多数は自己免疫的な機序による造血幹細胞の傷害が原因と考えられています。免疫というのは、外からの細菌やウイルスの感染を防ぐための体のしくみであり、主に白血球の中のリンパ球が担当しています。一方、自己免疫反応とは、このしくみが何らかの原因で変化した結果、リンパ球などが自分自身の細胞を傷害するようになり、いろいろな病気を起こすことで、そのような病気は自己免疫疾患と呼ばれています。特発性再生不良性貧血においては造血幹細胞が自分自身のリンパ球によって傷害されると考えられています(図1)。

5. この病気は遺伝するのですか
生まれつき起こるファンコニ貧血は遺伝する可能性はあります。大部分を占める後天性に起こった患者さんでは遺伝は証明されていません。ただし、すべての病気の発症は生まれつきの体質と環境の影響を受けますので、この病気でも「なりやすさ」という体質は遺伝する可能性があります。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
赤血球、好中球、血小板の減少によってさまざまな症状がおこります。赤血球は酸素を運搬しているのでその減少によって酸素欠乏の症状が起こります。酸素欠乏は主に脳、筋肉、心臓に起こります。脳の酸素欠乏でめまい、頭痛が起こり、筋肉の酸素欠乏で身体がだるくなったり、疲れやすくなったりします。心臓の酸素欠乏で狭心症様の胸痛が起こることもあります。それ以外に、身体の酸素欠乏を解消しようとして呼吸が速くなったり、心拍数が多くなったりします。呼吸が速くなったことを息切れとして感じ、心拍数が速くなった状態を動悸として感じます。赤い赤血球が減るため顔色も蒼白になります。

白血球のうち好中球は主に細菌を殺し、リンパ球は主にウイルス感染を防ぎます。したがって、好中球が減ると肺炎や敗血症のような重症の細菌感染症になりやすくなります。

血小板は出血を止める働きをしているので、その減少によって出血しやすくなります。よく見られるのは皮膚の点状出血や紫斑です。それ以外に鼻出血・歯肉出血や、血小板減少がひどくなると脳出血・血尿・下血などが起こります。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
A)原因をさけること
薬剤・化学物質や放射線が原因として疑われる場合はそれをさける必要があります。

B)治療法の種類
治療法としては、1.免疫抑制療法、2.骨髄移植、3.蛋白同化ステロイド療法、4.支持療法があります。特発性でも二次性でもいったん発症すると治療は同じです。

免疫抑制療法とは、造血幹細胞を傷害しているリンパ球を抑えて造血を回復させる治療法です。抗胸腺細胞グロブリン(英語の頭文字をとってATGあるいはALGとも呼ばれています)とシクロスポリンいう薬が使われます。

骨髄移植は、患者さんの骨髄細胞を他の人の正常な骨髄細胞と取り換える治療法です。白血球の型のあった兄弟姉妹あるいは骨髄バンクの骨髄提供者から骨髄細胞をもらい点滴します。最近では臍帯血移植も試みられています。

蛋白同化ステロイドは腎臓に作用し、赤血球産生を刺激するエリスロポエチンというホルモンを出させるとともに、造血幹細胞に直接作用して増殖を促すと考えられています。

C)重症度による治療法の違い
病気の程度(重症度)によって治療を変える必要があります。重症度(ステージ)は白血球、赤血球、血小板の数と輸血を必要とするかどうかによって表1のように分けられます。(表1)のように決められます。

〔 表1 〕
表1 再生不良性貧血の重症度基準(平成16年度修正)
stage 1軽 症下記以外
stage 2中等症以下の2項目以上を満たす

網赤血球  60,000/μl未満
好中球    1,000/μl未満
血小板   50,000/μl未満
stage 3やや重症以下の2項目以上を満たし、定期的な赤血球輸血を必要とする
網赤血球  60,000/μl未満
好中球    1,000/μl未満
血小板   50,000/μl未満
stage 4重 症以下の2項目以上を満たす

網赤血球  20,000/μl未満
好中球     500/μl未満
血小板   20,000/μl未満
stage 5最重症好中球 200/μl未満に加えて、以下の1項目以上を満たす

網赤血球  20,000/μl未満
血小板   20,000/μl未満

注1 定期的な赤血球輸血とは毎月2単位以上の輸血が必要なときを指す。
  注2 この基準は平成10(1998)年度に設定された5段階基準を修正したものである。

1.ステージ1および2の治療
汎血球減少が進行しない場合、通常は無治療で経過を観察します。血球減少が進行する場合や、血小板数が5万以下で日常生活に支障を来たす場合には蛋白同化ステロイド(プリモボラン)やシクロスポリンの外来治療を開始します。2〜3ヶ月の投与で反応が得られず、輸血を必要とする場合には速やかにウマATG(リンフォグロブリン)療法に移行する必要があります。

プリモボランは2-4錠/日を一日2回に分けて内服します。副作用には多毛、色素沈着嗄声、無月経などの男性化作用と肝障害があります。男性化の副作用の多くは不可逆的であるため若年女性にとっては深刻です。若年女性に対して投与が必要な場合は5〜10 mg以下の少量で開始し、効果が乏しい場合には長期投与を避ける必要があります。

シクロスポリン(商品名ネオーラル)は一日6 mg/kg/日を一日2回に分けて内服します。効果のある患者さんでは1〜2ヶ月以内に網赤血球という若い赤血球か血小板が増加し始めます。副作用として腎障害、多毛、歯肉腫脹、手指振戦、高血圧、消化器症状などがあります。高度の腎障害以外はいずれも減量により軽快します。

2.ステージ3以上の重症例の治療
Stage 3〜5の患者さんに対しては、ウマATGとシクロスポリンの併用療法か、白血球の型(HLA)の合う兄弟姉妹がいる場合には骨髄移植を行います。ATGは、ヒトの胸腺細胞でウマを免疫することによって得られた一種の血液製剤で、強力な免疫抑制作用があります。ATGを使用する際には、異種蛋白に対するアレルギー反応を抑えるためにメチルプレドニゾロンまたはプレドニゾロンという副腎皮質ステロイドが短期間併用されます。

40歳以上の患者さんでは、移植に伴う合併症のために生存率が低下するため免疫抑制療法が第一選択の治療法です。これによって約70%の患者さんが改善し輸血が不要となります。一方、免疫抑制療法の場合には再発や、骨髄異形成症候群・急性骨髄性白血病への移行などの問題があるため、20歳以下の患者さんでは一般に骨髄移植療法が勧められます。20〜40歳の患者さんに対しては、骨髄移植と免疫抑制療法のそれぞれの長所・短所(表2)をよく理解したうえで、患者さんの希望や状態に応じた治療を選ぶ必要があります。

〔 表2 〕
表2 骨髄移植と免疫抑制療法の比較

骨髄移植 ATG+CsA療法
● 骨髄移植に有利な点
造血回復の程度 ほとんどの場合完全 しばしば不完全
再発の可能性 ほとんどない 高い(〜30%)
二次性MDS、AML、PNHの発症リスク ない 約1割
造血回復までに要する時間 3週間以内 1ヶ月以上
● ATG+CsA療法に有利な点
入院期間 2ヶ月以上 1ヶ月以内
社会復帰までに必要な療養期間 3ヶ月以上 奏効した場合は1〜2ヶ月
治療関連死亡のリスク 10〜20% 5%以下
妊孕能低下のリスク 全身放射線照射例では高い ない
回復後のQOL GVHD合併例では低い MDS、PNHへの移行がなければ高い
二次性固形腫瘍のリスク 放射線レジメンを受けた例では可能性がある 報告はあるが因果関係は証明されていない

免疫抑制療法が無効でHLAが一致する血縁ドナーがいない患者さんに対しては、今のところ非血縁ドナーからの骨髄移植以外に確立された治療法はありません。しかし、輸血や蛋白同化ステロイドで経過を観察している間に回復する患者さんもかなりみられます。保険適用外ですが、蛋白同化ステロイドのダナゾールは一部の例に著効を示すので、他剤が無効の場合一度は試みる価値があります。また、初回のATG療法によってある程度の反応が得られた患者さんでは、保険適用外ですが同じウマATGの再投与や、ウサギ由来のATGが効果を示すこともあります。

免疫抑制療法や蛋白同化ステロイドが効かず、定期的な輸血が必要な場合には、鉄沈着による臓器障害(ヘモクロマトーシス)が現れる前に非血縁ドナーからの骨髄移植を受けることが勧められます。わが国では、諸外国に比べて再生不良性貧血に対する非血縁ドナーからの移植成績が良いとされていますが、20歳以上の患者さんでの長期生存率は依然として60%台にとどまっています。非血縁ドナーからの移植を必要とする再生不良性貧血患者さんの多くは頻回輸血のためヘモクロマトーシスを起こしており、これが移植された細胞の拒絶や移植片対宿主病(GVHD)という合併症に加えて、移植後の感染症や臓器障害を起こしやすい原因になっています。拒絶を防ぐために通常用いられる全身放射線照射は、組織障害を助長し、GVHDや感染症のリスクを増加させます。このため最近では、移植前治療に用いる全身放射線照射や抗がん剤を大幅に減量し、フルダラビンという免疫抑制作用の強い抗がん剤を使った非血縁ドナーからの移植が試みられています。

D)支持療法
支持療法とは病気の根本的な治療ではなく、その症状を改善するだけの治療のことです。

それには貧血に対する赤血球輸血、血小板減少に対する血小板輸血、白血球減少に対する白血球を増やすホルモンの投与があります。また、白血球減少に伴って敗血症や肺炎が起これば抗生物質で治療します。

貧血に対しては赤血球輸血を行います。自覚症状にもよりますが、一般にはヘモグロビン濃度が6〜7g/dl以下にならないように、白血球が除去された赤血球製剤を輸血します。

血小板減少に対しては血小板輸血を行います。しかし、血小板数が少ないからといってすぐには血小板輸血は行いません。鼻血、歯肉出血、下血、血尿、脳出血時などの出血傾向が著しい場合や手術時に限って行います。その理由は、長期にわたって血小板輸血を行うと血小板に対する抗体ができて、血小板を輸血しても血小板が増えなくなるからです。抗体ができた場合には特殊な血小板を日赤が提供しています。

好中球減少が著しかったり、そのために重症感染症を起こしたりしている場合は顆粒球コロニ一刺激因子(granulocyte colony stimulating factor,G-CSF)という好中球を増やすホルモンを使います。これによって好中球が増え、感染症が克服されることが期待できます。しかし、好中球数が極端に少ない場合には効かないこともあります。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
発症後早期に的確に治療された場合には、8割以上の患者さんが輸血不要となるまで改善します。ただ、G-CSFを投与しても好中球が増えない最重症例では、早期に骨髄移植を行わなければ感染症のため死亡する確率が高いのが現状です。一部の重症例や、発症後長期間を経過した患者さんは免疫抑制療法に反応しないため、定期的な赤血球・血小板輸血が必要になります。赤血球輸血が度重なると糖尿病・心不全・肝障害などのヘモクロマトーシスの症状が徐々に進行します。

このような輸血による鉄過剰症に対しては、これまではデスフェラールという注射用の除鉄薬しかなかったため鉄過剰症を予防することは困難でした。最近デフェラシロクスという経口の除鉄薬が開発され、欧米では輸血による鉄過剰症の治療に用いられています。日本でも近々保険薬として認可される予定です。
免疫抑制療法により改善した再生不良性貧血患者さんの10〜15%が骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病に移行するとされています。 特に7番染色体の欠失がある例の予後は非常に悪いことが知られています。このため、血球減少から回復したのちも定期的に血液検査を受け、異常がみられた場合には染色体検査を受ける必要があります。


  メニューへ