難病(特定疾患)と生活保護・社会保障を考える【携帯/モバイル版】

この場を借りて、難病(特定疾患)と生活保護などの社会保障制度について考えてみたいと思います。

慢性炎症性脱髄性多発根神経炎/特定疾患情報

診断・治療指針

1. 慢性炎症性脱髄性多発根神経炎とは
数日(急性)、約1週(亜急性)以内に発症する急性の脱髄性多発根神経炎(ギラン・バレ−症候群)に対して、発病は急性、亜急性の時も、慢性の時もありますが、緩徐に進行する場合や、再発、再燃を繰り返す多発神経炎をいいます。原因の明らかな場合と原因不明の場合があり、一般に原因不明の場合を称します。末梢神経は鉛筆の芯となる軸索とそれを覆うシュワン細胞の細胞体からなる髄鞘により構成されていますが、本症は髄鞘が直接障害される疾患(脱髄)です。

2. この病気の患者さんはどのくらいいるのですか
我が国や外国でもきちんとした統計学的な検索はおこなわれておりません。

3. この病気はどのような人に多いのですか
詳細に検討した報告はありませんが、89例の私どもの分析では、男女比は62:27で男性に多い傾向があり、2歳から70歳まで広い年令層にまたがっています。上気道感染、妊娠、手術、ワクチン接種などが引き金になり発病、再発することがあります。

4. この病気の原因はわかっているのですか
原因はまだはっきりしていません。キャンピロバクタ−腸炎、サイトメガロウィルス感染後に発症したり、再発、再燃することがあり(前駆感染)、血液に末梢神経髄鞘構成成分(蛋白や糖蛋白など)に対する抗体が出現したり(液性免疫)、細胞性免疫などの異常が指摘されており、免疫が関与することは明らかです。

5. この病気は遺伝するのですか
本症が遺伝するとした報告はありません。ヒトの主要組織適合遺伝子複合体であるHLA(human leukocyte antigen)はヒト6番染色体の短腕上に存在する遺伝子領域によりコ−ドされる細胞膜糖蛋白質でクラス I 抗原(HLA-A,-B,-Cなど)、クラス II 抗原としてHLA-DR,-DP,-DQ抗原があり、ハプロタイプを形成しています。本症ではHLA抗原などを検討し、HLA-A3,-B7,DR2の頻度が高く、HLA-44,DR-7が低い報告があり、またHLA-DR2 ,-DR7とB44との強い関連性があるなどの指摘がありますが、まだ確定的なことはわかっていません。

6. この病気ではどのような症状がおきますか
障害される部位は脊髄から出て四肢、体幹の筋へ行く運動神経(障害されると運動麻痺となります)、皮膚、関節などから脊髄へ入る感覚神経(障害されると四肢の感覚麻痺)が障害されるために、四肢の運動麻痺、感覚麻痺(鈍麻、異常感覚など)がおこります。時に脳神経障害により舌・咽頭節麻痺、顔面節麻痺や稀に呼吸麻痺がおこることもあります。再燃、再発、慢性進行により筋萎縮、感覚の脱失も出現してきます。80%が運動障害優位の運動感覚障害型、10%が純粋な運動障害型、10%が感覚障害優位型です。

7. この病気にはどのような治療法がありますか
A 副腎皮質ステロイド療法
小児では副作用に注意しながら、長期にわたり減量、維持療法を行なうと良い治療効果が得られます。無治療に対して本剤の有効性が実証されていますが、反応しない例もあります。

B 免疫グロブリン静脈内投与療法
(一般にIVIg療法といいます)が平成11年6月から保険診療の適応となりました。比較的安全な治療法で、血漿交換療法と同等の効果が報告され、本邦では簡便さも手伝って、積極的に投与されています。毎日1回、総計5日間を1クールとして投与されます。この疾患の場合、1クールの治療法で劇的な効果から無効まで幅広い報告があります。また、1クールのみでなく、毎月3〜5日間施行したほうが良いのか、月に1日のみ施行した方が良いのかについてはまだ結論が出ていません。無効の場合はA、C、Dの方法へ変えることが行われています。本疾患の一つのタイプとして多巣性運動ニューロパチー(MMN)がありますが、この疾患はA、C、Dは一般に無効で、IVIg療法が有効な例があります。

C 血漿交換療法
体重40Kg以下の小児や高齢者、心、腎疾患を有するヒトでは施行が困難ですが、Bで治療効果があがらない場合はこの治療法を選択することがあります。本疾患の急性増悪時にはギラン・バレ−症候群(保険で認められています)に準じて本法を選択することがあります。

D 免疫抑制剤
免疫が関連する病気ですので、かなり以前より使用されてきています。最近ある種の薬剤は相当の治療効果を発揮してますが、一般には他の治療法と組み合わせて用いられることが多い薬です。

8. この病気はどういう経過をたどるのですか
病気の経過は治療効果に依存することが多いと思います。再発、再燃型の方が、慢性進行性の型よりも予後は良いとされています。1975年の外国の統計では平均7.4年の経過観察した53例では完全回復4%、車椅子以上の悪化が28%と報告されましたがその後の早期診断、治療法の改善などで、1989年の約3年の経過観察した60例では治療に反応したのは95%と報告されています。副腎皮質ステロイド療法で症状の消失が何年にもわたり持続することが少なくありません。免疫グロブリンの静脈内投与法、血漿交換療法の効果が外国で数多く報告され、我が国でも両療法が保険適応となり、多くの患者さんに使用されています。


情報提供者
研究班名 神経・筋疾患調査研究班(免疫性神経疾患)
情報見直し日 平成19年9月6日

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