機動戦艦ミネルバ/第五章
 ターラント基地攻略戦(6)
 A班は、リーダーのオーガス曹長を中心にして、地図を広げながら作戦会議を行って いた。 「ポイントは密林の中央に広がる湿地帯だな。これをいかに利用するかに、作戦成功の 鍵が秘められていると言っても過言ではないだろう」 「敵を湿地帯の中へ誘い込むのですか?」 「そういう手もあるが、俺は逆のことを考えている」 「逆といいますと?」 「例えば、脳細胞の単純なナイジェル中尉などは、猪突猛進で真っ直ぐ俺たちの班に向 かってくると思う」 「まあ、それは言えてるかも知れませんね」 「そこでだ。我々はわざと湿地帯の中を通って、ナイジェル中尉の背後に回り込んで奇 襲を掛けることができるだろう」 「つまり最初のターゲットはナイジェル中尉というわけですね」 「その通りだ。性格も良く判っているし、どう動くかも予想がつき易い」 「ところでサブリナ中尉は、どちらに動きますかね?」 「判らんが、心配しても仕様がないだろうし、こちらが湿地帯を突き進んでいることま では想像もしていないだろうし、空になったベースキャンプで地団太踏むだけさ」 「ハイネ上級曹長の班は?」 「対角線上側にいる相手は、とりあえず考えなくてもいいんじゃないかな。我々がハイ ネ上級曹長と一戦交えるのは、ナイジェル中尉を片付けてからだ」  という具合に作戦会議に余念がない。  それに対して他の班は、武器や機体のチェックに余念がない。  A班が作戦に固執しているのに対して、他の班は直接戦闘に関わることを考えている ようだった。  ミネルバの艦橋のスクリーンには、そんな各班の動きがモニターされて投影されてい た。 「A班は余裕ですね」 「まあ、考えは人それぞれですから」 「艦長。時間です」  オペレーターが戦闘開始時刻を告げた。 「はじめてください」  フランソワのその一言によって、戦闘開始の狼煙があがる。 「AからD班、戦闘開始せよ」  通信を入れるオペレーター。  勇躍として密林へと繰り出していく各班のモビルスーツ隊。  オーガス曹長のA班と、ナイジェル中尉のB班が、互いに接近するように進撃してい た。そして、中間点に差し掛かる頃、作戦通りに湿地帯に迂回するA班だった。B班の 背後に回り込む作戦を実行していた。  その頃、ハイネ上級曹長はまったく動かずに、何やら工作活動らしきことをやってい た。  そしてサブリナ中尉はというと……。 「ナイジェル中尉、聞こえるか?」 『何か用か?』  B班のナイジェル中尉と通信回線を開いて交信中だった。 「提案があるのだが」 『提案?』 「ここは一つ共同戦線といかないか?」 『共同戦線だと?』 「そうだ、四班入り乱れての戦闘は何が起こるか判らない」 『まあ、そうだろうな』 「そこでだ。我々二班が共同でオーガスかハイネのどちらかを叩く。数の上で二倍にな るから勝利は確実だ」 『ルール違反にならないか?』 「いや、この戦闘訓練の作戦概要の禁止条項には含まれていない」 『いいだろう、共同戦線といこう。で、どちらから仕掛ける?』 「オーガス曹長の班を先に叩く」 『ふん。それもいいかも知れないな。こしゃまな口を塞いでくれるわ』 「奴は、湿地帯の中を通って、B班の後背に回り込む作戦だ」 『湿地帯だと? なるほど奴の考えそうなことだな』 「湿地帯から上陸する出鼻を森に潜んで集中攻撃すればひとたまりもないだろう。私は、 湿地帯の中にいるものや、逃げ込んでくるのを攻撃する」 『なるほど、いい作戦だ』 「そちらの攻撃開始を合図に、こちらも攻撃を開始する」 『わかった。多少こちらに分が悪いが、奴の動きを教えてくれたことでおあいことしよ う』 「ハイネ上級曹長の動きが見られないのが気になる。慎重を期したほうがいいだろう」 『ハイネか。無口な奴だからな。何を考えているのか判らん』 「まあな……。それじゃあ、武運を祈る」 『そちらこそな』  通信を切断して、腕組みをして考え込むサブリナ。  やがて腕組みを解いて再び通信機を操作する。 「カリーニ少尉!」  副隊長のカリーニを呼び出す。 『はっ! カリーニです』 「進行状況はどうなってるか」 『はい。遠距離攻撃用のミサイルへの換装は終了しております。残るブラスター砲の調 整もまもなくです』 「まもなく戦闘開始だ。急いでくれ」 『わかりました』  その頃、ナイジェル中尉の班は湿地帯から攻めてくるはずのオーガス曹長の班に対す る迎撃体制を整えていた。 「中尉。湿地帯の方角にエネルギー反応です」 「来たか。十分引き付けてから攻撃を開始する。上陸するその時を狙うのだ」 「了解!」  通信を終えて、 「さすが作戦巧者のサブリナ中尉だ。鋭い読みをする」  と、しきりに頷いていた。  いずれ戦わなければならないとは知りつつも、今は目前の敵に集中すべきだと、意識 をオーガス曹長との戦いに専念することにした。  湿地帯の中を突き進むオーガス曹長の班。  足を取られながらも前進を続けていた。 「ようし、ここらでいいだろう。上陸するぞ」  向きを変えて、湿地帯から上がろうとするオーガス班。  およそ三分の一ほどが上陸した時だった。  森林の奥からミサイルが飛んできて、一機に命中した。  ペイント弾が破裂して、機体を真っ青に染め上げる。 『ガラン上級上等兵、命中です。行動不能に陥りました。隊より離脱して帰還してくだ さい』  通信機から指示が入った。  戦闘シュミレーションによって、攻撃を受けた場合の損傷状態が計算され、戦闘不能 と判断されて帰還命令が出されたのである。 「りょ、了解。帰還します」  隊を離脱して帰還の途につくガラン上級上等兵。  奇襲攻撃にたじろぐ兵士たち。 「な、なんだ? どうしたんだ」  オーガス曹長も例外ではなかった。 「奇襲です。森の奥から攻撃を受けています」 「森の奥からだと?」  攻撃は続いていた。  次々と撃破されて離脱する機体が続出していた。 「一時後退だ。湿地帯へ戻れ」  湿地帯へと避難するオーガス班の機体。  だが、違う方角からの攻撃が加わった。 「後方よりミサイル多数接近!」 「ミサイル?」 「対岸より発射されたもよう」 「対岸というと、サブリナ中尉か!」 「挟み撃ちです」  進むもならず、退くもならず。  進退窮まって全滅の道を急転直下のごとくに陥るオーガス班だった。  全滅だった。 「こんなのありか……? 二班から同時攻撃を受けるなんて」 「おそらく共同戦線を張られたのかと思いますが」 「共同戦線だと?」 「はい。作戦概要の禁止条項を確認しましたところ、ルール違反にはならないようで す」 「サブリナ中尉の策略か」 「そのようですね」  通信機が鳴った。 『オーガス曹長の班は、総員帰還せよ』  ミネルバからの連絡は、冷徹な響きとなってオーガスの耳に届いた。 「了解。帰還する」  ペイントまみれの機体が続々と帰還をはじめた。 「オーガス班、全滅です。総員、帰還の途に着きました」 「ふふん。天狗になっているから、こういうことになるのさ」 「これから、どうしますか?」 「共同戦線はここまでだからな。この勢いに乗ってハイネの班へ殴り込みをかけたいと ころだ」 「C班ですね」 「まあ、ハイネは個人としての戦闘能力はずば抜けて高いが、所詮はただの下士官だ。 作戦を立て、隊を指揮するなどという頭脳プレーは経験がない。ちょっとかき回してや れば、隊は混乱に陥り、士気は乱れて自滅する」 「サブリナ中尉の指揮下にあってこそのものということですね」 「その通りだ。ハイネ上級曹長、恐れるに足りずだ」  数時間後、ナイジェル中尉率いるB班と、ハイネ上級曹長率いるC班が、戦闘の火蓋 を切った。  ナイジェル中尉の予想通り、ハイネ上級曹長率いるC班は、緒戦こそ善戦したが、ナ イジェルが放った陽動作戦に見事に引っかかって、善戦むなしく敗退した。  奮戦むなしく帰還するC班を見送るナイジェル中尉。 「ようし続いて、残るD班との決戦だ。その前に補給だ。しっかり燃料弾薬を積み込ん でおけ」  負け組みが帰還した後に残された陣地は、勝ち組が自由に使っていいことになってい た。