新型モビルスーツを奪回せよ
II 「バイモアール基地周辺の詳細図を」  これから戦闘が行われるだろう基地の情報を、前もって知り事前の作戦計画を練るこ とは大事である。  オペレーターが機器を操作すると、それまでの航海図からバイモアール基地の投影図 へと切り替わった。  基地の名称ともなっているバイモアール・カルデラは、数万年前に大噴火を起こして 陥没して広大なカルデラを形成したもので、その後東側の外輪山の山腹に新たな噴火口 ができて爆発、山腹を吹き飛ばして海水が流入し現在のカルデラ湾となった。  バイモアール基地は、このカルデラの火口平原に設営されたもので、海側は入り口が 狭い湾となっているし、山側は高い外輪山に阻まれ、さらに後背地は砂漠となっていて 格好の天然要塞となっている。 「基地の兵力はどうなっているか?」  作戦計画なので、各自意見のあるものは遠慮なく発言を許されている。 「湾内には共和国同盟の水上艦が守りを固めているはずです」 「基地直轄としては、三個大隊からなる野砲兵連隊が配備されておりまして、各大隊は 7.5cm野砲8門、10.5cm榴弾砲4門の構成。内二個大隊は湾側の防衛、一個大隊を砂漠側 の防衛にあたっております」 「野砲はそれほどの脅威はないでしょう。脅威なのは湾を望む高台に設営されている トーチカ、そこに配備されている205mm榴弾砲ではないかと思います。直撃されれば一 撃で撃沈されます」  一同が頷いている。  ミネルバ搭載の135mm速射砲でも敵戦艦を一撃で撃沈させたのだ。それが205mmともな れば、言わずもがなである。 「まず最初に破壊する必要性があるでしょうが、いかんせん向こうの方が射程が長いの が問題です。こちらの射程に入る前にやられてしまいます。近づけません」 「ですが、こちらにはより長射程の原子レーザー砲があるじゃないですか」 「強力なエネルギーシールドがありますよ。原子レーザーは無力化されてしまいます」 「軍事基地をたった一隻の戦艦で攻略しようというのが、いかに最新鋭戦闘艦といえど もどだい無理な話なのでは?」  一人の士官が弱音を吐いた。  すかさず檄が飛ぶ。 「馬鹿野郎! 戦う前からそんな弱気でどうする。困難を克服しようと皆が集まって作 戦会議を開いているのが判らないのか? 艦長に済まないとは思わないのか」 「も、申し訳ありません」  フランソワの方を向いて、平謝りする士官だった。  遙か彼方のタルシエン要塞から遠路はるばるこの任務に着任してきたフランソワ・ク レール艦長。共和国の英雄と称えられるあのランドール提督からの厚い信望を受けての ことであるに違いない。  たんなる戦艦の艦長であるはずがない。  それは一同が感じていることであった。  暗くなりかけたこの場を打開しようとして、副長が意見具申する。 「この際、背後の砂漠側から攻略しますか?」  砂漠には、丘陵地や谷間などがあって、砲台からの死角となる地形が多かった。  それらに身を隠しながら接近して、砲台を射程に捕らえて攻撃しようという作戦のよ うであった。  しばし考えてから答えるフランソワ。 「いえ。海上側から攻略しましょう。砂漠から攻略してトーチカを破壊しても、山越え した途端に基地からの総攻撃を受けます。基地に配備されたすべての兵力の集中砲火を 浴びせられては、さすがのミネルバも持ち堪えられません」  トーチカの205mm榴弾砲のことばかりに気を取られていた一同だったが、基地の総兵 力の九割が海側にあることを失念していたようだ。トーチカだけなら砂漠からの方が楽 であるが、その場合は基地に入るためには山越えをしなければならず、満を持して構え ていた基地から一方的に攻撃を受けることになる。 「海上からなら、まずは水上艦艇、次に野砲兵連隊、そして基地直営ミサイル部隊と、 射程に入り次第に各個撃破しつつ基地に接近することができます」 「トーチカからの攻撃はどうなさるおつもりですか?」  海上では隠れる場所がない。トーチカの格好の餌食となるのは必定である。  それがために皆が頭を抱えて思案していたのである。  が、フランソワは一つの打開策を用意していた。 「基地には、モビルスーツを奪回するために潜入している特殊部隊がいるはずです。彼 らに協力を要請しましょう」  特殊部隊?  一同が目を見張ってフランソワを見た。
     
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