機動戦艦ミネルバ/第二章・選択する時
U 選択の時  補給を終えた補給艦が去っていく。  それを見送るミネルバの乗員達。 「艦長。トランターを占領した連邦軍の記者会見放送が入っています」 「拝見しましょうか。艦内放送にも流してください」 「わかりました」  パネルスクリーンにトランターを占拠した連邦軍戦略陸軍中将マック・カーサーが 映しだされていた。 『本日をもって、トリスタニア共和国同盟はバーナード星系連邦の支配下に入ったこ とを宣言する』  艦内にどよめきが広がった。 「来るべき時が来たというところですね」  記者会見放送は続いている。  一人の記者が代表質問に立った。 『共和国同盟には、出撃に間に合わなかった絶対防衛艦隊や、周辺守備艦隊を含めて、 残存艦隊がまだ三百万隻ほど残っています。これらの処遇はどうなされるおつもりで すか?』 『残存の旧共和国同盟軍は、新たに編成される総督軍に吸収統合されることになるだ ろう』 『タルシエン要塞にいるランドール提督のことはどうですか? 彼は未だに降伏の意 思表示を表さずに、アル・サフリエニ方面に艦隊を展開させて、交戦状態を続けてい ます』 『むろんランドールとて共和国同盟の一士官に過ぎない。共和国同盟が我々の軍門に 下った以上、速やかに投降して、要塞を明け渡すことを要求するつもりだ。もちろん 総督軍に合流するなら、これまで共和国同盟を守り通したその功績を評価して、十分 な報酬と地位を約束する』  マック・カーサーの記者会見放送に対する乗員達の反応はさまざまだった。 「どうなんだろうね。ランドール提督は徹底抗戦を続けるつもりなのかな」 「じゃない? だってこうやって、メビウス部隊をトランターにわざわざ派遣して、 レジスタンス活動させているんだもの」 「しかしそれって、共和国同盟の軍人同士で戦うことを意味してるんだぜ」 「要は艦長次第じゃないのか?」 「もちろん徹底抗戦に決まってるじゃない。こういう時期に転属命令を受けてやって 来たんだから、それ以外に考えられないでしょ」  各自それぞれの意見を寄せ集めて、議論真っ盛りであった。 「乗員達の間では、意見真っ二つに分かれています」  乗員達の議論を耳にした副長のリチャードがフランソワに伝えていた。 「でしょうね。誰も今後のことはどうなるか判らないし、味方同士で戦うのを避けた いと思うのは当然ですよね」  フランソワは、この地にしばらく留まることにした。  乗員達に議論の時間を与え、各自の意思を固めさせるためである。  もちろん士官学校繰上げ卒業で、未熟なまま徴用された新人達に、艦内装備や艤装 兵器などの習熟度を上げる訓練をも兼ねていた。  さらにしばらくして、マック・カーサーの宣言に答えるように、アレックス・ラン ドール提督の放送が流された。 『共和国同盟に暮らす全将兵及び軍属諸氏、そして地域住民のみなさんに伝えます。 私、アレックス・ランドールは、タルシエン要塞を拠点とする解放軍を組織して、連 邦軍に対して徹底抗戦することを意志表明します。解放の志しあるものは、タルシエ ン要塞に結集して下さい。猶予期間として四十八時間待ちます。なお以上です』  放送を聞き終えたリチャードが質問する。 「どうなんでしょう。タルシエンに結集する艦隊はあるのでしょうか?」 「期待は薄いでしょうね。解放軍に参加するということは、故郷に対して弓引くこと になる結果を招くことになるわ。つまりこのミネルバのようにね。辺境の地へわざわ ざ出向いて行くことはしないでしょう」 「ということは現有勢力だけで戦わなければならないというわけですか」 「そうなるでしょうね」
     
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