あっと! ヴィーナス!!(49)
ポセイドーン編 partー2  一行は無事に海底神殿へとたどり着いた。  目の前に鎮座するのは、オリュンポス十二柱神のポセイドーンであった。  甲斐甲斐しく世話をするのは、下半身が魚で上半身が人間の人魚だった。 「よくぞ参った。歓迎するぞ」 「……」  水中で声の出せない弘美だった。  それに気づいて、 「ああ、済まない。ちょっと、待て」  すると足元から空気の泡が出てきて、弘美たちをスッポリと包んだ。  息が出来るのを確認して、アクアラングの装備を外す。  大きく深呼吸してから、 「おまえ誰だ! 乙姫じゃなさそうだな」  弘美が一歩踏み出すと、空気の泡もその動きに合わせて移動する。 「海の王者にして、ゼウス様の兄君のポセイドーン様ですよ」  ヴィーナスが耳打ちする。 「なるほど、さすがファイルーZに選ばれし娘だな。ゼウスやアポロンが血眼にな って、探し当てようとするだけのことはある」  弘美を見つめてポセイドーンが感心する。 「俺……じゃなくて、あたし。いやもう俺でいいや。俺達を連れて来たのはどうい うこと??」 「心外だな。私が助け舟を出さなければ……」 「助け舟って、あの亀か?」 「途中で話の腰を折るでない!」 「悪かった。続けてくれ」 「私が助けなければ、今頃冥府魔道を当てもなく彷徨っていたであろうぞ」 「確かにそうかもな。一応感謝しておく」 「ハーデースは君たちを地上に戻すつもりなどなかったのだ。あちらこちらに罠を 張り巡らして陥れる腹積もりなのは明白だった」 「そうだろうとは思っていたよ」 「万が一地上に戻れたとしても、その身体には蛆が這いまわり、腐臭漂うその姿は ゾンビ。普通の人々が見れば、恐れおののき逃げ惑うだろう」 「げげっ!墓場桃太郎みたいだな。nyamazon prime video で第一話無料配信され てるぞ」 「何の縁もゆかりもない俺達を、助けるのは魂胆があるのだろう?」 「そこまで勘ぐるのか?」 「まあね。神とはどういうものか少しずつ分かってきたつもりだ」 「ほほう。どういう具合にかね」 「人間を操り人形のようにして弄ぶのが喜びなのだろう?」 「ふむ、それはあるかも知れないな」 「で、当然。ハーデースみたく、何か頼み事でもあるのだろう」 「実はだな。儂は海を支配しているが、少しでも良いから大地が欲しくてな、とあ る地方を女神アテーナーと争っているのだ。人間に最も利益のあるものを創出した 方の勝ちという賭けをしたのだよ」 「なるほど、それで知恵を貸してくれというのだな」 「早い話がその通り。長らく海底に住んで居ったのでな、地上の世界に疎いのだ。 人間が何を欲しているのかを知りたい」 「そうだな……石油じゃね?」 「せきゆとな……?なんだそれは?」 「分かりやすく言えば『燃える水』単純に夜を照らす明かりとなるし、暖房の燃料 にもなる」 「暖房か……ハイポコーストのことかな?」  ハーポコーストとは、古代ローマで使われていたセントラルヒーティングの一種 である。 「薪なんかよりも火力は高いし、工夫すれば煙も一切でない」 「それは便利そうだな」 「他にも、空を飛ぶ機械とか、海に浮かぶ鉄の船を動かす燃料となるんだが」  目を丸くして聞いているポセイドーン。 「そんなことにも利用できるのか。大したものだな」  それから事細かに石油の事を説明する弘美。 「あい分かった!アテーナーとの賭けに石油を持ち出してみよう」 「まあ、頑張れや」 「君達には、食事を提供しよう。儂がアテーナーに対面している間待っておれ!」  ということで、弘美たちを残して姿を消した。  人魚が食事を運んできて、接待を始めた。  目の前では、鯛やヒラメが舞い踊っているが、水族館でよくあるショーである。 「結局、俺達人質になっているということか?」 「アテーナーとの賭けに負けたら、あたし達どうなるのかしら?」  愛ちゃんが心配そうにしている。 「ここに来なければ、今頃ハーデースの罠にハマってゾンビになってかも知れない んだ。今更、どうってことないだろ?」 「それはそうだけど……」
     
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