あっと! ヴィーナス!!(49)
ポセイドーン編 partー1  弘美たちの目の前に広がるのは、水平線が果てしなく続く大海原。 「どうやら、冥府を出られたようだが……」  弘美がぼそりと呟く。 「海ですね」  現実を認められない愛君。 「来た道を戻っていたはずだよな」 「間違いない」 「では、なんで海に出ちゃうんだ?」  本来なら、ローマ郊外の洞窟に出てくるはずだった。  でなきゃ、冥府に引き戻されて化け物にされていたか……。  海に出る要素は一つもない。  戻るわけにはゆかず、悶々としていると、 「なんだあれは?」  水平線の向こうから海面を泳いでくるものがあった。  やがて近づいて来たのは、 「亀だ!」  間違えようもない大亀だった。  体長180センチメートルくらい。  現世種で言えば、オサガメというところだろうか。  背中に、箱が括り付けられていた。  その箱を取り外して中を確認してみると、 「これって、アクアラングか?」  空気ボンベ、レギュレーターセットなどの潜水用具一式が入っていた。  「何かメモが入ってるわ」  愛が気付いて読んでみると、 『この潜水用具を身に着けて、亀の背に乗ってください』  という内容。 「亀の背に乗るって、浦島太郎かよ」 「そうみたいね」 「亀を助けた覚えはないが……」 「亀が二匹ということは、あたしと弘美ちゃんの二人だけ?」 「心配するな。我らは海の中でも平気だ。後ろから着いてゆく」  という女神たちは、いつの間にか水着に着替えていた。 「何だよ、その恰好は?」 「決まっている。海の中に入るには、やはりこれじゃないか?」  といいながら、モデルがとるようなポーズをしてみせる。 「あ、そ……神通力で着替えたのか」 「神様って、便利なんですね」  もじもじとしていた愛ちゃんだったが、 「あの、わたしにも水着を頂けませんか?」  思い切っておねだりしてみるのだった。 「かまわんぞ」  ヴィーナスが指をパチンと鳴らすと、愛ちゃんの制服が水着に変わった。 「わあ!可愛い!!」  フリル付きのワンピ水着だが、どうやら気に入ったようだ。 「おまえもどうだ?」 「あ、あたしはいいよ!」  いきなり水着というのは困る!  当然の反応であろう。 「遠慮するな!」  というと、強引に弘美をビキニの水着姿に変えた。  ちなみにビキニという名称は、1946年7月1日にビキニ環礁で行われた原爆実験 に由来がある。7月5日にルイ・レアールという服飾家が、その小ささと周囲に与 える破壊的威力を原爆にたとえて、ビキニと名付けたという。Wikipediaより 「なんで、愛ちゃんがワンピで、こっちはビキニなんだよ?」 「愛ちゃんは恥ずかしがりやだからね。よく似合ってるじゃないか」 「か、返せよ。あたしの服」 「大丈夫だ。元の世界に戻れば、ちゃんと返してあげるよ」 「秘密のポケットやらにしまっているのか?」 「ああ、便利なものだろう」 「弘美ちゃん。可愛いわよ」  愛ちゃんから、お褒めの言葉を頂けば、無碍にもできない弘美だった。 「お伽噺ではこんな装備をしないで、海の中に入ったようだが……」 「そりゃまあ、作り話は現実とはかけ離れているからな」  催促するようにゆっくりと海の方へと移動を始める大亀。 「おっと、乗り遅れたら冥府行き決定だぞ」 「乗りましょうよ。他に行く当てはないんだし」 「そうだな。乗るとしよう。目指すは竜宮城かな?」  亀の背に乗る二人。  やがて静かに海の中へと沈んでいく。
     
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