あっと! ヴィーナス!!(46)
ハーデース編 partー11  気が付いたら、地上世界のどこかの山地の中にあるというニューサの野原へとや ってきた。 「どこにペルセポネーがいるんだよ」  辺りを見回しながら、ペルセポネーを探している。 「ところで……この作り物の羽はなんだ?」  いつの間に取り付けたのか、弘美の背中から羽が生えていた。 「恋のキューピッドだから、羽があった方が【らしい】でしょ」 「馬鹿らしい!」  と言って背中に付けられた羽をむしり取る。 「あーん。似合っているのに」  ヴィーナスが甘ったれた声を出す。 「ペルセポネーがいましたよ」  エロースが指さす先に、目指す相手がいた。  ニュンペー(妖精)に囲まれて、美しく咲く水仙の花を摘んでいる。  物陰から観察する弘美達。 「なあ、白雪姫のリンゴのように、騙してザクロの実を食べさせるのはどうだ?」 「だめだな。ザクロは地上で食べても何でもない。冥府で食べるからこそ禁断の実 となるのさ」 「狙うなら今だよ」  エロースが指示する。 「そ、そうか?」  弓矢を構える弘美。 「おまえ弓道の達人だったよな」 「あのなあ、俺は柔道だ!間違えたのは、これで二度目だぞ」 「大丈夫だよ。僕の弓矢は、狙った相手は絶対外さないから。精神集中して対象物 に【当たれ!】と念じればいいんだから」 「そ、そうか?」  その時、一陣の風が吹き荒れ、ペルセポネーの衣服の裾を巻き上げた。  咄嗟に裾を手で押さえるが、 「おおおお!」  弘美の目にはしっかりと残像として記憶された。 「おしい!後少しだった」 「なに見てるのよ!」 「なあ、女神ってパンツ履いてるのか?」 「もちろん履いているわよ。……な、何言わせるのよ!」 「そうか……履いているのか」  女性の下着パンティーの歴史は古く、紀元前三千年頃の古代メソポタミアの壁画 に描かれた腰に巻いた布がルーツとされている。 「あのお……ペルセポネー、行っちゃいましたよ」 「あんだとお!」  ニューサの野原にペルセポネーの姿はなく、風がそよいでいるだけだった。 「あなた女の子でしょうが!女性の下着に興味を持つなんて……やっぱり調教が必 要ね」 「そんなことより、ペルセポネーはどこ行った?」  とにかく双葉愛ちゃんの命が掛かっているのだ。  何としてもペルセポネーを篭絡しなければならない。  自分側の保身のために、他者を陥れるのは気が引けるが、 「そんなことはどうでもいい!」  と、考えるのも人間の性でもあろう。  弘美の念が通じたのだろうか、ほどなくしてペルセポネーの住まいは見つかった。  忍び足で侵入して、ペルセポネーを探す。  何やら水音がする。 「風呂にでも入っているのか?」  入り口から廊下を渡った先には、オイコスと呼ばれる台所。  水音はその隣の部屋から聞こえる。  脱衣所と思しき部屋があって、その奥が浴室のようだ。  弓矢を構えながら、浴室をこっそりと覗く弘美。 「脱衣所に服が脱いであったから、今はスッポンポンだよな」  弘美の口元が綻(ほころ)んでいる。 「何を考えておるか?」 「女の裸を見て感じるのか?そんなに見たければ、自分自身を見ればよかろう。何 せファイルーZに選ばれたほどの美貌なのだぞ」 「俺自身?」 「今まで気づいていなかったのか?クレオパトラも羨むほどのな」 「さあ……女にされて動転していたし、鏡すらまともに見ていなかったからな」  意外だという風の弘美だった。  しかし身体は女になっても、心は男のままなのだ。  綺麗な姉ちゃん見かけたら声を掛けたくなる。  狭い脱衣所に大勢が入り込んだせいで、身体が押されて浴室のドアが開く。 「きゃあー!」  悲鳴を上げるペルセポネー。 「ごめんなさい。覗くつもりじゃなかったんです」  咄嗟に言い訳を言う弘美。  突然の乱入に驚いたペルセポネーだったが、よく見れば全員女性、そして美麗な 少年だ。  気を取り直して尋ねる。 「な、なにかご用でしょうか?」  こうなってしまえば、取り繕うこともない。 「実は、斯々然々(かくかくしかじか)というわけでして」  ありのままに白状する弘美。 「いやです!」  開口一番、強い口調で断る。 「そこをなんとか……」 「わたしは、処女神でありたいのです。お引き取り下さい」  当然の反応であろう。  弘美が躊躇(ちゅうちょ)していると、 「こちらにも都合があるのよ」  と、ディアナが弘美から弓矢を取り上げて、ペルセポネーを射った。
     
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