あっと! ヴィーナス!!(42)
ハーデース編 partー7 「そこはそれ、さっきリレミト呪文使っただろ?あれだ」 「あれはMPが必要だ。さっきのでMPは尽きた」 「たった一回でか?」 「ああ、ドラクエは初心者だからなMPは少ししかなかった」 「ヴィーナスはどうなんだよ?」 「私は、そもそもドラクエの呪文は知らないし」 「ならば神通力を使えよ。それならば無限にあるんだろ?」 「いやなに。最後の城門をくぐったらもはやハーデースの領域だ。我々天上界、一 介の女神の力などすでに封印されておるわ」 「あんだとお!?なぜそれを早く言わないんだ」 「聞かないからだ」 「聞くも何も、知らなきゃ聞けないだろが!!」  侃々諤々(かんかんがくがく)、大広間に響き渡るほどの声でまくし立てる。  実は、一行を取り囲むようにして、無数の魔物たちが蠢(うごめ)いているのに も気づかない。  知らぬが仏、能天気な会話を続けながらも前に進む。 「お!前方に何かあるぞ!!」 「あれは、人?……いやハーデース様のようだ」 「なに!ハーデースだと?」  途端に歩みが早くなって、とうとうハーデースの前に立ったのである。  玉座に腰を降ろして、一行を出迎えるハーデース。 「よくぞ参った。疲れただろう、そこに電気按摩椅子を用意してある。身体を解(ほぐ)すがよかろう」  指さした所には、某メーカーのマッサージチェアが置いてあった。  どこから電気を引き込んでいるのかは謎であるが……。 「まさか、座った途端。手枷足枷が出て拘束されるんじゃないのか?」 「それはないぞ」 「さらに、電気椅子になっているんだろう?数千ボルトの電気が流れてあの世行き とか。ああ、ここがあの世だっけか……」 「だから違うと言っておる」 「電気椅子と言えば、送電施設を交流直流どっちにするかで、直流を推すエジソン 陣営と、交流を推すテスラ&ウェスティンぐハウス陣営とで鍔迫(つばぜ)り合い やっててさ」 「何の話をしている?」 「エジソンは、交流の危険性を訴えるために、電気椅子の公開実験をやったそうだ」 「だから、何の話をしているかと聞いておる」 「結局、自由に電圧を変えられる交流に軍配が上がったのさ。でもさ、本当は直流 の方が送電ロスという面では優れていたんだ。技術が発達して、簡単に直流交流変 換が容易になって、再び直流送電が行われるようになってる」 「……もういいよ」  長々と説明を続ける弘美に、耳ダコ状態になったハーデースだった。  ふと、マッサージチェアの方を見てみると。 「ほほう、これは楽ちんだな」  イの一番に、その恩恵に預かっていたヴィーナスだった。  適度にモミモミされて、肩や腰などが揺れ動いている。 「まるで天国にいる気分じゃ!」  実に気持ち良いという表情をしている。  天国気分とか、天上人の言葉ではないが。 「おまあなあ!俺を差し置いて、真っ先に按摩椅子に乗っかるとは間違ってない か!?」 「女神とて疲れるんだぞ。日頃から歩くなどしたことないのに、地を掘り進んでき たんだ。それに、レディーファーストという言葉を知らぬのか?」 「それは、足腰立たぬほどまで酒に溺れているからじゃないのか?」 「まあまあ、喧嘩するな。あと二台出してやるから」  というと、下僕の骸骨が電気椅子をさらに二台運び出してきた。 「こらこら、電気椅子と言うなよ」  文章が長くなるからです。  新聞紙が字数を減らすために、コンピューターを電算機と呼ぶのと同じです。 「新聞ねえ……。気持ち悪くなるから止めてくれ!」  マッサージチェアが二台、弘美たちの前に置かれた。 「そいじゃ、遠慮なく」  ハーデースの御前において、マッサージチェアに身体を委ねる三人。  ゆらゆらと身体が揺れて気持ちよさそうである。 「なんか、忘れてるような……」  ヴィーナスがぼそりと呟いた。  我に返る弘美。 「そうだった!こんなことしてる場合じゃなかったあ!!」
     
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