あっと! ヴィーナス!!(36)
ハーデース編 part-1  ここは栄進中学3年A組の教室。  ホームルームの時間、愛と美の女神ヴィーナスこと『女神奇麗』教諭が壇上に立 っていた。  この物語のヒロインたる相川弘美は、ヴィーナスに激しい怒りの視線を送っていた。 「おい!なんで、お前がいるんだ!!」 「私は教師だぞ」 「俺を女にしたんだから、もう用はないだろが」 「その言葉使いよ。身体は女の子になったけど、心は男の子のままじゃない」 「それがどうした。これが俺の性分だ」 「それがいけないのよ。まるで『男の娘』の言葉」 「しようがねえだろ。心は男なんだから」 「だからよ。あなたが女の子の心を持つまで、私が調教するわ」 「調教だと!?まさか、ボンテージ姿で鞭を手に『女王様とお呼び!』とか言って、 ハイヒールを舐めさせたりする奴か?」 「何を言っているのか!?」 「世間の常識だろ?」 「とにかく!あなたが身も心も女の子になるまでが私の役目よ。男の娘じゃ、世間 を渡ってけないわよ」 「なんとかなるさ。ほっとけ!アル中のくせに女神面するな」 「言ったわね!」  などと、矢継ぎ早に繰り出される会話は、すべて以心伝心で行われているので、 周囲の生徒達には伝わっていない。  キンコーンカーンコン!  となるチャイムの音。 「放課後教務室に来い!教諭命令だぞ!!」 「へいへい」  放課後となる。  幼馴染の双葉愛が話しかけてくる。 「帰りましょうか」  家がすぐ近くなので、登下校はいつも一緒だった。 「あ、いや。女神先生に呼ばれてるんだ。先に帰ってていいよ」 「何の用かしらね?」 「時間が掛かるかもしれないから」 「分かった。先に帰るね」 「ああ、気を付けてな」  名残惜しそうに別れて、一人帰路に着く愛だった。  ちなみに天界での出来事は、ヴィーナスによって愛の記憶から消去されている。  女神の執務室へとやってきた。 「何だよ。呼びつけやがって」 「とりあえず、これを渡しておく」  と、手渡されたのは封書だった。 「何だよ、これは?」 「ゼウス様からの手紙だ。さしずめ、ラブレターというところだろな」  聞くなり、ビリビリと封書を破る弘美だった。 「あ、こら!せめて中身ぐらい読めよ」 「知るかよ!!」  と、ごみ箱に投げ捨てる。 「何が不満だよ。ゼウス様のお目にかなうだけでも栄誉なことだぞ。クレオパトラ や楊貴妃のようになりたくないのか?」 「言ってろよ。結局、みんな悲劇の女王になってるじゃないか」 「そうだったけな……(とぼける)」  その時、ヴィーナスのスマホに着信があった。 「おまえ、神のくせにスマホ持ってるのかよ」 「神だって、最新情報を集める必要があるからな」  スマホに出る女神。 「なんですってえ!!」  突然、大声を出す。 「な、なんだよ。ビックリするじゃないか」 「落ち着いて聞けよ」 「落ち着いているよ。動揺しているのはおまえだよ」 「双葉愛ちゃんが誘拐された!」  耳を疑って、しばし声が出ない弘美。 「聞こえているか?」  我に返る弘美。 「誘拐されたのか?またアポロンか?」 「アポロンは石になってるはずよ。今度は別の奴たと思う」 「誰なんだ?手がかりとかないのかよ」 「何もないが……おそらく、ゼウス様と関りがありそうね」 「また神がらみかよ」 「運命管理局に犯行声明文がメールで届いた」 「声明文?誰からだよ」 「まだ名乗っていない。犯行声明は一度だけでなく二度三度来るもの。一度目は犯 行宣言、二度目に身代金要求、三度目に現金受け渡し方法という具合だよ」 「身代金誘拐なのか?」 「例えばだよ。まだわからん」 「愛ちゃんの家に行く!念のために確認だ」  教務室を出て、押っとり刀で双葉愛の自宅へと急行する。 「愛ちゃんですか?まだ帰っていませんけど……弘美ちゃんは知らないの?」  玄関に出た母親が、怪訝そうに答える。  母親を心配させて、失敗したと思う弘美。 「いえ、何でもありません。勘違いでした」  その受け答えが、母親を納得させるかは分からないが、そう答えるしかない。
     
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