あっと! ヴィーナス!!(17)

 数日後。  ファミレスのバイトを始めた二人。 「ありがとうございました」  バイトの仕事にも慣れて、そつなくこなしている。 「いらっしゃいませ!」  客が入店してくる。  その客の姿を見て、ヒソヒソと店員たちが耳打ちしている。  それもそのはずで、来店客は黒眼鏡に頭から足まで黒ずくめの衣服を着ていたからだ。 「なにあれ。少年探偵コナンのコスプレ?」  客が席に着いて、テーブル担当の店員が注文を取りにいく。 「これとこれと、それからこれ」  と注文した品は、調理に時間のかかるものばかりだった。 「これとこれと、それからこれ、でよろしいですね」 「ああ、たのむ」 「かしこまりました」  一礼して、オーダーを出しに厨房へ伝えに行く店員。 「オーダー入りました!これとこれと、それからこれ、です!」  客は、お冷を一口飲むと、ポケットから何かを取り出した。  写真のようだった。  それをジッと見つめたかと思うと、店員と見比べている。 「何、あの客。うちらのこと見つめたりして、気色悪いわあ」 「もしかしたら、興信所の人?」 「ええ?じゃあ、誰かを調べているの?」 「よく観ると、新人の方を見ているみたいよ」  確かに客は、新人である弘美と愛の動きを追っていた。  やがて注文した料理が届くと、一口入れては観察、一口入れては観察。  咀嚼の間中は二人を交互に観察していた。  そうこうする内に、二人の勤務時間の終了となる。 「お疲れ様でした!」  更衣室で制服から、自分の服に着替えて、店を出る二人。 「ふうっ!疲れたあ」  大きく伸びをする愛。 「それにしても……あの人、なんだろうね」 「例の客?まだ食べているのかな」 「ううん……どうかな。もう食べ終わってるんじゃない?」  談笑しながら帰り道を歩く二人。  その時、一陣の風が吹いた。  スカートの裾が舞い上がり、慌てて両手で抑える。 「酷い風ねえ」  砂が目に入ったのか、目を擦っている弘美。 「きゃあ!」  悲鳴を上げる愛。  目を開けると、愛を抱えて走り去る黒尽くめの男。 「ああ、あの変な客だ!」  なんて言ってる暇は無い。  黒尽くめを追いかける弘美。 「待ちなさい!愛をどこへ連れていくの!!」  人一人抱えて走りづらいはずなのに、黒服は軽々と走り続ける。  じりじりと差を詰めていく弘美。  あと一歩!  手を伸ばした瞬間だった。  ふわりと黒服が宙に浮かんだのだった。  見ると黒服の背中から真っ白な羽根が生えている。  その羽根をバサバサと羽ばたかせて、空高く舞い上がってゆく。 「天使!?」  羽根の生えた黒服は、すでに空の彼方に消え去っていた。
     
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