静香の一日

(四)雪が降る中 「ほほう、妹ながら結構いい身体している……。なかなかそそるな。これなら俊彦だ って陥落するだろうぜ」  いつまでも関心している場合ではなかった。 「下着がこれだから、上に着るものもそれに合わせなくちゃな」  身体は静香とはいえ、心は男の重雄だった。  コーディネートとかいった女性的な配慮など知る由もなかった。  当然、男の視点で衣装選びすることになる。 「やはり、ミニのタイトスカートだろうな」  スカートの裾から覗くまぶしい太もも!  男を誘惑し、その気にさせるにはミニのタイトスカートに限る。  丁度いい具合にピンク色の上下のスーツがあった。 「これでいいんじゃないかな」  さらにその下に着るシャツ、女物はブラウスと言うんだっけ? それを適当に選ん で着る。  よし! これでいい。 「おっと、女性はこれが必要だったな」  化粧品とか入れるバックだった。  女性は物をポケットに入れたりはしないものだ。  スーツとかには一応ポケットは付いてはいるがほとんど装飾品だ。 「しかし事前に化粧しておいてくれて助かったよ」  静香は出かける予定だったみたいだから、すでに化粧を終えていた。  もし自分で化粧するとなれば、とんでもない顔になっていただろう。  バックとコートを持って、出かける準備はできた。  ちらりと静香(自分の身体)を見る。 「そうか……。このままじゃ、風邪を引くか……」  動かせば目を覚ますかも知れないが、放っておくこともできない。  しかし、今の身体は静香だ。  この細腕で自分の身体を抱えることは不可能だろう。 「お、重いな」  両脇を抱えて引きずってこたつのある居間に運ぶことにする。  なんとかコタツに足を差し入れて、スイッチを弱にに入れておいた。 「まあ、これで大丈夫だろう」  玄関に出る。 「靴か……」  衣類もそうであるが、静香は結構な靴持ちである。  いろいろなデザインの靴が並んでいる。  ミニのタイトスカートに合うとなれば……。 「やはり、ハイヒールだよな」  靴箱の中で異彩を放つ赤いハイヒールに目が留まる。 「これにしよう」  今更靴選びで悩んだところでしようがない。  もうすでに約束の時間を三時間も過ぎている。  これ以上、俊彦を待たせるわけにはいかない。  玄関の扉を開けて外に出る。 「雪か……」  空から白い物が舞い降りていた。  気象予報では夜間にかけて降り続き、明日の朝にはかなりの積雪になるでしょう。  という注意報が出ていた。 「今更、行かないわけにはいくまい」  俊彦は静香が来るのを待っている。  一晩中でも待つと言っていた。  しかし……。  女の格好で外を出歩くことには、さすがに勇気がいった。  いや、今の身体は正真正銘の静香なのだ。  誰に恥ずかしがることもない。  堂々と歩いていけばいいのだ。  下手におどおどしていると、よけいに変に勘ぐられる。  姿勢を正して、まっすぐ前を向いて歩き出した。  ミニのタイトスカートにハイヒール。  女装初心者なら、歩きづらいところだろうが、静香という身体が覚えて慣れている ので、しっかりと足を運んでいくことができた。  マイカーのある駐車場に向かおうとして気が付いた。 「しまった! 静香は運転免許を持っていない」  ブラジャーの着付けやハイヒールでの歩き方、静香としての身のこなし方を自然に とっているということは、当然運転技術も身に付いていないことはすぐに判断できる。 「車はつかえないと言う事か……」  となれば駅まで、歩いていくしかない。  傘を持っていなかったが、今更取りに戻るのもおっくうだ。  どうせ俊彦と一緒になるんだ。  帰りは送ってくれる。  そのまま傘を持たずに歩いていくことにした。  雪は次第に本降りになっていく。
     
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