ランジェリー・パニック!

 その時だった。  玄関の方で物音がする。  鍵を開ける音じゃないか?  帰ってきたのか?  まさか、こんなに早く帰ってくるなんて。  どうしよう。  部屋に侵入した泥棒に思われる。  いやそれ以前に、裸でネグリジェを着込んだ姿を見られたら……。  玄関の扉を開ける音。  どうしよう。  ベランダはリビングの方だ。  ベッドルームからは外に逃げられないぞ。  窓はあるが、外は何もない。  窓から逃げれば、数十メートル直下の地面に激突だ。  どうしよう。  どうしよう。  足音が近づいてくる。  どうしよう。  心臓が早鐘のごとく激しく脈打つ。  もうだめだ!  そう思った瞬間だった。  身体がふわりと浮いたような感じがして、目の前が真っ暗になってしまった。  ベッドルームに彼女が入ってきたようだ。 「あら、変ね。あたし、ネグリジェ出したままだったかしら」  そして僕は抱きかかえられたのだ。  え?  どういうこと……。  確かに彼女の腕に抱えられているような感触が伝わってくる。 「そうね。せっかくだから、今夜はこれを着て寝ましょう」  彼女の声が、身体を震わせるように聞こえてくる。  それから数時間がたったのだろうか……。  再び、僕は抱えられたかと思うと、全身に温かい感触を覚えた。  そう……。  女性の柔らかい肌のぬくもりだ。  そして、僕は気がついた。  どうやら、僕の身体はネグリジェそのものになってしまったようだ。  そして今、彼女の身体をやさしく包んでいる。  信じられないが現実のようだ。  僕の秘密の趣味は、ランジェリー収集だ。  それがどうしたことか、ランジェリーそのものに変身してしまった。  僕が愛してやまないランジェリー。  そのランジェリーに変身して、しかも憧れともいうべき美しい女性の身体を包んで いる。  これはこれで本望ではないだろうか。  いつかは捨てられる運命にあるだろうが、人だって寿命があると思えば同じこと。  僕は満足だ。
     
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