特務捜査官レディー (響子そして/サイドストーリー)
(十)抱擁 「そうだったの……」  と母は重苦しく呟いたまま口黙ってしまった。 「ごめんなさい……」  真樹はただ謝るばかりしかできなかった。涙が溢れて次から次へと頬を伝って流れ ていく。  やがて母が口を開いた。 「もう一度確認しますけど……。あなたの身体の中に、真樹のすべてが移植されたと いうのは、本当なんですね?」 「はい。もし将来結婚して子供が産まれたら、ご両親の血を引いていることになりま す。間違いありません」 「そうですか……。わざわざ報告しにきてくれて、ありがとう。あなた自身、どうし ようかと随分悩んだんでしょうね」  真樹は立ち上がって、お暇することにした。すべてを告白してしまったからには、 ここには居られない。 「それじゃあ、あたし帰ります」 「帰るって……。住むところはあるの? あなた自身の家には戻れないんでしょう?」 「何とかなると思います。駅前にビジネスホテルがありましたから、取り敢えず二三 日泊まりながらアパートを探します。しばらく暮らせるだけのお金もありますから。 ただ、真樹さんの戸籍を使わせて下さい。あたしが生きるためには必要なんです。お 願いします」 「それは……、真樹が死んでしまったというなら構わないけど……」  玄関に降り、靴を履こうとした時だった。 「やっぱり、あなたがこの家を出ていくことはないわ」 「え?」 「いいえ、あなたは真樹よ。わたしが産んだ娘に違いないわ」 「でも……」 「あなたの身体の中では、真樹が生き続けているんでしょう?」 「そうですけど……」 「だったら、わたし達から、真樹を取り上げないでください。真樹は一人娘なんです よ。娘がいなくなったら生きてく希望を失ってしまいます」 「じゃあ、どうすればいいんですか?」 「このまま、わたし達の娘の真樹として暮らしていただけませんか?」 「え?」 「お願いです。一緒に暮らしましょうよ、母娘として」 「いいんですか? こんなあたしで」 「だって、あなたは真樹なんですから……」  そう言って真樹を強く抱きしめながら涙を流した。 「お母さん……」  真樹も感激に身体を震わせて泣いていた。  それ以上の言葉はいらなかった。  二人は抱き合いながら涙を流し続けた。  ひとしきり泣いて落ち着いた頃、 「さあ、真樹。お茶の続きをしましょう。とっておきのお菓子があるのよ」  と、精一杯の笑顔を見せながら、手を差し伸べてくれた。  その手を取って答える。 「はい。お母さん」
     
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