看護婦?物語

 新人看護婦 (2)

「それではお腹を診させていただけますか?」
「ああ……」
 ベッドに仰向けになり、パジャマをめくってお腹を見せる深川氏。
 肝硬変で肝臓を大半を切除したせいか、幾分お腹が凹んでいる。
 お腹を触診する斎川。
 医者ではないので明確な診断は下せないが、経験を積んでいればある程度の症状は読み取れる。
 胃などを切除すれば、再生することがなく、生涯に渡って食事をまともに取れなくなるが、肝臓は全体の五分の四くらい切除しても、残りの部分から元通りの大きさと機能を回復することができる。
「だいぶ大きくなってきましたね。今日は超音波診断がありますから、回復率がはっきりすると思います」
「とにかく早く元通りになって、食事をたらふく食べたいものだ」
「仕方ありませんね」
 食物を摂取すると、小腸から吸収された栄養素はすべて門脈を通って肝臓へと運ばれて処理される。解毒作用の他、蛋白質・炭水化物・脂質の代謝、グリコーゲン貯蔵・ぶとう糖合成などの重要な働きを持っている。ところが肝臓を切除してしまうと、吸収した栄養素を処理しきれない。つまり摂取した食物が無駄に排泄されてしまうことになるわけだ。
 要するに肝臓が元通りにならないとまともに食事もできないというわけである。
「ところで汗をかいたのでパジャマを着替えたいんだけど、手伝ってくれるかな」
「いいですよ」
 深川氏は腕に点滴の針が刺さっているので、チューブが邪魔なのと腕を自由に動かせないので、一人では着替えが困難なのである。
「由紀ちゃん、お願いね」
 ということで、着替えを手伝うことになる由紀。
 まずは点滴のチューブを外さなければならない。
 輸液バックと針の間にあるローラー流量調節弁(ローラクレンメ)という注入速度を調節する部品で滴下を一時止める。そしておもむろに点滴パックをスタンドから降ろして、パジャマを脱ぎながら袖を通して外す。途中にある中継コネクターを外せば簡単なのであるが、流路を一旦遮断すると再接続した時に輸液がうまく流れないことが多いし、感染の危険もある。
「はい、脱げました」
 深川氏は上半身となるが、由紀は意外なものに気がついた。
 あ!
 思わず息を呑む由紀だった。
 なんと、深川氏の胸が大きく膨らんでいたのである。
 深川氏が由紀の視線に気がついた。
「おや、男のおっぱいが珍しいかい?」
「い、いえ……」
 明らかな女性化乳房だと思われる。
 看護学校での講義を思い出す由紀だった。
 肝硬変などの肝臓疾患になると代謝機能が衰えるために、女性ホルモンの代謝が行えずに次第に血中の女性ホルモン値が高くなって女性化乳房になることがあるのである。男性でも女性ホルモンを分泌しているからである。
 本人にしてみれば真剣にならざるを得ない病状であろう。
 笑い事ではなかったのだが、
「あはは……。まあ、これはこれで面白いと思っているよ」
 と、軽く笑いとばした。

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