銀河戦記/波動編 第四部 第二章 Ⅸ 最後の決戦へ

第二章


Ⅸ 最後の決戦へ


 銀河系全体に広がった人類。その母たる星地球とそれを含む太陽系連合王国。太陽系を飛び出してから最初に植民星となったバーナード星系、そして二番目の植民星がプロキシマ・ケンタウリである。
 バーナードとケンタウリ及びトリスタニア、さらには銀河渦状腕のオリオン腕内に位置する各惑星国家も元々は太陽系連合王国の植民星だった。
 オリオン腕に人類が行き渡った頃から各植民星が独立を始めて、惑星国家を樹立していった。
 惑星国家の中でも帝政軍事国家として頭角を現し始めたのがケンタウロス帝国である。瞬く間に、バーナード星系連邦と太陽系連合王国を陥落させて支配下に置いた。
* 銀河戦記/拍動編より

 作戦会議が始まる。
「トリスタニアを無事に奪還できたわけだが、次の目的地は敵の本陣『ケンタウリ』だ」
 アレックス公王が進言する。
「太陽系連合王国とバーナード星系連邦は如何いたしますか?」
 タスカー上級大将が尋ねる。
「大丈夫だろう。ケンタウリを落とせば自動的に忖度してくれるさ」
 自信満々の表情で答えるアレックス公王だった。

「帝国側の戦力は分かりますか?」
 ニーダーハウゼン大将に尋ねるアレックス公王。
「八万隻です」
「うん。情報通りですね」
「艦隊編成はいかがなされますか?」
 タスカー上級大将が尋ねる。
「ここで動かせる艦艇数は七万隻になります」
 艦隊参謀次長のジェフリー・ウォーカー准将が報告した。
「おそらく最期の戦いとなるだろう、全軍で行く。ニーダーハウゼン大将には、このトリスタニアを任せます」
「相分かった」

 戦艦アシュアランスの艦長アレン・ルーニー大佐を始めとするトリスタニア艦隊には母星の守備として待機してもらって、残りの全艦隊がケンタウリへと動き出した。
「壮観ですね。統制の取れた七万隻もの艦艇が一糸乱れず行軍するのを見るのは初めてです」
 副官のマイケル・ポインター中尉が感動していた。
「だろうね。惑星サンジェルマンを出立して幾多の戦いで経験を積んできているからね」
 艦長のルーニー大佐が答える。
「にしても、艦隊司令官にバージル・ジョーセフ大佐が指名されて准将に昇進するとは羨ましいですね」
「まあ、最初に決断して攻撃を開始したのが彼だからな。それを合図にトリスタニア艦の多くが攻撃を開始して、勝利することができたんだ。仕方ないさ」
「決断力の差……ですか」
「そう、決断力だよ。指揮官に相応しい能力の一つだ」
「分かりましたよ。公王陛下がこの星にたどり着くまで、数多くの決断をくだされたのでしょうね」
「決断力だけでは王様はやっていけないがな」



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銀河戦記/波動編 第四部 第二章 Ⅷ 敵は味方

第二章


Ⅷ 敵は味方


 旗艦デヴォンシャー艦橋内。
「敵艦隊の一部が謀反を起こして同士討ちを始めました」
 タスカー上級大将が報告した。
「こうなることを予測されていたのですか?」
「まあな。せっかく味方してくれているんだ、こちらからも行くぞ!」
 アレックス公王が下令すると、
「全艦、攻撃開始!」
 タスカー上級大将が攻撃命令を発令した。
 攻撃開始する公国艦隊だった。

 一方の帝国艦隊は、謀反艦が多数出たことで指揮系統の乱れが生じていた。
 前方の敵に対処しようにも、後方の味方から撃たれる。
 帝国艦隊の編成は、後方にトラピスト艦を配置していた。
 戦闘において武勲を上げるには前方に位置した方が良いに決まっている。ケンタウロス帝国出身の者にとって、トラピスト艦は頭数を揃えるだけの後方配置となっていた。
 まさかその編成が悲劇となるとは、誰も予想だにしなかった。
 前方の公国艦隊、後方のトラピスト艦との挟み撃ちとなって、総崩れ状態となっていた。
 次々と撃沈されてゆく帝国艦隊。

 八万隻あった艦隊は五万隻となり三万隻となって、もはや敗北は濃厚となっていた。
 アレックス公王は、その状況を見て言った。
「シモンズ、相手に降伏勧告を打電してくれ」
 通信士のデイヴィッド・シモンズ少佐に命令を出す。
「了解しました」
 指揮官にとって、戦いの最中に敗北が濃厚になった時に降伏を考えるが、部下の手前で踏ん切りがつかないこともある。
 降伏勧告は、そんな指揮官の心情を後押しする行為でもある。
 やがて旗艦から投降信号弾が打ち上げられ、機関停止して降伏の合図を送った。
「敵が降伏しました」
「よし。戦闘中止だ」
「全艦戦闘中止!」
 タスカー大将の復唱で戦闘が終了した。
「敵の司令官を、こちらに呼んでくれ」

 二時間後、旗艦戦艦デヴォンシャーに、敵司令官ニーダーハウゼン大将が訪れた。
 作戦会議室に招かれて入室すると、ゲラルト・フーバー大将以下の見慣れた将官達が居並んでいた。公国側の将官達とは差別されることなく、官位順に椅子に着席してニーダーハウゼン大将を迎え入れた。
 正面の席に、総司令官と思われる人物が威厳のある姿勢で、ニーダーハウゼン大将を迎えた。
「ケンタウロス帝国絶対防衛艦隊司令官トーマス・ニーダーハウゼン大将です」
 敬礼をして挨拶する司令官。
「お疲れ様です。私はアルデラーン公国アレクサンダー公王です。そうですね……単刀直入に言います。我が公国の配下に入りませんか?」
 アレックス公王が誘う。
「あなた様が公王? ですか……」
 答えに窮する司令官だった。
 敵同士として戦い、命を削り合った者として、突然仲間になれと言われても拒否反応が出るのは仕方のないことだろう。
「あなたの席は既に用意してあります」
 公王が指し示す所、ギーゼブレヒト大将の隣の席が空いていた。
「ギーゼブレヒト大将、あなたもですか?」
 問いかけるニーダーハウゼン大将。
「ああ、今のところ邪険にされたことはない。階級にしても対等に扱われている」
「そうでしたか……」
 しばらく空いた席を見つめていたが、一息呼吸を整えると、
「分かりました。陛下の下で働かせてください」
 とアレックス公王の配下になることを承諾した。
「ありがとうございます。では、空いた席にお座りください」
 公王が指し示す席に歩いてゆき座った。
「それでは、改めて作戦会議を始めます」

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銀河戦記/波動編 第四部 第二章 Ⅶ 反旗

第二章


Ⅶ 反旗


 太陽系からみずがめ座の方角に約40.5光年の距離に位置する赤色矮星トラピストー1には七つの地球型惑星が公転している。七つのうち三つがハビタブルゾーンに位置しており、海の存在が認められた惑星eにて最初の移民国家が誕生した。
 地球型惑星が七つもあることから、資源が豊富でもあるということで、早くから工業国としての地位を確保した。やがて、トラピスト星系連合王国という強国に成長したが、軍事国家ケンタウロス帝国によって侵略され滅ぼされた。
 そして数百年の月日を経て、王族の子孫が舞い戻り奪還しようとしている。


 赤色矮星トラピストー1の星域、ケンタウロス帝国の八万隻の艦隊が、迫りくる敵艦隊を迎え撃とうと待ち構えていた。
 旗艦戦艦デアフリンガー艦橋内、司令官トーマス・ニーダーハウゼン大将。
「敵艦隊の総数は?」
「七万隻です」
 副官のルードルフ・クヴァンツ中佐が答える。
「うむ。数の上では、五分五分というところか……」
「閣下! 敵艦より入電しています。全周波通信です」
 通信士のゲラルト・ザイフリート少佐が報告する。
「モニターに映してみろ」
「了解!」
 通信用モニターに敵の姿が映し出される。
『私は、トラピスト星系連合王国クリスティーナ女王の子孫、アルデラーン公国アレクサンダー公王である。悠久の年月を経て、再びこの地に舞い戻ってきた。かつての王国の子孫たちよ、ケンタウロス帝国に対して反旗を翻(ひるがえ)して立ち上がろうではないか』
 映像の中の人物は、帝国に対して反乱を起こせと言っていた。
「奴は、何を馬鹿なことを言っておるのか!」
 帝国士官である大将にしてみれば、反乱を起こせなどと平気で諭す相手の心が読めなかったようだ。

 一方でトラピストー1の各惑星出身のトラピスト兵もいる。
「聞いたか?」
 戦艦アシュアランスの艦長アレン・ルーニー大佐が尋ねる。
「はい。聞きました」
 副官のマイケル・ポインター中尉が同意する。
 帝国艦隊の中で、トラピスト出身の兵には明確な差別が存在する。
 艦隊司令官にはなれず、艦長止まりである。
 どんなに優秀な指揮官だったとしても、大佐が最終階級となっており、将軍にはなれない。
 待遇昇進など差別されていた。
 トラピスト兵は、ケンタウロス帝国側から見たら占領した国家の住民でしかなく、奴隷にされないだけ温情を与えられていると。
「反旗を翻せか……」
 ルーニー大佐が呟く。
「旗艦より戦闘開始命令です」
 通信士のラフェエル・ギャルヴィンが伝える。
「分かった……」
 返答はするが動かなかった。
「艦長?」
 首を傾げるポインター副官。
 三十秒ほど経った時だった。
 隣にいた僚艦が帝国艦隊への攻撃を開始したのだ。
 それを合図に次々と反旗を翻して帝国艦を攻撃する僚艦が続出した。
「味方が帝国を攻撃しています」
「よし。俺達も続くぞ! 帝国艦に攻撃を開始する!」
 決断するルーニー大佐だった。
「了解! 攻撃目標帝国艦!」
 ポインター中尉が復唱して攻撃を開始する。

 旗艦デアフリンガー艦橋内。
「大変です! トラピスト艦が謀反です!」
 副官クヴァンツ中佐が叫ぶ。
「何だと!」
 驚愕するニーダーハウゼン大将。



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銀河戦記/波動編 第四部 第二章 Ⅵ 首都星トリスタニア

第二章


Ⅵ 首都星トリスタニア


 五年程の時間が流れた。
 惑星リモージュには、公国艦隊十万隻が駐留する軍事惑星へと変貌していた。
 公国が次々と最新鋭戦艦を建造し、着々と戦力を増大させてきたのに対して、ケンタウロス帝国では戦艦建造は遅々として進まなかった。これは資源の問題であった。
 ケンタウロス帝国の勢力範囲にある銀河系渦状腕『オリオン腕』は、人類宇宙進出から今日まで資源開発が続けられたが枯渇状態となっていた。戦艦を建造したくてもできなかったのである。
 時間が経てば経つほど、両国の戦力差は広がるばかりだった。


 旗艦デヴォンシャーの作戦会議室に集まった参謀達。
 公国艦隊の面々に混じって、元帝国艦隊のメンバーも揃っていた。

 惑星ケムニッツ駐留艦隊のヘンドリック・ドゥーゼ中将。
 惑星グロベンラーデ駐留艦隊ヴァルター・プラール中将。
 惑星トゥーロン守備艦隊参謀長ギーゼブレヒト大将。
 副官のラインホルト・ブルーメンタール准将。
 国防省宇宙艦隊司令部の軍令部総長ゲラルト・フーバー大将。
 などと、元の階級を保証されて公国艦隊の参謀となっていた。
 公国とは敵同士で戦ったが、多くの帝国士官が揃っているので、気まずいと思うことはなかった。赤信号みんなで渡れば怖くないという心理である。
「時は満ちた。これよりケンタウロス帝国の本陣に殴り込む」
 公王アレックスが宣言すると、
「いよいよですな」
 ランドルフ・タスカー上級大将が頷く。
 彼は、五年の間に昇進していた。
 本国での議会にて上級大将という階級を新たに創設した後、承認を経て正式に公国唯一の上級大将に任じられた。
 新たなる上位の官位ができたことで、将官の位にある者の士気も盛り上がった。
「我らが祖国、旧トラピスト星系連合王国の首都星トリスタニアに向かう」
 アレックス公王が命令すると、艦橋内に歓声が沸き起こった。

 遥か昔、トラピスト星系連合王国はケンタウロス帝国の侵略を受けていたが、一部のトリスタニア人が銀河系渦状腕『タルシエンの橋』を渡って、隣の【いて・りゅうこつ腕】へと渡った。さらに『ルビコンの橋』から【たて・ケンタウルス腕】に渡りアルデラーン公国を興した。
 首都星トリスタニアは、公国の民の故郷なのである。

「全艦微速前進! 進路トラピストー1(TRAPPIST-1)に進路を取れ!」
 タスカー大将が下令する。
「微速前進!」
「進路トラピスト-1!」
 操舵手と航海長が復唱する。
 三万隻を残して、総勢七万隻が動き出す。

「首都星トリスタニア奪還は、我らが王家の宿願だった。今こそ宿願を果たす時期が訪れた」
 アレックス公王が呟く。
「奪還すれば大願成就ですな」
 タスカー上級大将も頷く。
 彼もまた王家ではないが、純粋なるトリスタニア人であった。

 十二日後、トラピストー1に近づいた。
「前方に艦影あり!」
 電探手グレゴリー・クロンプトン少佐が叫ぶ。
「来たか! 全艦戦闘配備に付け!」
 落ち着いて命令するアレックス公王。
「全艦、戦闘配備!」
 復唱するタスカー大将。
「敵艦隊総数およそ八万隻です!」
「八万隻か、帝国の半数が集まったといったところか」
「そうですね。情報では、残りの八万隻はα・ケンタウリの本星を守っているようです」
「戦う前に呼びかけてみるか。シモンズ少佐、敵にコンタクトしてくれ」
「了解!」
 通信士のデイヴィッド・シモンズ少佐が応える。



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