銀河戦記/波動編 第四部 第二章 Ⅴ 軍門に下る

第二章


Ⅴ 軍門に下る


 恒星ブレスト第三惑星リモージュの空を覆いつくす公国艦隊。
 放送局の上を降下兵が舞い降りてゆく。
 他の重要施設には軍を派遣せず放送局のみにしたのは、余計な流血を避けたかったからだ。
 直截な武力ではなく、全国放送を使って全国民に知らしめて投降を促し、無血占領する予定だった。
 数時間後、
「放送局を制圧しました。これより国内放送の準備を行います」
 と上に報告する。
『分かった。よろしく頼む』
 公王アレックスが答えた。

 地上では国民が空を仰いで驚愕している。
 街頭ビジョンが一斉に消えた。
「なんだ?」
 何事かと首を傾げる通行人。
 やがて映像が流れだす。
『リモージュの住民のみなさん。私は、アルデラーン公国の公王アレクサンダーです。空を見れば分かります通り、この惑星は公国軍が完全包囲しております。率直言います。速やかに公国の支配下に入る事を願います』
 政権放送を視聴して驚く住民だが、一番驚いているのは、軍関係の施設にいる軍人だろう。

「これは夢なのか? 十四万隻の帝国艦隊が本当に敗れたのか?」
 国防省宇宙艦隊司令部の軍令部総長ゲラルト・フーバー大将が怒る。
「そのようですね。間違いないでしょう、敵艦に混じって味方艦隊が見えますよ」
 副官のヒルデブレヒト・ベーア少佐が答える。
「味方が敵に寝返ったというのか?」
「味方艦から舟艇が出て、こちらに向かっています。あの艦はケーニヒ・ヴィルヘルムですね。舟艇は屋上のポートに降りるようです」
「誰か迎えを出せ」
「私が行きましょう」
 そう言って、屋上へと向かうベーア少佐だった。


 国防省の屋上に舟艇が着陸していた。
 屋上の扉が開いてベーア少佐が出てくる。
 と同時に舟艇からも一人の軍人が降り立つ。
 その顔を見て敬礼しながら、
「ラインホルト・ブルーメンタール准将ですね?」
 と見知っているようだ。
 守備艦隊旗艦の司令官付副官だから、知っていても当然だろう。
「いかにも」
「フーバー閣下がお待ちです。ご案内します」
「ご苦労様」
 ベーア少佐の後に付いてゆくブルーメンタール准将。
 軍令部総長室について、
「こちらです」
 ドアを開けて、准将を中に誘う少佐。

「ブルーメンタール准将をお連れしました」
 少佐が紹介したその顔を見ると、
「ブルーメンタール准将だと?」
 意外な表情を見せるフーバー大将だった。
 当然知り合いである。
「ギーゼブレヒト大将はどうした?」
「負傷を追いまして、惑星トゥーロンで治療中です」
「そうか……。奴が死ぬはずないからな」
 そして准将を見つめなおして、
「君が来たという事は、交渉役に選ばれたということか?」
「その通りです。公国に従うか、滅亡覚悟で徹底抗戦するか、二者択一」
「徹底抗戦か……」
「公王陛下は、従う者には十分すぎるくらいの恩賞を与えて身分を保証してくれます。私が捕縛されずに、使者として遣わされているのも、陛下のお考えによるところです」
「一つ尋ねるが、私や部下達の身分や階級の保証はあるのか?」
「保証します」
「もう一つ、公国に下ると当然帝国と戦うことになる。勝てると思うか?」
「勝てますよ。陛下の艦隊が今ここにいることが、その証明になるでしょう」
「そうか……。分かった。公国の軍門に下ろう」
「賢明なご判断です」

 こうして惑星リモージュは、アルデラーン公国の支配下となった。



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銀河戦記/波動編 第四部 第二章 Ⅳ レマゲンの橋

第二章


Ⅳ レマゲンの橋


 惑星トゥーロンの周囲に待機する公国艦隊。
「編成完了しました。何時でも出撃可能です」
 タスカー大将が報告する。
「追従する帝国艦隊七百隻も準備完了です」
 とは、ラインホルト・ブルーメンタール准将だった。
 『レマゲンの橋』を航行するには、水先案内人が必要だった。
 公国艦隊には、橋を渡った経験のある者はいなかったからだ。
 その時、帝国艦隊のブルーメンタール准将が名乗り出た。
「『レマゲンの橋』には難所が幾つかあります。案内人なしでは座礁は必定です。我が艦隊が水先案内人となりましょう」
 惑星リモージュに着き次第、解放されることを条件に案内役を名乗り出たのである。
 ブルーメンタール准将の艦は航行不能なので、惑星トゥーロンに残して自らは戦艦デボンシャーに乗り込んでいた。
「全艦、進撃開始! 進路、レマゲンの橋の向こう岸、惑星リモージュ!」
 厳かに命令を下す公王アレックス。
「微速前進! レマゲンの橋を渡る」
 タスカー大将が復唱する。
 静かに動き出す公国艦隊五万隻。

 レマゲンの橋へと進入する艦隊。
 橋の中は重力が乱れていてワープを行うことができず、亜光速航行で行くしかない。
 『船の墓場』と呼ばれる空域の存在もあり、間違って入り込んだら脱出も困難となる。
 各分艦隊ごとに帝国の艦が水先案内人として付いている。

 レマゲンの橋を渡り終えて、銀河系渦状腕の一つであるオリオン腕へと、ついにたどり着いたのであった。
「オリオン腕か……。人類発祥の地である地球と、我らが祖先のトラピスト星系連合王国のあった地でもある」
 アレックス公王が感慨深げに呟いた。
「そしてケンタウロス帝国の本星のある地でもありますね」
 タスカー大将も同様の感想を抱いているようだった。
「最寄りの惑星リモージュは四十七光秒のところにあります」
 ブルーメンタール准将が教える。
「うむ、案内してくれか?」
 アレックス公王が言うと、
「お任せください」
 ブルーメンタール准将が答える。

 やがて惑星リモージュが見えてくる。
「ご覧ください。あれが惑星リモージュです」
 と、指さすブルーメンタール准将だった。
 恒星ブレスト系第三惑星リモージュは、レマゲンの橋の一端を守る拠点の星だった。駐留艦隊七万隻が守っていたが、公国の侵略を受けて橋の反対側へと移動していた。
「前方に帝国艦三百隻!」
 電探手のグレゴリー・クロンプトン少佐が報告する。
 三百隻は、レマゲンの橋の両端が同一国の平常時の惑星に対する標準的な艦数である。惑星防衛というよりも、宇宙事故の対応や密輸などの犯罪を取り締まる警備隊としての組織である。当然、戦闘など経験がない。
 そんな三百隻しかいない艦隊が、二百倍近くの艦隊が相手では尻込みするだけだろう。
「准将、相手に呼びかけてみてくれないか」
 ブルーメンタール准将に指示するアレックス公王。
「かしこまりました。無線借ります」
 通信端末を操作して、敵艦に連絡を取る准将。
「惑星リモージュ警備隊へ。私は、守備艦隊参謀長ギーゼブレヒト大将付き副官ラインホルト・ブルーメンタール准将である」
『ギーゼブレヒト大将の副官? それが何で敵艦隊にいるのだ?』
「守備艦隊十四万隻は全滅し、惑星トゥーロンも陥落した」
『十四万隻が全滅だと?』
「今、こうして公国艦隊がやってきていることが証明だ」
『惑星トゥーロンも落ちたのか?』
「そうだ。速やかに公国の支配下に入ることを要請する」
 しばらく無言が続いた。
『いいだろう。我々は降伏するが、下の連中は直接交渉してくれ』
「分かった」



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銀河戦記/波動編 第四部 第二章 Ⅲ 勝利

第二章


Ⅲ 勝利


 公国艦隊旗艦デヴォンシャー艦橋。
「正面に帝国艦隊」
 電探手のグレゴリー・クロンプトン少佐が報告する。
「隊列がバラバラだ。だいぶ驚いているようだな」
 満足の表情の公王アレックスだった。
「畳みかけるぞ! 光子魚雷準備!」
「全艦、光子魚雷準備!」
 復唱するタスカー大将。
「魚雷装填! 重力補正上下角プラス三度! 雷速二万ノット」
 魚雷長のブルース・パクストン少佐が魚雷室に指示する。
「合わせました!」
 魚雷室から返答がくる。
「発射!」
 全艦から発射される光子魚雷が敵艦隊へと向かってゆく。
 光子魚雷(反物質)の破壊エネルギーは、荷電粒子砲(陽子など)のソレより強力である。魚雷は当たれば跡形もなく消滅となるが、粒子砲では当たった部分を破壊するだけだ。
 敵艦隊に光子魚雷が襲い掛かり破壊してゆく。
 次々と蒸発してゆく敵艦隊。
 なにもかもが先手必勝態勢となっている。
 艦艇数七万隻対四万隻では、ジリ貧となることは必定だ。
 成すすべもなく艦艇数を減らしてゆく帝国艦隊。
 地上に降下した一万隻によって、地上基地は攻撃されて補給船を派遣できず補充もままならない。
 そして遂に数千隻にまで減っていた。
 やがて白色信号弾三つが打ちあがった。
「投降信号です。敵が降伏しました」
 タスカー大将が伝える。
「敵艦隊、エンジン停止を確認しました」
「敵より入電しました」
 通信士のデイヴィッド・シモンズ少佐。
「繋いでくれ」
 通信用モニターに相手が映し出される。
『ラインホルト・ブルーメンタール准将です。司令官負傷のため、自分が指揮しております』
 敬礼して挨拶している姿の後方には、酷く損傷している艦内が映し出されている。火炎の煙も漂っている。
「司令官と旗艦は大丈夫なのか?」
『はい。重傷ですが、はっきりとした意識があります。艦はかなりの損傷を受けましたが、何とか航行できる程度です』
「それは安泰。生存者の救出活動に入るが大丈夫か?」
『ありがとうございます。お願いいたします』

「戦艦ロイヤル・サブリンより入電です」
 シモンズ通信士が報告する。
 降下部隊を指揮して地上に降りたマーティン・ウォーズリー中将の坐乗する旗艦からだった。
「おお、やっと下を制圧したか。繋いでくれ」
『ウォーズリーです。宇宙港、参謀本部、放送局など主要機関を押さえました』
「よくやった。そのまま占領政策は任せる」
『分かりました。閣下はどうなされるのですか?』
「五万隻を率いてレマゲンの橋を渡る。恒星ブレスト系第三惑星リモージュを攻略する」
『なるほど、成功を祈ります』

 通信を終えて、新たなる作戦を発表する公王アレックスだった。
 その会話を聞いていたタスカー大将が尋ねる。
「ついに敵の本拠地に殴り込みに行くのですね」
「そうだ。今がチャンス、時期を逃してはならない。リモージュが手薄なうちに殴り込むのだ」
 惑星トゥーロンとリモージュは本来七万隻づつ駐留していたが、公国の帝国進撃を受けてトゥーロンに集積させて十四万隻としていた。
「至急、五万隻の遠征艦隊を選出してくれ」
「かしこまりました」
 こうしてケンタウロス帝国との最後の戦いへと誘われることとなったのであった。



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銀河戦記/波動編 第四部 第二章 Ⅱ 磁力を制する者

第二章


Ⅱ 磁力を制する者


 惑星トゥーロン守備艦隊参謀室。
 ギーゼブレヒト大将が怒鳴る。
「迎撃に向かった艦隊が全滅しただと?」
「はい。最期の通信で『敵艦隊は囮(おとり)だった。伏兵五千隻に襲われている』と伝えてきました」
 副官のラインホルト・ブルーメンタール准将が答える。
「五千隻の艦隊に二万隻がやられたというのか?」
「そのようです。やはり戦闘経験の差だと思われます」
「まだ言うか!」
 さらに言葉を紡ごうとした時だった。
 艦内が激しく揺れた。
「どうした?」
「敵の攻撃です。すぐそばの味方艦がやられました。その衝撃波です」
「敵艦の方向は?」
「後ろ、いえ下です」
「下だと?}
「敵艦隊は、低軌道を高速で我が艦隊の後ろに回ったのです」
「低軌道を回っているなら、地上基地からミサイル攻撃できるだろう?」
「だめです。地上基地と交信ができません」
「ジャミングか?」
「いえ、基地そのものが音信不通のようです」
「やられたというのか……」
 激しい攻撃は続いている。
 反撃しようにも後ろ下にいる敵艦隊には攻撃できない。
 攻撃するには、自分達も低軌道へ移動しつつ後ろに回るしかない。
 もしくは、惑星表面から離れて宇宙空間に出て攻撃するかだが、その場合は惑星を占領される危険がある。
「仕方あるまい。もう一度、宇宙に出て攻撃する」
 惑星そのものを防衛するよりも、敵艦隊を攻撃壊滅させることを優先したのである。
 衛星軌道から離れてゆく帝国艦隊、その数八万隻に減っていた。
 対する公国艦隊は八万隻と、同戦力まで縮まっていた。

「敵艦隊の一部が地上に降下しているようです。およそ一万隻」
 ブルーメンタール准将が報告する。
「放っておけ。今は目の前の艦隊を撃滅してしまうんだ。さすれば、その後でゆっくりと地上軍を追い出せる」
「かしこまりました」
 公国艦隊は、すでに惑星の裏側に姿を消していた。
 衛星軌道から離れて、宇宙空間で隊列を組みなおしながら、公国艦隊が現れるだろう地点に艦首を向けた。
「姿を見せてみろ! 集中砲火でバルハラへ送ってやる」
 正面スクリーンを凝視するギーゼブレヒト大将。
 敵艦隊が出てくるのを今か今かと待っている。
「まもなく姿を見せる頃です」
「よし。全艦光子魚雷発射準備!」
「発射準備完了しました」
 息詰まる時間が続く。
 その時、敵艦隊出現予想点から眩い光が届いた。
「何だ、あの光は?」
 目を細めているキーゼブレヒト大将。
 次の瞬間だった。
 周囲の艦艇が次々と撃沈していったのだ。
「敵が攻撃してきました。荷電粒子砲です!」
 ブルーメンタール准将が解説する。
「荷電粒子砲だと、相手はまだ惑星の裏側だぞ!」
「磁力線です! 地磁気を利用して荷電粒子を曲げているんです」
 解説が続く。
「地磁気だと!」
 驚愕するキーゼブレヒト大将。
 敵の攻撃の手は止まなかった。
 次々と撃沈されてゆく味方艦隊。
「ええい。魚雷発射だ! 敵が地磁気なら、こちらは重力だ!」
「しかし……」
「構わん。発射した後、こちらも荷電粒子砲だ!」
「分かりました。魚雷発射します」
 味方艦隊から発射される光子魚雷だったが、重力を振り切って宇宙の彼方へと消え去った。発射速度が速すぎたのだ。
「荷電粒子砲用意!」
 遅ればせながら、荷電粒子砲に切り替える帝国艦隊であった。
 しかし、時すでに遅し。
 磁力線に沿わせて敵艦隊に当てるためには、粒子砲の電圧などの調整が必要だが、その数値が分からない。まさに当てずっぽうで撃ちまくっていた。
 その間にも、味方艦隊は一方的にやられ続けて四万隻に減っていた。
 敵艦隊は七万隻で、何の策もなしに只撃ち合うだけなら数の多い方が勝つのは当たり前である。

 そうこうするうちに、惑星の陰から敵艦隊が姿を現した。




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