銀河戦記/波動編 第四部 第一章 Ⅳ ガラクタ戦艦

第一章


Ⅳ ガラクタ戦艦


 リューベック恒星系惑星グロベンラーデの衛星軌道に待機する公国艦隊。
 衛星カトラーズとのラグランジュ点に位置するワープゲートから続々と艦艇が現れた。アルデラーン公国からの五万隻である。さらにエセックス侯国から一万五千隻の友軍が加勢していた。
 エセックス侯国のエルバート侯爵は、ここで恩を売っておいて後の褒美を期待しての援軍派遣なのであろう。

 進軍艦隊は総勢十万隻にも膨らんだ。

 戦艦デヴォンシャー艦橋では、通信士が各艦艇と艦隊編成の調整指示を忙しく伝え続けている。
「壮観ですな。十万隻の艦隊など初めてみましたよ」
 正面スクリーンに映し出された艦艇群を見て、タスカー大将が感慨深げに言った。
「そうですね。大将では指揮系統に支障がでますね。上級大将の階級を創設して昇級しましょう」
「上級大将ですか?」
「はい。本国に戻ったら正式に任命式を行います」
「ありがとうございます」
 公国軍の階級は大将が最高位である。名誉職としての元帥はあるが実働部隊を率いるものではない。
 また準男爵の貴族位も授けられているが、そうそうポンポンと爵位を与えられるものでもない。
「艦隊編成、完了しました。いつでも発進できます」
 副官のカークランド大佐が報告する。

 アレックスが宣言する。
「時期は満ちた! 進むのみだ!」
 タスカー大将が呼応する。
「全艦、微速前進! 進路、メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロン!」
「微速前進!」
 艦長ブレント・ブリンドル中佐が復唱する。
「進路、メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロン!」
 とは、航海長のヘイデン・グルーコック中佐。

 静かにゆっくりと動き出す艦隊。
 史上最大の艦艇数、十万隻の進撃であった。

 デイミアン・オルコック少将の巡航艦シュトラールズント艦橋内。
「動き出したな」
 オルコック少将が呟く。
「こちらの首尾はどうだ?」
「遅れています。しかし、航行中になんとかします」
 機関長のアルフィー・キャメロン大佐が答える。
「分かった。ともかく我々も出発させよう」
「出発します」
 操舵手のジャレッド・モールディング中佐が復唱する。
 オルコック少将に任されているのは、およそ五千隻のガラクタ戦艦である。
 何とか動かせるが戦闘できない戦艦、動かせないが外装をカモフラージュすればそれなりに見える戦艦などである。
 それらのガラクタ戦艦を、頑丈なロープなどで一括りにして曳航してゆくのだ。動き始めは莫大なエネルギーが必要だが、一旦動いてしまえば慣性で動いてゆく。コース変更も少しのエネルギーで済む。
 ともかく初動は、シュトラールズント艦隊五千隻で曳航を始める。
 ガラクタ艦隊は、あちこちでぶつかり合いながらも引き摺られてゆく。もし空気があれば壮大な音響を立てているであろう。
「機関全力! 進路、メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロン!」



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銀河戦記/波動編 第四部 第一章 Ⅲ 惑星トゥーロン

第一章


Ⅲ 惑星トゥーロン


 公国艦隊旗艦デヴォンシャーの艦橋。
 正面スクリーンにプラール中将が出ている。
「惑星グロベンラーデの治政を、惑星ケムニッツと同じように公国の支配下となるように尽力してくれ」
『自分がですか?』
「ドゥーゼ中将にやらせたんだ。君もやらなくてどうする?」
『分かりました。やってみます』
 通信が切れた。
「ドゥーゼ中将は元々駐留艦隊ですが、プラール中将は遠征ですから、やりづらいでしょうね」
 タスカー大将が同情するように言った。
「軍事国家だしな。一般住民は施政者が誰であろうが同じだろうし、軍人は階級しだいだしな。そう難しいほどでもないだろ」


 作戦会議室に集まった参謀達。
「次の目標はどちらへ?」
 副官のアリスター・カークランド大佐が尋ねる。
「メルドルフラント恒星系の惑星トゥーロンだ」
「トゥーロン……ということは、遂に『レマゲンの橋』攻略ですね」
「そうだ」

 銀河系渦状腕ペルセウス腕とオリオン腕の間に掛かる航行可能な宙域を『レマゲンの橋』と呼ぶ。
 軍事的要衝のために、橋の両端の近くにある惑星は軍事要塞化されている。トゥーロンはそんな惑星だった。

「しかし、我々が次々と帝国惑星を攻略しているのを知れば、守りをガッチリと固めてきていると思いますよ」
「固められる前に攻略するまでだ」
「どうやって?」
「アルデランに残している五万隻をこちらに回す」
「本国の防衛は大丈夫なのでしょうか? ロベスピエール公爵が謀反を起こすことも考えられますが……」
「大丈夫だろうよ。今の公爵に謀反を起こす気概はないし、仮にあったとしても百戦錬磨の我が艦隊が舞い戻れば足が震えて逃げ出すだろう」

 端末が鳴り出し、秘書官が出る。
「閣下、オルコット少将から連絡が入っております」
「スクリーンに出してくれ」
 秘書官が端末を操作すると、オルコット少将が出る。
『オルコットです。生存者の救助終了しました。これより、そちらに向かいます』
「オルコット少将、例の奴の方の首尾の方はどうだ?」
『はい。ともかく修理すれば自力で動かせる艦が三千隻集まりました。動かせないけど外見上それなりに見える艦が千五百隻で曳航すれば何とかOKです』
「ご苦労だった。何とかこっちまで運んでくれ」
『了解しました』
 オルコット少将は、戦闘領域で生存者の救助活動を行う他に、漂流する艦艇の調査も行っていたのだった。
 通信を終えると早速カークランド大佐が尋ねてくる。
「ガラクタ集めてどうなさるおつもりですか?」
「使い方次第でガラクタも役に立つものさ」
 意味深に笑みを浮かべる公王アレックスだった。
「惑星トゥーロン侵攻作戦を発動させる」
 その一言で、侵攻作戦の準備が始まった。

 侵攻ルートの策定から艦隊編成。
 これまでの戦闘で損傷した艦艇の修理と乗員の補充。
 そしてガラクタ戦艦の改造である。



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銀河戦記/波動編 第四部 第一章 Ⅱ 迎合

第一章


Ⅱ 迎合


 公国艦隊旗艦デヴォンシャーの艦橋。
「帰国艦隊三千隻が出発しました。残る五千隻も出航準備完了!」
 参謀として赴いたプラール中将が報告した。
「うむ、ご苦労さま」
 まるで古株であるかのように応対する公王アレックス。
「全艦、惑星ケムニッツへ進路を取れ!」
 新たなる指令を下した。
「了解。惑星ケムニッツへ迎え!」
 タスカー大将が全艦に下令し、プラール中将も配下の五千隻に命令を下した。


「惑星ケムニッツです」
 正面スクリーンに映された惑星を指さすプラール中将。
「そうか……」
 しばし惑星を見つめる公王アレックスだったが、
「プラール中将!」
「はっ!」
「この惑星は君の配下の艦隊を使って、公国の領土となったことを流布してくれ」
 と、作戦を伝える。
「私達に任せると?」
「そうだ。税金とか、治政に関してこれまで通りとする」
「分かりました。旗艦ヴェルテンベルクのヘンドリック・ドゥーゼ中将にやらせましょう」
「任せる。貴官は一旦自分の艦に戻ってもいいぞ」
「御意!」
 こうしてプラール中将は、旗艦戦艦アルミニウスへと戻っていった。


「中将を解放して良かったのですか?」
 タスカー大将が尋ねた。
「情勢を違(たが)えるような御仁ではないよ」
「そうでしょうか?」
「ケムニッツはドゥーゼ中将に任せて、惑星グロベンラーデへ向かう」
「了解。進路、リューベック恒星系惑星グロベンラーデ」
 艦長のブレント・ブリンドル中佐が復唱する。


 惑星ケムニッツに向かうプラール中将率いるアルミニウス艦隊、惑星グロベンラーデに向かう公王率いるデヴォンシャー艦隊。二手に分かれて移動を開始した。そして、デイミアン・オルコック少将のシュトラールズント艦隊が捜索救助活動として居残った。
「先の帰国艦隊は、ワープゲートをちゃんと残してくれますかね」
 副官アリスター・カークランド大佐が危惧する。
「行けば分かるさ」
 タスカー大将が答える。

 九時間後。
 惑星グロベンラーデに到着した。
「ウォーズリー少将にワープゲートを任せる」
 公王が命令を伝えると、
『OK、任せてください』
 小躍り勇んでワープゲートに向かうウォーズリー少将だった。
 惑星パウサニアースでもワープゲート担当だったので経験済みだからだろう。
「さてと、地上はどうかな?」
 アレックスが呟くと、
「帰国艦隊の人が、事情を話してくれているとありがたいのですが?」
 副官カークランド大佐が呟くように言った。
「まあ、無理だろうな。負け戦でしょげていて、一刻も早く帰りたかっただろう」
「ですね……」
「プラール中将に繋いでくれ」
「繋ぎます」
 通信士のデイヴィッド・シモンズ少佐が答える。



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銀河戦記/波動編 第四部 第一章 Ⅰ 降伏

第一章


Ⅰ 降伏


 帝国遠征艦隊旗艦アルミニウスの艦橋。
 正面スクリーンにアレクサンダー王の降伏勧告映像が流れている。
『繰り返す、降伏して我らが公国の配下に入ることを望む。それとも最期まで戦って全滅を選ぶか? 三十分待つ、参謀集めて協議したまえ』
 映像が途絶えて通信が終わった。
「降伏して配下に加われだと? ふざけるな!」
 司令官ヴァルター・プラール中将が憤慨する。
「それでは、徹底抗戦ですか?」
「まあ、待て……」
 しばらく黙って考え込む司令官。
 クールダウンしてから、
「そうだな。三十分の時間を与えてくれたんだ。参謀を集めて協議だ」
 と冷静な判断を下した。
「かしこまりました」


 作戦会議室に集まった参謀達。
「降伏して公国軍に鞍替えしろと言うのですか?」
「艦隊数は二万二千隻対八千隻で三倍差の戦力があります。しかもあちらの方が新造艦が多く、火力も高い。まともに戦っては勝てません」
「公国軍に入れと言われても、身分や地位が保証されるとは限らない」
「昨日まで味方として戦っていたものが、明日には敵として戦うということが許されるのでしょうか?」
「私には家族がいる。寝返ったと分かれば何をされるか……」
「自分にも家族はいるが、王様が言うのには『銀河を統一する』と言っていた。統一されれば家族も解放される」
「そうですよ。仮に本国に戻ることが許されても、公国軍が本国を陥落させればどうなる?」
 口々に意見を述べる参謀達だった。


 三十分後。
 通信用スクリーンに映る公王に向かってプラール中将が報告する。
「協議の結果、降伏して五千隻が公王陛下の配下に入ります。が、残る三千隻は本国に戻らせていただきます。彼等には家族がいるのだ。いかがであろうか?」
『ふむ、いいでしょう。承諾します』
「帰国する艦艇の安全を保証していただきたい」
『保証しましょう。ただし、惑星グロベンラーデのワープゲートの破壊行為は認めない』
「分かりました。帰国者には重々忠告しておきます」

 さらに二時間後。
 帝国艦隊の帰国部隊の編成が終わって、三千隻の艦艇が本国への帰還の途についた。
「帰国したとしても、公王が本国まで手を伸ばせば、いずれまた戦うことになるでしょうに」
 副官のダニエル・ボンホフ中佐が呟くように言った。
「だがな、その時は家族の納得済みの上だろうから、心置きなく戦闘に集中できるというものだ」
「そんなものでしょうか?」
「そういうものだよ」
 そこへ一人の士官がやってくる。
「ベルトホルト・グミュール少将。ご命令により出頭しました」
「おお、来たか。これより艦隊の指揮を任せる。私は、公王の旗艦デヴォンシャーに赴く」
「かしこまりました。旗艦アルミニウスの指揮を執ります」
「それって人質ということじゃないでしょうねえ」
 ポンホフ中佐が忠告した。
「かもしれないが、拒否することもできまい。さて、行くとするか」
「はい」
 プラール中将とボンホフ中佐が、旗艦デヴォンシャーへと向かった。



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