第六章
Ⅳ トランターへ  アンツーク星に接近するゴーランド艦隊。  モニターに映る星を見つめながら司令官が確認する。 「この星にアムレス号が逃げ込んだのは間違いないのか?」 「はい。間違いありません」 「ここで以前起きた戦いの記録データはあるか?」 「はい。漂流していた戦闘記録ディスク(フライトレコーダー)を回収してあり ます」 「再生してくれ」 「惑星地上はどうなっているんだ?」 「先の戦闘後の調査で、小惑星の地上にオリオン号が着陸し修理を行った形跡と、 鉱石を採取した痕跡がありました」 「例の船は?」 「付近には見当たりません」 「地上に降りて隠れているのか……」 「スキャンしていきますか?」 「やってくれ」 「はい。いや、お待ちください」 「どうした?」 「惑星地表に高熱源を感知しました」 「何だと! モニターに映せ!」  モニターには、地表のあちらこちらで光点が輝きを増していた。 「ミサイルです!」 「全艦退避! 散開しろ!」  慌てふためいて右往左往と動き回るゴーランド艦隊。  転回する際に、隣接の艦と接触事故を起こす艦が続出した。  そんな混乱状態の所へ、ミサイルが襲い掛かる。  小惑星基地。 「敵艦隊、消滅しました」  エダが報告すると、  やったー!  と小躍りする一同。 「援軍が来るかもしれない。補給が終わり次第、ここを出立する」 「かしこまりました。それはそうと、アレックス様に会っていただきたい方がい ます」 「僕に? 分かった」 「では、こちらへ」  先に立って歩き出すエダ。  エレベーターに乗り上の階へと昇る。  止まった階で降りると、これまでと一変した場所だった。  厳かな雰囲気のある大きな部屋。  その中央に表面がガラス状の箱が二つ置かれたあった。  近づいてみると、それは冷凍睡眠装置のような形状をしており、中に二人の人 間が横たわっていた。 「この人は?」  アレックスが尋ねると、 「フレデリック様と奥様です。アレックス様のご両親です」 「両親!」 「トラピスト星系連合王国クリスティーナ女王の第三王子夫妻です」  親子の死しての対面であった。  その経緯を詳しく説明するエダだった。 「そうか……」  と呟いた後、しばらく無言だった。 「ここに放置していくのは忍びないな。本国に埋葬してやりたいものだ。サラマ ンダーに移せるか?」 「もちろんです」 「では、よろしく頼む」 「分かりました」  壁際の端末に歩み寄り、操作するエダ。  微かな音と共に、床が下がり始め冷凍装置と共に飲み込まれてゆき、昇降機に 乗せられて、階下のサラマンダーへと運び込まれ、一室に安置された。 「完了しました」 「この部屋は?」 「サラマンダー内にあるアルフレッド様の居室でした。船長室にあたります」 「そうか、分かった。そろそろ出発しようか」 「はい」  その部屋を出て、第一船橋へと向かう二人だった。  アムレス号改めサラマンダー号は、円盤部に指揮統制の中枢である第一船橋 (メインブリッジ)がある。船長に任命されたアンドレ・タウンゼント以下、操 舵手、通信士、レーダー手などが適材適所に配置されている。  隣接して通信統制管制室、戦術コンピューター室などがある。  今まで船橋として使用していた所は、戦闘専用船橋として活用されることとな る。  本来軍艦としての設備をすべて網羅しているが、今は国家に属さない民間船で あるのだが……。 「全員、乗船完了しました。補給も終了です」 「よし、出発しよう。エンジン始動!」  アレックスが下令すると、 「エンジン始動します」  機関長が応答して、始動スイッチを押してエンジンを起動させた。  かすかな音が鳴り響き、僅かに震動がはじまった。 「進入口水平シャッターを開きます」  天井を塞いでいたシャッターが開いてゆき、光が差し込んで暗闇の構内に明る さが戻った。 『船台ロック解除シマス』  船体が軽く揺れてロックが外れた。 「浮上せよ!」 『浮上シマス』  ゆっくりと浮上を開始するサラマンダー。  水平シャッターを超えて、地中から地上へと姿を現すサラマンダー。  そして宇宙空間へと飛び出す。 「船内放送の用意を」 「かしこまりました」  アレックスの指示で、 「これより銀河渦状腕間隙を超えて、隣接する『射手・竜骨腕』へと旅立つ」  おお!  という声を上げる一同。 「渦状腕間隙を渡る手段はあるのですか」  一人が手を挙げて質問した。 「アムレス号の航海記録に、間隙内に点在する星々のある航路が発見されたとい う記録が残されていた。これをタルシエンの橋と命名された」 「それがいわゆる、大河の中にある浅瀬ということなのですね?」 「そういうことだ」  互いに見つめあって話し合っている一同。 「その前に一度、トラピスト首都星トランターに立ち寄り、最後の別れをする。 祖国に降ろしてやりたいのは山々だが、君たちは脱獄者だ。どんな仕打ちを受け るか分からない。それでも降りたいという者がいれば申告してくれ。対処しよ う」  しばらく沈黙があった。 「自分は、新天地に向かいたいです」  一人が名乗りを上げると、 「自分は祖国を捨てます!」 「新天地に行きたいです」  次々と申告する人々。  数時間後、新天地に行く者と、懲罰を受けても祖国に降りるという者が分けら れた。 「トラピスト首都星トランターへ進路を取れ!」  アレックスは下令する。 「進路トランターへ!」 「微速前進!」
     
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