第四章
Ⅳ 迎撃開始  戦闘機の攻撃を受けている宮殿。  女王の間で、その状況を冷ややかに見つめている女王。  時折爆撃を受けて、ヒビが入る窓ガラス。 「女王様、ここは危険です。もっと安全な場所へ」 「いいえ、私はここにいます。どこに逃げても同じこと。それに私は女王です。 逃げも隠れもしたくはありません。それより我が軍は何をしているのです。応戦 を」 「はい。只今、オリオン号を緊急発進させています」 「そう……。ネルソンはどこに?」 「はい。只今、参謀本部で作戦会議中です。なあに、この程度ならネルソンが出 なくても、じきにおさまりますよ」 「そうね」  宇宙港。  発進するオリオン号。  艦橋では、テキパキと指示を出しているドルトン新艦長がいる。  造船ドック。  広々とした構内を、働きまわる技術者達。  中央に最新鋭戦闘艦『ヴィクトリア』が据えられている。  構内の搭乗デッキをアンドレが走っている。  ヴィクトリア艦橋にたどり着くアンドレ。 「発進の準備はどこまで進んでいるか?」 「艦長! 現在、乗員はすべて搭乗を終え、艦内チェックもほぼ終了しています。 ただ、燃料補給の方が……」 「敵は目の前なんだぞ! 宇宙へ出るわけではないんだ。補給の終わってる分だ けでも飛ばすぞ」 「は、はい」  歯ぎしりをするアンドレ。 「何をそんなに焦っているのだ、アンドレ」  背後から声が掛かった。  振り返るアンドレ。 「ネルソン提督!」 「いつもの君らしくないぞ。冷静になれ!」 「しかし敵が……」 「たかが前衛の遊撃艦隊ではないか。これくらいで参るようなトラピストではな いことは君も十分承知のはずだ。それともドルトンを信頼できないとでも言うの か? 見ろ! 立派に戦っているではないか」  とスクリーンを指さす。  そこには、オリオン号が敵艦隊と交戦中で、戦闘機の集中砲火を浴びながらも、 次々と撃ち落していく姿があった。  オリオン号艦橋では、奮戦し的確な指示を下している新艦長のドルトンがいた。 「俺だって、オリオンの艦長なのだ。だてに艦長に任命されたのではない」 「敵が退却を始めました」  副長が報告する。 「まあ、そんなところだろう。トラピスト軍を舐めるなよ」 「アンドレ。燃料補給・艦内チェックは十分すぎるぐらいにやらせろ。発進して から気づいては、取り返しのつかないことになることぐらい分かっているだろう」 「は、はい……」  ネルソンがアンドレの肩に手を置いて諭す。 「冷静になれよ」  アンドレ、スクリーンを見つめたままだった。  三時間後、先遣隊は殲滅された。  建物の多くが焼け落ちた惨状の街のあちこちから市民たちが現れて、空を仰い では口々に話し合っている。 「敵はもういないのか?」 「今度はいつ攻めてくるのかしら」 「軍は何をしているの?」 「これからどうなるの?」 「地球軍はすぐそばまで侵攻しているってのは本当だったのね」 「おしまいよ。トラピスト王国は滅亡するのよ」  死体にすがって泣く者、放心状態になっている者、様々な人々が当てどもなく 彷徨っている。  宮殿前広場に群衆が集まり喚き立てている。  宮殿内に侵入しようとして、近衛兵に取り押さえられる人々。  パニック寸前の状態であった。  宮殿女王の間で静かに群衆の成り行きを見つめているクリスティーナ女王。 「御前会議のお時間です。各国領主さま皆お集まりで、女王様をお待ちになって おります」  侍女が伝えにきた。 「すぐ行きます」 「群衆の方は、いかが致しましょうか」 「見たところ大したことはなさそうです。そのうちに静まるでしょう。ヴィクト リアの発進はいつですか?」 「丁度、一時間後です」 「そう……」  宮殿大広間に集まった王国集団を形成する各国領主の代表達の面々が、口の字 形式に並べられた長机にセッティングされた椅子に腰かけている。  隣り合った者同士が、王国の行く末を語り合っている。  クリスティーナ女王が入場し、主席に着席すると会議が始められる。 「よりによって、我々が集まった日を狙って攻撃してくるとはね」 「まったくだ。一時間到着が遅れていたら、危うくやられるところだったよ」 「この中に敵のスパイでもいるのではないか」 「それは君のことではないのかね」  一同笑う。 「皆さん、お静かに!」  今は冗談など言っている暇などないのですよ。議長、初めて下さい」 「はっ。では……」  議長が開会宣言をし、最初の報告者が立ち上がった。  地球からみずがめ座の方向29光年に恒星グリーゼ849があり、その最も近 い軌道を回る地球型惑星は、惑星国家グリーゼとして発展していた。トラピスト 連合王国とは近傍のため、親しく交流していたのだが、覇権国家ケンタウリ帝国 によって占領され、トラピスト侵略への足掛かりとして艦隊が集結していた。  造船ドックではヴィクトリア号の発進準備が進んでおり、技術者たちが忙しく 動き回っている。  ヴィクトリアの機関室。  メインエンジンの周りで計器類をチェックする乗員達。  艦橋では計器類を操作する乗員達を指揮するアンドレ。 「発進十分前! ゲートオープン。乗員以外は速やかに退艦せよ」  ゆっくりと天井が開いてゆき、青空が広がってゆく。  光を浴びて燦然と輝くヴィクトリア。 「発進五分前! 発着ゲートの管制員は退避せよ」 「発進二分前! 補助エンジン始動」 「回転数正常に上昇中」 「メインエンジン始動三十秒前。シリンダー閉鎖弁オープン」 「発進十秒前! メインエンジン始動点火」 「ガントリーロック解除」 「微速前進!」  ゆっくりと動き出すヴィクトリア。  浮上して徐々に加速してゆく。  ポッカリと開いた発進口。  そこからヴィクトリアが出てくる。 「ヴィクトリア、ドックを出ました」 「まもなく空港上空に達します」 「よし、上空管制を怠るなよ」 「全艦隊、発進せよ。ヴィクトリアに続け」  次々と発進する軍艦。  空港周辺でそれを見つめる人々。  その中に、心配そうにヴィクトリアを見つめるエミリアもいる。  紺碧の大空を進むヴィクトリア。  それを取り囲むようにして集まってくる艦隊。 「大気圏を離脱する」  大気圏を脱して、宇宙空間に突入する艦隊。  後方にはトリタニアが美しく輝いている。  ヴィクトリア艦隊に接近するオリオン号率いる防衛艦隊。  その艦橋ではドルトンが指揮している。 「ヴィクトリアに接近します」 「アレが、旗艦ヴィクトリア号か……。よし、我々も右翼に展開しよう」  続々と各国の艦隊が集合しつつあった。  各国代表が集まっていたのもそのためだったのだ。 「アビロン艦隊司令より入電、ネルソン提督宛です」 「繋いでくれ」 「了解」  正面スクリーンにアビロン艦隊司令が映し出される。 「アビロン侯国軍艦隊司令グレーン大佐です」 「トラピスト星系連合王国艦隊司令ネルソン少将です」 「本国指令により、我が艦隊は提督の指揮下に入ります」 「よろしく頼みますよ。グレーン司令」 「はっ。こちらこそ」 「左舷二十度よりハムラーン侯国の艦隊が接近してきます。後方からはマライヤ 侯国の艦隊」  ヴィクトリーに接近する、ハムラー・マライヤ両侯国艦隊。 「全艦隊、集結完了しました」 「敵艦隊の本隊は、バンゲル星域に集結しているようです」 「よし、トラピスト星系連合王国艦隊司令として命令する。全艦、バンゲル星域 に向けて進路を取れ!」  進撃を開始する連合艦隊。
     
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