第二章
Ⅶ 反旗
太陽系からみずがめ座の方角に約40.5光年の距離に位置する赤色矮星トラピストー
1には七つの地球型惑星が公転している。七つのうち三つがハビタブルゾーンに位置
しており、海の存在が認められた惑星eにて最初の移民国家が誕生した。
地球型惑星が七つもあることから、資源が豊富でもあるということで、早くから工
業国としての地位を確保した。やがて、トラピスト星系連合王国という強国に成長し
たが、軍事国家ケンタウロス帝国によって侵略され滅ぼされた。
そして数百年の月日を経て、王族の子孫が舞い戻り奪還しようとしている。
赤色矮星トラピストー1の星域、ケンタウロス帝国の八万隻の艦隊が、迫りくる敵
艦隊を迎え撃とうと待ち構えていた。
旗艦戦艦デアフリンガー艦橋内、司令官トーマス・ニーダーハウゼン大将。
「敵艦隊の総数は?」
「七万隻です」
副官のルードルフ・クヴァンツ中佐が答える。
「うむ。数の上では、五分五分というところか……」
「閣下! 敵艦より入電しています。全周波通信です」
通信士のゲラルト・ザイフリート少佐が報告する。
「モニターに映してみろ」
「了解!」
通信用モニターに敵の姿が映し出される。
『私は、トラピスト星系連合王国クリスティーナ女王の子孫、アルデラーン公国アレ
クサンダー公王である。悠久の年月を経て、再びこの地に舞い戻ってきた。かつての
王国の子孫たちよ、ケンタウロス帝国に対して反旗を翻(ひるがえ)して立ち上がろ
うではないか』
映像の中の人物は、帝国に対して反乱を起こせと言っていた。
「奴は、何を馬鹿なことを言っておるのか!」
帝国士官である大将にしてみれば、反乱を起こせなどと平気で諭す相手の心が読め
なかったようだ。
一方でトラピストー1の各惑星出身のトラピスト兵もいる。
「聞いたか?」
戦艦アシュアランスの艦長アレン・ルーニー大佐が尋ねる。
「はい。聞きました」
副官のマイケル・ポインター中尉が同意する。
帝国艦隊の中で、トラピスト出身の兵には明確な差別が存在する。
艦隊司令官にはなれず、艦長止まりである。
どんなに優秀な指揮官だったとしても、大佐が最終階級となっており、将軍にはな
れない。
待遇昇進など差別されていた。
トラピスト兵は、ケンタウロス帝国側から見たら占領した国家の住民でしかなく、
奴隷にされないだけ温情を与えられていると。
「反旗を翻せか……」
ルーニー大佐が呟く。
「旗艦より戦闘開始命令です」
通信士のラフェエル・ギャルヴィンが伝える。
「分かった……」
返答はするが動かなかった。
「艦長?」
首を傾げるポインター副官。
三十秒ほど経った時だった。
隣にいた僚艦が帝国艦隊への攻撃を開始したのだ。
それを合図に次々と反旗を翻して帝国艦を攻撃する僚艦が続出した。
「味方が帝国を攻撃しています」
「よし。俺達も続くぞ! 帝国艦に攻撃を開始する!」
決断するルーニー大佐だった。
「了解! 攻撃目標帝国艦!」
ポインター中尉が復唱して攻撃を開始する。
旗艦デアフリンガー艦橋内。
「大変です! トラピスト艦が謀反です!」
副官クヴァンツ中佐が叫ぶ。
「何だと!」
驚愕するニーダーハウゼン大将。