第二章← ● ⇒
Ⅵ 首都星トリスタニア 五年程の時間が流れた。 惑星リモージュには、公国艦隊十万隻が駐留する軍事惑星へと変貌していた。 公国が次々と最新鋭戦艦を建造し、着々と戦力を増大させてきたのに対して、ケン タウロス帝国では戦艦建造は遅々として進まなかった。これは資源の問題であった。 ケンタウロス帝国の勢力範囲にある銀河系渦状腕『オリオン腕』は、人類宇宙進出 から今日まで資源開発が続けられたが枯渇状態となっていた。戦艦を建造したくても できなかったのである。 時間が経てば経つほど、両国の戦力差は広がるばかりだった。 旗艦デヴォンシャーの作戦会議室に集まった参謀達。 公国艦隊の面々に混じって、元帝国艦隊のメンバーも揃っていた。 惑星ケムニッツ駐留艦隊のヘンドリック・ドゥーゼ中将。 惑星グロベンラーデ駐留艦隊ヴァルター・プラール中将。 惑星トゥーロン守備艦隊参謀長ギーゼブレヒト大将。 副官のラインホルト・ブルーメンタール准将。 国防省宇宙艦隊司令部の軍令部総長ゲラルト・フーバー大将。 などと、元の階級を保証されて公国艦隊の参謀となっていた。 公国とは敵同士で戦ったが、多くの帝国士官が揃っているので、気まずいと思うこ とはなかった。赤信号みんなで渡れば怖くないという心理である。 「時は満ちた。これよりケンタウロス帝国の本陣に殴り込む」 公王アレックスが宣言すると、 「いよいよですな」 ランドルフ・タスカー上級大将が頷く。 彼は、五年の間に昇進していた。 本国での議会にて上級大将という階級を新たに創設した後、承認を経て正式に公国 唯一の上級大将に任じられた。 新たなる上位の官位ができたことで、将官の位にある者の士気も盛り上がった。 「我らが祖国、旧トラピスト星系連合王国の首都星トリスタニアに向かう」 アレックス公王が命令すると、艦橋内に歓声が沸き起こった。 遥か昔、トラピスト星系連合王国はケンタウロス帝国の侵略を受けていたが、一部 のトリスタニア人が銀河系渦状腕『タルシエンの橋』を渡って、隣の【いて・りゅう こつ腕】へと渡った。さらに『ルビコンの橋』から【たて・ケンタウルス腕】に渡り アルデラーン公国を興した。 首都星トリスタニアは、公国の民の故郷なのである。 「全艦微速前進! 進路トラピストー1(TRAPPIST-1)に進路を取れ!」 タスカー大将が下令する。 「微速前進!」 「進路トラピスト-1!」 操舵手と航海長が復唱する。 三万隻を残して、総勢七万隻が動き出す。 「首都星トリスタニア奪還は、我らが王家の宿願だった。今こそ宿願を果たす時期が 訪れた」 アレックス公王が呟く。 「奪還すれば大願成就ですな」 タスカー上級大将も頷く。 彼もまた王家ではないが、純粋なるトリスタニア人であった。 十二日後、トラピストー1に近づいた。 「前方に艦影あり!」 電探手グレゴリー・クロンプトン少佐が叫ぶ。 「来たか! 全艦戦闘配備に付け!」 落ち着いて命令するアレックス公王。 「全艦、戦闘配備!」 復唱するタスカー大将。 「敵艦隊総数およそ八万隻です!」 「八万隻か、帝国の半数が集まったといったところか」 「そうですね。情報では、残りの八万隻はα・ケンタウリの本星を守っているようで す」 「戦う前に呼びかけてみるか。シモンズ少佐、敵にコンタクトしてくれ」 「了解!」 通信士のデイヴィッド・シモンズ少佐が応える。
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